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拾壱 Nobis Pacem(我らに平安を)
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1.
真澄は家族に就寝の挨拶を済ませた後、自室で床に就きながら下校時の事を考えていた。真由の意向に沿うよう約束はしたものの、年若い彼女の脆弱な神経は刺激に弱い。真澄はあの男の事を思い出すだけで言いようも無い不安に陥る。今まで見たことも無い人種。恫喝、威嚇、そして暴力。小説や映画の中でしか目にする事はないと信じていた人間が突然血肉を携えて目の前に現れたのだ。恐ろしいと思わないほうがどうかしている。
彼女はいつもより格段に遅い帰宅に心配した家族から数回に渡り連絡を受けており、その都度、当たり障りの無い理由を述べて母親を安心させていた。帰宅後、離れに住まう祖父にも呼び出され、年端も行かない女の子が帰宅途中に寄り道などしてはいけない旨をしばし説教された。少々理不尽なものを感じたが、本当の事を話すわけにはいかないので、諦めて方向違いな説教を受け入れざるを得なかったのだ。
どうやら自分がしがみ付いた信二達一派は裏稼業を営む人間達だったようだ。真由の居場所を突き止めるために無我夢中でひっついていった先で、その日彼女はたっぷりと後悔する羽目になった。借金の取立て、仲間への指示、巡回する地域でのトラブル処理など多岐に渡る物騒なやりとりを目撃し、泣きそうになったのだ。
一見合法的な説得に聞こえる電話での会話もよくよく注意を払うと脅し以外の何ものでもない。どう考えてもならず者の集団である。
チンピラ然とした若者達は自分より少し年上の様だったが、もしかしたら高校生ぐらいの年齢かもしれない。ひどく崩れているので、年齢が掴みにくいのだ。彼らが自分を眺める視線には何か嫌な思惑を感じ、身を硬くしたが信二と呼ばれていた男のおかげで特に危険な目には遭わなかった。
「信二さん、その女どうすんですか?」
「どうもしねーよ。保護してるだけ。オメーラも手ー出すんじゃねーぞ」
舌打ちをする音が聞こえ、「あ? 不満!?」といきなり怒鳴った信二に顔を掴まれた若者が小声で謝罪するのが聞こえた。一番まともそうに見えた穏やかな顔をした男でさえもが、実はそれほど穏やかではないらしい事に気付いた真澄は背筋が凍るのを感じた。
その騒ぎから目を逸らしてドキドキする鼓動を宥めながら窓の外を眺めていると、それに気付いた信二が低い声で親切そうに忠告してきた。でも、それは親切を装った恐喝にも聞こえる。
「そうそう、大人しくしててね。なるべく俺達を刺激しない方がいいよ」
「あ~あ、敦さん、うまくやってっかな?」
誰かが嘆くように口に出す。
「今までとタイプちがわね? あの人の好きな女って超ド派手なタイプだと思ってた」
「え、でも可愛かったじゃん」
「ってか、高校生? 手を出すには若くね?」
「高校生ならありっしょ。相手が小学生ならビビるけどね」
可笑しそうに笑いながら誰かがコメントする。
「それ犯罪だっつーの。あの髪、見た? すっげー綺麗」
「顔も綺麗だったよ。剥いたら結構胸とかありそー」
「オッパイ星人な俺としてはもうちっと欲しいとこだな」
「お前は単純に巨乳好きなだけだろ?」
ぎゃはははと、下品に俗語を交えて笑っている。
丁度、信二がその場に居ない時だった。彼らが話題にしているのはどう考えても真由の事だろう。あの高貴な女性がこの様な下種な男達に下品に揶揄されている事実が歯噛みするほど呪わしい。聞くに堪えない。
真由は真澄の女神様だ。こうなりたいと思う彼女の理想が服を着て歩いている様な存在である。本来ならば彼らが一生掛かっても、その手に触れる事さえ望めない様な女性なのに、何でこんなところにたむろっている卑しい男達に言葉の上とは言え、侮辱されないといけないのだ?
