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第一章 オレが社長に・・・?

再会

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一週間後。
オレは瀬戸涼子に連れられて、都内の病院に行った。
「こちらです」
何度も見舞いに来てくれているのだろう、瀬戸涼子は迷いなくオレを病室へ・・・親父のいる緩和ケア病棟へと案内してくれた。
「社長、失礼します」
瀬戸涼子が声をかけると、中から「入れ」という声が聞こえた。
「失礼します」

そこには、親父がいた。

一瞬、オレは親父を医者かと思った。
末期がんで緩和ケアを受けている、と聞いていたので、ベッドに横たわり、管やチューブや酸素吸入器などの機械につながれている瀕死の親父を想像していたのだが。
そこには、高そうなスーツをビシッと決め、髭をそり、髪型をビシッと決めた初老の紳士が立っていた。

「親父・・・か?」
「そうだ」

瀬戸涼子が、置いてあった花瓶を、持って来た花束と一緒に手に取った。
「私は花を活けて来ます」
そう言って部屋を出て行った。
オレは病室に、親父と二人きりにされてしまった。

「元気そうだな」
親父はオレに言った。
「俺が家を出たのはお前が3歳の時だから、かれこれ20年振りか」
オレには、親父の記憶はおろか、面影さえ覚えていなかった。
「久し振り、って感じじゃないな。初めまして、って言う方がしっくり来る」
「そうか」
親父は、オレの言葉を聞いて鼻で笑った。
「親父・・・と呼んでいいのかな」
親父が拒否しなかったので、オレは話を続けた。
「思っていたより元気そうじゃないか」
「外見はな。身体の中はもうボロボロなんだ」

じゃあ何故立っているんだ。
何故スーツで決めているんだ。
こんなことなら、オレもスーツを着て来るんだった。
Tシャツにジーンズの自分が、みすぼらしく、惨めに思えた。

「会社の件だが」
親父が切り出した。
「無理に受けなくてもいいぞ。自信がないなら、やめておけ」
カチンと来た。
親父の口調に、明らかにオレに対する侮蔑が感じられたからだ。
「オレに会社を継がせたいんじゃないのか?」
「俺はもうすぐ死ぬ」
親父は続けた。
「俺が死んだ後、会社がどうなろうがお前がどうなろうが知った事じゃない。ただお前に、チャンスをやろうと思っただけだ」
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