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アスカの家出
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十分ほど歩道を歩いて、ムーンは自宅に帰り着いた。時刻はそろそろ夕方で、斜めに差し込む日差しがささやかな庭を照らしている。
この家は、一人目の子供が誕生した直後に中古で購入したものだった。庭も、フェンスも、内装も、全て完全にミヤの趣味でリフォームされている。人間界の田舎町を参考にした、牧歌的でファンシーな一軒家。ハチミツ色のレンガで出来た、三角屋根のこぢんまりしたデザインが可愛らしい。花壇には色とりどりの花が咲き誇り、石畳の上にはクリーム色のころんとしたコンパクトカーが蜜蜂のように停まっている。敷地を囲う曲線型のフェンスを開け、ムーンは庭に踏み入った。
木目調の玄関ドアを引いた瞬間、彼の直感的感覚が、何らかの危険を察知した。上手く言語化することは出来ないが、何かがおかしい。本能的に手が懐に伸び、銃のグリップを握り締める。そのまま息を潜め、足音を殺してリビングへと向かった。家族は、ミヤは、無事なのか。嫌な予感が冷や汗となって、背筋を冷たく流れる。
室内は、酷く荒らされていた。家具の位置は少しずつずれ、棚に並んだ本や観葉植物が、無造作に床に捨てられている。ダイニングテーブルに置いてあっただろう食器は、何枚も叩き割られてただの破片に変わっていた。まさに惨状としか言えない光景だ。一体何が起こったのだろう。ムーンは素早く辺りを見回すが、引き出しや戸棚を漁られた形跡はなく、物盗りの犯行には思えなかった。どちらかというと、住人の誰かが突然癇癪を起こして暴れた後のようだ。
ふと背後から気配を感じて、ムーンは振り向いた。咄嗟に銃を取り出しかけたが、現れた者の姿を見て、急いで動きを止める。
「きゃっ!!」
「み、ミヤさん……すまない。誰か分からなかったものだから」
ムーンは慌てて銃を仕舞い、悲鳴を上げた妻を宥めた。彼女はどうやら洗面所にいたらしく、顔や髪にわずかな水滴が付いていた。冷水で誤魔化そうとしたらしいが、涙による瞼の腫れは隠しきれていない。
「マディー……あぁっ、ごめんなさい。どうしよう!」
彼女は激しく取り乱した様子で、ムーンの胸に飛び込んできた。彼女を難なく受け止めてから、ムーンは肩を掴み目線を合わせる。
「何があった?アスカは、無事なのか?」
妻が答えるより早く、彼は踵を返し二階へと上がろうとした。きっとアスカは、自室にいるだろうと思ったためだ。
「待って、違うの、マディー。話を聞いて」
ところがミヤは彼に追い縋り、ジャケットの背を摘んで引き留めた。直後、彼女から放たれた衝撃的な言葉が、ムーンに強い衝撃を与える。
「アスカなのよ!あの子が、こんなことを……家を滅茶苦茶にしたの!!」
一瞬、訳が分からなかった。脳がフリーズして、文章として頭に入っているはずの音を、意味のあるものに変換することが出来ない。だが、長年のキャリアのおかげで、すぐに硬直状態は解消した。回転を再開した思考が、やるべきことを的確に淀みなくリストアップし始める。
「どういうことだ……?ミヤさん、落ち着いて。ゆっくりでいいから。話してほしいんだ、全部」
まず、一番に優先するべきはミヤのことだった。彼は妻を誘導すると、倒れていた椅子を起こし座るよう促す。自分も反対側に席を占め、二人はテーブルを挟んで向かい合った。
「それじゃ、教えてくれるかい?」
「えぇ……といっても、まずは何から話せばいいのか……」
「大丈夫。いくらでも待つよ」
「そうじゃないのよ!でも……」
ミヤは思い悩み、何かに急き立てられているようにそわそわと、忙しなく周囲を見渡す。そして、躊躇いがちに口を開いた。
