M00N!! Season2

望月来夢

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悲しみに暮れる街

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『私も、詳しくは分からないんだけど、複数の階で立て続けに爆発が起こって……心配しないで、私は無事よ!でも……社長の行方が』
 電波障害でも発生しているのか、レジーナの必死の説明は何度も途切れ、酷く聞き辛いものになっていた。それでも、どうにか三人は力を合わせて断片的な情報を繋ぎ、おおまかな趣旨を突き止める。
「ガイアモンドがいるのは最上階、そうだな?レジーナ、レジーナ?」
『そうよ……!待って、その声、ムーン!?』
 ムーンが大声で尋ねると、彼女は通話の向こうから驚愕と喜びの入り混じった歓声を返してきた。ネプチューンから端末を受け取り、ムーンはマイクを口元に寄せて伝える。
「あぁ、そうだよ、レジーナ。僕だ。さっき目覚めたところでね。それよりも、レジーナ、いいか?よく聞くんだ。ガイアモンドは必ず僕たちが見つける。だから君は、下手に動き回らず、すぐに安全な場所に避難するんだ。分かるね?」
『えぇ……えぇ、やってみる』
 端的に呼びかけると、レジーナは意気込んだ様子で了承した。気丈な態度と返答の内容に、ムーンは微笑みを浮かべ励ましを一言付け加える。
「それでこそ君だ。僕たちも今から向かう。君は出来る限り早くビルを出てくれ」
『分かってるわ』
 やり取りはそこで終了し、レジーナとの通話は終わった。ムーンは唇を引き結ぶと、ネプチューンにスマートフォンを渡し、速やかに支度を整える。
「どうすんだよ?ムーンさん」
「どうもこうも、行くしかないだろう。ガイアモンドを探さなくては」
 すかさず尋ねてきたグシオンに、彼は平静を装った調子で淡々と答える。
「これも、セイガの仕業だと思う?」
「分からない。だが、何にせよここでじっとしてはいられない。君もそうだろう?」
 同じく控えめに問いかけてきたネプチューンにも、彼は冷静な対応を取った。試すような眼差しで射抜かれて、ネプチューンは曖昧に頷く。
「そうネ……でもあんた、ほんとに行くつもりなの?まだ怪我は完治していないわヨ」
「大丈夫さ。無茶はしない……多分ね」
 彼の忠告に、ムーンはやや戯けた態度で返答する。そして素早く身を翻し、階下へと通じる階段を駆け降りた。後を追いかけてきたネプチューンが、一枚のドアを開け放ちムーンを先に案内する。
 躊躇わずに飛び込むと、そのさきはこぢんまりしたガレージに続いていた。中央に置かれた車のカバーを、ネプチューンが性急な手つきで外す。すると、艶のないカーキ色のボディを持った軍用車が登場した。
「足はこれで足りるわヨネ?」
「もちろんだよ。中々いい車じゃないか」
「アラ、ありがと♡」
 整備の行き届いた車を眺め、ムーンは素直な感想を漏らす。彼の称賛をネプチューンはウィンクで受け止めて、さっさと運転席に収まってしまった。自動開閉式のシャッターが上がるのを待ちつつ、ムーンも彼の隣に腰を下ろす。数秒と経たない内に、エンジンから獰猛な唸りが迸った。
「お~い!待てって!待ってくれよ!!」
「ちょっと!あんた、何してんのヨ!?」
 突然、誰かの声が聞こえた。走り寄ってきたグシオンが、ロックのかかっていなかった後部座席のドアを開け、平然とした面持ちでシートに体重を乗せる。
「やめて!入ってこないで!!出て行きなサイ!!」
「あぁ!?別にいいだろうが!人手は多いに越したことねぇんだからよ!」
「だからって、何であんたまで乗せなきゃいけないのヨ!?」
 ネプチューンがいくら出て行けと訴え、執拗に腕を伸ばしても、グシオンは微塵も取り合わない。彼の指示に従う義理はないとばかりに、傲慢な表情でふんぞり返っていた。仕方がないので、ムーンが無理矢理仲裁に入る。
「ネプチューン、諦めた方がいい。彼はこうなったら止められないよ。何が何でも、自分の要求を通さなきゃ気が済まないんだ」
「へっ、流石ムーンさん。よっく分かってるじゃねぇの」
「グシオン、君は口を出すな。それ以上喋るならこの車で轢くぞ」
「……わ、分かったよ」
 味方を得たと思ったグシオンは、顔一杯に得意げな笑みを浮かべたが、ムーンに睨まれるなりすぐに謙虚な態度を取り戻した。
「ったく……しょうがない男ネ」
