悪魔で女神なお姉さまは今日も逃がしてくれない

はるきたる

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第五章 星空のステップ

20.shall we dance?

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爽やかに晴れた朝。
手を伸ばせば届きそうなくらい近い空は天界ならではの光景だ。

「よそ見してると転ぶわよ?」

差し出される手をとり、ふわりと包む指先の温度を感じながら、講堂に足を進めた。


一週間ぶりの講堂。

ステンドグラスがからじんわりと光が差し込んでいる。


お姉さまの隣に腰掛けてしばらくすると、講堂しんと静まりかえった。
これは二度目だからわかる。生徒会長のご登場だ。


フリルたっぷりのワンピースに、愛くるしいケープ、本日は片手にテディベアも抱えている。
見た目は完全にどこかの国の小さなお姫様だ。

一方、妹のりょーちゃんさんはいつものシンプルな服装で、アリア様のそばに付き添っている。


「みんな元気だったー?さっそくだけど誰が課題達成したのか確認するね!」


生徒達がざわつく。

そりゃあ今日は課題の期日だし、皆その確認をされるとわかっていただろう。しかし、来ていきなり始めると心の準備も追い付かない。


「今日はこのあと連絡があるから、課題のほうはちゃちゃっと終わらせちゃお~。」


(…ん?)


ゾクッとしたものが背中を這う。

一瞬止めた息を吐くころには、その正体がわかっていた。
丸まった僕の背中をお姉さまが直していたのだ。


「美しくないわよぉ。姿勢良くしてなさい。」


姿勢のことを注意されたのは初めて。
お姉さまを見ると、胸を張り脚を斜めに揃えて優雅に美しく座っている。いつもは脚を組んでいるし、僕の姿勢なんて気にもしないのに。


「すみません…。」


僕は真似して胸を張り、脚を揃える。
慣れてない姿勢にものの数秒でツラくなり始め、すでにアリア様の話が早めに終わるように願っていた。


「一応言うと、この前の課題の『恋』はね、相手を想って大切にする心を姉妹や友人の間でも持ちなさいってことだったんだよ~!
この学園の生徒ならそう振る舞えて当たり前だよね?」


(よかった、やっぱり僕が思った通りの意味だったんだ。)


「アリア様、力の解除のほうを。」

「あっ、そうだね、りょーちゃん。」


アリア様がなにかを払う仕草をした瞬間、複数の生徒達の小指からパラパラとリボンが取れていった。


「上級生はさすがに皆課題をこなせたみたいだけど、今回は優しめだったし下級生も出来て当たり前だったんじゃないかな~?
妹でも出来た子はいたみたいだよ~??」


(あ、アリア様…??言い方がなんか怖いし、目が笑っていない…?)


ありちゃんの時と、生徒会長として前に立つときは、もちろん雰囲気は違う。けれどこれは変わりすぎてないだろうか?


「本性出したわねぇ。」

驚く僕を横目に、お姉さまは涼しそうな顔をしている。


「まっ、次に頑張ってね!課題はまたあるから!
じゃあ、連絡事項だけどー…。」


声色も表情もチャンネルを切り替えるみたいにパッと戻る。

(あ、あれ?さっきのは幻覚?)


「来月に毎年恒例のダンスパーティーがありまーす!今年もホールを一般解放して、地域のみなさんも参加できるようにするよ。
皆で準備頑張ろうね!」


(へぇ、そんな華やかなイベントがあるんだ。)

前に校内を探索していたとき、学園に併設されているホールも覗いたっけ。
パターン模様のツルツルした床、シャンデリアが吊りさがる高さのある天井。パーティー会場にぴったりの豪華なホールだった。
目を閉じると、あのホールで踊る生徒達の楽しげな光景が浮かんでくる。

解散後、この前とは違ってほとんどの生徒達が講堂に残り、お喋りに花を咲かせていた。
皆、ダンスパーティーが楽しみなようだ。


「チカ、あなた他人事だと思ってないわよね?」

「え?」

「生徒達だけじゃないわ。妹も参加するのよぉ。もちろん、おめかししてね?」


(まじか。)


妹は完全に裏方だと思っていた。ダンスにおめかし?そんなの僕にはできそうにない。というか、できたところを想像できない。


「大丈夫よ。私に任せなさい!」

「えぇ~…。」

「なによその心底嫌そうな顔は。」

「僕、ダンスも踊れないしドレスも似合わないと思うし。それに、そういうのは見てるだけで十分楽しめる性格なんです。」


僕は学校のイベント事でもいつも傍観者だった。それが自分には合っていると思ったし、キラキラしているのを見てるだけで楽しいのだ。


「踊れないなら練習!似合わないなんて着る前に言わない!さぁ!そうと決めたらダンスルームで練習しに行くわよぉー!」

「このあとの授業はどうするんですか!」

(って、力強っっ!)