「今日、あなたに会いに会社まで行った後、私は真っ直ぐ帰ったの。アスカのことが心配だったし……本当は、色々準備をして、あなたをもてなすつもりだった。あなたが帰って来るのは、久しぶりだから。掃除したり、ちょっといいご飯を作ったり。大したことじゃないけど、せめて気持ちのこもった歓迎をしようって」
勢い込んで帰宅したものの、アスカは家にいなかった。
「あの子はまだ、ベッドで寝てると思ってたの。出かける時もそうだったから……でも、声をかけても返事がなくて。部屋を覗いたら、いなかった。電話をしても、メッセージを送っても、返事がなくて。流石に、今までそんなことはなかったから心配で……」
娘はこれまで、どこに行くのかくらいは必ず告げてから出かけていた。それが一転、全く何の音沙汰もないというのは看過出来ない。ミヤの不安と憂慮が膨れ上がるのも、無理はないことだった。
「それでね、私、いけないことだと思ったのだけど……見てしまったのよ。あの子の、付けっぱなしのパソコンを」
スクリーンセーバーは、マウスをクリックするだけで解除された。画面に大きく映されていたのは、娘のSNSのアカウント。投稿した写真を見ると、怪しげなバーで酒を飲んでいたり、若くて粗野な男たちと談笑していたりと、いかにもな不良娘らしい光景が大量に並んでいた。特に、ある一枚に映り込んだ、謎の茶葉のような物体がミヤの心に引っかかった。それはまるで非合法なドラッグそのものの様子で、テーブルに広げられたアルミホイルの上で、細く煙を上げていた。五、六人の男が、煙の漂う先を愉快そうに眺めている。アスカも彼らの背後に立って、アルミホイルに一瞥をくれていた。
「ほら、この前、ニュースであったでしょう?一見はお茶っ葉とそっくりだけど、中身は新しく開発された麻薬ってやつ……私、とても怖くなって。つい、アスカの勉強机の引き出しを開けた。そしたら……これが、出てきたのよ」
ミヤはカーディガンのポケットから、小袋を摘み出す。中には写真と同じあの茶葉が、少量ではあるが包まれていた。もしもこれが本物の違法薬物なのだとしたら、とんでもない事態だ。
「明らかに、お茶じゃないでしょう?アロマとかお香なら、こんな怪しい包み方じゃなくて、缶とかお洒落なパックとか、そういうのに入れるはずだわ。だけど……まさかアスカが、こんなものを持っているとは思わなくて」
動揺し打ちひしがれ、ショックを受けていたところに、タイミング悪くアスカが帰ってきた。彼女は当然、秘密を暴かれたことに怒り狂い、ミヤもまた母親として彼女をきつく問い詰めてしまった。
「そうしたら喧嘩になって、あの子が突然、叫び出した。私には、あの子の気持ちは分からないって。生まれた時から勝ち組で、自分では何も苦労してないんだからって。それだけ言って、出て行っちゃったのよ」
「はぁ……?」
意味不明の言い分に、ムーンはわずかに眉を寄せる。しかし、当の本人ミヤはあまり怒りを感じていないらしかった。むしろ、アスカの意見にも一理あると言いたげに、彼女の言動をフォローし始める。
「多分、私が良家の出身で、ろくな社会経験もないままあなたと結婚したからでしょうね。私の場合、小学校からのエスカレーターで、受験勉強とはほぼ無縁だったし。憧れの出版社は、三年で辞めたし」
「いや、いや、何言ってるんだ、ミヤさん。君は間違ってるよ」
ムーンは彼女の主張を遮って、誤ちを訂正する。
事実、ミヤは令嬢と呼ばれる生活を送っていたが、何の苦労もしていないわけではなかった。彼女が通っていた大学は金による裏口入学を忌み嫌っていたし、一貫校に通っていた者なら全員、自動的に大学に上がれるというシステムでもなかった。それでも大学に行きたかったミヤは、子供の頃から常に上位の成績をキープし続け、見事推薦状を勝ち取ったのである。就職時も同様に大学からの推薦をもらい、第一志望の大企業に入社した。しかし、会社は編集職で雇った彼女に、事務仕事しか任せなかった。飾り物のように扱われ、人手不足から三文記者の真似事をさせられ、終いには野望である小説家の夢さえ否定された。そんなところ辞めてしまえと、当時交際中だったムーンは断言し、結果彼女の退職の責任を取る形で、半ばなし崩し的に婚姻が成立したのだ。その後間もなく、第一子のアスカが誕生した。
