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七 Benedictus (ほむべきかな)
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1.
「どう?」
「痛い」
「そんな事聞いてないのに」
嫌になるほど吸われて、赤くなった唇に触れたままの敦の唇が質問を重ねる。今にも笑い出しそうな陽気な気配で容赦ない愛撫を重ねてくる男の唇が彼女の頬を這った。そのまま耳朶に舌を伸ばされ、身体がピクッと反応すると彼の微笑を感じた。敦の上着とブーツは既に近くの畳の上に転がっている。真由が羽織っていた上着も靴も剥ぎ取られ、その近くに落ちていた。
「こんな事されて嫌じゃないの?」
真由の身体の上で上半身を離して囁いてくる男の意地悪な指先だけが真由の肌の上をそっと這っていく。首筋を撫で、その下の鎖骨のラインを人差し指でなぞりながら真由の反応を眺めている。嫌と答えても止める気は無い様に思える。
見られている恥ずかしさに顎を引いて耐えようとする娘の風情が初々しいとどこかのスケベ親父の様に考えたところで、敦は自分も充分にスケベ親父である事に気付き苦笑する。
「あっ! ……く……」
指先で彼女の胸の頂きを突付くと耐え切れないように真由が呻いた。
「感じやすい? もう硬くなってる」
「やっ! あ、敦さん?」
真由が着ている質が良さそうな素材で作られたベストを頭から抜くと、彼女の黒髪が頭の周りに渦巻いて落ちた。髪の毛を纏めていたスカーフも一緒に外れてしまったのだ。癖が付きにくい質なのか、少し頭を振るとその髪は奔放に寝具の上に広がっていく。照明を点けてない部屋の中で玄関と窓の外からの明かりを頼りに敦はそんな女を眺め、感嘆を吐息の中に混ぜて逃がした。そして抗う女の所作を無視しながら、黙々と彼女のフロントレースの上品なブラウスのボタンを外し始めた。
「ほら、硬くなってる」
ブラウスの前をはだけられ、下着を顎の下までずらされた娘は自分に手を這わせる男の手元を見ていられなかった。その手は優しく、そしていやらしく、露出した乳房の上を這い回っている。少し乾いた様な硬い指先で同時に擦られた乳房の頂きがピリピリと痛いほどに感じてしまい、腰が跳ねそうになった。
「あ、……そん……な」
息が弾む。摘み上げられた痛みに甘い感触が伴って胸の奥が痛む。堪えきれずに漏らした呻き声に思いのほか含まれている媚びるような響き。はしたないと我ながら唾棄したい気分だ。気付かれただろうか?
「いい感度。ここ、好きなんだ?」
「あ! やめっ……!」
いきなり捻られた両方の乳首が信じられないほどぷっくりと膨らんでいるのを目にした真由は顔を背けた。その頬を撫でて、自分の方に顔を向けさせながら敦は彼女の顔を覗き込む。
「感じた?」
低く囁くと、真由の動きが固まった。やはり優しくない。どんなに動作が優しくても、最後の最後に敦は彼女を追い詰める。
「気持ちいいだろ? 俺に触られてどうよ?」
「どうって……」
困った様な声が可愛い。どうやら嫌がってはいないらしい。答えを待たずに乳首に吸い付くと、慌てた真由が抗い始める。軽く歯を当て、舌先で強く弾くと驚いたように身体が跳ねるので、彼は思わず笑ってしまった。よく跳ねる娘だ。一緒に釣りに行きたいなと考える。釣り上げた魚が跳ねる隣で抱いたらさぞ面白い図になろう。
笑いながら、上半身を再度起こすと自分が着ているスエットシャツを脱いだ。彼女のブラウスも剥がし、中途半端にずらされた下着もまとめて抜く。刻々と進んでいく状況に目まぐるしいものを感じながら視線を上げた真由は息を呑んだ。
固まって自分の裸の上半身を凝視している真由に気付き、敦は皮肉気に笑った。
「男の裸などプールに行けば幾らでも見れるでしょ? 何固まってんの?」
彼が言う事は正しい、けれど違うと真由は考えた。男性の裸身などまじまじと見つめた事は殆ど無い。そんなに美しいものとは思った事もなかったせいもある。
しかし、敦の身体は綺麗だった。日に焼けた肌には傷痕が幾つかあった。しかし、その傷痕さえも飾りの様に見える均整が取れた身体は裸体のデッサン用モデルにでもなれそうなほど美しく、真由を驚かせた。どの様に鍛えたらこんな理想的な筋肉の付き方をするのだろう。無意識に手を伸ばして薄っすらと肋骨が浮き出ている脇腹に触ると、敦はくすぐったそうな表情で微笑した。
この男は絶対に自分の裸身が他人の目、とりわけ女の目にどう映るのか知ってる。今まで浴びてきた女達からの賞賛の声が育てただろう彼の露骨なまでの自信は真由を少々ムカつかせた。
2.
