神々にもてあそばれて転生したら神様扱いされました。

咲狛洋々

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新世界編

皇帝として(1)

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 どうやってここまでやってきたのか、ヤルダ自身も分からなかった。

ジジ・フィルポットを森で殺したと思ったら、驚愕の事実でヤルダ自身

が追い詰められ、急速に消失する魔粒子、そして魔粒子の供給阻害、

本来ならば死んでいてもおかしくは無い筈なのに、彼の身体は動いて

いる。それに、その身体は変体による人化ではなかった。



完全なる人の身体だ…。

どれだけ力を込めようとも獣化が出来ず、力が抜けてペン一本すら

持てる気がしない。私は一体どうしたというのか…空気中、人の体内、

湧き出す魔粒子すら見る事が出来ないでいる。

ジジ・フィルポットによる呪詛のせいなのか?そんな筈はない…

呪法発動の兆候も、陣すらなかった。ただ言葉を発しただけだった。



すべてはお前の所為、混沌を招いた元凶、死してもなお死ねぬ、

憎しみに溺れろ…過去に喰われるだろう



ヤルダを眼を閉じて息を吸い込むと、城近くの騎士隊の詰所の壁に手を

着きゼェゼェと浅い呼吸を繰り返した。


「ふざけるなよ…何が人だ。こんな体を私が望んでいるだと?私の…私の獣を返せ…」


ジジによる後味の悪い皮肉で織り上げられた呪詛が、ゆっくりと魂に

刻まれてゆく事にヤルダは恐怖し始めていた。

なんとか詰所入口に辿りついて扉を押すが、ビクともしない事に言葉を

失ってその場にしゃがみ込んだ。そして視界に入るその細く、骨と皮だ

けになった手と、ガラス戸に映る老人の姿に理解が追い付かず見入って

いる。


「おじいちゃん、ごめんよ?今日からここは封鎖される事になったんだよ。だからこの扉は開けられないんだ。さぁ、ご自宅にお帰りになって、ゆっくり休んでくださいね」


人の良さそうな獣人騎士の微笑む瞳に映る自身の姿にヤルダは

発狂した。


「あ、あぁぁ、あぁぁ、あーーーーーーーーーー!」


玄関入口で喚き散らす皺くちゃの老人を、詰所の中から騎士隊員が

驚いた顔で見ている。扉のガラスをぺちぺちと叩き、涙と鼻水が皴を

伝い、口や首元をびちゃびちゃにしているその姿は、到底ヤルダだと

誰も認識出来ないだろう程に変貌していた。


「頼む、サリューン様に…連絡を…暗号はWWRY131477…私は総局部…ヤルダ•ティレッカート 呪いをかけられた」


老人の発した言葉に、騎士隊員は眉間に皺を寄せて扉を開くと

口を開いた。


「…ポ、ポータルナンバーをお分かりですか?」

「私のはYT2.26.33.43.00002」

「まさか…本当に総局部の方…ですか?」

「そうだっ、の、呪いをっ…ふっふぐっ、うぅっ…掛けられた」

「す、直ぐに騎士隊本部に連絡を致します!」

「だっ駄目だ!直通番号でウォーレン殿に繋いでくれ!」

「はっ!」


よぼよぼと身体を起こし、ヤルダは受付のソファに倒れ込んだ。

マントの中から覗くブカブカのずり落ちた靴下と、隙間の空いた靴に

涙が溢れて止まらなかった。



「ヤルダ様、すぐにお迎えが参ります。ポータルにて皇帝宮控えの間でお待ち下さいとの事です」

「助かる、名前は?」

「はっ!魔道隊第五大隊総務 バンバード·ボードレイと申します」

「そうか、ご苦労。ボードレイ…助かったよ。君のお陰だ…後で礼をしよう」



ヤルダはバンバードに支えられながらポータルに入ると、手をそっと

離して転移した。




「ヤ…ヤルダ…殿か?」

摂政ウォーレンはその変わり果てた姿のヤルダに驚きを隠せないで

いた。そして、側に立つザッカリーも口に手を当て驚いている。


「ふっ、醜かろう?まさかな、私も呪いを掛けられるとは思わなかった」

「…して、誰にかけられた」


ウォーレンはヤルダと相入れぬ立場に身を置いていたが、そんな事は

問題では無いといった顔でヤルダを見つめる。

二人は十歳しか歳が離れていないのに、見た目年齢はヤルダがとうに

追い越している。


「ジジ·フィルポット…黄竜の直系子孫だ」

「なっ!そんな馬鹿な…ジジ·フィルポットだと?嘘だ!」

「いや、本当だ。あいつは不老不死の呪いを掛けられたと言っていた」

「…サリューン様にご報告に参るぞ。それにな…お主には言わねばならぬ事がある」


ウォーレンは、膝の上で組んだ手に視線を落とし考えていた。



ロンベルト殿の死を今ここで伝えるべきだろうか…

サリューン様にお任せした方が良いので無いか?しかし、サリューン様

へ逆恨みでもされるとたまった物では無いし…。が、しかし。伝えなけ

ればそれはそれで城で暴れそうでもある。こんな形をしているが、

魔粒子量は皇族に次いで多い。どうするべきか…


ウォーレンは考えながらヤルダの崩れ掛けた人体を見つめた。










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