「君が何もしてないなんて、アスカの酷い勘違いだ。もしくは、一時の感情に任せて、適当なことを口走ったか……とにかく、あの子の言葉を真に受ける必要はないよ、ミヤさん」
「分かってるわ、マディー」
ムーンが懸命に紡ぐ慰めの台詞を、ミヤは意外にも途中で遮った。彼女はつんと澄ました表情で胸を張り、自信に満ちた態度を見せる。
「あなたに言われなくても、そんなこと十分理解してる。だって私は、小説家よ?自分で作品を書かなくて、どうやって成功するっていうの?」
彼女は出産や子育ての合間にも、コツコツと執筆を継続していた。そして現在に至るまで、人気のミステリー作家として、新作を刊行し続けている。彼女はつまり、努力の末に己の手で夢の実現を果たしたのだった。そのことをミヤはしっかりと理解し、誇りとして掲げてきた。
「あぁ……流石だよ、ミヤさん。それでこそ、僕の愛する君だ」
たとえ娘に非難されても揺らがない彼女に、ムーンは感激して彼女の手を握る。愛情のこもった仕草だったが、ミヤは一顧だにしなかった。
「私が心配してるのは、アスカのことよ。あの子、こんなお茶っ葉モドキを持って、どうするつもりだったのかしら?今、どこにいるんだろう……あの男の人たちは誰?ねぇ、マディー」
とはいえ、彼女は決して、ムーンをすげなく無視したわけではない。あまりに逼迫した状況のため、彼に触れられたことなど意識にも上らなかっただけのだろう。母親として当たり前のことだが、彼女は常に、話している最中もずっと落ち着かず娘の安否を案じていた。
妻に請うような眼差しを向けられたムーンは、即座に首を縦に振る。
「もちろん、分かっている。アスカを見つけて、連れ戻すよ。絶対に」
この家は、一人目の子供が誕生した直後に中古で購入したものだった。庭も、フェンスも、内装も、全て完全にミヤの趣味でリフォームされている。人間界の田舎町を参考にした、牧歌的でファンシーな一軒家。ハチミツ色のレンガで出来た、三角屋根のこぢんまりしたデザインが可愛らしい。花壇には色とりどりの花が咲き誇り、石畳の上にはクリーム色のころんとしたコンパクトカーが蜜蜂のように停まっている。敷地を囲う曲線型のフェンスを開け、ムーンは庭に踏み入った。
木目調の玄関ドアを引いた瞬間、彼の直感的感覚が、何らかの危険を察知した。上手く言語化することは出来ないが、何かがおかしい。本能的に手が懐に伸び、銃のグリップを握り締める。そのまま息を潜め、足音を殺してリビングへと向かった。家族は、ミヤは、無事なのか。嫌な予感が冷や汗となって、背筋を冷たく流れる。
室内は、酷く荒らされていた。家具の位置は少しずつずれ、棚に並んだ本や観葉植物が、無造作に床に捨てられている。ダイニングテーブルに置いてあっただろう食器は、何枚も叩き割られてただの破片に変わっていた。まさに惨状としか言えない光景だ。一体何が起こったのだろう。ムーンは素早く辺りを見回すが、引き出しや戸棚を漁られた形跡はなく、物盗りの犯行には思えなかった。どちらかというと、住人の誰かが突然癇癪を起こして暴れた後のようだ。
ふと背後から気配を感じて、ムーンは振り向いた。咄嗟に銃を取り出しかけたが、現れた者の姿を見て、急いで動きを止める。
「きゃっ!!」
「み、ミヤさん……すまない。誰か分からなかったものだから」
ムーンは慌てて銃を仕舞い、悲鳴を上げた妻を宥めた。彼女はどうやら洗面所にいたらしく、顔や髪にわずかな水滴が付いていた。冷水で誤魔化そうとしたらしいが、涙による瞼の腫れは隠しきれていない。