お姉さまに引っ張っぱられて、きゃっきゃっと色めく生徒達をあとに講堂を出ていった。



後日、お姉さまのお使いで街に出掛けた。

お姉さまが描いたドレスのデザインを仕立て屋に届けに行くのだ。
持たせてくれた地図を片手に歩いてきたが、目的の場所まで何度も迷ってしまった。


「ローズ!ごめん、待たせちゃった?」

「ううん、私もさっき来たところだよ。」


街の中央の広場には大きな噴水があり、人々の憩いの場所となっている。

印象に残る場所だから、校外学習でしか外に出たことない僕も迷わず来れるだろうとローズが指定してくれた。


「セレナ様はデザインまで自分で考えるなんてすごいねっ。」

「うん、僕もそこは尊敬してる。

(授業中、話聞かずにドレスのデザイン案を描いてるのはあれだけど…。)

メガイラ様は既製のドレスを?」

「そ。昨年使ったものを仕立て屋に持ってくの。リメイクして使うんだって言ってた。」


ローズは手に持ってる四角い鞄を少し持ち上げた。
あのなかにドレスが入っているんだろう。


「しっかりしてるね。
服買うだけ買っても全然着てないお姉さまに聞かせてあげたいよ。」

「服着ないって、やっぱりお部屋では何もまとわず過ごされてるって噂は本当だったの!?」

「え、いや、そういうことじゃなくて…。あ、早く行こう!」

「あっ待ってよチカ~。」


ローズが興奮する前に仕立て屋のある方へ向かって小走りする。

「チカ!そっちじゃなくて反対側だよ~。」




ー仕立て屋ー


「ふむ…。これはまたセレナさんらしいデザインだね?」

お姉さまから預かったデザイン画を、仕立て屋のおじさんに見せる。
中身を見ないようにと言われたものだから、そういう言われ方をされると余計気になってしまう。


「おや、駄目だよお嬢さん。見てはいけないとお姉さんに言われたろう?」


背伸びする僕に気づいて、おじさんはパタンとノートを閉じてしまった。


「なぜそれを?」

「あの子はサプライズが好きだからね。いつも、完成するまで誰にも見せたがらないんだよ。」

(確かに、この制服を貰ったときもお姉さまは授業始まる日に突然渡してきたっけ。)


「ほら、これを布屋に持ってきなさい。布を買ったらまたおいで。」


おじさんは、ドレスを仕立てるのに必要な布を紙に書いて渡してくれた。
メモを見れば使う色くらいはわかるだろうが、あえて見ずにポケットにしまう。
サプライズ好きなお姉さまに付き合うことにしたのだ。


「私はこれを。メガイラ様からです。こちらを大胆にアレンジしてほしいと。」

ローズはカウンターに鞄を乗せ、中身を開けて見せた。
中にはシルバーのラメが輝くロングドレスが入っていた。深めに入ったスリットが目立つデザインに思わず赤面する。


(うわ、大胆なデザイン…!)


「あの子は今年はこれを変えるんだね?」

「はい。去年もそうでは?」

「いいや、ドレスは毎年新調していたよ。これをそんなに気に入ってくれたんかねぇ。」


「メガイラ様は落ち着いたデザインを好まれているので、私もそのドレスを預かったときに驚きました。」

「まぁ、着飾るときはしっかり着飾りたいってタイプの人もいるさ。今回も、大胆にとのことだから派手にやらせてもらうけどね。」


ローズも必要な布が書いてあるメモを受け取った。


「チカ、行こうか。おじさん、またあとで来ます。」

「ああ。」


おじさんは片手をあげるが、目線は先ほど受け取ったドレスにあった。作業工程や仕上がりを考えているのだろう。

(職人だなぁ。)


僕たちがドアを開けるとすれ違い様で一人の女性が入って来た。
まとめられた黒髪に、すらりとした佇まい。


「りょ、リョーコ様!ごきげんようっ。」


ローズは立ち止まり、慌ててお辞儀をする。
彼女は眼鏡を直し、僕たちを一瞥いちべつしてから挨拶をした。


「…あら、ごきげんよう。」
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