M00N!! Season2

望月来夢

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緊急事態

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「それに、あんたが死んじまえば、情報を他に伝えるモンがいなくなる。俺がやってもいいが、信じてはもらえなさそうだしな……何なら、俺が殺したんじゃねぇかと恨まれる可能性もある」
 ダイニングテーブルに腕を乗せ、椅子の背もたれに深く体重を預けて、グシオンは喋り続けた。
 彼の報復計画を進めるためには、要するにセイガとヘリオス・ラムダを争わせるためには、どうしても相手の詳細な情報を誰かが持ち帰る必要があった。それも、既に死して口を閉ざした者や信頼されていない人物ではなく、証人として十分な資格を持つ誰かが。だからこそ、彼は自らが殺される危険を冒してでも、ムーンの命を助けたのだ。大方の事情を理解したムーンは、瞼を閉ざし腕組みをして熟考する。
「なるほどね……だが、まだまだ謎は多い」
「そうネ。そのセイガって男が言う、不死鳥の心臓?ってのも、本物かどうかは分からないしネ」
「まぁな。結局そんなもんは幻想で、奴に勝手に信じてるだけかも知れねぇからな」
 彼に同調したネプチューンに、グシオンもまた共感の声を投げかけた。一方で、ムーンは静かに唇を引き結んだまま、黙って思案に耽っている。彼の脳裏を、セイガの残した不穏な言葉が過っていた。
『まずは、お前を殺す。次に、お前の仲間全員を殺し……最後に、お前の“主”も殺す。そのために、長い時間を費やしてきたんだ。今更、邪魔立てはさせない』
『俺の目的は、復讐だ。あの日、俺の家族を虐殺したガイアモンドに、死をもって報い、過去の罪を償わせる。そのために、俺は永遠を生きる必要があるんだ』
 当初は、死の危機に瀕していることもあって深く考えていなかったが、今なら全てを理解出来た。セイガがこの街に戻ってきた理由も、ガイアモンドが頻繁に狙われた原因も。そしてセイガのそばに、アデレードがいたことも。
(ガイアモンドへの復讐……しかし一体、何のために?)
 あの時セイガは、何故ガイアモンドに恨みを抱いているのかまでは語らなかった。単純に時間がなかったせいもあろうが、どちらかと言えば、原因を思い当たって当然という態度を取っていたようにも感じられる。だが、少なくともムーンには、彼の強烈な憎悪の根源を突き止めることは出来なかった。
 いずれにせよ、セイガにとって不死鳥の心臓は、復讐を遂げるための手段に過ぎないらしい。流石に永遠の命を欲するのは大仰な気もするが、それほどまでにガイアモンドを憎む感情が強いということだろう。であれば恐らく、アデレードの正体も漠然とではあるが察せられる。彼女はやはり、何年も前からセイガに仕え、彼の計画を手伝うために働いていたスパイなのだ。
 ムーンの思考がはっきりと形を持って固まり始めた頃。突如として、けたたましい着信音が室内に鳴り渡った。
「アラ、失礼」
 断りを入れたネプチューンが、白衣のポケットに手を突っ込み携帯端末を取り出す。
「ん?レジーナじゃないの。何かあったのかしら?」
 彼が呟きと共に通話ボタンを押した直後、もはや聞き慣れた彼女の金切り声が三人の鼓膜を震わせた。
『あぁ、ネプチューン!!やっと出た!!』
「うるっさ……!ちょっと、何なのヨ!?」
 耳鳴りが生じそうなほどの絶叫に、ネプチューンは片耳を抑え顰め面をする。だが、レジーナが返事をすることはなかった。携帯のスピーカーからは、複数人の男女の悲鳴や焦燥の音が重なり合って流れてくる。
「レジーナ!?レジーナ!!答えなサイ!!」
 直感的に危険を察知したネプチューンは、慌てて彼女の名前を連呼した。その声色に含まれた良からぬ気配に気付いて、ムーンが椅子から立ち上がる。傍らのグシオンは、座ったまま訝しげに自らのスマートフォンを確認し、驚いた様子で息を飲んだ。彼がテレビの前に駆け寄り、電源を付けた途端に、緊急速報を伝える画面が映し出される。
「おい、やべぇぞ……!」
 呆然とした呻く彼を遮って、電話の向こうから再びレジーナの言葉が聞こえてくる。
『ビルが……オメガビルが、爆発したみたいなの!!』
 彼女の伝える通り、繰り返し臨時ニュースを報じているテレビの画面上部には、『オメガ本社ビル爆発』の文字が大きく表示されていた。そしてバナーの下には、火と煙に包まれる<オメガ・クリスタル・コーポレーション>の本社ビルが映っている。
 アメジストの中心、サファイア地区に佇む全面ガラス張りの三角形。その特徴的な形状から、通称クリスタル・ピラミッドとも呼ばれている建物は、今や見るも無惨な姿を晒していた。ガラス壁はほとんど全て砕け散り、鉄製の支柱は熱でぐにゃりと曲がって歪んでいる。中には天井が崩落して、室内が剥き出しになっている箇所もあった。上空を飛ぶヘリコプターから届けられる映像には、社内で逃げ惑う人々や、路上を走る市民たちの必死の形相がまざまざと捉えられている。どの顔も皆驚きと混乱、恐怖に満ちて酷く強張っていた。正面のエントランスや裏口からは、煤や埃に汚れた社員たちが怒涛のように溢れている。人波のあちこちに、怪我を負い鮮血を滴らせながら駆けていく者も混じっていた。
 衝撃的な光景が、テレビを通してひたすら中継されている。それを目の当たりにしたムーンたち三人は、なす術なく絶望の気持ちで立ち尽くしているしかなかった。彼らにはまるで、自分たちの直面している出来事が、同じ世界のものであるとは到底思えなかったのだ。どこかここではない、遠く離れた別の世界での悪夢だと信じたかった。
 しかし、放心する彼らの意識は、再度携帯から響いた叫びによって引き戻された。
『ネプチューン!?ちょっと、聞こえてる!?あんたに頼みがあるの!!人命救助よ!!社長が……ガイアモンド社長が、まだ最上階に取り残されているみたいなの!!』
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