神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

咲狛洋々

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新世界編

憎しみの辿り着く先

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 ヤルダはジジの後ろを密かにつけていた。

カバラークとのやり取りを見て、ジジの言動が特務隊長を経て騎士隊

総局長まで登り詰めたヤルダには怪しさしか感じ得ぬ物であったから

だった。あの状況下で慌てるでもなく、怪しむでも無いジジの様子は

侍従としても完璧過ぎた。



黄龍の世話役など皇帝ですらそう簡単に許される物ではない。

現在四聖獣が本来の姿で現存しているのは黄龍のみだ、青龍が

皇族の守護神となってから東の守りは黄龍が務めてきたが、近年

その守りが緩くなっている。黄龍が動き出したか、死期が近いかだが、

あの雰囲気では前者だろうな…今、黄龍に結界を強化されれば淀みに

潜む穢れた者どもを神体に誘き寄せる事は不可能になる。

あの穢れた男が浅はかにも調和を行い、折角全土に澱みを流し込む

水脈の道が出来たのだ…邪魔されてなるものか。そうでなくとも

ロンベルトの命は長く持たないのだ、早く人の身体を捨てさせねば…。


 角を曲がればカバラーク邸へと向かう所をジジは真っ直ぐに歩みを

進めている。ヤルダはやはり、あいつはカバラークの侍従ではなかった

かと、目を細め後を追う。ジジも、背後から誰かが尾けている事には

気がついていたが、何もせずに真っ直ぐ歩いてジジの家へと向かった。

ジジが家の裏手の森に入って行く姿を見て、ヤルダは眉を顰め手前の

家の壁に張り付き様子を伺っている。


何処へ行くつもりだ…森に何があるというのだ。

尾けて行くべきか?今ならあいつは一人。ここで始末するか…。


ヤルダは消音結界を身体に纏うと、駆け出しヤルダの背後に詰め寄り

懐からダガーナイフを鞘から引き抜いた。

一瞬の内に、ヤルダはジジの頸動脈を切り裂き背中から魔粒子核を

一突し、横一文字に刃を進め心臓を切り裂いた。


「他愛無いな…密偵にも向かぬわ」

地面に倒れたジジの身体を見下ろすと、ヤルダはナイフの血をマントで

拭い、鞘へ戻した。

ふと、木々の影に倒れるジジの首元を見てヤルダは後ろへ下がり、再度

ナイフを構えて目を凝らす。


「なっ…何だ、この血の色…」

緑色の血液がドクドクと首元や心臓から流れ落ちている。

ヤルダはそっと近付き、ジジの身体を足で蹴り上げ仰向けにした。


「酷いではありませんか?挨拶も無しに切りつけるなんて」


慌てて飛び退いたヤルダは木の根に踵を取られ、後ろに転びそうに

なりながらジジと距離を取る。

ゆるりと立ち上がったジジの身体に、ヤルダの付けた傷はもう消えて

ツルリとした肌が顕になっている。


「お前、何者だ!」

「…もう、名前をお忘れで?お年ですかねぇ…まだ300才には50年ほど時間がおありでしょう?」

「貴様、一体…何者なんだ…」

「はぁ、本当に愚か者とはどの世にもおりますね」

「名を名乗れ、この化け物!」

「化け物とは酷い、あなた方の遠い親戚だと言うのに」

「親戚…だと?」

「ええ、ご存知ですか?その昔、今の世の人類の祖となったのは、たった六体の獣だった事を」

「何の話だ!」

「青龍、虎、麒麟、亀、黄龍、蛇。可哀想に、始まりの人の子はこれらの獣に番わされて子を産みました。彼等はあっという間に全土に子種を撒き散らし、今の獣人を作ったのです。私は黄龍一族唯一の子孫にして黄龍の息子、ジジ•フィルポット。フェルファイヤは私の兄です」

「なっ!そんな馬鹿な話があるものか!一体どれ程の月日が流れているか分かっているのか⁉︎」

「えぇ、細かくお伝えするのなら私が生まれてから一万四千三百八二日と十時間…」

「なっ!建国から二千年も経ってはいないのだぞ?そんな馬鹿な話があるものか」

「そうですね、建国から百三十年後この世界は約一万四千二百年程、時が止まっておりましたからね。けれどこの星の歴史はもっと長いのですよ?天界と共に生まれた星ですからね」

「何を言っているんだ?」

「この星は、地獄なのです…天界にとってのね。その牢屋主がテュルケットとアマルマ神でした。カイリと出会い全てが狂い出した…まぁ、今更な昔話は置いておきましょう」

「初代皇帝カイリ•タイレーンの死後、この世界は死した神々の呪いとも言える魔粒子に汚染され、魔獣が溢れていました。テュルケットはカイリを失った喪失感から魔獣を放置し、死した民は淀みに堕ちて人口は五分の一まで減りましたよ…それらを回復させたのは四聖獣」