「や……あっ! そこ、だめ……で、す……く」
自分の声だなんて、信じたくない。何ていやらしい響きだろうと真由は考えた。
息つく暇も無く身体の隅々を弄られた。暗い部屋の中で感じやすい箇所を暴かれる度に、彼女は彼の軍門に下っていく。あれだけ嫌悪していたセックスという行為に、与えられる快感にのめり込んでいく自分を感じる。いつの間にか取り去られたニットデニムパンツや下着等の布地は全て近くに落ちていた。
クリトリスへの刺激による自慰しか経験が無い彼女は、膣への挿入行為は従兄弟から受けた屈辱と痛みの記憶だけを刺激され、ひどく抵抗があった。それなのに、ジェットコースターに乗ったように高められ、底なし沼に突き落とされる様に快楽の淵に沈められ、気付くとあられもない姿で喘がされている。
「ここはどう? 気持ちいい?」
「……ん……あ、敦さ……あ!」
「はっきり教えてくれないとわかんない」
だからその衝撃が訪れた時は本当に驚いた。彼の指でいかされて弛緩した膣に入り込んできた指以外の物体に驚き、緊張した時は既に半ば以上の道をそれはくぐり抜けていた。
「や! 痛い、痛い、抜いて」
「んっと、もうちょいリラックスして」
何これ、まじで狭いんですけどと、敦も少々苦労している。耳や首筋への愛撫も含め、真由が感じる箇所は全て利用してじっくりと愛液を作り出させたにも関わらずこの体たらくだ。言わずもがなだが処女喪失した際の手痛い記憶がトラウマになってしまっているらしい。
敦は内心舌打ちした。非処女だと本人自身が申告しているが、どう考えてもまともな経験はしていない様子なのは察していた。それはある意味、純粋な処女よりも性質は悪いかもしれない。
もしかしたら心理的ストレスを抱え込んでいるのかもしれないが、それを治す為には気持ちよいセックスを体験したり、どんどん性交して慣らすしかない。とにかく、本人が気付く前にとっととぶち込んで慣らしておきたかったが、完璧に奥まで挿入する前に気付かれた様だ。敦は心の中で楽しくないセックスを真由に強いたであろう誰かを罵った。
どちらにしろ、途中で諦めるつもりは全く無い。彼女の体の隅々を探りながら、小刻みに抜き差しを繰返して少しずつ奥まで侵食していく。涙を零して嫌がる女に無理に挿れていくので、殆どレイプだ。相手の痛みに頓着しなければ、もっと一気に畳み掛けられるのだがどうやら自分はこの娘をあまり苛めたくないらしい。宥めたり、あやしたりしながら、泣きじゃくる真由に慣らしながら挿入していった。
「終わったの?」
やっと彼の動きが止まった時、泣きすぎて擦れた娘の声が聞こえてきた。
「いや、奥まで入っただけ」
敦ははっきり言って疲れた。ここまで挿入時に気を使ったのは久しぶりだろう。
「まだ終わってないの?」
「んっとね、入れたらいいって訳ではないし」
困った様に伸び上がって、彼女の唇を啄ばむ。真っ赤に泣きはらした目を覗き込んで囁く。
「気持ちよくなるまでやろうな」
「ええ?」
どこをどう押したらこの行為で気持ちよくなれるのだと文句を言いかかった娘は彼が動き出したので悲鳴を上げた。正面から、真由を組み敷いた敦は彼女の腰を押さえながらゆっくりと抜き始めた。動かないでとぐずる彼女の言葉は無視して、殆どペニスを外に出す直前まで抜く。ペニスと共に掻き出された液体の中に赤い色が見える。やはり最初の破瓜はしっかりと行われなかったらしい。内心で舌打ちをしながらも、一瞬、彼女が安堵して緊張が解けた瞬間を見計らって、再度挿入に移る。
はじめはゆっくりと、やがて彼女が慣れてくるにつれて、その抜き差しは加速をしていく。息も絶え絶えに呻いていた彼女の声に甘みが混じってきた頃に彼は一度目の射精を放った。
3.
「敦さん、それは何ですか?」
「あ?」
装着していたゴムを自身のペニスから外している最中だった。自分の股間の物を指差して「それ」呼ばわりされた敦は一瞬ムカついた。これは俺の大事なお道具だよと、内心喚いたが、感情的にならずにマユの様子を眺めた。彼女は蒼白になって彼のペニスを凝視していた。首を捻りながらも、自分のペニスを眺める。
「これは俺のペニスだけど? 付け加えるならば、現在は射精直後で勃起状態ではない」
「それはわかっています」
真由は喘ぐように言葉を続けた。訝しげに彼女を見やる敦は彼女の次の悲鳴を聞いて益々首を傾げた。
「何でそんなに大きいのですか? そんなの入りません!」
「ええっと? さっきまで入ってたよ?」
答えながらもう一度自分のペニスを眺める。彼は自分のペニスの形は結構気に入っているが、サイズは平均値と考えていた。特にでかいとも小さいとも言われた事はあまり無いし、時折り垣間見る知り合いの持ち物などと比べてみても普通だと思っていた。
「それに、形が変です」
「は?」
頭を抱える。何かがおかしい。
「マユ、お前が知ってるチンポとはどんなもなのか、教えろ」
