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第123話 他人に興味関心を持ち、理解しようとする姿勢
しおりを挟む「はい。これが望月君の、今月の評価シートね」
2月末、オフィスの応接室。
奥村さんが、ノートPCのディスプレイをこちらに向けてくる。
月一で実施される1on1の、評価シートの時間だ。
「ありがとうございます」
シートに記載された項目を上から順に見ていく。
視線は、ある一点の項目に注がれた。
『他人に興味関心を持ち、理解しようとする姿勢:3/5』
「上がってますね」
「大進歩よ、おめでとう」
ぱちぱちと、子供みたいに手を叩く奥村さん。
僕は実感が湧かず、もう一度、項目を見やる。
うん、『3』だ。
先月までは『2』だった。
去年の10月までに至っては『0』を刻み続けていた項目が、この半年たらずで『3』に上昇した。
僕の成長の、確かな客観評価そのものである。
それにしても。
「なかなか、上がらないものですね」
「3でも充分よ。この短期間で、よくぞここまで上げたわ」
テストの良い点数を取った我が子に向けるような笑顔で、奥村さんが言う。
「もちろん、望月君にはもっと上を目指してもらいたいけど……ひとまず、社員全員の基準ラインが『3』だから、新卒という望月君の立場からすると、凄い事だわ」
「新卒、という実感全然ないですけどね」
「確かに。もう、1年がっつり働いていたものね」
語尾に(笑)がつきそうな口調で言う奥村さん。
「でも」と前置きしてから、言葉を続ける。
「望月君なら、そう遠くないうちに『5』に到達できると思うわ。もともとポテンシャルは高いし、それに」
ふっと口元を和らげて、奥村さんはこう言い置いた。
「日和ちゃんが、いるものね」
「そう、ですね」
奥村さんの言葉の意図を噛み砕き、胸のあたりがむず痒くなる。
ふと、頭に懐かしいフレーズが舞い降りてきた。
それをそのまま、口にする。
「数字をあげて欲しいというよりも、人と人との関わりによる楽しさを感じて欲しい」
僕に向けられた瞳が、見開かれる。
「奥村さんが僕に、半年前の1on1で仰った言葉です」
これは同時に、半年前の僕がピンとこなかった言葉でもある。
「今では、意味がわかります」
わかった。
いや、わからせてくれた。
明るくて、おせっかいで、優しい、ひとりの女の子によって。
「奥村さんの判断は、正解でした。日和との関係を続けてきて、良かったです」
心から、そう思う。
そしてその後押しをしてくれた奥村さんには、感謝してもし切れない。
「ご助言、本当にありがとうございました」
軽く頭を下げてから、上げる。
そして、眉を顰めた。
奥村さんがまるで、狐に包まれたかのような表情をしていたから。
「奥村さん?」
「なんだ」
ふわりと、奥村さんが笑みを灯す。
愛おしい我が子を見つめるような慈愛に満ち溢れた笑顔で、奥村さんはこう言った。
「ちゃんと笑えるじゃない」
────。
「僕、笑ってましたか?」
うんうんと、奥村さんが頷く。
「そう、ですか」
胸に、温もりが灯った。
これは照れ臭いという気持ち……それと、嬉しいという気持ち。
笑顔というものはやっぱり、プラスの感情を生み出してくれるんだなと再実感する。
「望月君」
「はい」
「今、幸せ?」
「はい、幸せです」
僕の即答に、奥村さんは「そっかそっかー」とにまにましながら頷いた。
今更ながら、羞恥が追いかけてくる。
それを隠すように目を逸らし、ぽりぽりと頭を掻いていると、
「……私も、頑張ろっかな」
「え?」
聞こえるか聞こえないくらいの声量で溢れた言葉。
「ううん、なんでもない」
その言葉の意図を汲み取れない内に、奥村さんが頭を横に振る。
そしてすぐに「あ、そうそう」と、懐から一枚の封筒を取り出した。
「はい、どうぞ」
「これは」
真っ白な、横長の封筒。
質感的に、ちょっとお高そう。
「開けたら、わかるわ」
促されるままに、封筒の中身を取り出す。
一行目に大きく、『内定通知書』の文字。
その下には、明朝体フォントでかっちりとした文章がつらつらと述べられていた。
『君を正社員としてうちの会社に迎え入れるよ』
ざっくり要約すると、そのようなことが書かれてあった。
「入社おめでとう」
わーぱちぱちと、奥村さんがまた、子供のように手を叩く。
「なんか、あっさり決まっちゃいましたね」
「そりゃあ、私が猛プッシュしたから!」
「ええっ、なんか……すみません」
「なんで謝るのー」
くすくすと、口に手を当てて笑う奥村さん。
「猛プッシュって言ったけど、私は事実しか言ってないわ」
「というと?」
「望月くんの今までの頑張りと成果を、他の社員や人事部、そして社長も共通の認識として持っていた。だから、内定が出た。それだけよ」
……ああ、やっぱり。
嬉しいという感情は、こういう時のためになるのだろう、と思った。
身が震えるような高揚感。
何か言おうとしても、言葉が浮かばない。
本当に本当に、嬉しかった。
そんな感情が伝わったのか、
「改めて、入社おめでとう」
ぽんぽんと、奥村さんに肩を叩かれる。
「これからも頼りにしてるわ、望月君」
奥村さんが上司でよかった。
何度そう思った事だろう。
爆速で成長して、成果をガンガン出して、恩返しをしたい。
そう思える上司の下で働ける自分は多分、とても恵まれているのだろう。
この環境と巡り合わせを当たり前のものとは思わず、これからも精進していこう。
心の底から、思った。
そのための第一声を、今度は自発的に笑顔を浮かべて、口にした。
「はい。これからも、よろしくお願い致します」
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