「オメーら、うっせー。下品な会話、外まで聞こえてっぞ」
怒りに目が眩んだ真澄が口を開く前に信二が戻って来た。彼に黙れと一喝された若者達は不承不承口を噤んだ。
「ほら、どれがいい?」
自動販売機から購入してきたと思われるジュースや缶コーヒーなどをテーブルの上に並べ、真澄に選ばせると残りをその場に居る若者達に与える。この男が部屋に戻ってきてくれて真澄は心底自分が安堵している事に気付き、困惑した。理由はわかっている。
そこに居る男達は信二に止められているせいか、なるべく真澄を無視するようにそっぽを向いているが時々検分する様に見られている事に彼女は気付いていた。
その獣じみた視線がどうにも気持ち悪くて怖かったのだ。この一団の中で一番力があり、一番冷静な男は信二だろう。しかし、この男にしても人畜無害とは言い難い。それがわかっていても彼に精神的に縋らなければいけない今の状況は、真澄としては不本意そのものであった。
「あの、信二さん?」
「はい、はい」
愛想良く返事をする男に「はいは一度だけ」と言いたくなるのを堪える。
「いつになったらお姉さまと会えるのでしょうか?」
駅前ではヒステリックに彼にしがみついて問い詰めたが、今は身を小さくして尋ねる。
「んー、そろそろ連絡来るかも。もうちょっと待っててね」
自分の優位を嵩にかけて甚振る様な真似はせず、彼は宥めるようにそう告げて笑いかけてくれたので真澄は少しだけ安心した。
「お姉さまっ!」
その後しばらくして真由とその男が部屋に入ってきた時、真澄は安堵の為に泣きそうになってしまった。真由は少々疲れている様子だったが、いつもの高飛車な女王様に戻っていた。
ひとしきり彼女と話した後、真澄はそっと相手の男を窺った。彼はフェイクファーの襟が付いた派手な色のジャケットを着ていた。見かけはチャラいのにとても怖い。
その部屋に居る人間の中で一番関わりたくないタイプだった。気配に聡く、盗み見るとすぐに視線が合う。一見快活であかるいが、機嫌を損ねた時のヒヤリとする落差には唖然とする。信二は気安く彼に話しかけている様だが、明らかに気を使っているのがわかった。
先ほどまであれ程うるさかった若い連中の声が聞こえない。
何故だろうと不思議に思い、そっと彼らを窺うと、皆、大人しくしていた。その理由に思い当たった真澄は複雑なものを感じた。彼らの態度は先ほどまでの彼女自身の態度に酷似していたのだ。信二が居ない時に彼らの注意を惹きたくなくて、自分の気配を殺していた時の真澄の態度に似ている。
つまり、彼らにとって敦はなるべく注意を惹きたくない対象なのだろう。力関係は一目瞭然だが、とてもそれを笑う気分にはなれない。
2.
何故、真由はあの様な男に気を許すのだろう?
「この方は、私のトゥー・ソックスです」と真澄に囁いた彼女は喜びを隠そうともしていなかった。真澄は以前真由と取り交わした言葉を思い出す。その当時は「何てロマンチックな……」とうっとりしたものだった。
現在の生徒会体制が始まったばかりの去年の秋半ばだった。
生徒会のお仕事の後、真澄達1年生数人と会長を含む2年生役員とでお喋りをしている最中に誰かが「運命の人」とは何ぞやというおかしな話題を提示した。女子高生特有の無邪気な意見が飛び交い、笑いさざめいていた。
その時、教員室から戻ってきた真由が教師から頼まれたレポートを会長に渡しながら会話に加わった。
『皆様、何のお話かしら?』
『山辺先輩。運命の人ってお信じになられますか?』
『まあ。赤い糸云々ってお話?』
『そうです』
『申し訳ないけど、私はリアリストなのであまり信じてないのよ』
『あらま、さすが副会長』
誰かが苦笑した。
『そんなの役職には関係ないんじゃないの?』
今にして思うとあの言葉は会長だったかもしれない。
『じゃ、お好みの男性は? どの様な方がお好きですか?』
特に1年生が勢い込んで尋ねる。真澄を筆頭に真由のシンパは多い。曲がった事が嫌いで厳格で冷たいのに、時折り見せる優しさに惹かれてファンになる後輩は多い。彼女に関する情報なら一つでも多く皆知りたがるのだ。
春が来ると自分達にも後輩が出来る。中学からの持ち上がりも多いが、外部からの新入生も入って来るだろう。新たなライバルが学び舎に増えると思うと溜息もつきたくなるが、「私達は1年多くお姉さまに接しているのだ」と自らを鼓舞した。真由に対する真澄達のこの奇妙な占有意識は度々他の先輩にからかわれる種となる。
『そうね。ケビン・マイケル・コスナーという方が……』
『ま! 渋いのですね』
『最後までお聞きになって。私が申し上げたいのはその方が主演・監督を務めた映画に出演しましたトゥー・ソックスです』
皆、黙り込んだ。その様な名前の俳優を知らなかったせいだ。
『野性的で本当に素敵だった。あの様な存在に無二の親友だと思われたいわ』
『親友?』
『あら、ごめんなさい。異性の好みのお話だったわね。私の場合はきっと、好きになった方が好みのタイプになると思いますわ』
何気なくぼかした真由の回答に皆、煙に撒かれた気分になった。会長などは苦笑していたが、下級生はそれ以上しつこく食い下がる勇気が持てず、少しがっかりした雰囲気で別の話題に移っていったのを覚えている。
『お姉さま、動物がお好きなのですね?』
後日、真澄が内緒話を装って話しかけると真由に苦笑された。
『ご自身でお調べになったの? 訊いて下さったらお教えしますよ?』
『いえ、自分で調べたかったのです』
『そうなの? あんなに痩せ細った狼なのにとか思いませんでしたか?』
『いえ、そんな事ないです』
『映画撮影に使われた狼は当然野生ではないと思いますけれど、野生の狼とあの様なコミュニケーションが取れましたらって夢想しますの。おかしいかしら?』
目を細めた真由に見つめられ、真澄はドキドキした。お姉さまは本当に変わっていらっしゃる。(そんなの危険です)と思ったが、口には出来なかった。お姉さまの優しい夢想を無粋な言葉で汚したくなかったのだ。
「トゥー・ソックス」とはきっと真由の心の中で聖別された特別な対象を表す代名詞だろう。きっとそれは唯一の伴侶だったり、得がたい友人であったり、一生手放せない宝物だったりするのだろうと真澄は理解した。
敦を見た時、確かに彼は特別な人間に見えた。でも、素直に真澄は納得出来ない。
(お姉さま、幾らなんでも危険すぎます。あの方は違いすぎます)
3.