多分、これが問題解決の早道だろう。動転しきっている真由はその時の状況と形など、細々と覚えている限りの情報を口にした。ここに居ない第三者のプライバシーを深く損なう行為とは夢にも思っていない様子だった。話の途中から敦は耐えきれなくなり、笑い出した。
「すまん。マユにとっては笑い事じゃないな……けど」
そう謝りながらも、しばらくの間、彼はヒイヒイ笑っていた。やがて笑いの発作がおさまると、彼は難しい顔を作って真由に告げた。
「オメーの初体験のお相手はとんだ粗チンだったって事だ。多分、そいつ皮被ってたんだろ。包茎だな。俺だったら、専門医に一度相談する事を勧める。手術である程度は治せるはずだ。しっかし……」
彼はもう一度笑いそうになって、すんでのところで堪えた。
「あんま濡らしてない処女のマンコに挿入できるってすげーな。よほど短シ……失礼、小さかったのかな? ついでにそれで早漏っておまけまでついてくるところがすげー。だから、マユの処女膜、部分的に残ってたんだ。納得したよ」
とうとう耐えられなくなり、彼は再度爆笑した。笑いながら、自分のペニスから外した使用済みのゴムを真由に見せる。不思議そうにそれを見る彼女にこびりついた血液を隣の部屋からの明かりを頼りに提示する。
「俺のは正規品だから、観察していいぞ。まだ勃ってないけど、勃起前も知っておくのは悪くないだろ?」
トラウマを解消させるには、そのものを知り、理解させるのも有効だろう。恐々とそれを見つめる彼女の様子を眺めながらニヤニヤ笑う。
「触ってもいいよ。さっき、ちょっと触ったしね。但し、乱暴にスンナよ。一応、デリケートな器官ですので」
そう言いながら、真由の目を覗き込んだ。人が悪い笑いを顔に貼り付けたまま、ボソッと告げる。
「後からまたマユの中に入っていく予定だから、丁寧に扱ってね」
その夜、敦は3回、真由にセックスを強要した。そして最後の1回は彼女の方から望んで動きに参加し、快感を味わい始めた。つまり、寝不足でフラフラしていた敦は見事に一晩で真由のセックスに対するトラウマを取り除く事に成功した事になる。但し、本人は非常に疲れ、3回目が終わり簡単なシャワーを浴びると、気を失ったかのように深い眠りに落ちた。
真由も彼の部屋についている狭い浴室でシャワーを浴びると、敦の隣に横たわって眠り始めた。下着は洗ったので乾かす為に干している。自分も敦も裸だけど、他人の体温がこんなに気持ちのいいものとは今まで感じた事もなかった。寄り添った彼の身体が心地よい。
4.
ほむべきかな、主の名によりて来る物。
天のいと高きところにホザンナ。
あまりの気持ちよさに目が覚めた。下腹部には違和感があるのに、何でこんなに気持ちがいいのだろう?
カーテンも引いていない窓の外から朝の明るさが忍び込んできているが、まだ少し暗い。真由の頭の中にはミサでよく聞く「Benedictus」の非常に短いが壮麗な聖歌が鳴り響いていた。他人の体温を感じ、振り向くと敦の肩が目に入った。
(あっ)
背中に真新しい引っ掻き傷を見つけ、真由は赤くなった。痛みに耐えかねたか、興奮したか、あれを作った加害者は間違いなく自分だろう。不憫に思い、そっとその傷に触れると彼の肩が揺れた。目を瞑ったままの男が寝返りを打って、彼女に顔を向けた。顎に生えてきている無精ひげに気付いた。
「マユ?」
目を瞑ったまま自分の名前を呼ぶ。真由はあまりにも嬉しくて小さな声で応えた。
「はい」
その途端に伸びてきた腕に抱き寄せられた。裸のまま、彼の裸の胸に抱きこまれ、朝から動悸を早めた真由に敦はそっと囁いた。
「もちょっと寝てよー?」
「はい」
そう答えた彼女の額に口付けると彼は再度寝息を立て始めた。口付けられた額に彼の髭を感じた真由はものすごい幸福感を感じ、目を瞑った。このまま二度寝してしまうのが勿体無い気がする。でも冬の朝の布団の中は気持ちが良すぎて、いつの間にか寝入ってしまった。
そして次に彼女が目覚めた時、携帯の着信音が鳴り響いていた。
「何この音?」
敦の寝ぼけた声が聞こえる。そうですわね……と考えていた彼女は、自分の携帯の音である事に気付いて一気に覚醒した。近くに転がっているバッグを引き寄せて、携帯を取り出した途端に着信音は切れてしまった。時刻表示を見ると朝の7時だった。
(この時間だという事は早起きさんね)
何となく誰なのかわかった。週末や祝日に彼女の家で一番早い時間に動ける人と考えると通いの有田だろう。着信履歴を見るとまさしくその人だった。
「有田さん? おはようございます。真由です」
『お嬢様! お部屋に居ないから驚きましたよ。どちらですか?』
真由から電話を掛け返すと、心配そうな初老の婦人の声が聞こえてきた。
「申し訳ありません。昨夜遅くにお友達から悩みの相談を受けましたので、その方のお家に伺ったのです」
『あらま? そうでしたか。奥様に聞かれたら、どの様にお伝えしましょうか?』
