後発オメガの幸せな初恋 You're gonna be fine.

大島Q太

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22.大人オメガと座談会

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今日も朝ごはんはおじいさまが作っていた。俺は挨拶をしてキッチンの端に立った。おじいさまは的確に指示を出して瞬く間に朝ごはんを整えていった。すべてのおかずがテーブルの上に並びだすと皆起きてきた。


芳樹さんとの約束は午後だった。三浦までは至君が車を出してくれた。
約束の時間に行くとすぐにお店の奥に通された。俺はバイトの時にも何度かこの奥の部屋に通してもらった事があった。ソファの置いてあったリビングには大きいこたつが出ていた。
そこには小さな男の子を抱っこした森下医師もいた。
「おお、永田君。こんにちは」
こたつでテレビを見ていた森下医師が子供の手を使って手を振る。
「こんにちは。今日病院は…お休みなんですね」
「あぁ、うん。せっかくだから芳樹君のケーキ買おうと思って寄ったらさ。永田君の話を聞いたから」
そう言って俺を見て、後ろに控えた至君を見た。至君は目が合うとお辞儀をした。森下医師も柔らかく笑顔で答えた、俺たちは二人して森下医師の向いの位置のこたつに入った。
「先生のお子さんですか?」
「あぁ、和希だ。今年3歳になったよ。上に6歳の亜希って女の子もいる。こう見えて二人産んでるんだよ」
和希君は人見知りをしないタイプらしく絵本を持って俺達のところにやってきた。至君は和希君を抱き上げて膝に乗せた。俺はその隣でしげしげと和希君を観察する。

和希君は自分の名前を呼ばれたからか、指を3つ立てて3歳と言った。至君はその頭を撫でて褒める。

男性オメガは本当に子供が産める、それを直に感じていた。和希君は森下医師にも似ているが、どちらと言うと伴侶に似ているんだろう。柔らかい森下医師の雰囲気に対して、和希君は凛々しい感じがした。

「かわいいですね」俺がそう言うと和希君は立ちあがって「かっこいいでしょ」と訂正した。「かっこいいです」俺が言いなおすと満足したようにまた至君の膝に座る。

和やかに談笑していると。仕事がひと段落した芳樹さんが帰ってきた。
「大輔さん。透君おまたせ」
芳樹さんは僕の隣のこたつに入るとふーっと息をついた。クリスマスが忙しかったことや、最近の売れ筋なんかの話をしている。一息ついたところで
「至君ちょっと和希と外の公園で遊んできてくれないかな?私たちはこれからオメガの大事な話をしたいんだ」
至君は良い笑顔を浮かべてうなずくと和希君に外遊びの提案をした。和希君は目をキラキラさせてコクコクうなずいている。至君は俺の頭を撫でて森下医師から水筒と上着を受け取り、和希君の手を引いて出て行った。

見送り終わると二人は同じタイミングで俺の方を見た。

「私は良い子だと思うよ。洋二さんのお孫さんだろ?オメガのことも分かってるし」
洋二さんと言うのは至君のおばあさまのことだ。

「でもあの子ヘタレなんですよ。ずっとうちの店に通ってたくせに連絡先もフルネームも聞けなくて。透君がバイトが終わって来なくなったら打ちひしがれてましたからね」

からかうような芳樹さんの口調に至君の名誉回復を試みた。
「至君はほんとに良い人です」
そうすると芳樹さんも森下医師も笑ってうなずく。

「透君の初めての恋は順調そうだね」
森下医師がこたつ机に頬杖をついた。芳樹さんは鼻をひくひくさせて俺を見た。

「ぶっちゃけると透君は強烈に至君の匂いがするよ」
俺は腕の匂いを嗅いでみた。だが良く分からない。
「そう言うのは本人にじゃなくて、まわりに対する牽制行為だから自分じゃわからないかもね。でも、至君は透君が大好きで。なりふり構わない感じだね」
至君からは好意を感じるが余裕のなさは感じない。俺が分からないと言う顔をすると芳樹さんは笑った。
「愛されてるねってことだよ」
森下医師はコクコクとうなずく。芳樹さんは俺の肩をポンっと叩いた。


「お菓子をどこで勉強したかって話だよね。俺は実家が和菓子屋だったんだ、今はもう兄が継いでるんだけど。俺は洋菓子が好きでそれでパティシエの専門学校に入った。卒業するときに先生の伝手でオメガでも雇ってもらえる洋菓子屋に就職して4年間修業したよ」
芳樹さんが少し眉を寄せるのは大変だったからなのかな。『オメガでも雇ってもらえる』これはアルバイトの時も感じた現実だ。

「オメガだとまず対応施設のある専門学校を見つけるのが大変だ。そこに教えて欲しい先生がいるかどうかも分からないし。抑制剤の副作用には味覚や嗅覚を鈍くするものもある。それにパティシエみたいな職人の世界は一定数のアルファがいるんだ。アルファにしたらオメガの匂いは邪魔でしかない。良く意地悪をされたよ。お互い様なのに。だから、もしもプロになりたいって話でパティシエを目指すならそういうことと戦わないとダメだよ。それでも良ければ僕の出た専門学校を紹介するし」
芳樹さんはすごく真面目な顔をした。俺の顔がこわばっているのを見て慌てている。

「これは提案なんだけど菓子作りを学ぶなら、ここでもいいんじゃないかな。俺はともかく康太はショコラティエとしては有名な賞を取っているし。パティシエとしても優秀だよ」
俺は芳樹さんの顔を見た。

「誰にでもこういうことを言うわけじゃないよ。透君だからだ。夏に一か月間働いてもらって君が真面目な子だって分かってる。なによりうちのお菓子を好きだって言ってくれてるし。食べさせてもらったクッキーもおいしかったよ。だからだよ」

芳樹さんは早口で言い訳ごかして照れている。俺のことを考えてくれている人がここにもいたことが嬉しかった。こたつの中で手を強く握った。俺は正直であろうと思った。

「俺はお菓子を作るのが好きで学びたいと思ったんです。ただ、それは競いたいとか、プロになりたいとかではなくて。俺自身がお菓子に救われてきたから、俺の側にいてくれる人に俺のお菓子で元気づけたいと思って…思いました。だからちゃんとおいしいお菓子が作れるようなりたい。こんな中途半端ですみません」
俺はこたつから出て正座をした。言葉にするのは難しい、だけど。昨日相談してここまでの答えを用意してくれていたことが、本当に嬉しくてどうにか伝えたかった。
「でも、芳樹さんの申し出がすごくうれしいです、ありがたいです。その言葉に甘えたい。俺は三浦のプリンが大好きです」
芳樹さんが顔を赤くして背筋を伸ばした。
「うちの店のプリンは全部俺が作ってるんだ。俺が一番好きなお菓子だから。透君が好きだって言ってくれてすごくうれしい」
芳樹さんは照れくさそうに頭をペコリと下げるから。俺も合わせて頭を下げた。俺のあやふやな言葉を大人の男の人が真摯に受け止めてくれている。むず痒い感じがした。

「答えを出すのは高校を卒業するまででいいんだ、しっかり悩んでよ。もちろん、バイトならいつでも大歓迎だよ」

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