神の子羊、世の罪を除きたもう主よ、
我らに平安を与えたまえ。
真由は自分がこれ程我慢できない性格だと考えた事は今まで一度も無かった。逆に自分の事を我慢強いと自己評価する機会のほうが圧倒的に多いと思う。しかし、間に一日置いただけで、もう中毒患者の様に心が、身体が欲している。……敦を。
土曜日は午前中の授業だけで下校となる。公立の高校などは完全に土曜日の授業が無い学校もあるようだが、真由達が通うこのミッション系の私立女子高は土曜にも授業が行われる。
生徒会の集まりも無い事を念の為に確認した真由は大急ぎで学校を後にした。昨夜読んだメールには「週末には遊びにおいで」という内容が記されていた。やっと会える。
「お姉さま!」
校門を出た真由は真澄が追いすがってきたのに気付いた。
「なあに? 真澄さん」
足早に歩きながら返答すると彼女は「いえ」と少し顔を曇らせた。
「せっかくですので、途中までご一緒してよろしいでしょうか?」
「勿論よ。真澄さん」
少し歩く速度を緩めて隣を歩く後輩を横目で眺めると、彼女は嬉しそうに頬を染めた。
「お急ぎのようですね」
「まあ。そうね……。ふふ」
喜びを隠さない真由を眺めながら真澄は不思議な気分になる。いつも沈着冷静で自分を見失わない真由は普段感情を表に出さない。しかし、どうやらあの男が関係する場合に限り、その定義は当て嵌まらなくなるらしい。尊敬するお姉さまが年相応な少女に始めて見えた。
「これから外出されるのですか?」
「帰宅後の行動を真澄さんに事前報告する義務はあるのかしら?」
素っ気無く返答しながら、真澄を眺める目付きが冷たくなる。出しゃばるなとその目が言ってる。動向を探られたのが癇に障ったのだろう。
「滅相も無い。失礼いたしました、お姉さま。ただ」
真澄は慌てて謝罪した。真由のこういった一面は変わっていない。頼もしく感じると共に彼女にもっと近づきたい下級生は溜息をそっとついた。(お姉さまは冷たい)
「ただ? 何ですか?」
「いえ、もし外出あそばれるのでしたら、どうかお気をつけてと申し上げたかったので」
「ま、その敬語は大仰ですよ」
真由は目を細めて微笑んだ。するりと隣を歩く下級生の腕に自分の腕を絡めて内緒話を囁くように顔を近づけた。
「おかしな方ね。私の予定をまるでご存知の様。どちらにしろ、ご忠告感謝いたします」
赤面している可愛い下級生をからかいながら歩く真由はその時点ではとても幸福だった。
「敦」
「ん?」
自宅のアパートの外で愛車の前に跪き、チェーンの手入れを行っていた敦は顔を上げた。夜間働いている為、普段ならまだ寝ている筈の女が目の前に立っている。
「アンナか。久しぶり」
「ホント、久しぶりね」
「こんな時間に何フラフラしてんの? 睡眠不足はお肌の敵だよ」
手にしていたチェーンクリーナーを地面に置くと、軍手をつけたままの手を上げて汚れの少ない腕の部分で額の汗を拭く。
「あ。汚れたよ」
笑った女が手を伸ばして自分の指で敦の額に付いた油汚れを拭う。拭った汚れをその辺りに転がっているペーパータオルの残骸に擦りつけながら「今日は休みだし」と言葉を続ける。
「天気いいけど、冬だよ。寒くないの?」
「作業中」
Tシャツ姿でクリーナーを吹き付けたチェーンを専用のブラシで擦り、ペーパータオルで液体を拭き取る作業を繰返しながら彼は答える。
「敦も今日は休み?」
「ん」
アフリカの血がどこかに入っている女はその抜群のスタイルを見せ付けるような丈の短いスカートを纏っていた。作業中の敦の背後に立ってその長い脚を彼の背中に押し付ける。
「押すな」
「休みならどっか遊びにいこーよ」
「用事あるからいかねー」
「敦んちでエッチでもいいよ。ね?」
「あのさ、俺、彼女出来たから」
「え?」
タイヤを手で廻して、拭き残しの箇所が無いか確認すると敦はチェーンクリーナーに蓋をして、そのノズルを格納した。専用ブラシとまとめて輪ゴムで束ねると近くに置き、代わりにチェーンオイルを手に注油作業に取り掛かる。