「そのままおっしゃってくださって大丈夫です。私は今夜までには帰宅します」
『かしこまりました。お友達のお名前は教えていただけますか?』
「広田さんです」
後ろにいる男から「ブッ」と吹き出す音が聞こえてきた。
『了解しました。もし訊かれたら奥様にはそうお伝えしておきますね』
「ええ。もし訊かれたらで結構です」
短い電話を切ると、裸の腰に男の手が掛かった。
「おはよ、マユ」
「おはようございます、敦さん」
引き寄せられるままに彼に向き直ると、腕の中に抱きこまれた。
「随分、素直に喋っていたね。家の人?」
「我が家で家事などを取り仕切ってくださってる方です。ある意味、私にとっては家族より近しい存在と呼んで差し障りはございません」
「へえ?」
真由を抱きながら横になった敦は、彼女の胸に顔を埋めた。
「敦さん? 朝から恥ずかしいのですが」
「マユこそ、裸で平気なんだね」
敦の唇が彼女の乳首を挟んだ。彼女は「あっ」と言いながら、身体を捻って逃げようとしたが、がっちり押さえ込まれていて叶わない。
「恥ずかしくないと言えば嘘になりますが」
「が?」
「昨夜、散々はしたない姿をご覧になられたばかりですし……」
「なるほど」
挟まれた乳首を舌先で弾いて、甲高い彼女の悲鳴を引き出すと敦は満足したように彼女を放した。
「よかった」
「敦さん?」
隣にゴロッと仰向けに横たわった男を窺いながら真由は首を傾げる。
「マユ、ちゃんと居た。起きて居なくなってたらショックだし」
「ま」
思わず投げられたセリフの可愛さに彼女は破顔した。肉欲に目覚めたばかりの小娘の分際で我ながら大胆だと考えたが、我慢できない。そっと、隣の男の顔を覗き込みながらその胸に手を置いた。下から自分を見上げる目元が笑っているのがわかった。音にしないで(どうぞ)と誘惑する口元に自分から唇を寄せて口付けると彼の微笑は大きくなった。
「いつまで一緒にいられる?」
「今夜は帰宅します。明日は登校しなくちゃいけませんし」
「高校?」
「はい……あっ!」
するっと口が滑り、真由は居心地が悪そうに目を伏せた。
「淫行条例違反かよ。おいくつになられますか? お嬢様」
「17です」
「あらま」
呟くような返事を聞きながら、敦はやはりね……と思った。やれやれと窓の外の空を見上げた。そんなところだろうなと予想していたので衝撃はない。
「誕生日は?」
「4月5日……です」
「へえ? 早生まれ? ……じゃないか」
「違います」
「んじゃ、今は2年生ね?」
「はい」
敦は少し考える。一度やってバイバイするつもりはない。未成年なガキの相手など、本来ならするものではないと理性が訴えるが真由は可愛い。簡単に手放せない。
「敦さん?」
不安そうにこちらを見るその化粧が取れた優しい面差しを指先で撫でるとはにかんだ様に微笑んでくる。まあ、今更リスクは十分に承知している。そうとわかっていて手を出したのだ。
「俺の事、好き?」
目の前で真っ赤になった娘が頷く。そりゃそうだろう。そうでないと、こんなとこまでついてきやしない。娘の好意に気付いてたからこそ、強引に連れてきたようなものだ。
「俺もマユ好き」と告げると目の前の顔は耳まで赤い範囲を広げた。隠していない首筋も胸も腹も下腹の淡い茂みも全て可愛い。胸元に口を落としてきつく吸うと緊張した反応を返してくる。
小さい文句の声を耳にして口を離すと、あっさりと付いたキスマークを眺める。真由もそれを見て、キッと彼の目を睨んだ。お返しとばかりに敦の首筋に口を付ける。あっと思った時にはチクリと噛まれた様な痛みが走り、やられたと感じた。学習能力が高い娘だなと感心して、思わず笑いがこぼれる。
「ひっでー、そんなすぐ見えるところに普通付ける?」
「え? ああっ!」
単純に目に付いて吸い付きやすい場所に吸い付いたのだろう娘はそこまで考えていなかったらしく、狼狽えた。
「すみません。私ったら……!」
その狼狽ぶりが可笑しくて敦は更に笑った。
「いいよ。それより、何か食べにいこ。うちの冷蔵庫はビールしか入ってないから」
身を起こしながら、彼女に笑いかける。
「まあ、マユが18になるまであと3ヶ月弱か。それまでは秘密の関係という事で宜しく」
「秘密ですか?」
少し肩を落とした彼女が不憫で思わず言葉を続ける。
「そうしないと俺が罪に問われるの。未成年に [みだらな性行為] を行った悪いおじさんという事で」
「おじさんって? 敦さん、そんなお年寄りではないと思いますが?」
「マユに比べるとおじさんって事。俺、23だよ」
苦笑しながら近くに脱ぎ捨てていたスエットの上下や下着を拾うと、洗濯籠に放り投げる。近くのイスの上に置かれていた洗濯した衣服の中からTシャツを取り上げて被るとそのまま用を足しにトイレに向かう。戻ってくると設置している押入れ収納を開いて下着を取り出した。背後から押し殺した笑いが聞こえてくる。
