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第一章 転生と始まり
9 それは神様を宥めること2 出来損ないの不始末〜フロリア
しおりを挟むあれから、私は俗に言う精神世界とでも言うべき場所に立っている。肉体は相変わらずだけど、アルバートさんの所に居た時よりも、手足や特に舌の動きが滑らかだ。聞けば、時間の流れが違う様で、一分一秒と経つ毎に私は成長しているらしい。天上界すごいね!って事は、後数時間後には大人になっているんじゃなかろうか?
足元には無数の星々が輝いていて、遠く向こうに青い星が見えた。地球なのかな。父さんは元気かな……母さんは、うん、きっと元気だろう。
硝子の床を歩いている様な感覚で、目には見えなくてもそこにはあるのだという事を理解すれば、それ程怖くは無い。ここは美しいと言えば美しい世界だ。……ただ、思っている以上に何にも無いんですけど!まるでVRの世界の様で、暗闇に浮かぶ星々と神と私しかいないというのはロマンチックだと思う。思うけども!流石に空間に漂う様な状況で、私は何からツッコミを入れたらいいのか分からんよ⁉︎
「綺麗だろう?」
「気に入ったか?フェリラーデ」
「あ……う、うん。きれーね」
で?神の城は何処よ⁉︎まさかこことか言わないよね?
私の今の顔はきっと怒りマークがぽぽぽんと浮かんでいるだろうね。マジ何もねーわ。こりゃ神様も退屈するよ!そりゃクローヴェルさん作るよね⁉︎ヤンデレ神様でも1人でこんな場所に居るよりマシだし!でも、なんか無い訳?贅沢は言わんよ。せめて食べ物とか、読み物とかさ!後、地上が覗ける魔道具みたいなの?無い訳⁉︎神の国ってか地獄じゃんよ!何で着いて来ちゃったかなぁ私!後悔です!後悔ですよ!
「ねー」
「どうした?愛しい我の女神」
「どうしたんだ?我の美しい光」
「……」
「「再び永遠に居られる事、この上もなく喜ばしい」」
頭沸いてんのかよ。
歯が全部抜けそう!甘ったるくて気分が悪い!話変えよ。
「どうして今日、アルバートさんの身体を使ったの?」
「「其方が泣いていたからだ」」
「よく分かったね。泣いてたの」
「フェリラーデ、其方の感情は我々と繋がっている。其方のパパとやらの側に居る時の様に、心穏やかであったなら、我々は其方を迎えに行こうとは思わなかった。だが、人間如きが其方を泣かせた。嫌だと心が叫んでおった。我々の忍耐も限界であった故、其方に魔力を注いで繋ぎの出来た彼奴の身体を借りた」
トルトレスさん、腕痛い!掴むな掴むな、そして何気に揉むな!幼児ボディが魅力的なのはわかるけどさ。
「繋がってるの?」
「当然だ。フェリラーデは我々の一部から生まれたのだからな」
クローヴェルさん言い方!それってプラナリアみたいな感じがして嫌なんだけど。あぁっ、何でこの2人と話すと嫌な方向ばかりに話が行くのかなぁ。チェンジチェンジ!
「はぁ。ねぇ、聖って呼んでみてくれない?フェリラーデとか愛しいとか美しいとかって言われると……私じゃ無い人を見てるみたいだし、私じゃなくていいんでしょ?って嫌味を言いたくなるから」
「「?」」
キョトン
じゃないよ!まったく。
この2人にも私は映ってないんだな。
に、してもさ。なんだろう?この神様、肉体がフェリラーデさんなら何でもいいのかな?それってさぁ、すっごく彼女に失礼なんじゃないの?そりゃ捨てられるわ。別に恋愛経験多い方じゃないけどさ、これ位分かるよ。あんたら恋愛してる自分が好きなんでしょ。中学生かよ!はぁ、まいったなぁ。
私の手にはただ真っ白な兎のぬいぐるみがあって、寂しくなると思ったから持って来たけど、3人でここに居るのに、1人みたいな気分だよ。
「もういいよ」
着いて来てしまったけれど、私は後…どれ位ここに居るんだろう。ずっとなのかな。それは流石に辛すぎる。
「フェリラーデ?」
私の不機嫌な理由が分からないのか、二柱は両サイドから覗き込んでくる。その表情は、私を酷く心配しているのと、機嫌を取ろうと慌てている物だった。
「ふたりはさ、ずっとここにいたの?」
「「そうだ」」
「なにしてすごしてる?」