「マディー……あぁっ、ごめんなさい。どうしよう!」
彼女は激しく取り乱した様子で、ムーンの胸に飛び込んできた。彼女を難なく受け止めてから、ムーンは肩を掴み目線を合わせる。
「何があった?アスカは、無事なのか?」
妻が答えるより早く、彼は踵を返し二階へと上がろうとした。きっとアスカは、自室にいるだろうと思ったためだ。
「待って、違うの、マディー。話を聞いて」
ところがミヤは彼に追い縋り、ジャケットの背を摘んで引き留めた。直後、彼女から放たれた衝撃的な言葉が、ムーンに強い衝撃を与える。
「アスカなのよ!あの子が、こんなことを……家を滅茶苦茶にしたの!!」
一瞬、訳が分からなかった。脳がフリーズして、文章として頭に入っているはずの音を、意味のあるものに変換することが出来ない。だが、長年のキャリアのおかげで、すぐに硬直状態は解消した。回転を再開した思考が、やるべきことを的確に淀みなくリストアップし始める。
「どういうことだ……?ミヤさん、落ち着いて。ゆっくりでいいから。話してほしいんだ、全部」
まず、一番に優先するべきはミヤのことだった。彼は妻を誘導すると、倒れていた椅子を起こし座るよう促す。自分も反対側に席を占め、二人はテーブルを挟んで向かい合った。
「それじゃ、教えてくれるかい?」
「えぇ……といっても、まずは何から話せばいいのか……」
「大丈夫。いくらでも待つよ」
「そうじゃないのよ!でも……」
ミヤは思い悩み、何かに急き立てられているようにそわそわと、忙しなく周囲を見渡す。そして、躊躇いがちに口を開いた。
「今日、あなたに会いに会社まで行った後、私は真っ直ぐ帰ったの。アスカのことが心配だったし……本当は、色々準備をして、あなたをもてなすつもりだった。あなたが帰って来るのは、久しぶりだから。掃除したり、ちょっといいご飯を作ったり。大したことじゃないけど、せめて気持ちのこもった歓迎をしようって」
勢い込んで帰宅したものの、アスカは家にいなかった。
「あの子はまだ、ベッドで寝てると思ってたの。出かける時もそうだったから……でも、声をかけても返事がなくて。部屋を覗いたら、いなかった。電話をしても、メッセージを送っても、返事がなくて。流石に、今までそんなことはなかったから心配で……」
娘はこれまで、どこに行くのかくらいは必ず告げてから出かけていた。それが一転、全く何の音沙汰もないというのは看過出来ない。ミヤの不安と憂慮が膨れ上がるのも、無理はないことだった。
「それでね、私、いけないことだと思ったのだけど……見てしまったのよ。あの子の、付けっぱなしのパソコンを」
スクリーンセーバーは、マウスをクリックするだけで解除された。画面に大きく映されていたのは、娘のSNSのアカウント。投稿した写真を見ると、怪しげなバーで酒を飲んでいたり、若くて粗野な男たちと談笑していたりと、いかにもな不良娘らしい光景が大量に並んでいた。特に、ある一枚に映り込んだ、謎の茶葉のような物体がミヤの心に引っかかった。それはまるで非合法なドラッグそのものの様子で、テーブルに広げられたアルミホイルの上で、細く煙を上げていた。五、六人の男が、煙の漂う先を愉快そうに眺めている。アスカも彼らの背後に立って、アルミホイルに一瞥をくれていた。
「ほら、この前、ニュースであったでしょう?一見はお茶っ葉とそっくりだけど、中身は新しく開発された麻薬ってやつ……私、とても怖くなって。つい、アスカの勉強机の引き出しを開けた。そしたら……これが、出てきたのよ」
ミヤはカーディガンのポケットから、小袋を摘み出す。中には写真と同じあの茶葉が、少量ではあるが包まれていた。もしもこれが本物の違法薬物なのだとしたら、とんでもない事態だ。