「何かおかしい?」
「だって、上から身に付けていくんですもん……」
どうやらTシャツだけ身に着けたままふるちんで歩いていたのが彼女のツボに嵌ったらしい。手にした下着を穿きながら敦は真由を睨んだ。
「何、余裕ぶっこいてんの? 素っ裸で偉そうに。マユも服着て準備しろよ。近くの店でモーニング出してるとこあるからいこ。祝日でもやってたと思う」
(そう……、今日は祝日ですわね)
思いも寄らない開放感に真由はワクワクした。
「どう?」
「痛い」
「そんな事聞いてないのに」
嫌になるほど吸われて、赤くなった唇に触れたままの敦の唇が質問を重ねる。今にも笑い出しそうな陽気な気配で容赦ない愛撫を重ねてくる男の唇が彼女の頬を這った。そのまま耳朶に舌を伸ばされ、身体がピクッと反応すると彼の微笑を感じた。敦の上着とブーツは既に近くの畳の上に転がっている。真由が羽織っていた上着も靴も剥ぎ取られ、その近くに落ちていた。
「こんな事されて嫌じゃないの?」
真由の身体の上で上半身を離して囁いてくる男の意地悪な指先だけが真由の肌の上をそっと這っていく。首筋を撫で、その下の鎖骨のラインを人差し指でなぞりながら真由の反応を眺めている。嫌と答えても止める気は無い様に思える。
見られている恥ずかしさに顎を引いて耐えようとする娘の風情が初々しいとどこかのスケベ親父の様に考えたところで、敦は自分も充分にスケベ親父である事に気付き苦笑する。
「あっ! ……く……」
指先で彼女の胸の頂きを突付くと耐え切れないように真由が呻いた。
「感じやすい? もう硬くなってる」
「やっ! あ、敦さん?」
真由が着ている質が良さそうな素材で作られたベストを頭から抜くと、彼女の黒髪が頭の周りに渦巻いて落ちた。髪の毛を纏めていたスカーフも一緒に外れてしまったのだ。癖が付きにくい質なのか、少し頭を振るとその髪は奔放に寝具の上に広がっていく。照明を点けてない部屋の中で玄関と窓の外からの明かりを頼りに敦はそんな女を眺め、感嘆を吐息の中に混ぜて逃がした。そして抗う女の所作を無視しながら、黙々と彼女のフロントレースの上品なブラウスのボタンを外し始めた。
「ほら、硬くなってる」
ブラウスの前をはだけられ、下着を顎の下までずらされた娘は自分に手を這わせる男の手元を見ていられなかった。その手は優しく、そしていやらしく、露出した乳房の上を這い回っている。少し乾いた様な硬い指先で同時に擦られた乳房の頂きがピリピリと痛いほどに感じてしまい、腰が跳ねそうになった。
「あ、……そん……な」
息が弾む。摘み上げられた痛みに甘い感触が伴って胸の奥が痛む。堪えきれずに漏らした呻き声に思いのほか含まれている媚びるような響き。はしたないと我ながら唾棄したい気分だ。気付かれただろうか?
「いい感度。ここ、好きなんだ?」
「あ! やめっ……!」
いきなり捻られた両方の乳首が信じられないほどぷっくりと膨らんでいるのを目にした真由は顔を背けた。その頬を撫でて、自分の方に顔を向けさせながら敦は彼女の顔を覗き込む。
「感じた?」
低く囁くと、真由の動きが固まった。やはり優しくない。どんなに動作が優しくても、最後の最後に敦は彼女を追い詰める。
「気持ちいいだろ? 俺に触られてどうよ?」
「どうって……」
困った様な声が可愛い。どうやら嫌がってはいないらしい。答えを待たずに乳首に吸い付くと、慌てた真由が抗い始める。軽く歯を当て、舌先で強く弾くと驚いたように身体が跳ねるので、彼は思わず笑ってしまった。よく跳ねる娘だ。一緒に釣りに行きたいなと考える。釣り上げた魚が跳ねる隣で抱いたらさぞ面白い図になろう。
笑いながら、上半身を再度起こすと自分が着ているスエットシャツを脱いだ。彼女のブラウスも剥がし、中途半端にずらされた下着もまとめて抜く。刻々と進んでいく状況に目まぐるしいものを感じながら視線を上げた真由は息を呑んだ。
固まって自分の裸の上半身を凝視している真由に気付き、敦は皮肉気に笑った。
「男の裸などプールに行けば幾らでも見れるでしょ? 何固まってんの?」
彼が言う事は正しい、けれど違うと真由は考えた。男性の裸身などまじまじと見つめた事は殆ど無い。そんなに美しいものとは思った事もなかったせいもある。
しかし、敦の身体は綺麗だった。日に焼けた肌には傷痕が幾つかあった。しかし、その傷痕さえも飾りの様に見える均整が取れた身体は裸体のデッサン用モデルにでもなれそうなほど美しく、真由を驚かせた。どの様に鍛えたらこんな理想的な筋肉の付き方をするのだろう。無意識に手を伸ばして薄っすらと肋骨が浮き出ている脇腹に触ると、敦はくすぐったそうな表情で微笑した。
この男は絶対に自分の裸身が他人の目、とりわけ女の目にどう映るのか知ってる。今まで浴びてきた女達からの賞賛の声が育てただろう彼の露骨なまでの自信は真由を少々ムカつかせた。
2.
