悪魔で女神なお姉さまは今日も逃がしてくれない

はるきたる

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第七章 インサイド

34.図書室でそれはいけません!

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授業終わり、僕とお姉さまは図書室に来ていた。

無論、課題の本を探すためなのだが…。


「お姉さま、何してるんですか?」

「何ってわからないのぉ?」


本棚の影に僕を追い詰めてゆくお姉さま。
天敵に追い詰められて今にも食べられそうな動物の気分だ。こんな状況意味がわかるわけがない。


「いや、わかりませんけど…。」

「とぼけるなんて酷いわぁ!私は約束を守ったんだから、チカは早く答えを教えなさいよぉ!」


(約束…。答え…?)

「…!もしかして、恋の意味のことですか?」

「それしかないでしょお!」


お姉さまが1日半分の薬を飲むかわりに、僕がずっと引き伸ばしてたあの答えを教えると約束を交わしたんだった。
しかし僕自身も熱が出た上に、その後も何かと日々の生活に追われてすっかり頭から抜けていた。


「チカの体調が戻るまで待っていたけど、さすがに待たせすぎよねぇ?…まさか、忘れていたなんて言わせないわよ?」

「……はは。」


ギラギラとした目でこちらを見るお姉さま。
本当に忘れていた僕は苦笑いしかできない。


「あの、部屋に戻ってからゆっくり…。」

「待ちくたびれたわ。教えるまでここから動かないわよ。」

(どうしよう、これは本気のやつだ。)


「…言う気がないのなら、無理にでも聞き出すしかないようねぇ。」


「…っ!」


すみに追いやられた上にお姉さまが手で壁をついて逃げ場がなくなった。

(…こんな体勢、妹の少女漫画で見たことあるな。たしか壁ドンってやつでは…。)

混乱ぎみの僕の頭のなかに懐かしい思い出が甦り、何とか冷静さを保とうと奮闘している。


「考える暇があるなんてずいぶんと余裕じゃない?」


むしろ余裕がないから別のこと考えるしかできないんだ。
お姉さまの片方の手がするりと背中を這って僕の腰を掴んだ。

いよいよ身動きできなくなった僕に、容赦なく追撃がきた。


「…んっ。」

「ここ、弱いわよねぇ。」


お姉さまは僕の耳を甘噛みする。
さらに、舌が耳をくすぐるようにまとわりついてくる。


「ぁ…あ、お姉、さまっ。」

「静かになさい。他の生徒に聞こえるわよ?」


そう言いながらも執拗に耳を攻め、ついには首筋まで好き放題された。

ゾクゾクとした感覚が全身を襲う。

声を我慢するのも精一杯なのに、刺激と高揚感は増すばかり。


「やっ…んんっ。」

「もう、静かにって言ったのに悪い子ねぇ?」


(……!!)


僕の口にお姉さまの指先が侵入する。出したり入れたり、不規則に動いて弄んでるみてたいだ。
舌と唾液が絡み合い音をたてて僕の声は塞がれてしまった。


「っ…はぁっ…。」


「やらしい顔。」


視界はぼやけ、息が上がる。そんな僕を見てお姉さまは意地悪に頬笑んだ。


「~~~!!!」


僕は力を振り絞り、お姉さまをはねのけた。
恥ずかしさが限界を超えたのだ。


「降参しますっ!言いますから!!」

「ふふ。早くそう言えばいいのよ。」


やっと刺激から解放された僕を、勝ち誇った顔でお姉さまは見下ろす。


完全敗北した僕は、息を整えてお姉さまの耳元でずっとはぐらかしてきたあの答えを告げた。


「……!」

「満足ですか?」

「今のところはね。さぁ、本探しに戻りましょっ!」


やっと本来の目的に戻れる。
数えきれない本のなか、この前みたいに無闇に探しても意味がないだろう。ある程度あたりをつけるのが良いかもしれない。


(『自分を表す本』か。たぶん、自分の人生を表してるものを探せってことだよね。)


