3 / 76
異世界転生編
第3話 無謀なる戦意(1)
しおりを挟む
女神が何かをつぶやくと同時に、俺の視界は暗転した。
だがそれも一瞬のことで、世界に色が灯ったときには、俺は知らない場所へと移動していた。
───魔法…
頭に可能性が過る。それは、忌々しいあの女神によって俺が転移させられたということだ。
それが閃き、遅れて怒りがふつふつと湧いてきた。
「クソッ…!」
転移された場所は森のようだった。
日は高く昇っているのか、どちらにせよ木の多さから辺りは薄暗く、時間の指標となるものはなかった。屋敷にいる時は他のことで頭がいっぱいで時間など気にしていなかったし、そもそも時間が分かるものがなかった。
「どこを見ても木……か」
持ち物はない。制服を着ているだけで、ポケットに入れていたスマホなんかはなかった。あったからといって、ここでネットは使えないだろう。
「とりあえず───」
ガサッ
「───なんだ?」
不意に後ろから音がする。
それは、何かが草にぶつかった音。
風の音ではない。確実に、”何か”がぶつかった音。
”何か”がいる。俺の後ろに、何かが。
ドクンっと、心の音が高鳴るのを感じた。
命の危機。
真後ろにいる"何か"は俺にとって最悪の脅威。
そんな気がしてならない。
俺はそっと振り返る。
そして、”何か”と目があった。
そこに佇むのは金髪の獣。百獣の王に似ているが、別の生物。
それが別の生物であるのは、体長が5メートル以上もあることから明らかであった。
こんなやつが近づいてきて、足音がしないはずがない。
だが、最初にあたりを見渡した時、コイツはいなかった。
「つまり、音もなく近づくことができる、と」
簡単に推測できること。だが、俺をより危機的な状況に追い込むには十分な事実。
獣は俺を虎視眈々と見つめていた。いつ食ってやろうかと、こちらへ訴えているように見える。
獣にとって、俺は恰好の餌なのだ。
涎を垂らしながらグルルゥ…と唸り声を上げる様子がそれを雄弁に物語っていた。
「はは……やってられねぇよ……」
乾いた笑みが溢れる。
絶対に勝てない上位者を前にして、足も竦《すく》む。
それでも───
「死にたくは……ないんだよな」
生きる意志はまだ、残っている。
あの女神に復讐するまでは、まだ、死ねない。
だから、走る。
獣に背を向けスタートダッシュを切り、逃げるように木々の合間を走り抜ける。
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ────ッッ!!」
遅れてきた恐怖に、俺は叫びながら走った。
全力で、百獣の王に背を向けて走った。
あんな怪物には勝てない。
生き残るためには、逃げる必要がある。
後ろは一切振り返らない。
がむしゃらに前を向いて走る。
「あっ…」
人生でこれ以上ないほどの全力疾走だったからか。
恐怖で足が竦んでいることもあって、木の根に躓いた。
全力で走っていた俺の足がもつれ、木の根がそれに絡まった。
「うっ!」
バタンっと勢いよく転び、顔が地面と衝突した。
激痛が走り、その痛みについ声が漏れる。
そしてそれと同時、獣が俺に飛びかかった。
獣が俺の上を物凄い速度で通り過ぎていくのを感じる。
ただ、転んだことが幸いして偶然避けることができた。
まさに、奇跡。
生まれてこの方感じたことがない”死”への危機感と、そして圧倒的な危機感から一瞬でも逃れられたことによる安堵が同時に襲いかかる。
だが、次はもうない。これ以上、偶然は続かないだろう。
───何か、生き残る手はないのか?