「や……あっ! そこ、だめ……で、す……く」
自分の声だなんて、信じたくない。何ていやらしい響きだろうと真由は考えた。
息つく暇も無く身体の隅々を弄られた。暗い部屋の中で感じやすい箇所を暴かれる度に、彼女は彼の軍門に下っていく。あれだけ嫌悪していたセックスという行為に、与えられる快感にのめり込んでいく自分を感じる。いつの間にか取り去られたニットデニムパンツや下着等の布地は全て近くに落ちていた。
クリトリスへの刺激による自慰しか経験が無い彼女は、膣への挿入行為は従兄弟から受けた屈辱と痛みの記憶だけを刺激され、ひどく抵抗があった。それなのに、ジェットコースターに乗ったように高められ、底なし沼に突き落とされる様に快楽の淵に沈められ、気付くとあられもない姿で喘がされている。
「ここはどう? 気持ちいい?」
「……ん……あ、敦さ……あ!」
「はっきり教えてくれないとわかんない」
だからその衝撃が訪れた時は本当に驚いた。彼の指でいかされて弛緩した膣に入り込んできた指以外の物体に驚き、緊張した時は既に半ば以上の道をそれはくぐり抜けていた。
「や! 痛い、痛い、抜いて」
「んっと、もうちょいリラックスして」
何これ、まじで狭いんですけどと、敦も少々苦労している。耳や首筋への愛撫も含め、真由が感じる箇所は全て利用してじっくりと愛液を作り出させたにも関わらずこの体たらくだ。言わずもがなだが処女喪失した際の手痛い記憶がトラウマになってしまっているらしい。
敦は内心舌打ちした。非処女だと本人自身が申告しているが、どう考えてもまともな経験はしていない様子なのは察していた。それはある意味、純粋な処女よりも性質は悪いかもしれない。
もしかしたら心理的ストレスを抱え込んでいるのかもしれないが、それを治す為には気持ちよいセックスを体験したり、どんどん性交して慣らすしかない。とにかく、本人が気付く前にとっととぶち込んで慣らしておきたかったが、完璧に奥まで挿入する前に気付かれた様だ。敦は心の中で楽しくないセックスを真由に強いたであろう誰かを罵った。
どちらにしろ、途中で諦めるつもりは全く無い。彼女の体の隅々を探りながら、小刻みに抜き差しを繰返して少しずつ奥まで侵食していく。涙を零して嫌がる女に無理に挿れていくので、殆どレイプだ。相手の痛みに頓着しなければ、もっと一気に畳み掛けられるのだがどうやら自分はこの娘をあまり苛めたくないらしい。宥めたり、あやしたりしながら、泣きじゃくる真由に慣らしながら挿入していった。
「終わったの?」
やっと彼の動きが止まった時、泣きすぎて擦れた娘の声が聞こえてきた。
「いや、奥まで入っただけ」
敦ははっきり言って疲れた。ここまで挿入時に気を使ったのは久しぶりだろう。
「まだ終わってないの?」
「んっとね、入れたらいいって訳ではないし」
困った様に伸び上がって、彼女の唇を啄ばむ。真っ赤に泣きはらした目を覗き込んで囁く。
「気持ちよくなるまでやろうな」
「ええ?」
どこをどう押したらこの行為で気持ちよくなれるのだと文句を言いかかった娘は彼が動き出したので悲鳴を上げた。正面から、真由を組み敷いた敦は彼女の腰を押さえながらゆっくりと抜き始めた。動かないでとぐずる彼女の言葉は無視して、殆どペニスを外に出す直前まで抜く。ペニスと共に掻き出された液体の中に赤い色が見える。やはり最初の破瓜はしっかりと行われなかったらしい。内心で舌打ちをしながらも、一瞬、彼女が安堵して緊張が解けた瞬間を見計らって、再度挿入に移る。
はじめはゆっくりと、やがて彼女が慣れてくるにつれて、その抜き差しは加速をしていく。息も絶え絶えに呻いていた彼女の声に甘みが混じってきた頃に彼は一度目の射精を放った。
3.
「敦さん、それは何ですか?」
「あ?」
装着していたゴムを自身のペニスから外している最中だった。自分の股間の物を指差して「それ」呼ばわりされた敦は一瞬ムカついた。これは俺の大事なお道具だよと、内心喚いたが、感情的にならずにマユの様子を眺めた。彼女は蒼白になって彼のペニスを凝視していた。首を捻りながらも、自分のペニスを眺める。
「これは俺のペニスだけど? 付け加えるならば、現在は射精直後で勃起状態ではない」
「それはわかっています」
真由は喘ぐように言葉を続けた。訝しげに彼女を見やる敦は彼女の次の悲鳴を聞いて益々首を傾げた。
「何でそんなに大きいのですか? そんなの入りません!」
「ええっと? さっきまで入ってたよ?」
答えながらもう一度自分のペニスを眺める。彼は自分のペニスの形は結構気に入っているが、サイズは平均値と考えていた。特にでかいとも小さいとも言われた事はあまり無いし、時折り垣間見る知り合いの持ち物などと比べてみても普通だと思っていた。
「それに、形が変です」
「は?」
頭を抱える。何かがおかしい。
「マユ、お前が知ってるチンポとはどんなもなのか、教えろ」
多分、これが問題解決の早道だろう。動転しきっている真由はその時の状況と形など、細々と覚えている限りの情報を口にした。ここに居ない第三者のプライバシーを深く損なう行為とは夢にも思っていない様子だった。話の途中から敦は耐えきれなくなり、笑い出した。