「聞こえた? 一応、そういうわけでオメーとはもう遊ばないから」
手早く油を注し終わると、振り向いて女の顔を見ながら両手の軍手を外す。
「やだ、彼女出来たって本当の話だったんだ」
彼女は眉を顰めながら敦を見つめた。
「何? 知ってたのに粉かけてきたの? きったねー」
「しばらく見ないうちにそんな事になってんだもん。ズルイ」
「ズルイも何もオメーとは関係ないだろ?」
「あるよ。遊ぶ女が増える分にはいいけど、そうやって1人に絞られると私が遊べなくなるじゃない?」
「しゃーねーべ。アンナはそこんとこ割り切ってると思うから付き合ってきたし」
確かにそうだ。彼女もその辺りの割り切りはしていると自分でも思ってた。でも、この男が誰か1人のものになったと聞くと無性に腹立たしい。ここ数年は特定の彼女は作っていなかった男だ。そんなものと思って割り切るしか、付き合えなかった。
「悔しい、敦のバカ」
「あ?」
敦は外した軍手をジーンズの尻ポケットに突っ込んで、スタンドを外してバイクを押し始めていた。
「悪い、そこのゴミとクリーナー持ってきて」
ムカついた女はふと通行人の1人に目が留まった。知らない相手の筈なのに何故か印象に残る娘だった。彼女はバイクを押している敦を見つけ、表情を変えた。歩く速度が速まる。
(まさかね)と思いながらも、アンナは足早に敦に近づいた。本命かセフレの1人かは知らないけれど、明らかに敦を訪ねて来た様子だ。
「おい、それ拾ってくれって言ったんだけど」
振り返って地面を一瞥しながら文句を言う男の顔を両手で掴んで自分に向けると、喋っているその口に深く口付けた。
「ん? ……んっ……」
大型バイクを両手で動かしていた男は抵抗できずに、いいように唇を貪られて首を振る。やっと唇が外れると、「この!」と叫んだ男の尻を片手で撫で上げた女は驚いて閉口した男に顔を近づけ、「ザマーミロ」と囁き、彼から離れた。
「あ、こら待て! アンナ!」
さっさと距離をとった女は少し離れた位置から敦に向かって優しい微笑を見せながら、笑った。
「またね。楽しかったわ、ダーリン」
「は?」
訳がわからず首を傾げた敦は時をおかずに女の狡知を思い知る事になる。彼の背後5メートルほどの路上に固まった真由が立っていた。
4.
その光景に真由は凍りついた。
バイクを引いている敦に気付いた彼女は足早に近づいていった。予定より早く到着したので彼を驚かしてあげたい気分だったのだ。あと少しと思っている時、彼の傍らに立っていた人間が真由を窺ったのに気付いた。褐色の日焼けしたような肌を持った、恐ろしくスタイルが良い女だった。そして次の瞬間、彼女は突然敦の顔を両手で引き寄せて「マウス・トゥ・マウス」の口付けを始めたので、真由は驚いて足を止めた。
クラブで敦を目撃した夜を思い出す。それと同時に敦の言葉が甦る。『あんなのは挨拶だよ』これも挨拶なのだろうか?
長くなる口付けに敦が首を振ろうとしているのがわかる。女は情熱的に彼の唇を舐り、舌を這わせているのが距離をとっていてもわかる。やっと、口付けを解いたと思ったら、彼女は楽しそうに彼のジーンズに包まれた尻を撫で上げて告げた。
「またね。楽しかったわ、ダーリン」
自分の口の中で歯が噛み締められるのがわかった。その女は確かに真由に視線を投げた。面白そうに片頬だけで笑っている。それは挑発であり、挑戦であり、そして嘲笑だった。真由は怒りと屈辱で血管が切れ掛かった。
その女は固まったまま自分を睨みつける真由を蔑むような目付きで眺めると、身体の向きを変えて振り返りもせずにその場から立ち去った。
「敦さん」
「あれ?」
彼に声を掛けると敦が真由に気付いてバイクを押す手を止めた。若干の気まずげな表情に見えるのは穿った見方だろうか?