「ならば、お前も淀みに落ちた化け物か⁉︎」

「いえいえ、ありがたい事に神の祝福を頂きましてね?」

「神核連鎖、不死の祝福」

「神核…連鎖?」

「この星の門番となりまして。神核を持つ祖たる六種は牢獄の鎖、そしてその鎖をまとめる鍵が私にございます。故に我等は死ねず、淀みにも落ちれず世界を漂っております。皆様四聖獣の末裔の方の魔粒子のお陰でごさいますねこの牢獄が保てているのは」

「……」

ヤルダは途方も無い話に、蹌踉めき地べたに座り込んだ。

そして、ロンベルトの命が奪われている原因が目の前にいる事に

愕然とした。

「なぜ、テュルケット神はまた世界を動かした…」

「さぁ?気まぐれか、戯れか、希望なのか…カイリの血を引く者を悉く殺した後に後悔して、当時カイリ直系の皇族と淀みから生まれる魔獣と番わせ子を生み出した…それが今の皇族ですよ。青龍を縛れるほど強い力を皇族が持つのは魔獣となった元神の力のお陰です。皇族だと偉そうにしていても、新しい世界で生まれた皇族の祖は魔獣なのですよ?可笑しいですよね!あははは!」

「ふざけるな!何故、こんな状況に陥っている…獣人とは何だ?」

「カイリが愛した生き物」

「カイリ、カイリ、カイリ!なんだそいつは!」

「天界の天帝正妃ですよ、テュルケットが犯し汚し神核を壊し、両翼を捥いで堕天させた神の一柱でした」

「天帝…正…妃」

「えぇ、それは美しく聡明な人でした。この世界が狂っているのは天帝の罰を受けているからでしょうかね?」

ヤルダは馬鹿馬鹿しくなり笑い出した。

「何だと?たかが一人の穢れた堕天の為にテュルケットは獣人を生み出したというのか?」

「いえ、それは違います。テュルケットはカイリを縛る為に子を産ませた。神核の無い者と神が番っても子は生まれませんからね、カイリを天界に戻さぬ為にこの星の獣と番わせ子を産ませ続けた」

「反吐が出そうですよ…そうでしょ?あなた方は苦しいと言いますが、自由がある。毎夜、愛もない穢れた神に体を弄ばれその後、獣に抱かれ抱いて子を作り続けた。あまつ皇帝に据えられ世界の礎を築いた。そんな苦痛を百年も耐えた…カイリの苦しみが分かりますか?…それでも彼女は命を愛した…大地を翔る獣を愛した…」

「だから、私は貴方が憎い。この穢れてもカイリの愛した世界を壊す者は私が許しません。それにね、カイリを穢れた堕天と呼んだ事…後悔しますよ?」

ヤルダはククッと笑い、手を腰に当てて腹を捩らせた。

「ふざけるな…獣の身体の所為で命は削られる。それが結界維持の為だなんてな、ならば結界を無くして魔獣の世界にしてしまえ。命のやり取りあってこその命だ…安寧に慣れた脆弱な命なぞに意味は無い」

「では一つ賭けをしましょう。この呪いから抜け出せたなら貴方の願いを叶えましょう。テュルケットに使った呪いです。当時私はこんな子供騙しな呪いが効くわけも無いと思っていましたが、存外効果があったのかもしれませんね」

「呪い…だと?」

ヤルダは身構え転送陣を足元に展開させ、逃げようとした。

ジジは笑いながら叫んだ。

「すべてはお前の所為。お前が混沌を招いた元凶だ…死してもなお死ねぬ、その憎しみに溺れろ…狂わねば己の過去に喰われるだろう」

「さぁ、これで貴方も呪われた」

「良いですか?命は必ず終わるのです…呪いさえ無ければね…さぁ楽しい狂った人生の始まりだ。頑張って死ぬ方法を見つけて下さいね?さもなくば、思考と理性は淀みに奪われ壊れ続けます。魔粒子を吸収出来ず、貴方の望む人体のみとなります…苦しいですよ?この世界で人体だけで生きていくのはね」

ヤルダは指先の獣体が薄らと人体に変わるのを見て発狂し、身体を

弄り叫んだ。

「私の身体が!魔粒子が!」

ヤルダは自身の影がどんどん魔粒子を吸い込むのを見てガクガクと

震えながら、うっそりと嗤うジジを見上げる。

憎しみの連鎖を繋いだのはどちらからなのか、もうジジにはわからな

かった。彼女の作った世界を守りたいが、汚された世界を癒す者は

もう居ない、ならばヤルダの言った通りに汚し切るべきなのか?

言霊に狼狽え地べたを這うヤルダを見下ろしジジは考えた。

誰がこの下らぬ劇の幕を降ろすのだろうかと。
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