トルトレスは、私の問いかけに困った様に笑うと立ち上がり、正面に手を翳すと右から左に手をスライドさせた。
「こうやって……我々が守護する世界をみている。そして均衡を保つ為にここにやってくる数多の魂の選別を行うのだ」
「きんこう?」
「あぁ、人は死ぬとまずアルケシュナーの元に行く。そして裁きを受けた後、我の管理する冥府へと送られる。そして常闇へ向かう者、トルトレスの管理する済生の地へ向かう者と分けるのだ」
「それが均衡とどうつながるの?」
「フェリラーデ……いや、聖。聖がいたオーウェの星への再生配置率は善1、魔2、堕1、無3、有3の割合だ。その割合を考え、冥府、済生の地から魂を転生させている。それが我々の仕事の1つだ」
「他にも管理している世界は数多あるのだ。クローヴェルは我が管理している世界以外……他の神が管理する世界の魂も冥府で請け負っている。クローヴェルが居なかった時は我が全て管理していたが」
「堕ってのは分からないけど、良い人、悪い人、魔獣、生き物、普通の人って、最初から決まって生まれるの?」
「そうだ。だが、始まりが決まっているだけで、その命をどう磨くのかはその魂の持ち主の裁量次第だ。加護を与えた善の魂であっても堕落する者はいるし、どうしようもない堕落した魂を持って生まれても、環境や己の心一つで善にもなれる」
「なら、割合意味無いじゃん」
「無くは無いのだ聖。善の魂の持つ意志や力は強い……強いが故に善は魔となり、魔は善にも取って代われる。故に適当に割り振ると星を失う事に繋がる。星々に生きる命、祈り、願いが無くては我々は存在出来ぬからな」
「……」
それって、神様は人々の信仰心が無くては存在出来ないって事なのかな?でも、この再生配置率?管理?まるで畜産してるみたいでいい気はしないね。
「ふっ……畜産か」
「むっ!心読むのやめて!」
「済まぬフェ……いや、聖」
「はぁ……いいよ。もう、どっちでも」
なる程、彼等にとって無限にも思える私達塵芥な命でも、自分の存在には必要だから管理するんだね。ふんっ……嫌な存在だよ。神様なんてさ。いい気はしないね。うん、良い気はしないんだけど、その管理が無ければ私達人間はきっと動物と変わらない生き方しか出来なかったかもしれない。いや、そもそもそうあって欲しいと人間が願い、神は生まれたのかも知れない。だとしたら、損な役割を押し付けられた物だ。トルトレスさんも、遠い何処か違う世界で生まれた人の魂だったのかな?私みたいに……それでもって、弱い人間達の魂は神様が必要だっ!誰か神役やって!あいつがいい、こいつがいいってわちゃわちゃやって、結果トルトレスさんが選ばれちゃったのかな。
「ふっ」
トルトレスは、愛おしい物を見つめる様な目で聖を見つつ、今回の魂は不思議な魂だなと笑う。そして、自身が生まれた時の事を思い返していた。
「ふむ。聖の思う様な事は無かった様な気がするな。我が我であると知った時から力を持つ神と呼ばれる存在であったし、長い年月を重ね、由を作り上げた」
「由?」
「始まりの時代、星々は、命はただそこにあって、自然の摂理の中で生まれては消滅を繰り返した。平穏無事な環境下の命はそれは長く生きていた。だが、たった一つの誕生と消滅が、その振子を止めた」
クローヴェルさんは、その時の記憶があるのか過去の映像を私に見せてくれる。沢山の星々は変わらない軌道を回り、自転や公転を繰り返している。そんな中、一際大きな星が爆発して、周囲の星に飛び火した。小さな星は爆発に巻き込まれ消滅したり、弾き飛ばされ別の星にぶつかったりと、映画の爆発シーンの様だった。それから長い時間爆発は続いて、連鎖的に色々な所で爆発が始まった。
「これは……フェリラーデの神魂が消滅した結果だ。だが、フェリラーデの魂は宇宙に飛散し星々に変化を齎した。生き物は自ら変革を起こし、その肉体を進化させ、思考をより我々神に近い物にした」
は?な、なんだってぇ?ちょっら情報過多なんだけどっ、と、取り敢えずフェリラーデさん……死んでんの⁉︎え、神様なんだよね。待って待って!あれ?リットールナで加護や聖女と契約したのは?誰っ!
