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第一章 オレが社長に・・・?

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「・・・少し考えさせて欲しい」

オレは親父の視線から目を逸らしながら言った。
親父はまた、鼻で嘲笑った。

「人は、変化を恐れるものだ。輝星、お前は今、変化する事に怯えている」

図星をつかれて、オレは動揺した。

「トップは決断しろ。判断が遅いと、従業員全員の命に係わると思え」

これまでの人生、オレの判断はことごとく遅かった。
判断することそのものから逃避して来たと言っても良い。
それが、現在のオレの生き方そのものを決定していた。
そして恐らく、オレの未来をも。

「まあいい」

親父がつまらなそうに言った。

「考える時間をやろう。猶予はあまりないがな」
「いつまで?」
「俺が死ぬまでには決めろ。そして、俺はいつ死ぬかわからん」

オレは瀬戸涼子と一緒に親父の病室から出た。

「どうして即決しなかったんですか」

少し責めるように瀬戸涼子はオレに尋ねた。

「だって・・・無理ですよ、そんなの」
気が付くとオレは言い訳をしていた。
「会社の規模も・・・仕事の内容もわからないし、そんな出来るかどうかわからない仕事を無責任に請け負う訳には。オレが判断を誤ったら、会社は本当に倒産してしまうんでしょう?従業員の人たちの人生を、無責任に背負う訳にはいかないし・・・それに・・・」
優柔不断と思われているだろうな。
だが、言わずにはいられなかった。
「オレは・・・一体どうしたら・・・」
ついこの間まで何の責任も自覚もなく生きていたフリーターが、突然社長になれと言われても。
ラッキー!っていう感情よりも先に、恐怖がオレの心を包んでいた。

「会社に来てみますか」

瀬戸涼子が提案してきた。

「ウチの事務所に来てみますか。そうすれば、やるにせよ、やらないにせよ、気持ちが決まるかもしれない」

こうしてオレは、親父の会社・・・瀬戸涼子の働く声優プロダクションへと、見学に行く事になった。
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