 ネプチューンも時間がないことを十分承知していたため、溜め息一つで論争を切り上げる。彼がアクセルを踏むと、エンジンの温まっていた車両は即座にガレージから飛び出した。
 通常であれば、アレキサ地区からサファイア地区までの移動は三十分程かかるはずだったが、ネプチューンは巧みなドライブテクニックと空間把握能力によって、次々とショートカットを実行していく。大通りや混雑する交差点を避け、かろうじて一台が通れるだけの狭い路地を突っ切って、更には走っている車の隙間を縫ってまで距離の短縮に努めた。もちろん、警察に目撃されていれば咎められたはずだが、今ばかりは街中のどこにも彼らの気配は感じられない。皆オメガ社の爆発に気を取られていて、スピード違反などに人員を割いていられないのだろう。道を歩く市民の姿からも、名状し難い緊張感と戦慄とが漂っているようだった。
「皆、怯えてるわネ……当たり前だケド」
「最近は、街の治安も乱れ始めていたからね。オメガビルまで爆発したとあっては、恐怖してもおかしくはない。大半が、会社やガイアを狙ったテロだと思っているはずだ」
「そして次は、自分たちが犠牲になると恐れている」
「あっ!あれ、見ろよ!!」
 不安げに会話しているムーンとネプチューンを遮って、後ろに座っていたグシオンが一方を指差した。彼が示す方向には、崩れかけたオメガ社とそこから高く立ち上り続ける黒煙が見えている。吹き荒ぶ風が窓越しにかすかな異臭を運んでくるのを嗅いで、エージェント二人は眉を顰めた。
「火と鉄の匂いだ……」
「それと、死の匂いもネ」
「ヒャ~、すっげぇ!」
 暗い声音で囁き交わす彼らに、またもやグシオンが悲鳴なのか歓声なのか分からない調子で話しかける。
「やっぱり来て良かったぜ!こ~んな大騒動、間近で見れないなんて損だからなぁ!!」
「ムーン、摘み出して」
「了解」
「待て待て待て!!やめろったら!冗談だよ!!」
 手を叩いて不謹慎にはしゃぐ彼を、ネプチューンはきつく睨み付け、ムーンが力尽くで車外に放り出そうとした。胸ぐらを掴まれたグシオンは、慌てて首を横に振り、暴力反対と喚く。ムーンが彼を離してやると、グシオンはぶつぶつと文句をこぼしながら服の襟を直していた。そして、性懲りもなくお喋りを再開する。
「なぁあんたら、これがほんとにただの事故だと思ってんのか?んなわけねぇだろ?あまりにもタイミングが良過ぎる。絶対、セイガがやったに決まってるよ」
 そんなこと、わざわざ指摘されるまでもなく、他の二人も気付いていた。というよりも、最初から察しがついた上で、杞憂であってほしいと淡い願いを抱いていたのである。しかし、エージェントではないグシオンには、彼らの心情を理解出来なかったのだろう。彼は粗雑に革靴を脱ぎ捨てると、窓の外を眺めて退屈そうに足を遊ばせた。
「君は、セイガの仕業だと思ったから来たのか?」
「当ったりめぇだろ?こんな派手なことが出来る奴は、セイガを除いて他にいねぇ。そんで、奴の仕組んだ出来事イベントなら、手下の一人や二人隠れてるはずだ。そいつを何としてでも捕まえて、セイガの居場所を聞き出そうぜ!俺たちを騙した、“報い”を受けさせてやらなきゃな……!!」
 ムーンが質問をぶつけると、グシオンはあからさまに目の色を変えて、自らの拳を掌に打ち付けた。怒りと戦意によって高揚し、身を震わせている彼を、ムーンはバックミラー越しにちらりと一瞥する。それから重々しい声音で忠告した。
「いいかい?グシオン。君の気持ちも分からないではないが、今回は人命救助が僕らの任務だ。たとえ、セイガを見かけても怪我人がいたらそちらを優先しろ。それと、僕たちの指示には何でも従うこと。いいな?何でもだぞ。この二つの条件が飲めないなら、今ここで君を射殺する」
「カカッ、冗談キツいぜ、ムーンさん!脅すにしても、もうちっと上手いやり方ってもんがあるだろうよー」
 彼の過激極まりない物言いを聞き、グシオンは思わずぽかんと口を開けて瞬きを繰り返した。まさか本気ではないだろうと侮っている様子の彼に、ムーンはちらりと視線を遣り、懐にある銃のグリップを覗かせる。今の発言は決して嘘偽りではなく、必要なら直ちに引き金を引くつもりだと眼差しで知らせると、グシオンは蒼白になって両手を挙げた。
「分かったよ。あんたに従う。約束だ」
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