「ご説明願います」
硬い声音でそう告げてくる娘を見つめながら、敦はアンナの言葉の意味にやっと気付いた。
(くそっ。あのビッチ! やりゃーがったな)
真澄は家族に就寝の挨拶を済ませた後、自室で床に就きながら下校時の事を考えていた。真由の意向に沿うよう約束はしたものの、年若い彼女の脆弱な神経は刺激に弱い。真澄はあの男の事を思い出すだけで言いようも無い不安に陥る。今まで見たことも無い人種。恫喝、威嚇、そして暴力。小説や映画の中でしか目にする事はないと信じていた人間が突然血肉を携えて目の前に現れたのだ。恐ろしいと思わないほうがどうかしている。
彼女はいつもより格段に遅い帰宅に心配した家族から数回に渡り連絡を受けており、その都度、当たり障りの無い理由を述べて母親を安心させていた。帰宅後、離れに住まう祖父にも呼び出され、年端も行かない女の子が帰宅途中に寄り道などしてはいけない旨をしばし説教された。少々理不尽なものを感じたが、本当の事を話すわけにはいかないので、諦めて方向違いな説教を受け入れざるを得なかったのだ。
どうやら自分がしがみ付いた信二達一派は裏稼業を営む人間達だったようだ。真由の居場所を突き止めるために無我夢中でひっついていった先で、その日彼女はたっぷりと後悔する羽目になった。借金の取立て、仲間への指示、巡回する地域でのトラブル処理など多岐に渡る物騒なやりとりを目撃し、泣きそうになったのだ。
一見合法的な説得に聞こえる電話での会話もよくよく注意を払うと脅し以外の何ものでもない。どう考えてもならず者の集団である。
チンピラ然とした若者達は自分より少し年上の様だったが、もしかしたら高校生ぐらいの年齢かもしれない。ひどく崩れているので、年齢が掴みにくいのだ。彼らが自分を眺める視線には何か嫌な思惑を感じ、身を硬くしたが信二と呼ばれていた男のおかげで特に危険な目には遭わなかった。
「信二さん、その女どうすんですか?」
「どうもしねーよ。保護してるだけ。オメーラも手ー出すんじゃねーぞ」
舌打ちをする音が聞こえ、「あ? 不満!?」といきなり怒鳴った信二に顔を掴まれた若者が小声で謝罪するのが聞こえた。一番まともそうに見えた穏やかな顔をした男でさえもが、実はそれほど穏やかではないらしい事に気付いた真澄は背筋が凍るのを感じた。
その騒ぎから目を逸らしてドキドキする鼓動を宥めながら窓の外を眺めていると、それに気付いた信二が低い声で親切そうに忠告してきた。でも、それは親切を装った恐喝にも聞こえる。
「そうそう、大人しくしててね。なるべく俺達を刺激しない方がいいよ」
「あ~あ、敦さん、うまくやってっかな?」
誰かが嘆くように口に出す。
「今までとタイプちがわね? あの人の好きな女って超ド派手なタイプだと思ってた」
「え、でも可愛かったじゃん」
「ってか、高校生? 手を出すには若くね?」
「高校生ならありっしょ。相手が小学生ならビビるけどね」
可笑しそうに笑いながら誰かがコメントする。
「それ犯罪だっつーの。あの髪、見た? すっげー綺麗」
「顔も綺麗だったよ。剥いたら結構胸とかありそー」
「オッパイ星人な俺としてはもうちっと欲しいとこだな」
「お前は単純に巨乳好きなだけだろ?」
ぎゃはははと、下品に俗語を交えて笑っている。
丁度、信二がその場に居ない時だった。彼らが話題にしているのはどう考えても真由の事だろう。あの高貴な女性がこの様な下種な男達に下品に揶揄されている事実が歯噛みするほど呪わしい。聞くに堪えない。
真由は真澄の女神様だ。こうなりたいと思う彼女の理想が服を着て歩いている様な存在である。本来ならば彼らが一生掛かっても、その手に触れる事さえ望めない様な女性なのに、何でこんなところにたむろっている卑しい男達に言葉の上とは言え、侮辱されないといけないのだ?