圧倒的な上位者を前に出る疑問。もちろん、単純に走り回るだけでは生き残れないことは理解している。
───だからこそ、頭を使え。
俺のステータスの中で唯一高いのはINTだ。これは───頭を使えばどうにか打破できるかもしれない、ということだと信じたい。
「考えろ、考えろ、考えろッ───!」
走るか?───否。
隠れるか?───否。
どちらもとても逃げ切れはしない。
走るのも早く鼻もいい獣からは、その程度では逃げられない。
そんなことを考えている間に獣は俺の方に振り向く。
避けられたことに苛立ちを覚え、目には怒りを宿して。
「これしか───ない」
地に伏すように倒れている俺は今、木の根に手が触れている。
「<支配>ッ!」
俺は、俺の能力を信じる。
><支配>の行使に成功
成功した。
女神に蔑まれた能力が、無能と言われた能力が。まるで天が俺に味方をしたかのように、危機一髪の状況でそれは成功を見せた。
ならば───最後まで信じよう。
「俺を守れ!木!!」
木に何ができるというのか。傍から見ればただの悪足掻きでしかない。
実際、俺からしてもこれは最後の悪足掻き。
そう、悪足掻きのはずだった。
が───
俺の声に合わせて木の枝は動き出し、獣の四肢を絡めとるように巻き付いた。屈強な枝が獣の動きを封じたのだ。
「やれば……できるじゃないか」
その隙に俺は走る。
より速く、より遠く。
だがそれも一瞬のことで、世界に色が灯ったときには、俺は知らない場所へと移動していた。
───魔法…
頭に可能性が過る。それは、忌々しいあの女神によって俺が転移させられたということだ。
それが閃き、遅れて怒りがふつふつと湧いてきた。
「クソッ…!」
転移された場所は森のようだった。
日は高く昇っているのか、どちらにせよ木の多さから辺りは薄暗く、時間の指標となるものはなかった。屋敷にいる時は他のことで頭がいっぱいで時間など気にしていなかったし、そもそも時間が分かるものがなかった。
「どこを見ても木……か」
持ち物はない。制服を着ているだけで、ポケットに入れていたスマホなんかはなかった。あったからといって、ここでネットは使えないだろう。
「とりあえず───」
ガサッ
「───なんだ?」
不意に後ろから音がする。
それは、何かが草にぶつかった音。
風の音ではない。確実に、”何か”がぶつかった音。
”何か”がいる。俺の後ろに、何かが。
ドクンっと、心の音が高鳴るのを感じた。
命の危機。
真後ろにいる"何か"は俺にとって最悪の脅威。
そんな気がしてならない。
俺はそっと振り返る。
そして、”何か”と目があった。
そこに佇むのは金髪の獣。百獣の王に似ているが、別の生物。
それが別の生物であるのは、体長が5メートル以上もあることから明らかであった。
こんなやつが近づいてきて、足音がしないはずがない。
だが、最初にあたりを見渡した時、コイツはいなかった。
「つまり、音もなく近づくことができる、と」
簡単に推測できること。だが、俺をより危機的な状況に追い込むには十分な事実。
獣は俺を虎視眈々と見つめていた。いつ食ってやろうかと、こちらへ訴えているように見える。
獣にとって、俺は恰好の餌なのだ。
涎を垂らしながらグルルゥ…と唸り声を上げる様子がそれを雄弁に物語っていた。
「はは……やってられねぇよ……」
乾いた笑みが溢れる。
絶対に勝てない上位者を前にして、足も竦《すく》む。
それでも───
「死にたくは……ないんだよな」
生きる意志はまだ、残っている。
あの女神に復讐するまでは、まだ、死ねない。
だから、走る。
獣に背を向けスタートダッシュを切り、逃げるように木々の合間を走り抜ける。
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ────ッッ!!」
遅れてきた恐怖に、俺は叫びながら走った。
全力で、百獣の王に背を向けて走った。
あんな怪物には勝てない。
生き残るためには、逃げる必要がある。
後ろは一切振り返らない。
がむしゃらに前を向いて走る。
「あっ…」
人生でこれ以上ないほどの全力疾走だったからか。
恐怖で足が竦んでいることもあって、木の根に躓いた。
全力で走っていた俺の足がもつれ、木の根がそれに絡まった。
「うっ!」
バタンっと勢いよく転び、顔が地面と衝突した。
激痛が走り、その痛みについ声が漏れる。
そしてそれと同時、獣が俺に飛びかかった。
獣が俺の上を物凄い速度で通り過ぎていくのを感じる。
ただ、転んだことが幸いして偶然避けることができた。
まさに、奇跡。
生まれてこの方感じたことがない”死”への危機感と、そして圧倒的な危機感から一瞬でも逃れられたことによる安堵が同時に襲いかかる。
だが、次はもうない。これ以上、偶然は続かないだろう。
───何か、生き残る手はないのか?
圧倒的な上位者を前に出る疑問。もちろん、単純に走り回るだけでは生き残れないことは理解している。
───だからこそ、頭を使え。
俺のステータスの中で唯一高いのはINTだ。これは───頭を使えばどうにか打破できるかもしれない、ということだと信じたい。
「考えろ、考えろ、考えろッ───!」
走るか?───否。
隠れるか?───否。
どちらもとても逃げ切れはしない。
走るのも早く鼻もいい獣からは、その程度では逃げられない。
そんなことを考えている間に獣は俺の方に振り向く。
避けられたことに苛立ちを覚え、目には怒りを宿して。
「これしか───ない」
地に伏すように倒れている俺は今、木の根に手が触れている。
「<支配>ッ!」
俺は、俺の能力を信じる。
><支配>の行使に成功
成功した。
女神に蔑まれた能力が、無能と言われた能力が。まるで天が俺に味方をしたかのように、危機一髪の状況でそれは成功を見せた。
ならば───最後まで信じよう。
「俺を守れ!木!!」
木に何ができるというのか。傍から見ればただの悪足掻きでしかない。
実際、俺からしてもこれは最後の悪足掻き。
そう、悪足掻きのはずだった。
が───
俺の声に合わせて木の枝は動き出し、獣の四肢を絡めとるように巻き付いた。屈強な枝が獣の動きを封じたのだ。
「やれば……できるじゃないか」
その隙に俺は走る。
より速く、より遠く。
3
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる