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新世界編
ガーライドナイトの消滅(3)
しおりを挟むガーライドナイトは既に夜の帷も降り、シンと静まり返っている。
ジジは人っ子一人居ない街を小高い丘から見下ろし、その姿を目に焼き
付けていた。
「ここの姿も見納めか…美しい物ほど壊されるのは世の理なのか?」
月に照らされ、ゆらゆらと風に揺れる白汚染された真っ白な花々と
草木、水辺の鮮やかなに咲き誇る赤や青、紫に黄色の花々を見てジジは
深く息を吸い込んだ。
「さぁ、親父。起きてくれ」
ジジは首から下げた血液の入ったペンダントトップを握り、力を込め
砕き割った。
ボタボタと零れ落ちる緑色の血液が大地に吸い込まれると、暫くして
地響きと共に大地が盛り上がった。
親父、悪いな。このまま眠っていたかっただろうが、俺は俺の責任を
果たさないと…都に顔向け出来ないんだ。それに、カイリが守りた
かったこの世界を俺も最後に守ってやりたい。
ジジは盛り上がる大地を見て、丘を下り出した。
砂を被った黄金色の龍が頭をもたげたまま、瞑っていた目をゆっくりと
開けて、ブルリと身体を震わせ土を落とした。
「親父、久しぶりだな」
丘の途中、黄龍の目の高さで立ち止まりジジは上着の内ポケットから
ベレイカを取り出し、指で擦って火を付けた。
「なんだ…ジジか…今は何年だ?」
「ふはっ!くくっ、もう親父が眠ってから一万年は過ぎてるよ」
「そうか…ジジよ、息災か…」
「いや、俺は…もうそろそろお迎えがきそうだ」
「…お前も…逝くのか…そうか」
「だからさ、その前に頼があって来たんだよ。親父」
黄龍はその巨大な体躯を起こすと、その上に建っていた建物から何まで
振り落とし、領地の西側の半分が崩れて更地の様になった。
黄龍は立髪を大きく震わせた後、スルスルとその身体は縮み人の姿が
現れた。
「ジジ、我が息子よ」
地面に届きそうなほど伸びた金髪に、緑の瞳はジジと比べ少し霞みは
しているが面差しはジジにとてもよく似ていた。
ジジは自身が羽織っていたロングジャケットを脱ぐと、黄龍の肩から
羽織らせ抱きしめ、そのしっかりとした肩に額を預けた。
「親父…すまねぇ…やらかしちまってよ」
「どうした?お前がそんなに落ち込むなんて…珍しいではないか」
「カイリを…どうしても取り戻したかったんだ。それで…」
「はぁ…そうか。復活させたのだな…それで?やはり地に還したいのか…」
「あぁ…カイリの魂だと思ったんだ…けど、違ったんだ。都っていう奴の魂は本当にそっくりで…帰ってきたと思って、身体を復活させたんだけどな…それも、カイリの策だったって事だ。親父は今のこの世界の状態分かっているか?」
黄龍はジジの背中をトントンと叩くと、大きく息を吐いた。
「成程な…テュルケットはこの星を壊したかったのだな…アイツも苦しんでいたが、ここまで狂っていたか」
「俺にアイツの苦しみは分からないが、カイリを手にしたかったのか己が解放されたかったのかは分からない…しかし、この星はもう限界だ」
「そうか。今、淀みに強い神力を持った者が居るが…それが彼なんだな」
「あぁ。親父…アイツの、都の魂を戻してやりてぇんだ…それに、この星をこれ以上傷付けたくない」
「ジジ、私にこの世界の鍵を壊せと?そして…天界への門を閉じ、淀みを神ごと消滅させる…そういう事でいいんだな?」
「頼めねぇか?」
「分かった…やってやろう。我が子の頼だ…お前も苦しんだが、良く耐えたな…ジジ、父がお前を眠らせてやろう」
「…ありがとう。親父」
ジジは黄龍にしがみつく様に抱きしめ、安堵していた。
サリューンやグレース達は浄化を試みるだろう。難しい事だが、
天界への門を閉じ淀みを消滅させる、そうなれば今居る神々は二度と
天界へは還れず只この地の養分になる。彼等はそれに抵抗するかもし
れないが、グレース達の力でそこは抑えてくれると信じよう。
問題は天界と切り離されてしまう事だ…そうなれば神核を持つ者は
神核を失い下手すれば死ぬかもしれない。
「親父…親父も死ぬかもしれないぞ」
「もう、十分生きた。淀みに堕ちるくらいならば綺麗さっぱり消えてしまう方がマシだ」
「そうか…他の神もそう思ってくれるだろうか?」
「それは分からぬが、皆…疲れている。楽にしてやるのも良いだろう」
黄龍は片手を横に広げると、その手に魔粒子が集まり出した。
ひとしきり魔粒子を集めるとその手を空に翳してを練り込み、神力を
纏わせると宙に放った。
「これで天界との繋がりは消えた。淀みの消滅はお前の合図を待って実行しよう…では力を蓄えねばな」
そう言って黄龍が手をパンと合わせて、何かしらブツブツと唱えると
ガーライドナイトに溢れる魔粒子が全て黄龍に飲み込まれた。
ガタガタと地面が上下にゆれた後、亀裂、破壊音と共にこの地は
砂だけの砂漠と化し、そこにはもう建物や人も存在せず、ガーライド
ナイトは消滅した。
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