天界に来てから、よく生前のことを思い出す。
母のこと、大学生活のこと、そして…。


「僕の人生に関わってたものってなんだろう。」


自習用の机に置いてあるメモとペンを取り、真ん中に"僕"と書いて丸で囲んだ。

そして、"母"、"大学"、"妹"…と書いてそれぞれを丸で囲んで、真ん中の"僕"に線で繋いでいく。


「なぁに?それ。」

「思考を整理してるんです。真ん中の言葉から連想するものをどんどん書いて繋いでいくんですよ。」

「ふぅん?私は自分の本探してくるわ。上の階のほうに置いたと思うんだけど…。」


これにはさほど興味を示さず、お姉さまは階段を上がって行ってしまった。
考えるより行動なお姉さまらしい。

僕はメモにもうひとつ言葉を書き込んだ。


「"お姉さま"っと…。」


そうしてしばらく言葉を書き込み続けたが、すぐにペンの進みは止まってしまった。


(はは…。これと言って自分について書くことたくさんあるわけじゃないのが悲しいな。)


煮詰まってくうを眺めていると、中央の吹き抜けをフクロウが羽ばたいていったのが視界に入った。


(あれは、ミネルウァ様の…。)


僕は立ちあがり、メモをポケットにしまった。なんとなくフクロウが気になり、後を追うことにしたのだ。
階段を登って追いつきそうになるたび、フクロウは上へ上へと羽ばたいてゆく。

登り疲れて途中の階で休憩していると、誰かの声が響いているのが聞こえてきた。


自然とその声のほうへ足が向く。
声の主を知っていたからだ。


「ない!ないわぁ!!」

「お姉さま、もう少し静かに…。」

「あっ!チカ!それどころじゃないのよぉ!私の本、ここに置いたはずなのに無いのよ!」


(さっき僕には静かにしてって散々言ってたのに。)


お姉さまは人気ひとけのない専門書のコーナーをぐるぐると行ったり来たりしていた。


「結構前のことなら同じ場所にあるとは限らないんじゃないですか?」

「そんなはずないわ。こんな古い専門書のコーナーなんて見る人いるはずないものっ。」


「えぇ…。読んでほしいならなんでそんなとこに置いたんですか。」


「見つけたときにレアな感じがあるじゃない?」


…よく意味がわからないが、その本はお姉さまにとってそれだけ特別なんだろう。
しかし、見つからないとなればお姉さまの課題は達成できない。


「探すの手伝います。どんな見た目の本ですか?」

「赤いカバーに、金色の葉の模様があるわ。」

「なるほど…。題名はつけてないなら、手がかりはそれだけになりますね。」

「ん、題名はつけてないけど、たしか表紙に"365"って書いてあったわよ?」

「…?どういうことですか?」

「もともと表紙に印字してあったの。で、私が中身を書き込んでいったわけ。」


お姉さまは自分で本を書いたって言っていたけど、これは本というより…。


「お姉さま、もしかしてそれ日記帳じゃないですか?それに自分の回想を書き込んでいったってことですよね?」

「まぁ、そうとも言うわね。」

(…本当に日記帳なんだ。)


自由だ。自由すぎる。
ますますどんな本(?)なのか気になるじゃないか。


「とにかくあったはずなのに見当たらないの!」


「…あなた達、図書室では静かにね。」


近くから僕達に向かって注意する声が聞こえる。
他に人がいたとは気がつかなかった。


「す、すみません。」

「あら?また会ったわね。」


姿を表したのはミネルウァ様。
ぽやんとした目でこちらを見つめている。

ミネルウァ様を見て、お姉さまはピクリと眉を動かした。


「ミネルウァ、あなたが持ってるそれ…。」

「なに?」


ミネルウァ様は2冊の本を抱えていた。
難しそうな医学の専門書と、赤いカバーに金色の葉の装飾が施された本。


お姉さまがどれだけ探しても見つかるはずがなかった。

探し物はミネルウァ様が持っていたのだから。
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