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10.初めての告白
しおりを挟むバスより早く40分で家に着いた。車内はほぼ航兄と至君がしゃべっていた。その流れのまま家に至君を誘う。僕はきょどきょどしながら二人の会話を眺めた。車は庭の隅に停めてもらった。
「母さん!父さん!大学行ったらさー!透の彼氏がいた!」
玄関で航兄が叫ぶ。僕は眩暈がした。彼氏じゃない。彼氏じゃないよ。
至君を見上げると照れた顔でうれし気に笑っている、俺はその表情を見て否定するタイミングを逃した。母と父は慌てた様子で玄関で出迎える。「送って来ただけなので」と帰ろうとする至君を航兄は引き留めてお礼に泊めると言い出した。その行動力はどっからくるんだ。
至君は恐縮しながらも折れた。そのまま、航兄から矢継ぎ早に質問されていた。
至君は東京の大学の大学生だがこっちに母方の祖父母がいるそうで。夏休みにあわせて祖父母の家で生活しながらアルバイトをしていたそうだ。大学の専攻は建築学でバースに特化した住宅や建物に興味があり今回の見学会に来ていた。家族構成は両親と弟がいる。すごい勢いで個人情報を聞き出す航兄は只者ではないなと俺は感心していた。でも9月の末には東京へ帰っていくのか。
至君の腕に女の子たちが掴まっていたのを言うと、大学の友達の友達だと俺が分かったとうなずくまで言われた。
俺は母にお金を渡されてパティスリー三浦のケーキを買って来いと言われた。せっかくなので至君を連れ出すことにした。
外に出ると懐かしさが広がる。この家を出てまだ一月なのに。
「至君、ほんとに泊まるの?嫌だったら嫌だって言っていいよ」
至君と連れ立ってパティスリー三浦に向かう。
「透君が嫌じゃなければお言葉に甘えようかな。いい家族だね」
俺はコクコクとうなずく。俺が急にオメガになっても冷静に受け入れてくれた。今思えば俺がパニックにならなかったのは家族が感情的にならず見守ってくれたからだと思う。
夕方の散歩は少し寒くて金木犀がかすかに香った、季節が秋になっていることを感じる。俺の隣に至君がいて、二人並んでしゃべりながら歩いてるなんて夢じゃないだろうか。
すぐそこに至君の手がある。どうしようと悩んでいる間にパティスリー三浦が見えてきた。現実感のないこの現実にそわそわする。でもそうか、あそこではじめて至君と出会ったんだ。
「ちゃんと、誤解は解いた方が良いよ。俺の彼氏じゃないでしょ」
俺はうつむいて至君に言った。何も言い返してくれないので顔を見ると困った顔をしていた。
手を引かれ方向転換をされ、パティスリー三浦の向いの公園へ連れて行かれる。
「透君から念を押されるとへこむ。これからもっと話をして俺を知ってもらって仲良くなりたかった。ダメかな?俺わりとアピールしてたつもりだったけど」
俺は驚きで言葉を発せないまま至君の顔を見つめた。至君は瞳を揺らしてこちらを見ていた。何か言わなきゃ…何か。
「ダメ…じゃない。でも至君、仲良くって言っても色々あるよ。今日だって女の子といたから。俺とは男同士の友達だと思ってたよ。それに」
俺はオメガだから男の人を好きになることがあってもおかしくないけど、アルファはどうなんだろう…俺は言葉をつなぐ。
「俺はオメガだからアルファが男だろうと女だろうと受け入れる側だけど。至君はアルファだろ、選べるなら女性の方が良いのかなって。それに、俺みたいな二次性徴までベータだったオメガって底辺のオメガって言うんだろ。至君は他のアルファを威圧できるほど強いアルファなんだ、わざわざ俺みたいなのに」
これ以上言うと自分の言葉に傷つきそうだ。うつむいてぐっとこぶしを握り締めた。
「…俺みたいなのに、なんて言わないで」
俺の言葉をさえぎって至君が真剣な顔で俺を見ている。
「透君が好きだよ」
俺の好きな笑顔だった。もう隠せない気がした。心臓はドキドキと拍を打つのに頭は至極冷静に至君の顔を見ていた。
「ごめん、俺も至君が好きだ」
至君が驚いた顔で笑った。
至君は遠慮がちに俺を囲むように抱いた。俺は背中に手を伸ばして時間差で来る羞恥に悶える。
「透君が好きです。どうか恋人になって下さい」
密着した至君の体からドキドキと心臓が鳴っているのが聞こえる、抱きしめる手が震えていた。
俺と同じくらい緊張しているんだ。それに俺はしみじみうれしいと感じている。
「俺も至君が好きです、よろしくお願いします」
俺の声は抱きしめられていないと聞こえないくらいの小さな声だったけど、至君はしっかりとうなずいてくれた。
「うれしい。すごくうれしい。むっちゃうれしい。うれしすぎて死ぬ」
「死なないで」
なんだか恥ずかしくて身じろぎすらするのもためらっている。
辺りは陽が沈み切って暗くなっていた。パティスリー三浦の灯が通りの向こうに見えた。
「ケーキ買って帰らないとみんなが心配する」
見上げると至君はびっくりするほどにやけた顔だった。
店頭には康太さんが立っていた。二人で店に入るとニヤリとしてすぐ奥から芳樹さんを呼んだ。
ケーキを5つ買うと、二人でいることを指摘されたのでこれまでの経緯を説明した。
康太さんがニヤニヤしながら至君をガシガシ殴っていた。
「透君がアルバイト終わってからも至君来てたんだよ。透君に会えないからってすっごいへこんで帰ってたんだ。勝手にオメガだって言えないし。交流会で会えたのだって透君はオメガだったからもしかしてって芳樹のアドバイスだったんだ」
康太さんはうなずきつつも至君の頭を混ぜていた。芳樹さんはそれを追って至君の肩をガシガシ殴っている。
「あの学校は俺の母校でね。透君に会えた時の至君のはしゃぎっぷりと落ち込みっぷりを見せたかったよ。若いって良いなー」
俺は至君を見上げた。慌てて康太さんと芳樹さんを睨んでいる。交流会で見かけた時は落ち着いた大人だって思った。大学で航兄と建築の話をしてる時はすごい人だと思った。だけど今、康太さんに揶揄われて顔を赤くして怒っている顔は身近に感じる。
「俺も同じだったよ、逢えてすごくうれしかった」
俺はにっと笑って見せた。至君が顔を覆ってうつむいてしまった。
このままにしておくと至君は際限なく二人から揶揄われてかわいそうなので話を終えて来た道を帰る。
「ありがとう信じる。至君がほんとに俺のこと好きだと思ってくれてるって」
そうすると、至君がうなりだした。
「…今すぐキスしたい」
「…ばっ」
恥ずかしくなって会話を続けられなくなった。
キスしたい…俺も?至君と…嫌じゃないな、むしろ確かめてみたい気もする。いや…今は無理だ恥ずかしすぎる。ファーストキスってやつになるし。…だけど手をつなぐのは許されるかな。
俺は至君のケーキを持っていないほうの手を自分から繋いでみた。やっぱり大きな手だった。
そのままゆっくりと帰り道を辿る。無言のまま気付けば家の前まで来ていた。
玄関扉のノブに手を掛けると握っていた手がくっと後ろに引っ張られる、振り返って見上げるとすぐ近くまで至君が顔を寄せていて唇に温かいものが触れた。
「好きだよ」
至君が俺を見て言う。俺は驚きのあまり目を閉じることもできなかった。
至君が幸せそうな顔をするから俺は何も言えなくなった。
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