神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

咲狛洋々

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新生編

あなたの為に出来ること(3)

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「ありがとう、グレース。ごめんねぇ?一人で頑張らせちゃって。」

聞こえるはずもない声が聞こえて、グレースはその声に意識を向けた。懐かしい声が聞こえた。視界は暗黒で体の感覚もないのに、涙がとめどなく流れているんだろうという事はわかった。

「私も知らなかったよ。私の中の本能はこんなにも魅力的だったなんて。、、、生きてた時、話しかけててくれたんだね。ごめん。気付きませんでした!」

声を出したいのに、声が出ない。「グレース」と呼びたいのに、喜びで息ができない。ふぅっと息を吐いてグレースはまた息を吸う。それでも吸ったそばから泣き咽せて、やっぱり声が出せずにいる。

「私はさ、やっぱりグレースにはなれないや。前世の記憶がある以上、神居都でしかいられない。……天界で、名前を貰ったとき、きっとグレースの人格は生まれたんだね。くくくっ。変な感じ。」

「私が私と会話するなんてね。心の声、聞こえてたけど。ねぇ、グレース?自分が嫌い?」

「きっッきらっっうぅぐっい。きらっいっだ。」

言葉にならない言葉が突いて出る。グレースは願った。
まだ、ここにいて。と。

「何で?好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。そう言えるグレースは素敵だよ?私はそれが言えなかった。だまって飲み込んでいれば、好きも嫌いもどうでも良くなってたから。別れ話も苦手。わざと振られる様にした事もあったよ?相手が気付いてくれるのを待ってたね。」

「グレースは素直で素敵だよ?」

「あ、俺はっっみ、醜くてっっ、、きっ、汚い!」
「人をっっいつも妬んでっっ、心の中でっ汚して、殺してる!」

「グレースの本能は汚くなんてない。傷付けられるのが怖くて私は素直になれなかった。でも、グレースは思ったままを相手にぶつけられる。相手とちゃんと向き合ってる証拠じゃない?そりゃね、誰だって心の中で誰かを傷付けるなんて事いくらでもあるよ。それを一つづつ拾っては自己嫌悪してたら、何にも出来ないよ。信じてよ!グレース!」

「みっっみやっこっっ。側にっ、、側にいてよ。」

「うん。いるよ。消えたくても消えれないみたいだしね!」

グレースはその言葉に安堵する。いつも善と悪の悪だと自分を思っていた。だから、善が消えるとどうなってしまうのか、不安を感じて怒りで誤魔化すしかない己に嫌悪する悪循環。しかし、都の言葉で氷が溶ける様な優しい気持ちになっていた。

「あとさ、多分ね、力が使える様になりかけてるんじゃないかな?わかるかな?こう、冷たいと暖かいが右手と左手にあるような、無いような?で、身体に温度や香りが混ざって溶けて、スーって馴染む感じ。」

「う、、ん。意識したら、グスッ、なんか、、わかる気がする。」

闇の中で手足をイメージする。その身体に今、都が触れている。
すると、冷たくて暖かい。優しい香りに爽やかな香りが巡るのがわかった。

「多分ねぇ、これが調和なんじゃないかな?」

「調和…」

グレースは口の中でその言葉を反芻させる。

「天と地、生と死、闇と光に調和を与える、、大国主が言った言葉。ほら、闇が明ける。闇と光のバランスを取った。ってことかな?」

「ねぇ?一つに。一つになろうか。グレース。」

「え?」

「私が今度は支えてあげる。誰かがグレースから離れても。私はずっと側に居て、心を守ってあげる。私も逃げないよ。でも、グレースっていうのはあなたの事だから、あなたが頑張るんだよ?」

一つに、なる?俺は俺で居ていいのかな?
俯くグレースに都の気配が頭を撫でる。

「いいよ。いいんだ!!」

いいのかな?本当に。

「それにねぇ。正直、私の貞操観念がこの状況を受け入れられてないんだよねー。身体もねー。なんか色んな事になっちゃってるじゃない?ごめん、ないわーー。って思ってる!ふふふ。」

「‼︎ご、ごめん!見てたんだ。」

「見てたよ!あれ、神様に私の本能とか性癖とかって思われてるのが納得いかない!間違いなくグレースの本能だから!そこんとこ宜しく!」

「ごめんって!」

「いいよ!精一杯愛して、愛されて、逃げずにさ、一緒に生きよう?」

「うん。うん。一緒がいい。」

「ここから出れたらいいけど、ねぇ都。闇の中にさ後二人居たはずなんだ。どこにいったんだろう。テュルケットとアマルマって二人なんだ。」

「うん、分かってる。でもあの二人はまだきっとあそこにいるよ。多分だけと、調和出来たのはグレースだけなのかもしれない。」


「そろそろさ、見えてるんじゃない?あれ。」

都の言葉にグレースは目を開く。
目の前には雄大な草原と、どこまでも続く空。
心地よい風が吹き抜け、闇は消え失せた。
気がつけば、そこは豊かな世界。

「グレース!」

振り向くと、少し明るい茶色のショートヘアに大きな瞳、微笑む目尻には優しさを与える微かな皺。都が両手を広げて笑っている。
グレースは泣きながら思い切り飛びついた。

「都!」

「さ、行こう。正直いまグレースの身体ヤバいから。ビクトラさんも、朱雀さんも手当たり次第って感じで。かなり地獄だから。まぁ、そのお陰で、見えない物がみえて、こうやってグレースをぎゅーーーってできる!ありがとうって伝えてね!」

「え…地獄?見たくないかも。」

ハハハッと大きな口を開けて笑う都は変な顔になってるけど、綺麗だ。
瞼を閉じてしまうと、もう居ないかもしれない。目に焼き付けて忘れないように、見つめていよう。

グレースは幸せを噛み締めていた。そして、残された二人を思った。

「あ、あのさ!あの暗闇は何だったの?」

「私にも分からないけど、連れ込まれる瞬間に″しんごく″って聞こえたよ。」

「しんごく…なんだろう。でも、あの二人大丈夫かな。アマルマが心配だな。」

「ツッキーにでも聞いてみたら?今はどうしようもないしね。何にも出来ない。」

「うん。そうするよ。で、どうやって戻るの?」

「うーーん。戻れーーーーーー!!!」

急に大声を出した都に、グレースは目を見開き驚いた。そして二人で大笑いして、手を繋いで草原を歩きだす。
暫く歩くと、小高い丘の真ん中に大きな丸い窪みがあり、二人はそこへ向かって歩みを進めた。二人で窪み近くに立って中を見下ろすと、その窪みの淵から水が下へと落ちている。水量はとても多いのに、音も無く下に落ちていく。

「グレース!」

「ん?何?」

「ほら!ママがぎゅーーーってしちゃる!あの境界から飛び降りてみよ!」

「えぇぇぇ!!飛び降りるの??大丈夫かよ!?」

「帰るんでしょ!!」

都は有無を言わさずグレースを抱きしめ滝へとダイブした。
二人は抱きあって逆さになりながら落ちて行く。その間グレースは絶叫しながら都にしがみつき、都は楽気に落下を味わっていた。

「グレースゥゥ!!あなたの為にーー出来ることがあってーー良かったーー!もう顔は見れないけど!困ったら呼んでねーー!私、初めてだったーー!こんなに大胆なの!!あーりーがーとー!!」

そして光の楽園の扉は閉じて、消えていった。







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