「オメーら、うっせー。下品な会話、外まで聞こえてっぞ」
怒りに目が眩んだ真澄が口を開く前に信二が戻って来た。彼に黙れと一喝された若者達は不承不承口を噤んだ。
「ほら、どれがいい?」
自動販売機から購入してきたと思われるジュースや缶コーヒーなどをテーブルの上に並べ、真澄に選ばせると残りをその場に居る若者達に与える。この男が部屋に戻ってきてくれて真澄は心底自分が安堵している事に気付き、困惑した。理由はわかっている。
そこに居る男達は信二に止められているせいか、なるべく真澄を無視するようにそっぽを向いているが時々検分する様に見られている事に彼女は気付いていた。
その獣じみた視線がどうにも気持ち悪くて怖かったのだ。この一団の中で一番力があり、一番冷静な男は信二だろう。しかし、この男にしても人畜無害とは言い難い。それがわかっていても彼に精神的に縋らなければいけない今の状況は、真澄としては不本意そのものであった。
「あの、信二さん?」
「はい、はい」
愛想良く返事をする男に「はいは一度だけ」と言いたくなるのを堪える。
「いつになったらお姉さまと会えるのでしょうか?」
駅前ではヒステリックに彼にしがみついて問い詰めたが、今は身を小さくして尋ねる。
「んー、そろそろ連絡来るかも。もうちょっと待っててね」
自分の優位を嵩にかけて甚振る様な真似はせず、彼は宥めるようにそう告げて笑いかけてくれたので真澄は少しだけ安心した。
「お姉さまっ!」
その後しばらくして真由とその男が部屋に入ってきた時、真澄は安堵の為に泣きそうになってしまった。真由は少々疲れている様子だったが、いつもの高飛車な女王様に戻っていた。
ひとしきり彼女と話した後、真澄はそっと相手の男を窺った。彼はフェイクファーの襟が付いた派手な色のジャケットを着ていた。見かけはチャラいのにとても怖い。
その部屋に居る人間の中で一番関わりたくないタイプだった。気配に聡く、盗み見るとすぐに視線が合う。一見快活であかるいが、機嫌を損ねた時のヒヤリとする落差には唖然とする。信二は気安く彼に話しかけている様だが、明らかに気を使っているのがわかった。
先ほどまであれ程うるさかった若い連中の声が聞こえない。
何故だろうと不思議に思い、そっと彼らを窺うと、皆、大人しくしていた。その理由に思い当たった真澄は複雑なものを感じた。彼らの態度は先ほどまでの彼女自身の態度に酷似していたのだ。信二が居ない時に彼らの注意を惹きたくなくて、自分の気配を殺していた時の真澄の態度に似ている。
つまり、彼らにとって敦はなるべく注意を惹きたくない対象なのだろう。力関係は一目瞭然だが、とてもそれを笑う気分にはなれない。
2.
何故、真由はあの様な男に気を許すのだろう?
「この方は、私のトゥー・ソックスです」と真澄に囁いた彼女は喜びを隠そうともしていなかった。真澄は以前真由と取り交わした言葉を思い出す。その当時は「何てロマンチックな……」とうっとりしたものだった。
現在の生徒会体制が始まったばかりの去年の秋半ばだった。
生徒会のお仕事の後、真澄達1年生数人と会長を含む2年生役員とでお喋りをしている最中に誰かが「運命の人」とは何ぞやというおかしな話題を提示した。女子高生特有の無邪気な意見が飛び交い、笑いさざめいていた。
その時、教員室から戻ってきた真由が教師から頼まれたレポートを会長に渡しながら会話に加わった。
『皆様、何のお話かしら?』
『山辺先輩。運命の人ってお信じになられますか?』
『まあ。赤い糸云々ってお話?』
『そうです』
『申し訳ないけど、私はリアリストなのであまり信じてないのよ』
『あらま、さすが副会長』
誰かが苦笑した。
『そんなの役職には関係ないんじゃないの?』
今にして思うとあの言葉は会長だったかもしれない。
『じゃ、お好みの男性は? どの様な方がお好きですか?』
特に1年生が勢い込んで尋ねる。真澄を筆頭に真由のシンパは多い。曲がった事が嫌いで厳格で冷たいのに、時折り見せる優しさに惹かれてファンになる後輩は多い。彼女に関する情報なら一つでも多く皆知りたがるのだ。
春が来ると自分達にも後輩が出来る。中学からの持ち上がりも多いが、外部からの新入生も入って来るだろう。新たなライバルが学び舎に増えると思うと溜息もつきたくなるが、「私達は1年多くお姉さまに接しているのだ」と自らを鼓舞した。真由に対する真澄達のこの奇妙な占有意識は度々他の先輩にからかわれる種となる。
『そうね。ケビン・マイケル・コスナーという方が……』
『ま! 渋いのですね』
『最後までお聞きになって。私が申し上げたいのはその方が主演・監督を務めた映画に出演しましたトゥー・ソックスです』
皆、黙り込んだ。その様な名前の俳優を知らなかったせいだ。
『野性的で本当に素敵だった。あの様な存在に無二の親友だと思われたいわ』
『親友?』
『あら、ごめんなさい。異性の好みのお話だったわね。私の場合はきっと、好きになった方が好みのタイプになると思いますわ』
何気なくぼかした真由の回答に皆、煙に撒かれた気分になった。会長などは苦笑していたが、下級生はそれ以上しつこく食い下がる勇気が持てず、少しがっかりした雰囲気で別の話題に移っていったのを覚えている。
『お姉さま、動物がお好きなのですね?』
後日、真澄が内緒話を装って話しかけると真由に苦笑された。
『ご自身でお調べになったの? 訊いて下さったらお教えしますよ?』
『いえ、自分で調べたかったのです』
『そうなの? あんなに痩せ細った狼なのにとか思いませんでしたか?』
『いえ、そんな事ないです』
『映画撮影に使われた狼は当然野生ではないと思いますけれど、野生の狼とあの様なコミュニケーションが取れましたらって夢想しますの。おかしいかしら?』
目を細めた真由に見つめられ、真澄はドキドキした。お姉さまは本当に変わっていらっしゃる。(そんなの危険です)と思ったが、口には出来なかった。お姉さまの優しい夢想を無粋な言葉で汚したくなかったのだ。
「トゥー・ソックス」とはきっと真由の心の中で聖別された特別な対象を表す代名詞だろう。きっとそれは唯一の伴侶だったり、得がたい友人であったり、一生手放せない宝物だったりするのだろうと真澄は理解した。
敦を見た時、確かに彼は特別な人間に見えた。でも、素直に真澄は納得出来ない。
(お姉さま、幾らなんでも危険すぎます。あの方は違いすぎます)
3.