「すまん。マユにとっては笑い事じゃないな……けど」
そう謝りながらも、しばらくの間、彼はヒイヒイ笑っていた。やがて笑いの発作がおさまると、彼は難しい顔を作って真由に告げた。
「オメーの初体験のお相手はとんだ粗チンだったって事だ。多分、そいつ皮被ってたんだろ。包茎だな。俺だったら、専門医に一度相談する事を勧める。手術である程度は治せるはずだ。しっかし……」
彼はもう一度笑いそうになって、すんでのところで堪えた。
「あんま濡らしてない処女のマンコに挿入できるってすげーな。よほど短シ……失礼、小さかったのかな? ついでにそれで早漏っておまけまでついてくるところがすげー。だから、マユの処女膜、部分的に残ってたんだ。納得したよ」
とうとう耐えられなくなり、彼は再度爆笑した。笑いながら、自分のペニスから外した使用済みのゴムを真由に見せる。不思議そうにそれを見る彼女にこびりついた血液を隣の部屋からの明かりを頼りに提示する。
「俺のは正規品だから、観察していいぞ。まだ勃ってないけど、勃起前も知っておくのは悪くないだろ?」
トラウマを解消させるには、そのものを知り、理解させるのも有効だろう。恐々とそれを見つめる彼女の様子を眺めながらニヤニヤ笑う。
「触ってもいいよ。さっき、ちょっと触ったしね。但し、乱暴にスンナよ。一応、デリケートな器官ですので」
そう言いながら、真由の目を覗き込んだ。人が悪い笑いを顔に貼り付けたまま、ボソッと告げる。
「後からまたマユの中に入っていく予定だから、丁寧に扱ってね」
その夜、敦は3回、真由にセックスを強要した。そして最後の1回は彼女の方から望んで動きに参加し、快感を味わい始めた。つまり、寝不足でフラフラしていた敦は見事に一晩で真由のセックスに対するトラウマを取り除く事に成功した事になる。但し、本人は非常に疲れ、3回目が終わり簡単なシャワーを浴びると、気を失ったかのように深い眠りに落ちた。
真由も彼の部屋についている狭い浴室でシャワーを浴びると、敦の隣に横たわって眠り始めた。下着は洗ったので乾かす為に干している。自分も敦も裸だけど、他人の体温がこんなに気持ちのいいものとは今まで感じた事もなかった。寄り添った彼の身体が心地よい。
4.
ほむべきかな、主の名によりて来る物。
天のいと高きところにホザンナ。
あまりの気持ちよさに目が覚めた。下腹部には違和感があるのに、何でこんなに気持ちがいいのだろう?
カーテンも引いていない窓の外から朝の明るさが忍び込んできているが、まだ少し暗い。真由の頭の中にはミサでよく聞く「Benedictus」の非常に短いが壮麗な聖歌が鳴り響いていた。他人の体温を感じ、振り向くと敦の肩が目に入った。
(あっ)
背中に真新しい引っ掻き傷を見つけ、真由は赤くなった。痛みに耐えかねたか、興奮したか、あれを作った加害者は間違いなく自分だろう。不憫に思い、そっとその傷に触れると彼の肩が揺れた。目を瞑ったままの男が寝返りを打って、彼女に顔を向けた。顎に生えてきている無精ひげに気付いた。
「マユ?」
目を瞑ったまま自分の名前を呼ぶ。真由はあまりにも嬉しくて小さな声で応えた。
「はい」
その途端に伸びてきた腕に抱き寄せられた。裸のまま、彼の裸の胸に抱きこまれ、朝から動悸を早めた真由に敦はそっと囁いた。
「もちょっと寝てよー?」
「はい」
そう答えた彼女の額に口付けると彼は再度寝息を立て始めた。口付けられた額に彼の髭を感じた真由はものすごい幸福感を感じ、目を瞑った。このまま二度寝してしまうのが勿体無い気がする。でも冬の朝の布団の中は気持ちが良すぎて、いつの間にか寝入ってしまった。
そして次に彼女が目覚めた時、携帯の着信音が鳴り響いていた。
「何この音?」
敦の寝ぼけた声が聞こえる。そうですわね……と考えていた彼女は、自分の携帯の音である事に気付いて一気に覚醒した。近くに転がっているバッグを引き寄せて、携帯を取り出した途端に着信音は切れてしまった。時刻表示を見ると朝の7時だった。
(この時間だという事は早起きさんね)
何となく誰なのかわかった。週末や祝日に彼女の家で一番早い時間に動ける人と考えると通いの有田だろう。着信履歴を見るとまさしくその人だった。
「有田さん? おはようございます。真由です」
『お嬢様! お部屋に居ないから驚きましたよ。どちらですか?』
真由から電話を掛け返すと、心配そうな初老の婦人の声が聞こえてきた。
「申し訳ありません。昨夜遅くにお友達から悩みの相談を受けましたので、その方のお家に伺ったのです」
『あらま? そうでしたか。奥様に聞かれたら、どの様にお伝えしましょうか?』
「そのままおっしゃってくださって大丈夫です。私は今夜までには帰宅します」
『かしこまりました。お友達のお名前は教えていただけますか?』
「広田さんです」
後ろにいる男から「ブッ」と吹き出す音が聞こえてきた。
『了解しました。もし訊かれたら奥様にはそうお伝えしておきますね』
「ええ。もし訊かれたらで結構です」
短い電話を切ると、裸の腰に男の手が掛かった。