「明らかに、お茶じゃないでしょう?アロマとかお香なら、こんな怪しい包み方じゃなくて、缶とかお洒落なパックとか、そういうのに入れるはずだわ。だけど……まさかアスカが、こんなものを持っているとは思わなくて」
動揺し打ちひしがれ、ショックを受けていたところに、タイミング悪くアスカが帰ってきた。彼女は当然、秘密を暴かれたことに怒り狂い、ミヤもまた母親として彼女をきつく問い詰めてしまった。
「そうしたら喧嘩になって、あの子が突然、叫び出した。私には、あの子の気持ちは分からないって。生まれた時から勝ち組で、自分では何も苦労してないんだからって。それだけ言って、出て行っちゃったのよ」
「はぁ……?」
意味不明の言い分に、ムーンはわずかに眉を寄せる。しかし、当の本人ミヤはあまり怒りを感じていないらしかった。むしろ、アスカの意見にも一理あると言いたげに、彼女の言動をフォローし始める。
「多分、私が良家の出身で、ろくな社会経験もないままあなたと結婚したからでしょうね。私の場合、小学校からのエスカレーターで、受験勉強とはほぼ無縁だったし。憧れの出版社は、三年で辞めたし」
「いや、いや、何言ってるんだ、ミヤさん。君は間違ってるよ」
ムーンは彼女の主張を遮って、誤ちを訂正する。
事実、ミヤは令嬢と呼ばれる生活を送っていたが、何の苦労もしていないわけではなかった。彼女が通っていた大学は金による裏口入学を忌み嫌っていたし、一貫校に通っていた者なら全員、自動的に大学に上がれるというシステムでもなかった。それでも大学に行きたかったミヤは、子供の頃から常に上位の成績をキープし続け、見事推薦状を勝ち取ったのである。就職時も同様に大学からの推薦をもらい、第一志望の大企業に入社した。しかし、会社は編集職で雇った彼女に、事務仕事しか任せなかった。飾り物のように扱われ、人手不足から三文記者の真似事をさせられ、終いには野望である小説家の夢さえ否定された。そんなところ辞めてしまえと、当時交際中だったムーンは断言し、結果彼女の退職の責任を取る形で、半ばなし崩し的に婚姻が成立したのだ。その後間もなく、第一子のアスカが誕生した。
「君が何もしてないなんて、アスカの酷い勘違いだ。もしくは、一時の感情に任せて、適当なことを口走ったか……とにかく、あの子の言葉を真に受ける必要はないよ、ミヤさん」
「分かってるわ、マディー」
ムーンが懸命に紡ぐ慰めの台詞を、ミヤは意外にも途中で遮った。彼女はつんと澄ました表情で胸を張り、自信に満ちた態度を見せる。
「あなたに言われなくても、そんなこと十分理解してる。だって私は、小説家よ?自分で作品を書かなくて、どうやって成功するっていうの?」
彼女は出産や子育ての合間にも、コツコツと執筆を継続していた。そして現在に至るまで、人気のミステリー作家として、新作を刊行し続けている。彼女はつまり、努力の末に己の手で夢の実現を果たしたのだった。そのことをミヤはしっかりと理解し、誇りとして掲げてきた。
「あぁ……流石だよ、ミヤさん。それでこそ、僕の愛する君だ」
たとえ娘に非難されても揺らがない彼女に、ムーンは感激して彼女の手を握る。愛情のこもった仕草だったが、ミヤは一顧だにしなかった。
「私が心配してるのは、アスカのことよ。あの子、こんなお茶っ葉モドキを持って、どうするつもりだったのかしら?今、どこにいるんだろう……あの男の人たちは誰?ねぇ、マディー」
とはいえ、彼女は決して、ムーンをすげなく無視したわけではない。あまりに逼迫した状況のため、彼に触れられたことなど意識にも上らなかっただけのだろう。母親として当たり前のことだが、彼女は常に、話している最中もずっと落ち着かず娘の安否を案じていた。
妻に請うような眼差しを向けられたムーンは、即座に首を縦に振る。
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