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異世界転生編
第25話 女神の陰謀(1)
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黒い木材で作られた机と椅子。机の上には大量の書類と羽ペン、そして魔道具であろう石盤が置かれている。
椅子には一人の女性が座っていた。彼女こそ女神ベール本人である。
部屋にはもう一人、彼女のメイドと思われる人物が居る。赤髪ショートで、白と黒で織られたメイド服を着ている女性だ。
部屋は広すぎず、狭すぎず。本来は広かっただろう部屋は、壁際に大量の本棚があるせいで多少狭くなっている。ただ、それも含めて部屋の広さは丁度よい。
ここは女神ベールの仕事部屋、女神としての面倒な仕事をこなすためだけに作られた部屋だ。
積み上げられた大量の書類のほとんどが、勇者との会合を希望する各国の貴族や王族のもの。一部に勇者パーティーに志願する人物による資料もある。
女神が求めているのは後者の方だ。だが、それらの資料は送られた順に積み上げられており、分別などされていない。
「はぁ……」
女神の溜息の理由は語る必要も無いだろう。
忙しい時期だというのにくだらない内容の資料を送りつけてくる貴族に嫌気が差しているだけだ。
そんな女神の気苦労を察してか、部屋にいる赤髪のメイドは颯爽と机の上に紅茶を置く。女神が熱い紅茶を望まないことは長年の勤務により知っているので、魔法で冷やした上でコップに注ぐことを忘れない。
トポトポと規則的な音を立て、コップが紅茶で満たされていく。紅茶の香りなのか、部屋にハーブの香りが微かに漂う。
「ありがとうございます、メイ。あなたの淹れた紅茶は美味しいですから」
「いえいえ。私にはそれくらいしか取り柄がありませんゆえ」
謙遜して言うメイと呼ばれたメイドに、女神はくすくすと笑いながら続ける。
「そんなことはないでしょうに。───それで、勇者たちの動きはどうですか?」
突然トーンの変わった女神からの質問に、メイが戸惑うことはない。これも長年彼女に遣えてきたメイとしては慣れたことなのである。
「はい。特に怪しい動きはなく、それぞれ自室で過ごしているようです」
「それなら良かったけど……今回の勇者はいくら優秀とはいえ、一人抜けてしまいましたからね」
大して感情も籠もっていない声で、俯き加減に言う女神。
メイは賛同するでも反対するでもなく、
「───枷月葵でしたか?支配系統の勇者は確か……300年前に一度居ましたっけ?」
と答える。
「あー、そういえば居ましたねぇ。名前が出てこないですけど……彼女も無能でしたよね?」
「そうですね。私も名前は覚えていませんが──確か魔王城ですぐに殺された無能だとか?」
メイの言葉に、女神は思い出したと言わんばかりの顔になる。
「そんなんでしたね」
「やはり支配系統は決まって使えないのでしょう」
「そうですねぇ……。もしかしたら葵くんと彼女、なにか縁があるのかも?とか思っちゃったりしますね」
「”無能”という縁ですか?」
「あらあら、メイも酷いことを言いますねぇ」
「そうですか…?実際、異世界人にはそれくらいしか利用価値がないでしょう」
クスクスと女神も笑いながら話している。
こういう時の女神は妙に機嫌が良いことを、メイは長年の経験から知っていた。
「ところでベール様」
「ん?どうしたの?」
「勇者たちが魔王を倒したら、帰還の儀式は行うのですか?」
「それなんですがねぇ……帰還の儀式に必要な魔晶石が足りないんですよ」
この世界には魔素が漂っている。ただ、その魔素には偏りがあり、濃いところや薄いところがある。
魔素の使用例は様々だが、その最たるものと言えば魔法だろう。魔法を使うためには魔力───すなわち魔素が必要となる。
また、魔素は生物・無生物に関係なく、内在する力を増大させることができるが、基本的に無生物に魔素を貯めておくことはできない。魔素が濃い地帯のほうが生物は強くなり、無生物の質も良くなる。ただ、魔素を多く含んでいるかと言われれば、それはまた別の問題だ。
しかし、唯一無生物で魔素を蓄積できるものがある。それは”石”だ。
