狼と人間、そして半獣の

咲狛洋々

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獣語 躍動編

ルイゼンスとピヤタ

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 地下の魔力コントロールルームの一室では、頭を抱えるルイゼンスと彼にへばりつくピヤタが隔離されていた。ガラス張りの一室の外では、彼等を今にもピヤタを殺しかねない目で近衛達がじっと見ていた。


「ピヤタ……君の父親は何故界渡の人を殺せと言ったの?」

「ぴ や た きょ だい いわ れ た」

「兄弟?兄弟もいるのか……で、言われた?何を?」

「こ ろ せ」

「ピヤタは理由も知らずに殺しに来たの?そんなのおかしいよ!」


そうは言う物の、ピヤタの幼児レベルの反応に理由を問い正しても答えは得られないだろうと、ルイゼンスは何処かで分かってはいた。しかし、ウィラーに言われればどんな事であろうと実行する様に育てられたピヤタを憐れむも、許せない気持ちがその心を怒りに染めていた。


「君は人間でも獣人でも…半獣でもない!唯の人殺しで、厄災だ!善悪の判断も出来ないなんて、最悪だよ!」

「る い ぜ す お れ まも る!」

「守って貰わなくて良い‼︎界渡の人や、罪の無い人を襲わないでくれ!」

「あぅ、あっあ!か い わ たり しなない おれ しぬ」

「……え?」

「きょ だい み な し ぬ」

「な、何言ってるんだピヤタ」


ピヤタはガシガシと頭を掻き毟りながら、立ち上がるとぐるぐるとその場で回り始め、オロオロしながら辺りを見渡し始めている。そんな彼が理解出来ないとルイゼンスは眉間に皺を寄せて睨んでいたが、ふと考えた。

何なんだ。理解出来ないよ……界渡を殺さなければピヤタと兄弟が殺される?ウィラーはピヤタの父親なんだろ?なのに何故彼等を殺す必要があるんだ。……もしかして、界渡の人が殺せない場合はその身代わりとしてピヤタ達が殺されるって事?ウィラーは界渡の命で扉を開いてるって陛下は言ってた。と言う事は……ピヤタ達も【界渡】って言う事なの?まさか!そんな馬鹿な!


「あぅっ!あ あ ごめ な さい、ごめ な さい」

「ピヤタ?」

「ちち ちち ご めな さい」


ガタガタと震えるピヤタに、ルイゼンスも近衛達も何事かと近付いてその顔を覗き込んだ。


「ごめ な さい!」

ピヤタが叫ぶのと同時に、何も無い空間に白い靄の様な物が現れたかと思うと落雷の様に光がカッとピヤタの頭上に落ちた。皆その衝撃に壁や硝子窓に身体を打ち付け倒れ込んだが、何事かとピヤタを見た。


「ピヤタ‼︎」


光に腹部を貫かれたピヤタはルイゼンスに手を伸ばしていた。そして雛鳥の鳴き声の様にか細く一言発するとその場に膝を着いて倒れたのだった。


「る い ぜ ごめ ね」


何がごめんなの……え?嘘。ピヤタ?何で身体に穴が開いているんだろう。ピヤタ、僕はこんな事望んでなんていなかった。罰は受けて欲しいと思ったけれど、死んで欲しいなんてこれっぽっちも思って無かった。だって僕が名前を付けたんだよ?まだ幼い子供と変わらない……ピヤタは、子供なんだ。やめてよ、嫌だよこんなの!


「誰か!誰かピヤタを助けて!」

「医療班呼べ‼︎死なせるな!こいつが死ねば情報が得られない!ポーション持ってる奴は出せ‼︎」


近衛の1人がポーションをピヤタの傷に振りかけるが、魔力に阻まれ蒸発するだけで全く傷口にかける事が出来ず、飲ませるも効果は現れなかった。


「ピヤタ、ピヤタ!駄目だ!死んじゃ駄目だよ!怒ってない!僕は許すよ、君の罪を僕は許すから!死ぬな!」


口をはくはくと動かしながらも、ピヤタはニコニコと笑いルイゼンスに手を伸ばして言った。


「る い ぜ な まえ あ り と」


ルイゼンスはその手を強く握り頬に触れながら目を瞑った。痛々しい傷、ただ笑う彼を見ていられなかった。

ごめん、ピヤタごめん。【ピヤタ】なんて付けなければ良かった、適当に付けてごめんよ?もっと前に君と出会えて、君を知る時間があれば良かった。そうしたら、君に殺人なんてさせなかった……勿論ヤンを狙う彼は許せない。でも、僕を守ると言ってくれた彼を許したい、助けたい。何故、彼がこんな目に遭うの?もしも彼がウィラーの元に居なければ、こんな事にはならなかった。


「何言ってるんだよピヤタ!ピヤタ!」

「ルイゼンスさん!どいて下さい!魔道士が来ます!」

「ピヤタ‼︎」


ただ醜い笑顔でルイゼンスを見ていたピヤタだが、静かにゆっくりと瞳から光が失われて行った。ただ口元だけが笑ったままに。


「クソっ!ウィラーとの繋がりが!」

「さっきの閃光はやっぱりウィラーなのか?」

「ウィラーは簡単に此処に入り込めると言う事なのか⁉︎」


近衛達はピヤタの死に、悔しさを滲ませながらバタバタと各所へ連絡を入れながらベルドゥーサやルルバーナへどう報告するか頭を抱えていた。しかし、ルイゼンスは呼吸が止まったピヤタの手を握ったまま、ただ後悔していた。
























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