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新世界編
ロンベルトの死
しおりを挟む総局部の面々はグレース神を前に緊張していた。
現人神とは言え、神には相違なく、滅多に会う事も、直答を許される
事も無いからである。
「で、カツ丼とやらは出ぬのか」
「何を仰っているのか…ちょっと…」
「ふむ。事情聴取にはカツ丼がお決まりだと都の記憶に残っておったのだが」
「グレース様?あの、なんであんな所にいらっしゃったのですか?」
「なぜ居たら駄目なのだ?我はこの世界の主神ぞ、文句があるのか?」
「ですから、魔粒子汚染の影響を受けられると困りますので、大隊長室にて待機をお願いしていたではありませんか」
「ふん、ふざけた事をぬかせ。我がそんな物の影響を受けるとでも思っておるのか」
「現に、魔粒子不足で何度も補給要因として我々騎士隊員を使ってらっしゃいますよね?」
「不足と汚染では意味が違うぞ」
「不足すれば、その分汚染魔粒子を吸収してしまいますよね?それで影響を受けないわけがないではありませんか」
「我は自分で浄化できる。問題ない」
「…」
「どうした?反論せぬのか。そろそろこの問答にも飽きてきたわ。部屋に戻らせてもらうぞ」
「お待ちください!ヤルダ殿が戻られるまでお待ちを!」
早く都をなんとかせねばと焦るラファエラは、神力で隊員を体を抑え
込み威圧した。
「いい加減にせぬか、ヤルダなんぞの命令を我が聞く必要がどこにある。神を怒らせてお前等に何の得があるというのだ、そなたらが何人死のうと我は一向に構わぬがの、この世界の破滅がもう近い。その引き金を引いたのはお主らの上司であるヤルダとオルポーツぞ。そんなに死にたいのならば我が殺してやった方が苦しまぬぞ?どうする」
「な!何を仰っているのですか?」
「ヤルダはの、淀みに沈む邪神と魔獣をこの地に溢れさせるつもりだぞ?ここ一か月で急に汚染が進んだのはその所為だ。都が調和と浄化を行った泉の水が届いた場所に汚染はない。調べてみるが良い」
「そんな妄言に惑わされませんよ!」
ラファエラはイライラし始め、さらに圧を強める。その場に居た隊員が
頭すら上げられずに悶えている横を憮然とした顔で通り過ぎた。
「お待ちを!お待ちくださいグレース様!!」
さて、どこをどう行ったら良い物か…グレースよ、道は分かるか?
——— わかるけどよ、朱雀回収しにいかね?なんかヤバいような気がするんだよな
「ふむ。分かった…ナビとやらをしてくれ」
——— 俺がでようか?
「ダメだ。また暴れられでもしたら堪らぬからな」
——— 暴れねぇよ
「まぁ、良い。とりあえずナビをせぬか」
ラファエラは周囲を見渡しながら、1階へと向かう階段を降り教会へと
向かった。
教会に勤める隊員職員や司教達も、急なグレース様の来訪に慌てふた
めきバタバタと教会入口に集まりだした。
「おい、そこの者。地下牢はどこだ」
「グレース様!なりません、地下牢へお連れすることは止められております!」
「なんだ、神に仕える筈のお主らも主人をヤルダに鞍替えしたのか?」
「な!そんな事が許されるわけないではないですか!」
「ならば主神グレースが命じる。地下牢へ案内せよ」
「しかし!」
「えぇい。このやりとりも飽きたわ」
——— 朱雀よ。力を貸そう、出てこい
神核から朱雀へ声を掛けた途端にテュルケット像跡の台座下が爆発し、
爆風で床や台座が吹っ飛び宙に浮いた。
「グレース!遅いではないか、待ちくたびれたぞ!」
羽をばたつかせ、朱雀がグレースに駆け寄るが、ラファエラが表に出て
きていると知るや否や不機嫌になり「牢へ戻る」と言い出した。
「待て待て待て!今代わったから!都がヤバいんだよ、急いでビクトラ達と合流しないと」
「何?ど、どうヤバいのだ!」
「お前、カイリって知っているか?」
「うむ。前天帝の正妃であった者だな?」
「その身体に今都の魂が入ってる」
「何でそんな事になっておるのだ?」
「あー…説明長くなるから、とりあえずそうなんだと理解してくれ」
「うむ。そうか…ヤバいのは魅了か?」
「え゛⁉︎知ってたのかよ⁉︎」
「うむ。あやつはその力故にテュルケットに襲われたからな」
「なぁ…お前さ、この星にカイリがいた事知ってたのかよ」
「うむ。あやつは神核が穢されたからな、天界には居れなんだ」
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馬鹿だ馬鹿だと思っていたけれど…マジこいつなんなの?
