婚約破棄されたら、既に婚約者のいる女性と婚約していることが判明しました

hikari

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婚約破棄 ブリジット視点

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ブリジットはふわふわな緑髪を弄る癖がある。髪の毛を束ね、右側に垂らしている。

牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡をかけ、傍から見ればインテリそのもの。

剛毛な男、アドンはレニエ公爵家の次期当主。毫毛である上にまるまると太ったその姿はどう見ても熊だ。

出会った当初は痩せていて、否、普通体型で人間そのものだった。

しかし、時が経つにつれ、太り始めてきた。

アドンは王立学園の同級生で、風魔法が得意な事で意気投合した。

「アドン。あなた、どうして太り始めたのよ」

アドンは長く伸びた腕の毛を撫でている。

「それは遺伝だから仕方ないだろう?」

確かにレニエ家の当主でもあり、アドンの父も大きなお腹を携えている。ブリジットは何度もレニエ家に通っていた。

「遺伝だからじゃないでしょ。自己管理がなっていないからでしょ? 人のせいにするんじゃないよ」

ブリジットは金属のようなソプラノの声で言った。

「ブリジット。本当にそうなんだ。俺だって気をつけていたんだ」

嘘だ、と思った。

アドンは大食漢で何でも大盛りで食べていた。レニエ家では勿論、ブリジットの家に来るときも大盛りを食べていた。ブリジットの家の使用人もアドンが大盛りだという事を既に知っている。

「アドン。アドンってばいつも大盛り食べていたじゃない。これって自業自得ってヤツじゃないの」

ブリジットはアドンの左頬を抓った。

「ブリジット、やめてくれよ。大盛り食べたくらいじゃ太らないよ。ほら、大盛り食べても太らないよヤツ、いるだろ?」

確かに大盛り食べるお痩せさんもいる。しかし、学園のお痩せさんは徒競走が得意でスポーツマン。対してアドンは怠惰を貪っている。

「アドン」

「何だ?」

「お痩せさんとの違い、教えてあげようか?」

アドンはフッと鼻から大きく息を吐いた。

「お痩せさん運動しているでしょ? アドンは何もしていないじゃない」

「しているよ!」

「何を?」

アドンは鼻くそをほじり始めた。そして、ほじった鼻くそを遠くに飛ばしている。汚い。しかし、ここはアドンの部屋。汚れようとお構い無しのスタンスなのだろう。

アドンは整理整頓が下手くそで部屋はとっ散らかっている。

さらに、同じ場所に物を置く癖が無いので、物をよく無くすのだ。

アドンの部屋を掃除する使用人が不憫でならない。

「俺も走っているんだよ」

嘘ばっか。アドンが走っているところなど見た事が無い。寝言は寝てから言ってもらいたいものだ。

「アドン。私、あなたが走っているところ、一度も見た事が無いわ」

「それは見ていないだけだ。タイミングだよ、タイミング」

何が『タイミング』だ。悪い冗談はやめて欲しい。

ブリジットはアドンの執務室に何をしに来たのか一瞬忘れた。

嫌味を言うためでも、皮肉を言うためでも無かった。何よりも婚約破棄をしたかったのだ。


ブリジットには既に他の男性と婚約していた。

太る一方のアドンを見ていて嫌気が差してきたのだ。

そう。ブリジットはブルボン王国の現国王の王弟、アーチュウと交際を始めたのだ。

そんなアーチュウも既に婚約者がいた。

王立学園の同級生、サーラだった。しかし、アーチュウもサーラに嫌気を差してきたようだった。

アーチュウとの出会いは王室主催の音楽祭だった。

ブリジットは王国でも指折りのフルート奏者だったのだ。

そこをアーチュウに見初められたのだ。


お互いに婚約者がいながら、交際を進めていた。

アーチュウもサーラと婚約破棄をすると言ってくれた。

アーチュウは魔法のできないサーラに嫌気が差してきたようだ。

そして二人は同じ境遇の中、交際を進めていった。


サーラは魔法のがてんでダメだった。

とにかく方向音痴でとんでも無い位置に炎を飛ばしたり、風を飛ばしたりする。

召喚魔法については致命的でとんでも無いものを呼び出して大騒ぎになった事すらある。

アーチュウには滑稽に思えたのだろう。

しかし、ブリジットは魔法が得意だった。

ブリジットは特に風魔法が得意でトルネードのような風を巻き起こす事ができる。

しかも、威力も大!

「ねぇ、アドン」

「何だよさっきから悪態つきやがって」

「アドン。これ、返す」

ブリジットは婚約指輪をはずし、机の上に乗せた。

「これ、どういう意味だよ」

「婚約破棄しましょ」

ブリジットはほくそ笑んだ。

「ど、どういう事だ?」

アドンは慌てふためいている。それもそのはず。突如婚約破棄を切り出されたのだから。

「婚約破棄だと!? 受け入れられないぞ。これはレニエ家とエヴルー家、双方で合意した婚約じゃないか! 今更婚約破棄など受け入れられるか」

「でもねー、時間と共に気持ちって変わるものなのよ。だって人間だもの」

「屁理屈言っているんじゃねぇぞ。父上が知ったら何と言うか。それはお前の両親とて同じだろ?」

「親には私から説明しておくわ。アドン。あなたの魅力が無くなったことを」

アドンは右足を上下に震わせている。

「解せぬ」

「自業自得よ、アドン。あなたが熊のようになってしまったから」

「お前、まさか浮気していたんじゃないだろうな?」

図星を突かれた。

「そうよ。現国王の王弟、アーチュウ殿下と交際をしているわ」

つい、本音がポロリと出ちゃった。

すると、アドンは目の色を変えたように怒り出した。

「何!? アーチュウ殿下と浮気だと? ――って待てよ? アーチュウ殿下はサーラと婚約していたはずでは!?」

「ふふふ。向こうも向こうで婚約破棄よ」

「何だと!? アーチュウ殿下、サーラと婚約破棄をして、俺からブリジットを奪ったのか? 信じられない。王族たるものが不貞をしでかすのか」

流石は瞬間湯沸かし器のアドン。烈火の如く怒っている。ブリジットはそんなアドンが間抜けに見えた。
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