神の子羊、世の罪を除きたもう主よ、
我らに平安を与えたまえ。
真由は自分がこれ程我慢できない性格だと考えた事は今まで一度も無かった。逆に自分の事を我慢強いと自己評価する機会のほうが圧倒的に多いと思う。しかし、間に一日置いただけで、もう中毒患者の様に心が、身体が欲している。……敦を。
土曜日は午前中の授業だけで下校となる。公立の高校などは完全に土曜日の授業が無い学校もあるようだが、真由達が通うこのミッション系の私立女子高は土曜にも授業が行われる。
生徒会の集まりも無い事を念の為に確認した真由は大急ぎで学校を後にした。昨夜読んだメールには「週末には遊びにおいで」という内容が記されていた。やっと会える。
「お姉さま!」
校門を出た真由は真澄が追いすがってきたのに気付いた。
「なあに? 真澄さん」
足早に歩きながら返答すると彼女は「いえ」と少し顔を曇らせた。
「せっかくですので、途中までご一緒してよろしいでしょうか?」
「勿論よ。真澄さん」
少し歩く速度を緩めて隣を歩く後輩を横目で眺めると、彼女は嬉しそうに頬を染めた。
「お急ぎのようですね」
「まあ。そうね……。ふふ」
喜びを隠さない真由を眺めながら真澄は不思議な気分になる。いつも沈着冷静で自分を見失わない真由は普段感情を表に出さない。しかし、どうやらあの男が関係する場合に限り、その定義は当て嵌まらなくなるらしい。尊敬するお姉さまが年相応な少女に始めて見えた。
「これから外出されるのですか?」
「帰宅後の行動を真澄さんに事前報告する義務はあるのかしら?」
素っ気無く返答しながら、真澄を眺める目付きが冷たくなる。出しゃばるなとその目が言ってる。動向を探られたのが癇に障ったのだろう。
「滅相も無い。失礼いたしました、お姉さま。ただ」
真澄は慌てて謝罪した。真由のこういった一面は変わっていない。頼もしく感じると共に彼女にもっと近づきたい下級生は溜息をそっとついた。(お姉さまは冷たい)
「ただ? 何ですか?」
「いえ、もし外出あそばれるのでしたら、どうかお気をつけてと申し上げたかったので」
「ま、その敬語は大仰ですよ」
真由は目を細めて微笑んだ。するりと隣を歩く下級生の腕に自分の腕を絡めて内緒話を囁くように顔を近づけた。
「おかしな方ね。私の予定をまるでご存知の様。どちらにしろ、ご忠告感謝いたします」
赤面している可愛い下級生をからかいながら歩く真由はその時点ではとても幸福だった。
「敦」
「ん?」
自宅のアパートの外で愛車の前に跪き、チェーンの手入れを行っていた敦は顔を上げた。夜間働いている為、普段ならまだ寝ている筈の女が目の前に立っている。
「アンナか。久しぶり」
「ホント、久しぶりね」
「こんな時間に何フラフラしてんの? 睡眠不足はお肌の敵だよ」
手にしていたチェーンクリーナーを地面に置くと、軍手をつけたままの手を上げて汚れの少ない腕の部分で額の汗を拭く。
「あ。汚れたよ」
笑った女が手を伸ばして自分の指で敦の額に付いた油汚れを拭う。拭った汚れをその辺りに転がっているペーパータオルの残骸に擦りつけながら「今日は休みだし」と言葉を続ける。
「天気いいけど、冬だよ。寒くないの?」
「作業中」
Tシャツ姿でクリーナーを吹き付けたチェーンを専用のブラシで擦り、ペーパータオルで液体を拭き取る作業を繰返しながら彼は答える。
「敦も今日は休み?」
「ん」
アフリカの血がどこかに入っている女はその抜群のスタイルを見せ付けるような丈の短いスカートを纏っていた。作業中の敦の背後に立ってその長い脚を彼の背中に押し付ける。
「押すな」
「休みならどっか遊びにいこーよ」
「用事あるからいかねー」
「敦んちでエッチでもいいよ。ね?」
「あのさ、俺、彼女出来たから」
「え?」
タイヤを手で廻して、拭き残しの箇所が無いか確認すると敦はチェーンクリーナーに蓋をして、そのノズルを格納した。専用ブラシとまとめて輪ゴムで束ねると近くに置き、代わりにチェーンオイルを手に注油作業に取り掛かる。