こいつが早くにカイリの情報くれてたら、真っ先にカイリをなんとか
しておくべきだったんじゃ…これもエルザードの未来視には織り込み済
だったんなら仕方ないのか?はぁ…どうすんだよ、都。
「都の魂はカイリの身体に癒着して剥がせない…下手したら、俺と都は離れ離れだ」
「‼︎なんだと?」
「もし、都が戻れないなら、俺もカイリの身体に入るぞ」
「我は構わんぞ?どんな身体であっても我はお前らの側に居ると決めているのだ」
ニカッと笑う朱雀に迷いはなく、その表情にグレースは毒気を抜かれて
しまった。
そうだったな、こいつは俺達の心の導だった。
迷ったら、こいつの心に触れたら良いんだ。
「そうだな、お前だけは俺達の側に居てくれるんだったな。ありがとな朱雀」
「ふふん、素直なグレースは可愛いのだ」
グリグリとグレースの頭に頬擦りをして抱きつく朱雀に、グレースの
イライラが和らいで、何をすべきかを改めて考えることが出来た。
「なぁ、都の魂の癒着。剥がせると思うか?」
「どうであろうな?そもそも癒着という考えが間違っておるのかもしれぬぞ?都の持つべき身体だったのではないか?」
「どういう…事だよ」
「魂と身体は切っても切れぬつながりによって定着する。子孫の肉体故転生してもすんなり定着するとか、伴侶となる運命の者に関わりある者の血族に転生するとかな。カイリと都には何かしら縁があったのではないか?」
「だとして、剥がせんのかよ」
「そうだなぁ、都が離れたいと、魂の一部を削っても離れるつもりがあれば離れられるであろうが…都が都では無くなる可能性は高いな」
「…剥がせねぇってことかよ」
朱雀とグレースが通路で問答をしていると、バタバタと侍従達が司教を
捕まえ何か問いただしている。しかし、司教達はそれどころではなく
頭を抱えて崩れ落ちる天井を見上げていた。侍従達は舌打ちすると、
騎士棟へと走って行った。
「あれって、ロンベルトの侍従だよな…なんでこんなところに…」
ロンベルトやヤルダの侍従や部下が、行ったり来たりを繰り返すのを
見たグレースは、朱雀を伴い騎士棟最上階総局部へと様子を見に
行く事にした。
「ヤルダ様!ヤルダ様!」
「どちらですか⁉︎」
騒つく総局長室にグレースは足を運び声を掛けた。
「おい、どうした何か問題が起きたのか?」
「グ、グレース…様…こちらで何を…」
「何だよ。俺が居たら悪いのか?この国の神が聞いてんだ…答えろ。さもないと後が面倒だぞ」
「…ロ、ロンベルト様が…」
「ロンベルトがどうした」
「危篤なのです」
「‼︎早く言えよ!連れて行け」
「しかし!」
「馬鹿野郎!今なら俺が何とかできるかも知れねぇだろうが!」
「‼︎はっ、はい!こちらでございます!」
バタバタと侍従に連れられて、皇宮離れの離宮に駆け込むと
魔粒子を失い、透明な硝子細工の様になりかけているロンベルトが
ベッドに横たわっていた。
「おい!ロンベルト!…くそっ!神核を繋ぐぞ」
グレースは意識のないロンベルトの魔粒子核に、胸の魔道具から魔粒子
の鎖を伸ばして繋ぎ、ロンベルトに神力を流し込んだ。
こいつに今死なれたら、オルポーツの企みが分からなくなっちまう。