”石”が長い時間魔素に触れ、その中に多くの魔力を持つようになると、それは”魔石”と呼ばれるようになる。魔石には他にも、生物の体内にある魔素がダマになることでも出来る。
魔石には多くの活用方法がある。
まず、単純に魔力の供給アイテムとして使うことだ。
魔石の中には魔素が含まれているため、砕くことで中の魔素が放出され、瞬時に魔力を回復することが出来る。
次に、魔法を込めるというものだ。
魔石はそれ自体が魔力を持っているため、魔法を宿しておくことができる。そして、魔法が宿された魔石は魔力を流すことで反応し、魔法を放つことができる。ただ、威力はオリジナルの魔法に比べれば落ちてしまう。
最後に、物や人につけることで能力を強化するというもの。
これは単純で、武器の埋め込んだり人に埋め込んだりするだけで能力を上昇させることができるのだ。人に埋め込むのは危険が伴うので禁止されているが、武具に魔石が使われているかどうかでかなり強度が変わってくる。
魔石は活用方法も多く、また、入手も困難。ゆえに、貴重な資材の一つなのである。
魔晶石は魔石の中でも特に多くの魔力を秘めているものだ。一つ手に入れるだけでも、家一つと同じ値段が付く。
そんな魔晶石の魔力を使うことで初めて成功する儀式が<召喚の儀式>と<帰還の儀式>だ。
<召喚の儀式>はその名の通り、異世界から人や物を召喚する儀式。<帰還の儀式>はその逆で、異世界に人や物を送り込む儀式だ。
儀式とは言うが、行うのは1人のみ。高度な魔術の知識及び技術を要するだけでなく、一度異世界の情報を脳内にインプットする必要があるため、生半可なINTでは脳が焼き切れてしまうのが理由だ。女神レベルのINTとステータス補正を以てしても、やはり負荷の大きい大儀式となる。
更には高額な魔晶石が30個も必要なのだ。しかも必要数は重量によって加速度的に増加し、勇者たち全員を送り返す為には400を優に越える量の魔晶石が必要となる。
現在女神が所持しているのは26個。これだけでも個人が所持するにはかなりの量だが、儀式を行うには少なすぎる。もちろん、女神であれば手に入れることは出来るが、それはあくまで”不可能ではない”というレベルの話であり、わざわざ手に入れるかと言われれば、首を縦には振り難い。
──────────────────
本日もう1話更新します。
椅子には一人の女性が座っていた。彼女こそ女神ベール本人である。
部屋にはもう一人、彼女のメイドと思われる人物が居る。赤髪ショートで、白と黒で織られたメイド服を着ている女性だ。
部屋は広すぎず、狭すぎず。本来は広かっただろう部屋は、壁際に大量の本棚があるせいで多少狭くなっている。ただ、それも含めて部屋の広さは丁度よい。
ここは女神ベールの仕事部屋、女神としての面倒な仕事をこなすためだけに作られた部屋だ。
積み上げられた大量の書類のほとんどが、勇者との会合を希望する各国の貴族や王族のもの。一部に勇者パーティーに志願する人物による資料もある。
女神が求めているのは後者の方だ。だが、それらの資料は送られた順に積み上げられており、分別などされていない。
「はぁ……」
女神の溜息の理由は語る必要も無いだろう。
忙しい時期だというのにくだらない内容の資料を送りつけてくる貴族に嫌気が差しているだけだ。
そんな女神の気苦労を察してか、部屋にいる赤髪のメイドは颯爽と机の上に紅茶を置く。女神が熱い紅茶を望まないことは長年の勤務により知っているので、魔法で冷やした上でコップに注ぐことを忘れない。
トポトポと規則的な音を立て、コップが紅茶で満たされていく。紅茶の香りなのか、部屋にハーブの香りが微かに漂う。
「ありがとうございます、メイ。あなたの淹れた紅茶は美味しいですから」
「いえいえ。私にはそれくらいしか取り柄がありませんゆえ」
謙遜して言うメイと呼ばれたメイドに、女神はくすくすと笑いながら続ける。
「そんなことはないでしょうに。───それで、勇者たちの動きはどうですか?」
突然トーンの変わった女神からの質問に、メイが戸惑うことはない。これも長年彼女に遣えてきたメイとしては慣れたことなのである。
「はい。特に怪しい動きはなく、それぞれ自室で過ごしているようです」
「それなら良かったけど……今回の勇者はいくら優秀とはいえ、一人抜けてしまいましたからね」
大して感情も籠もっていない声で、俯き加減に言う女神。