「聞こえた? 一応、そういうわけでオメーとはもう遊ばないから」
手早く油を注し終わると、振り向いて女の顔を見ながら両手の軍手を外す。
「やだ、彼女出来たって本当の話だったんだ」
彼女は眉を顰めながら敦を見つめた。
「何? 知ってたのに粉かけてきたの? きったねー」
「しばらく見ないうちにそんな事になってんだもん。ズルイ」
「ズルイも何もオメーとは関係ないだろ?」
「あるよ。遊ぶ女が増える分にはいいけど、そうやって1人に絞られると私が遊べなくなるじゃない?」
「しゃーねーべ。アンナはそこんとこ割り切ってると思うから付き合ってきたし」
確かにそうだ。彼女もその辺りの割り切りはしていると自分でも思ってた。でも、この男が誰か1人のものになったと聞くと無性に腹立たしい。ここ数年は特定の彼女は作っていなかった男だ。そんなものと思って割り切るしか、付き合えなかった。
「悔しい、敦のバカ」
「あ?」
敦は外した軍手をジーンズの尻ポケットに突っ込んで、スタンドを外してバイクを押し始めていた。
「悪い、そこのゴミとクリーナー持ってきて」
ムカついた女はふと通行人の1人に目が留まった。知らない相手の筈なのに何故か印象に残る娘だった。彼女はバイクを押している敦を見つけ、表情を変えた。歩く速度が速まる。
(まさかね)と思いながらも、アンナは足早に敦に近づいた。本命かセフレの1人かは知らないけれど、明らかに敦を訪ねて来た様子だ。
「おい、それ拾ってくれって言ったんだけど」
振り返って地面を一瞥しながら文句を言う男の顔を両手で掴んで自分に向けると、喋っているその口に深く口付けた。
「ん? ……んっ……」
大型バイクを両手で動かしていた男は抵抗できずに、いいように唇を貪られて首を振る。やっと唇が外れると、「この!」と叫んだ男の尻を片手で撫で上げた女は驚いて閉口した男に顔を近づけ、「ザマーミロ」と囁き、彼から離れた。
「あ、こら待て! アンナ!」
さっさと距離をとった女は少し離れた位置から敦に向かって優しい微笑を見せながら、笑った。
「またね。楽しかったわ、ダーリン」
「は?」
訳がわからず首を傾げた敦は時をおかずに女の狡知を思い知る事になる。彼の背後5メートルほどの路上に固まった真由が立っていた。
4.
その光景に真由は凍りついた。
バイクを引いている敦に気付いた彼女は足早に近づいていった。予定より早く到着したので彼を驚かしてあげたい気分だったのだ。あと少しと思っている時、彼の傍らに立っていた人間が真由を窺ったのに気付いた。褐色の日焼けしたような肌を持った、恐ろしくスタイルが良い女だった。そして次の瞬間、彼女は突然敦の顔を両手で引き寄せて「マウス・トゥ・マウス」の口付けを始めたので、真由は驚いて足を止めた。
クラブで敦を目撃した夜を思い出す。それと同時に敦の言葉が甦る。『あんなのは挨拶だよ』これも挨拶なのだろうか?
長くなる口付けに敦が首を振ろうとしているのがわかる。女は情熱的に彼の唇を舐り、舌を這わせているのが距離をとっていてもわかる。やっと、口付けを解いたと思ったら、彼女は楽しそうに彼のジーンズに包まれた尻を撫で上げて告げた。
「またね。楽しかったわ、ダーリン」
自分の口の中で歯が噛み締められるのがわかった。その女は確かに真由に視線を投げた。面白そうに片頬だけで笑っている。それは挑発であり、挑戦であり、そして嘲笑だった。真由は怒りと屈辱で血管が切れ掛かった。
その女は固まったまま自分を睨みつける真由を蔑むような目付きで眺めると、身体の向きを変えて振り返りもせずにその場から立ち去った。
「敦さん」
「あれ?」
彼に声を掛けると敦が真由に気付いてバイクを押す手を止めた。若干の気まずげな表情に見えるのは穿った見方だろうか?
「ご説明願います」
硬い声音でそう告げてくる娘を見つめながら、敦はアンナの言葉の意味にやっと気付いた。
(くそっ。あのビッチ! やりゃーがったな)
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