「おはよ、マユ」
「おはようございます、敦さん」
引き寄せられるままに彼に向き直ると、腕の中に抱きこまれた。
「随分、素直に喋っていたね。家の人?」
「我が家で家事などを取り仕切ってくださってる方です。ある意味、私にとっては家族より近しい存在と呼んで差し障りはございません」
「へえ?」
真由を抱きながら横になった敦は、彼女の胸に顔を埋めた。
「敦さん? 朝から恥ずかしいのですが」
「マユこそ、裸で平気なんだね」
敦の唇が彼女の乳首を挟んだ。彼女は「あっ」と言いながら、身体を捻って逃げようとしたが、がっちり押さえ込まれていて叶わない。
「恥ずかしくないと言えば嘘になりますが」
「が?」
「昨夜、散々はしたない姿をご覧になられたばかりですし……」
「なるほど」
挟まれた乳首を舌先で弾いて、甲高い彼女の悲鳴を引き出すと敦は満足したように彼女を放した。
「よかった」
「敦さん?」
隣にゴロッと仰向けに横たわった男を窺いながら真由は首を傾げる。
「マユ、ちゃんと居た。起きて居なくなってたらショックだし」
「ま」
思わず投げられたセリフの可愛さに彼女は破顔した。肉欲に目覚めたばかりの小娘の分際で我ながら大胆だと考えたが、我慢できない。そっと、隣の男の顔を覗き込みながらその胸に手を置いた。下から自分を見上げる目元が笑っているのがわかった。音にしないで(どうぞ)と誘惑する口元に自分から唇を寄せて口付けると彼の微笑は大きくなった。
「いつまで一緒にいられる?」
「今夜は帰宅します。明日は登校しなくちゃいけませんし」
「高校?」
「はい……あっ!」
するっと口が滑り、真由は居心地が悪そうに目を伏せた。
「淫行条例違反かよ。おいくつになられますか? お嬢様」
「17です」
「あらま」
呟くような返事を聞きながら、敦はやはりね……と思った。やれやれと窓の外の空を見上げた。そんなところだろうなと予想していたので衝撃はない。
「誕生日は?」
「4月5日……です」
「へえ? 早生まれ? ……じゃないか」
「違います」
「んじゃ、今は2年生ね?」
「はい」
敦は少し考える。一度やってバイバイするつもりはない。未成年なガキの相手など、本来ならするものではないと理性が訴えるが真由は可愛い。簡単に手放せない。
「敦さん?」
不安そうにこちらを見るその化粧が取れた優しい面差しを指先で撫でるとはにかんだ様に微笑んでくる。まあ、今更リスクは十分に承知している。そうとわかっていて手を出したのだ。
「俺の事、好き?」
目の前で真っ赤になった娘が頷く。そりゃそうだろう。そうでないと、こんなとこまでついてきやしない。娘の好意に気付いてたからこそ、強引に連れてきたようなものだ。
「俺もマユ好き」と告げると目の前の顔は耳まで赤い範囲を広げた。隠していない首筋も胸も腹も下腹の淡い茂みも全て可愛い。胸元に口を落としてきつく吸うと緊張した反応を返してくる。
小さい文句の声を耳にして口を離すと、あっさりと付いたキスマークを眺める。真由もそれを見て、キッと彼の目を睨んだ。お返しとばかりに敦の首筋に口を付ける。あっと思った時にはチクリと噛まれた様な痛みが走り、やられたと感じた。学習能力が高い娘だなと感心して、思わず笑いがこぼれる。
「ひっでー、そんなすぐ見えるところに普通付ける?」
「え? ああっ!」
単純に目に付いて吸い付きやすい場所に吸い付いたのだろう娘はそこまで考えていなかったらしく、狼狽えた。
「すみません。私ったら……!」
その狼狽ぶりが可笑しくて敦は更に笑った。
「いいよ。それより、何か食べにいこ。うちの冷蔵庫はビールしか入ってないから」
身を起こしながら、彼女に笑いかける。
「まあ、マユが18になるまであと3ヶ月弱か。それまでは秘密の関係という事で宜しく」
「秘密ですか?」
少し肩を落とした彼女が不憫で思わず言葉を続ける。
「そうしないと俺が罪に問われるの。未成年に [みだらな性行為] を行った悪いおじさんという事で」
「おじさんって? 敦さん、そんなお年寄りではないと思いますが?」
「マユに比べるとおじさんって事。俺、23だよ」
苦笑しながら近くに脱ぎ捨てていたスエットの上下や下着を拾うと、洗濯籠に放り投げる。近くのイスの上に置かれていた洗濯した衣服の中からTシャツを取り上げて被るとそのまま用を足しにトイレに向かう。戻ってくると設置している押入れ収納を開いて下着を取り出した。背後から押し殺した笑いが聞こえてくる。
「何かおかしい?」
「だって、上から身に付けていくんですもん……」
どうやらTシャツだけ身に着けたままふるちんで歩いていたのが彼女のツボに嵌ったらしい。手にした下着を穿きながら敦は真由を睨んだ。
「何、余裕ぶっこいてんの? 素っ裸で偉そうに。マユも服着て準備しろよ。近くの店でモーニング出してるとこあるからいこ。祝日でもやってたと思う」
(そう……、今日は祝日ですわね)
思いも寄らない開放感に真由はワクワクした。
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