M00N!! Season2

望月来夢

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巻き込まれた研究者

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「あの方に反論すると、クビになったり、他の研究所へ飛ばされたりするんです……ここ半年間で、組織の上層部もほとんど入れ替わりました。私が役職に就けたのも、そのおかげで……だから、同じ目に遭いたくなかったら、従うしかない。そうやって、誰も何も言えない状態になっていったんです」
 ロバートの明かす衝撃的な真実を、ムーンたちは呆気に取られた面持ちで受け止めていた。まさかSGPがそれほどまでに抑圧的で、支配的な組織とは予想だにしていなかったからだ。ムーン、ガイアモンド、ネプチューンの三人は、返す言葉を失って互いの目を見交わしていた。
「……ずっと気になってはいたケド、その所長代理って、何なの?」
 皆を代表して、ネプチューンが質問を投げかける。
「代理ってことは、正式な所長でもないんでしょ?なのに、随分と横暴が過ぎるんじゃな~い?本物の所長は、何にも言わないのかしらン?彼は今どこにいるのヨ?」
 彼は懸命に普段通りの口調を装おうとしていたが、声音に含まれる混乱と戸惑いの色は隠しきれなていなかった。対するロバートの答えは、これまでよりも一層強い驚きを三人の心に植え付ける。
「それが、私もよくは知らないのです……ある日突然、所長は長期の出張が入ったと聞かされまして。代理を任されたと、サイン済みの誓約書を見せられたら何も言えず、そこからは全て言いなりに」
「何だそれは……!完全に、詐欺の手口じゃないか!どう考えてもおかしいだろう!!」
 とうとう限界を迎えたガイアモンドが、堪らずロバートの話を遮った。
 彼の言う通り、最高権力者の交代という重大な決定を、責任者にすら伝えないのは異常でしかない事態だ。そもそも、研究機関であるSGPの所長が、長期間の出張をしなければならない理由も分からない。今までの付き合いの中でも、類似の内容が報告されたことは一度としてなかったというのに。
「そんな怪しげな人物に、どうして従った?いくら独裁者であっても、集団の力には抗えない。職員全員で団結すれば、抵抗出来ないことはないと思うが」
 たとえ書類が存在したとしても、それが法的な効力を持つかどうかは定かではない。脅迫された結果、無理矢理サインをさせられたのだと疑うことも十分に出来る。ならば、誰かが声を上げさえすれば、必ず相応の人数が集められたのではないかと、ムーンも口を差し挟んで問いかける。
「はっ、無理無理!アホぬかすなよ、ムーンさん。そんなことが出来る奴らなら、向こうさんだって、紙切れ一枚でゴリ押ししようなんか思わないっつーの。こういうのは、相手の肝っ玉に合わせて決めるもんなんだから、さ」
 ところが、グシオンがしゃしゃり出て、彼の見解を真っ向から否定した。彼はニヤリと薄笑いを浮かべると、ロバートに歩み寄り、突き出た腹と接触する寸前まで近付く。
「要するに、あんたらはど~しようもねぇくらい侮られてたってことだ。尤もらしい理屈並べて、強気に出りゃ簡単に従うと踏まれてた。結局、予想は的中したわけだしな?」
「な……っ!」
 傍若無人な言葉に、ロバートは不満げに顔を歪めたものの、反論することは出来なかった。恐らく所長代理なる人物も、グシオンと同様、職員たちの性格を深く理解していたのだろう。だからこそ、彼らを惑わして強引に権力を簒奪することに成功した。
「そういう意味じゃ、所長代理って野郎はかなりのやり手らしい……面倒臭ぇ相手だ」
 グシオンは閉じたドアに背をつけて、気怠げに呟く。はっきりと断言はしなかったけれど、正直ムーンも共感を覚えていた。
 敵対する可能性のある勢力に、驚くべき人心掌握の術を持つ者がいるのは、厄介な問題だった。表立って揉め事を起こせば、無闇に火種が大きくなりかねない。どうすべきかと、彼はガイアモンドに視線を遣り、今後の策を尋ねようとした。
「!!」
 しかし、相談を持ちかけるより早く、彼の第六感が何らかの気配を察知する。
「あ?何だぁ?」
「離れなサイ、グシオン!」
 咥えたタバコに火を付けるところだったグシオンが、怪訝そうに唸った。焦燥を露わにしたネプチューンが、彼の腕を掴んで自らの後ろに引っ張り込む。直後、グシオンがもたれていたドアが、音もなく左右に開いた。
「まだいたぞ!確保しろ!!」
「お前たち、手を上げろ!」
 例のプロテクターを身に付けた警備隊が、雪崩を打って室内に入ってくる。ムーンは咄嗟にハンドガンを掴んだが、ロバートによって止められた。
「ま、待ってください!彼らは味方です!……君たちも、やめてくれ!我々は侵入者じゃない!私は監督のロバートだ!この人たちは、所長代理の客人で」
 彼は次に、両腕を思い切り広げて警備隊の方を制止する。だが、彼の声が最後まで紡がれることはなかった。隊列をかき分けて、一際体格のいい男が現れたかと思うと、手にしたライフルで彼を射殺したからである。
 額の中央を撃ち抜かれたロバートは、白目を剥いてその場に崩れ落ちる。ぐんにゃりと力をなくして倒れた巨体を、ムーンたちは呆然と見下ろした。
「……彼は、仲間じゃなかったのか?」
 少しずつ広がっていく赤い血溜まりを避けて、ムーンが質問を発する。隊長と思しき大柄な男は、彼を一瞥すると機械的な調子で答えた。
「誰であれ、発見次第“処分”しろと言われている。そのために、あらゆる部屋にアクセスする権限ももらった」
「所長代理から?」
 彼の問いを耳にするなり、隊長は筋肉の盛り上がった肩をピクリと跳ねさせる。ムーンは相手の反応になど構わず、侮蔑が混じった声音で吐き捨てた。
「命令されたことには、何でも従うのか?同士討ちをしても、今度は自分たちが狙われるだけだぞ。何故、利用されていると分からない?」
「……どうやら、お前たちは知り過ぎているようだな」
 挑発的に訴えるムーンの瞳を覗き込み、隊長は唇の端を捻じ曲げる。それは一見すると笑顔だが、瞳には全く光が宿っていない。ただ与えられた指示を実行しているだけにも感じられる、不気味な表情であった。
 彼がすっと片手を上げると、背後に控えていた部下が何かを取り出した。無気力な動作で放られたレモン型の物体が、ネプチューンの眼前に落下する。
「っ!!」
 正体を悟った彼は、素早く足を上げてそれを蹴り飛ばした。コロンと転がっていった手榴弾は、隊員たちのもとまで辿り着くと、爆音を轟かせて炸裂する。振動と悲鳴、灰色の煙がムーンたちの周囲を包んだ。
「げほっ……ごほっ」
 口元を押さえて咽せつつ、彼はハンドガンを使って敵を一人一人仕留めていく。眼鏡の機能のおかげで、濃い煙が立ち込めていても狙いの正確さは失われない。彼の視界の片隅には、ネプチューンがセミオートのサブマシンガンを持って暴れている光景が映っていた。戦闘狂の性質を開花された元軍医は、顔を非常に明るく輝かせ、派手な哄笑を響かせているところだった。
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