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見覚えのある人
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わたくしは市場で見知った人がいる事に気づきました。
うぐいす色の髪に茶色の瞳、鷲鼻に分厚い唇。
そう……。
彼女は学園時代の同級生のラーナ……。
ラーナは男爵令嬢でした。
「あら、ラーナ、お久しぶり」
わたくしはラーナに声をかけました。
「まあ、リンダじゃないの! お久しぶり。元気?」
ラーナはエイブラハムの事もよく知っていました。
なぜなら、エイブラハムとは同じ合唱団に所属していたから……。
「リンダ、どうしたの? どうしてこんなところにいるの?」
そうよね……。
伯爵令嬢がなぜ漁師町なんかにいるんでしょう?
「ま……まあ色々あって。ラーナこそどうしてこんなところに?」
「私、嫁いだの。イマロームの漁師の家に」
男爵令嬢ともなれば平民との結婚は珍しくない。
「そうなんだ。おめでとう」
「で、主人がいるんだけどね……」
ラーナは金物屋さんの方を指差しました。
そこには髭を蓄えた紫髪の男性がいました。
その男性は二人の子供と一緒にいました。
「あれ? ご主人と一緒にいるお子さんはラーナの子供?」
「そうよ」
ラーナは髪の毛を搔き上げた。
「ラーナ幸せね」
ラーナとわたくしを比べたら雲泥の差。
わたくしは義理の妹に結婚を滅茶苦茶にされました。
それに引き換えラーナは結婚して子供までいる……。
「あれ? もしかしてそこにいる男性がリンダのご主人?」
ラーナはクリスさんの方を向いて言いました。
「いえいえ、違うわ。彼は何というか……何と言うか……」
わたくしは両手を前に出し、左右に振りました。
違うんだって……。
「じゃあ、婚約者?」
ラーナは悪戯な目つきでそう言ってきました。
「違いますよ。仕事仲間ですよ」
クリスさん、ナイスフォロー。
「あ、紹介するね。この殿方は仕事仲間のクリスさん。そして、こちらも仕事仲間のシンシア」
「「宜しくお願いします」」
二人はラーナに一礼しました。
「仕事仲間だったのね。でも、どうしてイマロームなんかで仕事しているの?」
「あー……その事についてだけど」
「確か、ゲルソン家は王室の外科医だったわよね? リンダも医者を目指していたじゃない」
確かにわたくしも医者を目指していた事がありました。
しかし、その後わたくしはスミス公爵家に仕えることに。
ちなみにわたくしの父は王室専属の外科医。
手術の腕は確かと評判も良いです。
しかし……。
しかし……。
なぜオリヴィアの味方なんかするの?
「実は……」
リンダはこれまでの事をカミングアウトする事にしました。
でも、これを言っちゃったらわたくしは悲劇のヒロインへと成り下がる。
「実はね、その後スミス公爵家に仕えることにしたの。スミス公爵家夫人の側近として」
「スミス公爵家に?」
「そうなの。で、わたくしはその時はまだエイブラハム様とは主従関係で」
「エイブラハム様と何かあったの?」
「うん。エイブラハム様と婚約したんだけど、義理の妹と二股かけていて……」
「で、婚約破棄に?」
「そう言うこと」
「そうだったの……」
ラーナが手を取ってきました。
「それは辛かったわね」
「で、お父様はなぜか血縁関係の無い義理の妹の味方をして……それで家を追われたってわけ」
「大変だったわね」
「うん」
わたくしは涙が出てしまいました。
「辛かったね……辛かったね」
思わずラーナの胸に飛び込んでしまいました。
「エイブラハム様最低よ」
「エイブラハム様を信じていた私、バカみたい」
再び涙がこぼれ落ちてきました。
「辛かったよね。悔しかったよね。泣きたい時は思いっきり泣いていいんだよ」
わたくしはラーナのその言葉に救われました。
わたくしは思いっきり泣きました。
ラーナの服がわたくしの涙で濡れてしまいました。
「大丈夫よ、リンダ。そのうちあの二人には天罰がくだるわ」
本当にそうあって欲しい。
「リンダ。そうだったのか」
横でクリスさんが心配そうにこちらを見ていました。
わたくしは服の袖で涙を拭きました。
「そこでわたくしは家を追われてイマロームに来たわ」
「そうだったんだ」
「でも、わたくしは貴族との結婚はもう懲り懲りだわ」
嘘です。
平民に成り下がっても、王侯貴族との結婚は諦めていませんわ。
もしかして、わたくしたちのお店に王侯貴族が来て見初めてくれるかもしれない!!
希望は捨てませんわ!!
「リンダ……じゃあ平民と結婚するのね。あ……クリスさんかお似合いじゃない?」
「あー、クリスさんはちょっと違うのよね。わたくしたちは兄妹ってことになっているから。だってほら、近親相姦になってしまうでしょ?」
とは言え、クリスさんは素敵な男性。
確かに好みと言えば好み。
「クリスさん、素敵よね。そんなお兄さんがいて羨ましいわ」
「あははは」
わたくしは思わず笑顔になりました。
「あ。私、もう行かなくちゃ!」
「うん。元気でね、ラーナ」
「リンダもね」
ラーナは夫のいる金物屋さんに走っていきました。
ラーナ……結婚したのね。
私もいつか結婚できるわ!!
「大丈夫! お姉様にはいつか素敵な人が現れるわ」
「シンシア……」
そうよ。
エイブラハムとオリヴィアはいつか必ず罰が当たるわ!!
