M00N!! Season2

望月来夢

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SGPの秘密

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「伏せろ!」
 ムーンは素早く命じると、隣にいたロバートの襟首を掴み、力尽くで柱の影に押し込んだ。彼の背後では、指示に従ったガイアモンドとグシオンが、慌てた面持ちで床に身を伏せている。二人の頭上を何発かの弾丸が通り過ぎ、奥の壁に小さな穴を空けた。
「どうして……!何でもうこんなところに!?警備隊は何をやってるんだ!!」
 物陰に潜み、精一杯巨体を縮めながらロバートが喚く。ムーンはそれを無視して、反対側の柱に隠れている同僚を呼んだ。
「ネプチューン!」
「分かってるわヨ!」
 言われるまでもないと、彼は唇を艶やかに捻じ曲げ、ミリタリーパンツのポケットからサブマシンガンを取り出す。明らかにサイズの合っていない物体が、無造作に現れる光景は間違いなく魔法によって実現されたものだ。緊迫した状況も忘れて、思わずロバートが研究者らしい溜め息を吐く。
「あぁ~、懐かしいわ♡久しぶりのお楽しみって、この子も分かってるみたいネ」
 周囲の反応にも構わず、ネプチューンは嬉々として顔を綻ばせていた。銃身を撫でさする、変態じみた手付きが妙に薄気味悪い。事件の捜査に来た刑事とは思えない振る舞いに、ロバートは一転して疑いの眼差しを注いだ。
「来るぞ、準備を」
 ジャケットからハンドガンを抜いたムーンは、ほとんど口の動きだけで皆に警告する。眼鏡に搭載された熱源感知センサーが、敵の正確な位置や数を把握し、彼の脳に直接流し込んできた。
 与えられた情報をもとに狙いを定め、引き金に指をかけた途端、再び発砲音が鳴る。しかも、今度は一回きりではなく、何度も繰り返し断続的に響いた。銃声に混じって、混乱状態に陥った男たちの怒号や呻きも聞こえてくる。詳細は分からないが、どうやら別の何者かが現れ、彼らに攻撃を仕掛けているらしい。
「良かった、警備隊だ!」
 怯えよりも好奇心の勝ったロバートが、事態を悟って安堵の声を上げた。同じくガイアモンドも、危険を冒して音のする方を窺い驚愕の表情を浮かべている。
「あれが、警備隊!?軍隊の間違いだろう!」
 彼の指摘通り、廊下の先で固まっている集団は、どう見ても民間人とはかけ離れた姿をしていた。黒を基調とした戦闘服と、体の各所に装着されたプロテクター。防御魔法の込められた盾や、機関銃を所持している者も少なくはない。隊列の組み方も洗練されており、長い期間訓練を積んだことが察せられた。相互の連携が巧みに取れた身ごなしは、まるで軍政部門の抱える特殊部隊員を彷彿とさせる。
「何と言うか……人形みたいだ」
 だが、ふと疑問を抱いてムーンは呟いた。すぐにネプチューンも頷いて共感を示す。
「そうネ。動きがスムーズ過ぎるのヨネ。何だか、最初から決められていた動きを、ただなぞっているだけって感じ」
 彼ら以外は誰も気付かないことだったが、警備たちの者たちの動きには、どことなく不自然なところがあった。魂や意思が抜け出し、空っぽになった肉体のみが糸で括られ操られているかのような、強烈な違和感を放っている。実際、反撃を受けても悲鳴一つ漏らさず、無気力に倒れていく様は奇怪でしかなかった。
「誰かに操られているのか……?」
「おっしゃ、開いたぁ~!」
 一体何が起こっているのかと、首を傾げるムーンの耳に、グシオンの歓声が飛び込んでくる。振り返ると、魔法で封じられているはずのドアを開け、得意げに胸を反らしている彼の姿が視界に映った。その手には、ロバートからくすねたIDカードが握られている。
「おい、あんたら早く行こうぜ!こんなとこでコソコソしてても、時間ばっか食った挙句、巻き添えで撃たれるだけだって!俺ぁそんなのごめんだね」
 彼は扉の奥が安全であると確かめた後、気楽な仕草で手を振って合図した。しかし、一言も返事が聞こえてこないと分かると、腰に両手を当てて不満げな面持ちを作る。
「ま、いいさ。嫌だってんなら勝手にしな。不死鳥の心臓は、俺が探し出して独占する。構わねぇだろ?」
「不死鳥の心臓……!」
 わざとらしく嘯く彼を、呆気に取られた様子でロバートが凝視した。
「馬鹿……ッ!グシオン!いいわけないでしょう!?」
「イテェッ!」
 すかさず、ネプチューンが彼の頭を叩いて叱責する。誤魔化しとしてはかなり強引なやり方だが、とりあえずロバートの興味を薄れさせることには成功した。
