後発オメガの幸せな初恋 You're gonna be fine.

大島Q太

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21.君の好きなとこ

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シャワーを浴びてさっぱりしてダイニングに帰ると3人は勉強道具を取り出して勉強を始めていた。おばあさまはリビングから俺を手招きしている。呼ばれるままに近づくと
「髪乾かしてあげるよ。こっちに座って」
そう言って俺をソファに座らせるとタオルを持って後ろに回った。人に髪を乾かしてもらうなんて美容院以外では初めてだったけど。おばあさまの手つきが気持ちよくて目を細めていた。
「僕ね。大昔は美容師になりたかったんだ。だからこうして家族の髪の毛を乾かす手伝いをよくするんだ。とおるんは何かなりたいものってある?」
おばあさまは指で髪を梳きながらニコニコと話しかけてくる。

俺は…俺の将来なりたいものって。ツバサみたいに誰かの支えになること。森下医師みたいに資格を得ること。芳樹さんみたいに技術を身につけること。
どれが自分に合っているのか分からない。

「難しく考えなくていいよ」
おばあさまが俺の肩を撫でてくれる。

「俺の友達はどの道を辿っても幸せになるだけだって言うんだ。俺は急にオメガになったからそのオメガの幸せが何なのか分からない。でも至君は好きだよ。運命だって言われるとすごくうれしい。俺は至君を支えられる人になりたい」

俺はうつむいて、でも、ずっと考えていた。

「ただもしわがままが言えるなら。俺がオメガになった時、航兄が買ってきてくれたケーキに救われたんだ。初めての交流会の時、プリンを食べてなんか緊張が解けた。俺が作ったシフォンケーキをおいしそうに食べてくれる友達や至君を大好きだって思った。もっとおいしく作れたらなぁって。だから俺はおいしいお菓子を作る人になりたい」

自分のやりたいことを口にしたのは久しぶりだった。
「とおるんそれはワガママじゃないよ」
俺は顔を上げた。俺は自分の未来について少し諦めていたのかもしれない。自分自身だってままならないから。

おばあさまは俺の頭を撫でて微笑む。
「ちゃんと考えてて偉いね」
でも自分の頭の中がぐるぐるしてまたうつむいた。

「プロになりたいかっていうと分からない食べさせたい人に、おいしいって言われたいだけって気もします」
おばあさまは後ろから肩をぎゅうと抱きしめて応援してるよと言ってくれた。

「急にオメガになるなんて戸惑ったよね。僕なんて57年生きているのに、いまだにオメガだったことが不思議でならない。番がいて。子供を産んで孫もいて。その孫には好きな子がいてって。いろいろ経験するけど。ふと我に返るとやっぱり不思議なんだ。でもさ。僕には幸助さんがいた」

「おじいさまですか?」

おばあさまはうなずいてにっこり笑った。

「これは僕の持論なんだけど。オメガはもっとアルファを利用して生きたら良いんだよ。あいつらオメガには逆らえないんだから。とおるんはいっくんを利用してやりたいことを叶えたらいいよ。僕が思うに運命は共同体だしね」

運命は共同体。俺は少しアルファとオメガの関係が分かった気がした。

俺はどこの誰とも分からないアルファではなく至君と一緒にいたいんだ。キラキラと目の前が開ける気がした。未来が想像しやすいものに変わる。
おばあさまはもう一度俺の頭を撫でるとお菓子は何を作ろうかと話題を変えた。俺はふと思い立って芳樹さんにメッセをした。お菓子作りのことを詳しく知りたいと思ったからだ。早速、明日会う約束をした。
航兄たちは真面目に勉強して。僕はおばあさまとお菓子を作り、そのあとは晩御飯の支度を手伝った。

そして、夜ごはんとお風呂を済ませて各々の部屋に帰った。当たり前のように俺の布団は至君の部屋に準備されていた。二つ並んだ布団の少しだけ開いていた隙間もぴっちりと寄せられて至君が手招きする。
昨日はつい二人の世界を作ってしまったけど、今日は一つ屋根の下に航兄や穣君までいるのだからと思ったのに。気付けば至君に抱きこまれていて、口の中を撫でる至君の舌に夢中で返していた。
パジャマの裾から至君の手が入ってくる。隠された肌を直に触られるのには慣れない。身を捩ってしまうがお構いなしだ。手触りを確かめるように撫でる手に神経が集中する。

恥ずかしいのに。けど、俺はこの手が好きだ。

俺は至君の背中に手をまわし首に顔をうずめた、至君の匂いだ。俺はその匂いを嗅ぎながら服の下で動き回る手に吐息をこぼした。眦からこぼれる涙が過ぎる官能からなのか。追いつけない心の内からなのか分からないまま、また眠りについた。

朝の気配に目を覚ますと昨日と同じように至君の胸にしがみつくように寝ていた。この馴染み良い体温は離れがたい。ただ、俺の肩に合わせてかかっている掛け布団のせいで至君の肩が出ていた。掛け布団をかけなおすために少しずり上がって至君と自分の肩に布団がかかるよう至君と同じ枕に頭をのせた。ふーっと息を吐けば届きそうな距離だ。
いつもは見上げるだけの顔を正面から見ることになった。眠っている目はまつげが濃くて長い。鼻は眉間から真っすぐだ。唇は…と指先で触れてみた。柔らかくてほんのりピンク色でとても器用だ、そうしていると、口角が上がった。
「おはよう、なに可愛いことしてるの?」
さっきまで閉じていた目が開いたと同時に、腰にまわされた手に力がこもって引き寄せられた。その勢いで至君のあごに唇を当てることになった。
「どうしよう、朝から透にキスされて目が覚めるなんて幸せすぎて夢みたいだ」
「大袈裟だな」
至君は答える代わりにリップ音をさせて俺にキスをくれた。
「今日は何か予定ある?」
至君が俺を覗き込んで聞いてくる。
「うん、今日は三浦に…芳樹さんとこに行ってくる。至君は?」
「今日も航と穣の勉強見る約束してるよ。ついて行きたいなー」
俺をぎゅっと抱きしめてくる。
「そっちが一段落したら一緒に行く?」
至君が目をキラキラさせて俺を覗き込んでうなずいた。その様子がかわいくて頭を撫でた。そうすると唇をぺろりと舐めてきて深いキスに変わった。あぁ、この深いキスだってすっかり馴染んだ気がする。だけど、今日もおばあさま達に気を遣わせては申し訳ない。まだまだ布団で戯れたい至君を引きはがして着替えた。

座ったままじとりと睨む至君をもう一度ぎゅっと抱きしめた。
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