わたくしはそう信じて止みません。
うぐいす色の髪に茶色の瞳、鷲鼻に分厚い唇。
そう……。
彼女は学園時代の同級生のラーナ……。
ラーナは男爵令嬢でした。
「あら、ラーナ、お久しぶり」
わたくしはラーナに声をかけました。
「まあ、リンダじゃないの! お久しぶり。元気?」
ラーナはエイブラハムの事もよく知っていました。
なぜなら、エイブラハムとは同じ合唱団に所属していたから……。
「リンダ、どうしたの? どうしてこんなところにいるの?」
そうよね……。
伯爵令嬢がなぜ漁師町なんかにいるんでしょう?
「ま……まあ色々あって。ラーナこそどうしてこんなところに?」
「私、嫁いだの。イマロームの漁師の家に」
男爵令嬢ともなれば平民との結婚は珍しくない。
「そうなんだ。おめでとう」
「で、主人がいるんだけどね……」
ラーナは金物屋さんの方を指差しました。
そこには髭を蓄えた紫髪の男性がいました。
その男性は二人の子供と一緒にいました。
「あれ? ご主人と一緒にいるお子さんはラーナの子供?」
「そうよ」
ラーナは髪の毛を搔き上げた。
「ラーナ幸せね」
ラーナとわたくしを比べたら雲泥の差。
わたくしは義理の妹に結婚を滅茶苦茶にされました。
それに引き換えラーナは結婚して子供までいる……。
「あれ? もしかしてそこにいる男性がリンダのご主人?」
ラーナはクリスさんの方を向いて言いました。
「いえいえ、違うわ。彼は何というか……何と言うか……」
わたくしは両手を前に出し、左右に振りました。
違うんだって……。
「じゃあ、婚約者?」
ラーナは悪戯な目つきでそう言ってきました。
「違いますよ。仕事仲間ですよ」
クリスさん、ナイスフォロー。
「あ、紹介するね。この殿方は仕事仲間のクリスさん。そして、こちらも仕事仲間のシンシア」
「「宜しくお願いします」」
二人はラーナに一礼しました。
「仕事仲間だったのね。でも、どうしてイマロームなんかで仕事しているの?」
「あー……その事についてだけど」
「確か、ゲルソン家は王室の外科医だったわよね? リンダも医者を目指していたじゃない」
確かにわたくしも医者を目指していた事がありました。
しかし、その後わたくしはスミス公爵家に仕えることに。
ちなみにわたくしの父は王室専属の外科医。
手術の腕は確かと評判も良いです。
しかし……。
しかし……。
なぜオリヴィアの味方なんかするの?
「実は……」
リンダはこれまでの事をカミングアウトする事にしました。
でも、これを言っちゃったらわたくしは悲劇のヒロインへと成り下がる。
「実はね、その後スミス公爵家に仕えることにしたの。スミス公爵家夫人の側近として」
「スミス公爵家に?」
「そうなの。で、わたくしはその時はまだエイブラハム様とは主従関係で」
「エイブラハム様と何かあったの?」
「うん。エイブラハム様と婚約したんだけど、義理の妹と二股かけていて……」
「で、婚約破棄に?」
「そう言うこと」
「そうだったの……」
ラーナが手を取ってきました。
「それは辛かったわね」
「で、お父様はなぜか血縁関係の無い義理の妹の味方をして……それで家を追われたってわけ」
「大変だったわね」
「うん」
わたくしは涙が出てしまいました。
「辛かったね……辛かったね」
思わずラーナの胸に飛び込んでしまいました。
「エイブラハム様最低よ」
「エイブラハム様を信じていた私、バカみたい」
再び涙がこぼれ落ちてきました。
「辛かったよね。悔しかったよね。泣きたい時は思いっきり泣いていいんだよ」
わたくしはラーナのその言葉に救われました。
わたくしは思いっきり泣きました。
ラーナの服がわたくしの涙で濡れてしまいました。
「大丈夫よ、リンダ。そのうちあの二人には天罰がくだるわ」
本当にそうあって欲しい。
「リンダ。そうだったのか」
横でクリスさんが心配そうにこちらを見ていました。
わたくしは服の袖で涙を拭きました。
「そこでわたくしは家を追われてイマロームに来たわ」
「そうだったんだ」
「でも、わたくしは貴族との結婚はもう懲り懲りだわ」
嘘です。
平民に成り下がっても、王侯貴族との結婚は諦めていませんわ。
もしかして、わたくしたちのお店に王侯貴族が来て見初めてくれるかもしれない!!
希望は捨てませんわ!!
「リンダ……じゃあ平民と結婚するのね。あ……クリスさんかお似合いじゃない?」
「あー、クリスさんはちょっと違うのよね。わたくしたちは兄妹ってことになっているから。だってほら、近親相姦になってしまうでしょ?」
とは言え、クリスさんは素敵な男性。
確かに好みと言えば好み。
「クリスさん、素敵よね。そんなお兄さんがいて羨ましいわ」
「あははは」
わたくしは思わず笑顔になりました。
「あ。私、もう行かなくちゃ!」
「うん。元気でね、ラーナ」
「リンダもね」
ラーナは夫のいる金物屋さんに走っていきました。
ラーナ……結婚したのね。
私もいつか結婚できるわ!!
「大丈夫! お姉様にはいつか素敵な人が現れるわ」
「シンシア……」
そうよ。
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わたくしはそう信じて止みません。
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