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第一章 オレが社長に・・・?

チャンス

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「チャンスを?」
「そうだ。お前の事は、瀬戸君に頼んで調べさせてもらった」
親父は、真っ直ぐにオレを見た。
「三流私大卒、就職活動は全敗。1DKの木造アパートに独り暮らし、近所のコンビニで深夜バイトをして生計を立てている。・・・まあ、誇れた現状ではないな」
「関係ないだろ。アンタにそんな事を言われる筋合いはないね」
思わず反論していた。
「オレはオレなりに幸せにやっているんだ。オレとおふくろを捨てたアンタに、どうこう言われる筋合いはない」
親父はまた、鼻で嘲笑った。
「金が欲しくはないか?」
・・・金が欲しくない人間なんていないだろう。
「人に尊敬される人間になりたくはないか?やりがいのある仕事をしてみたくはないか?」
オレは黙った。
黙らせられた。
「俺の会社の社長になれば、お前の生活は一変するだろう。今のまま、毒にも薬にもならんような人生を送りたければそうするがいい。俺は父親として、お前にチャンスを与えたいと思っただけだ。ドブネズミのような今の生活から抜け出す、最初で最後のチャンスをな」
何も言い返せなかった。
それほど、親父の言葉は自信と、説得力と、迫力と、そして何より慈愛に満ちていた。
「俺の会社を継げ。輝星」
「具体的に・・・どうすれば・・・オレには会社を経営する知識も経験も無い」
「私がサポートします」

いつの間にか、瀬戸涼子が病室に戻って来ていた。
手には花が活けられた花瓶を持っている。
美しいな、と思った。

「前にもお伝えしたと思いますが、私は社長の秘書です。輝星さんが社長になりましたら、私が輝星さんの秘書となって、輝星さんのお仕事のお手伝いをさせていただきます」
なるほど、美人秘書に手取り足取り仕事を教わるのも悪くはない。
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