「我の神魂が消滅する事はない。だが、我が生み出す神魂にはその力に限界があり、神魂を生み続ければその分、魂の大きさも小さい物となる。小さな神魂では容易に魔に身をやつす……寿命という制限を付けねば、神とて簡単に魔に堕ちるのだ。その様な事、フェリラーデにはさせられぬ」
「なら、教会で力授けたの誰?フェリラーデさんが与えたって聞いたんだけど!それに、祈祷とか儀式した時誰がフェリラーデさんの加護を与えてるの?」
「フェリラーデでは無い。それはあれの側仕えだったオーフェンタールが代理で授けただけだ。それに、あの国自体がフェリラーデの加護と調愛の産物と言って良いからな。相性が良ければ容易く得られるだろう」
フェリラーデさんの力をオーフェンタールさんが渡した。そっか、渡したのが誰であっても、与えられたのはフェリラーデさんの力だ。それが時を経て話が変わったのかもしれない。でも、どうしてフェリラーデさんはリットールナをそこまで贔屓してるんだろう。
「さぁな。フェリラーデを我々は今でも愛し求めているが、心の中までは覗けなかった。理由は分からん」
トルトレスさんとクローヴェルさんはその燃え盛る星をただ見ていた。そこには何の感情も見えない。愛していた女神の死が辛くは無いのだろうか?
「今はもう悲しくはない。私の生み出した由でもあるからな」
「え?」
「聖、人は何故夢を見て、希望を抱き、絶望を知る?」
「わ、分からない。でも、そうじゃなきゃ生きているのが辛いから……ただ飲み食いするだけで……人生が終わるのが勿体無いから……かな?」
「そうだ。有り体に言うならつまらぬのだ」
「ぶっちゃけるね」
「そう、つまらぬのだ。波も無く、ただ凪いだ世界は。それを我は知り、星々に生きる命に制限を付けた……時に限りある事を知り、命は更なる輝きを放った。そう、終わりがあるから現在を謳歌する様になったのだ。そして私も、人の子同様に失う事の悲しみと、次代を想う心を得た。それ故に、魂の循環、輪廻転生を構築した。何度でも失敗し、悔い改め更なる高みを命が目指せる様に」
トルトレスは左手を上げると、すっとスライドさせる。そこには、色んな星の生き物が映された。よく知る人形の人間に、動物が混じった様な獣人、ぬるりとしているグレイをもっと人間に近付けた生き物。他にも沢山の生物が映っていた。
「命は愚かで、浅はかで、醜悪。だが美しくて愛しい……愛しくて堪らぬ」
微笑むその顔は、我が子を慈しむ親の様にも見えるけれど、ちょっと待って……。ならフェリラーデさんに制限要らなく無い?愛と結の女神だよ?魔に堕ちる理由は神魂が小さいって事が直接関わる訳じゃないよね。きっと人間みたいに欲に負けやすいとか、そう言う事なんだろうし。えぇ?だとしたらフェリラーデさんそうそう魔に堕ちるなんてあるのかな?うん、やっぱり死ぬ必要無くないかい?いやいや、待って。でもその悲しみがあったから結果的にトルトレスさんの意識改革に繋がった訳よね?分からん、分からんけど…
「ねぇ、じゃあ何で私をフェリラーデって呼ぶの?」
あんた達が殺したのに、その女神を私に投影しているのだとしたら迷惑この上無いんですが?
「……そう、我々がフェリラーデに死を与えた。後悔はしておらぬ。何故聖でなくてはならないのか?今更な事を聞くもんだな我々の女神は。見てみよ、眼下に広がる世界を。この世界各地にフェリラーデは存在している。聖はその内の1人だ」
うぉぉぉい!クローヴェルさん⁉︎ちょ、待てよ!
「は?なら、私じゃなくても良いって事だよね?他の星のフェリラーデさんでも良いんだよね?」
「いや、聖で無くてはならない」
「な、何で?他にも居るんでしょ?」
「肉体としてフェリラーデの力が、契約が具現化したのは其方だけで、彼女の願いが籠るのもその肉体だけなのだ。世界は広くフェリラーデの恩寵を得た星も数知れない。だが、フェリラーデが愛を残したのはオーウェのリットールナだけだ」
駄目だ、苦しい。頭に血が回らない。酷く身体が冷たい気がする。この二柱は、世界に存在意義を持たせるために寿命という制限を付けた。そして、その制限が発動した最初の死がフェリラーデさんだ。なのに、2人は寂しさからなのか、理由は知らないけどフェリラーデさんの欠片を求めている。私という意識を必要とはしていない。なのに、何で私は彼等と共に在れば必要とされると思ったんだろう?