「しかし、彼の言う通りだ。ここは一旦、退いた方が良さそうだね」
 彼が食い下がってくる前に、ムーンは口を開いて己の判断を告げる。実際、彼らの目的はあくまでセイガであり、不死鳥の心臓なのだから、今ここで誰かと衝突するのは得策ではないだろう。結局、誰も反論を試みる者はなく、一行はグシオンの提案を受け入れると決めた。グシオンが開けたドアを潜って、銃撃戦の被害から逃れられる場所を探す。
「こっちです!」
 取り返したIDで、次々と扉やシャッターを退けていたロバートが、唐突に叫んだ。彼の前には、他よりも頑丈そうな鍵が取り付けられた、両開きのドアが立ち塞がっている。
「この扉は、監督の権限がないと開けられません。強力な電磁砲にも耐えられる設計になっていますから、まず破られることはないでしょう」
 彼は早口に説明をしつつ、カードを翳して鍵を外した。すると、スライド式のドアが自動で開き、五人を中に招き入れる。最後尾のムーンが踏み込んだ直後、それはまた静かに滑って固く閉ざされた。
『ちょっと!ムーン、聞こえる!?応答して!ムーン!?』
 その時、装着したイヤホンからレジーナの絶叫が迸る。鼓膜を突き抜けるほどの大音量を浴びて初めて、ムーンはいつの間にか通信が途切れていたことに気が付いた。
「レジーナ、今聞こえた。こちらは全員無事だ。怪我もしていない。そっちはどうなっている?」
『あぁ、やっと繋がった……!どうもこうも、いきなり魔法が弾かれたのよ!!』
 急いで答えると、先程以上の金切り声が返ってくる。パニックに陥っている彼女を宥めるため、ムーンは出来る限り穏やかな調子で尋ねた。
「落ち着いてくれ、レジーナ。何があった?一つずつ順番に話してくれ」
『そんな暇ないわよ!!魔法で通信を妨害されていて、この車の機能じゃ完全には突破し切れないの!今はかろうじて聞こえるけれど、きっとすぐに』
 質問されたレジーナは、即座に凄まじい勢いで反駁を開始する。ところが、彼女の訴えが終わるよりも先に、突如通信が切断された。彼女の言う、通信妨害とやらが働いたのだろう。だが急な出来事だったせいで、流石のムーンも戸惑いを隠せなかった。
「レジーナ?レジーナ……切れた」
 彼は何度かイヤホンを押さえて話しかけたが、いつまで経っても返答はない。ただザラザラとした、質の悪いノイズが聞こえてくるだけだ。
「全く、どうなってるんだ!何故、民間の研究機関が武装した軍隊を持っている!?」
 仕方ないと諦めの念を抱く彼のそばで、ガイアモンドがロバートに詰め寄っていた。
「ぐ、軍隊ではありません……あれは、警備隊です。確かに武器を携帯していますが」
 あまりの剣幕に気圧されつつも、ロバートは控えめな弁解を紡いでいる。だが、ガイアモンドは決して聞く耳を持たなかった。
「どうだっていい、そんなもの!!僕が聞きたいのは、どうしてあんなものがあるのかということだ!!」
「け、研究を守るためです!この施設には、盗まれたら困る危険なアイテムも大量に保管されていますから。安全を確保するために、必要な措置なんです!」
 激しい口調で一蹴され、ロバートもつられて語気を荒げる。しかし、ガイアモンドに憤怒の眼差しで睨まれると、恐れをなして閉口してしまった。
「だからって、限度があるだろう!!不可侵協定の締結は、互いが何をしても黙認するという意味じゃない!相手を信頼して、それぞれの領分に理由もなく深入りしないと誓うものだ!!なのに君たちときたら、定例報告を怠り、テロリストにも加担する!!これでは、とても信用なんて出来るはずがない!むしろ、対立を望んでいるとしか思えないぞ……!僕たちと、一戦交える気か?」
「ちちち、違います!わ、我々に、あなた方に逆らう意思はありません!!少なくとも、現場の者たちは、皆同じことを考えているはずで」
「じゃあ、この封鎖システムは何だ!?不必要に高度な術式を使い過ぎている!一体どこから魔力を得ているんだ!!」
 身を竦ませる彼に向かって、ガイアモンドは一層苛烈に怒鳴り散らす。猛然と非難されたロバートは、慌てて疑惑を否定していたが、怯えのためしどろもどろになっていた。
「……わ、分かりません。所長代理が、決めたことなんです。あの方は、凄く優秀な研究者ですが、時々とても強引になるので……本当に、恐ろしいぐらいに」
 それでも必死に、ロバートは己の置かれている状況を訥々と述べ立てる。彼が語る旨は、ムーンたちにはすぐに信じることが出来ないほど、酷いものであった。
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