メイは賛同するでも反対するでもなく、
「───枷月葵でしたか?支配系統の勇者は確か……300年前に一度居ましたっけ?」
と答える。
「あー、そういえば居ましたねぇ。名前が出てこないですけど……彼女も無能でしたよね?」
「そうですね。私も名前は覚えていませんが──確か魔王城ですぐに殺された無能だとか?」
メイの言葉に、女神は思い出したと言わんばかりの顔になる。
「そんなんでしたね」
「やはり支配系統は決まって使えないのでしょう」
「そうですねぇ……。もしかしたら葵くんと彼女、なにか縁があるのかも?とか思っちゃったりしますね」
「”無能”という縁ですか?」
「あらあら、メイも酷いことを言いますねぇ」
「そうですか…?実際、異世界人にはそれくらいしか利用価値がないでしょう」
クスクスと女神も笑いながら話している。
こういう時の女神は妙に機嫌が良いことを、メイは長年の経験から知っていた。
「ところでベール様」
「ん?どうしたの?」
「勇者たちが魔王を倒したら、帰還の儀式は行うのですか?」
「それなんですがねぇ……帰還の儀式に必要な魔晶石が足りないんですよ」
この世界には魔素が漂っている。ただ、その魔素には偏りがあり、濃いところや薄いところがある。
魔素の使用例は様々だが、その最たるものと言えば魔法だろう。魔法を使うためには魔力───すなわち魔素が必要となる。
また、魔素は生物・無生物に関係なく、内在する力を増大させることができるが、基本的に無生物に魔素を貯めておくことはできない。魔素が濃い地帯のほうが生物は強くなり、無生物の質も良くなる。ただ、魔素を多く含んでいるかと言われれば、それはまた別の問題だ。
しかし、唯一無生物で魔素を蓄積できるものがある。それは”石”だ。
”石”が長い時間魔素に触れ、その中に多くの魔力を持つようになると、それは”魔石”と呼ばれるようになる。魔石には他にも、生物の体内にある魔素がダマになることでも出来る。
魔石には多くの活用方法がある。
まず、単純に魔力の供給アイテムとして使うことだ。
魔石の中には魔素が含まれているため、砕くことで中の魔素が放出され、瞬時に魔力を回復することが出来る。
次に、魔法を込めるというものだ。
魔石はそれ自体が魔力を持っているため、魔法を宿しておくことができる。そして、魔法が宿された魔石は魔力を流すことで反応し、魔法を放つことができる。ただ、威力はオリジナルの魔法に比べれば落ちてしまう。
最後に、物や人につけることで能力を強化するというもの。
これは単純で、武器の埋め込んだり人に埋め込んだりするだけで能力を上昇させることができるのだ。人に埋め込むのは危険が伴うので禁止されているが、武具に魔石が使われているかどうかでかなり強度が変わってくる。
魔石は活用方法も多く、また、入手も困難。ゆえに、貴重な資材の一つなのである。
魔晶石は魔石の中でも特に多くの魔力を秘めているものだ。一つ手に入れるだけでも、家一つと同じ値段が付く。
そんな魔晶石の魔力を使うことで初めて成功する儀式が<召喚の儀式>と<帰還の儀式>だ。
<召喚の儀式>はその名の通り、異世界から人や物を召喚する儀式。<帰還の儀式>はその逆で、異世界に人や物を送り込む儀式だ。
儀式とは言うが、行うのは1人のみ。高度な魔術の知識及び技術を要するだけでなく、一度異世界の情報を脳内にインプットする必要があるため、生半可なINTでは脳が焼き切れてしまうのが理由だ。女神レベルのINTとステータス補正を以てしても、やはり負荷の大きい大儀式となる。
更には高額な魔晶石が30個も必要なのだ。しかも必要数は重量によって加速度的に増加し、勇者たち全員を送り返す為には400を優に越える量の魔晶石が必要となる。
現在女神が所持しているのは26個。これだけでも個人が所持するにはかなりの量だが、儀式を行うには少なすぎる。もちろん、女神であれば手に入れることは出来るが、それはあくまで”不可能ではない”というレベルの話であり、わざわざ手に入れるかと言われれば、首を縦には振り難い。
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本日もう1話更新します。
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