どんな世界に居ても一緒だ。有用な人間で無くては必要とされない。それは当たり前で、当然だ。私だって、仕事をしていた時はデザインの上手い子を部下にしたし、コミュ力のある子をクライアントとの打ち合わせに同行させた。それは酷い事じゃ無い。みんなそうやって必要とされる為に努力を重ね、自分を確立しているんだから。ただそこに在るだけで、何にもしなくても私達は誰かにとって必要な存在。そんな事、ある訳ない。何でっ!何で私はそんな事、当たり前の事に目を伏せていたんだろう?パパさんは私が笑うだけで、嬉しいって……幸せだって言ってくれた。それに甘えてたのかなぁ?
「くそっ!泣くな!泣くな私!私程度の人間、世界にゴロゴロしてる!私が特別じゃないの当たり前じゃん!泣くな!」
分かってる!でも、特別になりたかったよ。
そう、楽してなれたら最高だった!むきぃ!一隅千歳のチャンスだったのに、何で大人ぶって…いや大人だけど!なんで素直にならなかったのかな……何でパパさんとアルバートさんの手を離したんだろう。
「聖、お前はフェリラーデがその肉体を与えたいと思えた魂なのだ。その様に悲観するのを我々は許せぬぞ」
「うっさいな!その理由がわかんないから悲しいんでしょ!」
「理由?そんなの決まっているではないか」
は?決まってんの?マジで?
「「酷く愛と縁を乞うておるからだ」」
その言葉に、そんな理由ある?と言いたくなった。だったら普通に結婚して、子供産んで死ぬ。そんな普通の人生を歩める所に転生させてくれても良いんじゃ無いの?そんなもん誰だって欲してるでしょ。
「2人はさ、私を知らないのに何で愛していると思うの?」
「フェリラーデが愛してやりたいと、聖を選んだからだ。彼女に死を与えた我々がその願いを叶えてやる事に何の疑問がある」
良い迷惑だなおいっ!死んでまで神様やる事無いんだよ、フェリラーデさん!律儀!真面目すぎる!役割を捨てて新しい人生……いや、神生を送ったら良いのに!
「そうだな。フェリラーデは……本当に神の見本の様な女神だったよ」
トルトレスさん!あんたが見本になんなきゃじゃないの⁉︎いや、ある意味この2人も律儀過ぎでしょ。死んだ女神の願いを叶えるのが使命って……はぁ。
「聖、其方は我々と共に在るのは嫌なのか?」
もうフェリラーデとも、フロリアとも呼ばないトルトレスとクローヴェル。その魂を聖として認識した2人の姿は、出会った時の様に恋慕う様な雰囲気はなかった。しかし、この広大な宇宙を眼下に望み、ただ自分とその眷属たる神々しか居ない世界は2人を孤独にしている様に見えた。
「私さ、ここに居て何をしたらいいか分からないんだよね。何?2人とずっといちゃこらしてたら良いの?それとも神様的な仕事したら良い訳?」
「い、いちゃこら?とは……なんだ?」
え、それ聞く?
「うーんと。キスとか?ハグとか……その、なんだろ。繁殖行動的な事をさ……する訳?」
「「ふっ!あはっ、ぶっ!」」
はい!そこ2人!笑わない!震えない!堪えない!だって、そうでしょ?私ここで何したらいいのよ。宇宙の真ん中で死んだ魂の案内係でもする?それとも何、転生する魂のデリバリーでもしたら良いの?
「我々神が生き物と同じく繁殖行動などするとおもっておるのか?あははははは!くくくっ、クローヴェルよ!聞いたか?くくくっ!」
「あははは!トルトレスよ!聞いたぞ、は、繁殖となっ!あはははははは!」
ちょっ!やめて!恥ずかしくなって来たでしょ!知らないよ、神様の生態なんてさ!
「確かに、今の私は幼女だけど!成長したらどうしたいとか、どうなって欲しいとか無い訳?なら2人の言う愛しさや愛ってなんなのよ!好きなら触れたいとか、抱き合いたいとか、子供が欲しいとかって思うもんなんでしょ?知らんけどさっ」
「「……」」
あれ?無言になっちゃったよ。あれれ、まさか、まさか?
「ちょっ……まさか2人とも愛がなんなのか分かんないのに、フェリラーデさんに愛しいとか愛してるとか連発してた訳?え……嘘でしょ」
ぽっポンコツーーー!私、ここでやっていける?どうなるの?
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