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第75話 日和と、年末年始の予定と
しおりを挟む「年末年始の予定は?」
少女漫画の世界にトリップしていた僕に、日和が尋ねてきた。
顔を上げて横に向けると、端正な顔立ちが興味津々といった様子で輝いている。
眩しいので、さっさと返答する。
「ずっと家にいる予定」
言うと、日和は「そっかー」と、僅かにしょぼくれた仕草を見せた。
「まあそうだよねー。普通、年末年始と言ったら帰省するもんだもんねー」
「いや、家って言うのは、ここのことなんだけど」
「へ?」
素っ頓狂な声を漏らす日和に、僕は淡々と返す。
「年末年始は、東京にいるよ」
「うええっ!?」
至近距離で驚声が炸裂し、鼓膜がぶるぶる震える。
思わず顔をしかめる僕に、日和がずいっと表情を近づけてきた。
「実家、帰らないの?」
「うん、そのつもり」
「どうして?」
訊かれて、逡巡し、答える。
「年末年始、交通費がバカにならないんだよね」
これも理由の一端ではあるが、クリティカルな部分は別である。
「あー、なるほど」
そんな僕の胸襟は気付かず、合点のいったように頷く日和。
「治くん、地元どこだっけ?」
訊かれて、豊かな自然と野菜が有名な事以外特に知名度のない出身県を口にする。
「うぎゃ、それはまた遠い地から」
「うん、だからちょっと時期をずらして帰省しようかなと」
「飛行機?」
「そう。夜行バスだと10時間以上かかる」
「うへえ、地獄」
「お尻が8つに割れる夢を見た」
「なにそれウケる」
日和がくすくすと笑う。
「というわけで、令和一発目の年越しは、部屋に引き篭もる」
「清々し過ぎるニート宣言だね」
「ちなみに日和は……どうするの?」
躊躇いを交えつつ、尋ねる。
んーっと、顎に人差し指を当てながら、日和は応えた。
「私も今年は帰らないかなー、お母さんとはこの前会ったし。それに」
「それに?」
「治くんが居るなら、少しでも一緒にいたいし」
上目遣い気味にさらりと言われて、言葉に詰まる。
日和が口にした理由は、僕が帰省しないクリティカルなそれと被っていた。
そのことに、驚きを覚える。
僕の反応を見てから日和は、悪戯っぽく笑った。
「……どういう意味で言ってんの、それ」
「んんー? そのままの意味だよ?」
掴み所のない笑みを浮かべたまま、ゆらゆらと身体を揺らし始める日和。
多分、からかわれているんだろうなと思った。
「治くんは、いつまで仕事?」
「27日で仕事納めの予定」
「うへえ。社会人は大変だねー」
「半分学生だけどね」
「そう言えばそうだったね。となると、明日明後日は暇しちゃうなー」
「……ああ、そうか。学生は冬休みか」
「ふふん。羨ましいでしょ?」
「ずっと暇するなら仕事している方がいい」
「むむむぅ、仕事大好き人間め」
「無生産な時間が好きじゃないだけだよ。友達と、どっか行ったりしないの?」
「ショッピング行ったり、ご飯行ったりくらいかなー」
「なんだ、充分満喫できるじゃないか」
「でも、一番一緒にいたい人との過ごす時間が少ない」
ちらちらと、日和がわざとらしく目配せしてくる。
「だから、どういう意味で言ってんの、それ」
「あははっ、照れてる。かーわいい」
くつくつと、日和は再び悪戯っぽく笑った。
やっぱりからかわれているのだと、確信を深める。
とはいえ、嫌な感じはしない。
むしろ楽しいとすら感じていた。
その時ふと、思いついて立ち上がる。
「どしたのー?」
日和の声を背に受けつつ、戸棚からあるものを取り出す。
ソファに戻ってから、日和に金属製のアイテムを差し出した。
「これって……」
金属製のアイテム──この部屋の合鍵を、まじまじと見つめる日和。
「休み中、僕が帰るまで待ってもらうのも悪いから、これで好きな時間に来たらいい」
インターホンが鳴ってからドアを開けに行く工数も削減できるし。
という意図も補足する。
「……日和?」
日和は表情の時を止めたまま、動作を静止させていた。
冷静に考えてみて、気づく。
他人に合鍵を渡されて、好きな時に来ていいと言われる意味を。
「あっ、いや、別にこれ、そんな深い意味はないというか、日和のことは信頼してるし、さっき説明した通り、待たせるのも悪いと思って」
自分でも驚くくらい上擦った声で釈明するも、日和は応えない。
今すぐ床に穴を空けて、一個下の階に逃げたくなった。
「……必要無さそうなら、無理に受け取らなくていい」
後悔とともに紡がれた言葉に対し、日和はぶんぶんと勢いよく頭を振った。
急に動きが戻ったので、たじろぐ。
「必要無くなんてない」
日和がじっと視線を寄越してくる。
「治くんが良いなら……合鍵、ほしい」
「う……うん」
元よりそのつもりだったので、特に抵抗もなく合鍵を握らせる。
ぎゅっ。
受け取った合鍵を、日和は大事そうに胸に抱いた。
まるで、この世に一つしかない宝物を抱きしめるように。
……そんなに、嬉しいものなのだろうか。
喜色を満面に讃える日和を見ていると、妙に気恥ずかしくなってきた。
誤魔化すように、日和の頭に手を伸ばす。
わしゃわしゃと、いつもよりも激しく。
「んぁっ、髪、ぼさっちゃうからあー」
非難の声に構わずしばらくの間、日和の頭を撫で続けた。
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