あぁ、ヤベェな。魔粒子核がこんなに小さくなるなんて、どういう事だ
よ…おかしいだろ。
「ラファエ、魂はまだあるんだろうな?」
——— 半分以上魔粒子になって還り始めとるぞ。もう手の施しようがないわ…もう少し早ければ、神核で守れたやもしれぬが
「あぁ!こうなりゃ使える権能使うぞ!護国って効果あんのか?」
——— こやつの愛国心や忠誠心がこやつを守る盾となるが、それが
生死に対して有効かは…疑問だ
「やるしかねぇだろ!」
グレースは体中の黒魔粒子を放出し、頭に響く言葉を選んだ
ロンベルトの心根よ、守りとなれ。ラファエが与える…
護国
繋がる鎖がピンと張り、ジャラジャラと無数の細く長い鎖に変わると
ロンベルトの魔粒子核と魂を縛り、淡い青銅色の魔粒子が身体を包む。
急速にロンベルトへと吸収される黒魔粒子が身体に色を着けてゆく。
——— ゼーッゼーッ…おいっロンベルト!起きろ!死ぬのはまだ早いぞ!テメェらのツケを払うのが先だろ!
「…誰…だ…ヤルダ?」
——— グレース様だ!
「グレース神…私は…生きて…いるのか?」
——— ギリな
「私はもう保ちません…結界を維持するのも…限界…です。世界を守らねば…民を…まも…らね…ば」
——— テュルケットの復活を願ってたんじゃねぇのかよ?
「世界は、命が…巡らねば…神の…遊戯では…な…い…ヤルダの…願い」
——— あ?ヤルダもオルポーツもテュルケットを復活させて、思い通りにさせてぇんだろ?
「ちが…う…神…核の…呪…縛を……解き…たいだけ…だ」
——— ラファエ、どういう事かわかるか?
——— 各地の淀みを押さえる結界は、四聖獣が担っておるがその四聖獣の子孫はその魔粒子を四聖獣の結界維持に使われておる。その事だろうな
——— なんでそれが呪縛なんだよ
——— 魔粒子が奪われ続ければ、魔粒子核の消耗も激しい。故に短命となるのは必定。しかし、テュルケットによって四聖獣の血脈は減っておるからな。こやつらの負荷は大きかったのだろう。
「ヤル…ダ…大…地をか…ける…けものとし…て生きた…かった…な」
——— 魔獣やら邪神やらが溢れた世界で…どうやって生きるつもりだよ
だったら、何で俺達の力を借りない!
「…神よ、、、愛する…我、妻を…お助け…くだ…さ…い…」
痙攣する身体に魔粒子核が揺さぶられ、粉々に砕けて空気に溶けるのを
グレースはただ睨んでいた。彼等を慰め、同情する気にもなれず
サラサラと砕け始めた身体から、魔粒子の微かに残るロンベルトの
髪をナイフで一房切り落とすと、ベッドサイドに置かれた刺繍の入った
ハンカチに包んで侍従に渡した。
「ヤルダを探して連れてこい」
「いいか?これ以上の邪魔をするなら獣体を構築する黒魔粒子をこの世界から排除する…そう伝えろ。これは最後通告だ」
冷徹な眼差しで見据えられ、反抗的な目をしていた侍従も震えながら
頭を下げ踵を返してヤルダを探しに駆け出した。
「なんだよ…二週間、保つのかよこんなんで」
朱雀にもたれかかり、崩れ始めたロンベルトの身体に目をやると
グレースは深い溜息を吐いた。
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