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異世界転生編
第28話 女神の陰謀(4)
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「今回の対魔王戦…強力な駒が多く揃いましたねぇ…」
「はい、勇者も含めれば余剰とも言える戦力でしょう」
「8人の勇者…それも過去最高クラスの勇者たち。戦士長に魔術師ギルドのマスター。冒険者ギルドもなかなかの粒揃いですねぇ。マスターはもちろん、”黒魔”のアギト、”蒼焔”のアリシアなんかは戦士長に並ぶ逸材でしょう。────ふふ、ようやくです、ようやくですねぇ……」
不気味に笑うベール。
念願の魔王討伐を目前にし、喜びを抑えきれていない様子だとメイは判断した。
自分の敬愛する女神は時折、人間らしい感情を見せる。それがまた彼女をより忠実にしている。
「向こう側の戦力はどうなのでしょうか?」
唯一の疑問が口から溢れた。
自陣営の戦力は把握できたが──相手の戦力はどうなのか。自陣営より強いという心配ではなく、ちゃんと把握できているかという確認であった。
「それは……把握する術があるかどうか、という意味ですよね?最近は攻めて来ないので戦力の把握が難しくはなりましたが……スパイが居るのですよ」
声を潜め、耳打ちするように言う女神。
やけに神妙な面持ちの彼女に、メイはごくりと唾を飲んだ。
そして、慎重に言葉を選び、口を開く。
「スパイ…ですか?」
されど、出てきた言葉は至ってシンプルなもの。
それは、メイの内心の動揺を表すには十分だった。
メイが感じている動揺、それは女神の恐ろしさに対するものである。
敵と関わる機会が少ない中、スパイを作るという女神の巧妙さに。
そして、それを可能とさせる、彼女の能力に。
「信頼に足る魔族です。情報も確かなものでしょう」
「かなり……上官なのですか、その魔族は」
「ええ」
語尾に”♪”が付いていそうなほど軽快に話す女神に、メイの信仰とも呼べるその思いはクライマックスを迎えていた。
「本当に……さすがとしか言えません」
「うふふ、大変だったのですよ」
資料を未だにペラペラとしながらも、どこか上機嫌の女神。コップに入れられた紅茶を優雅に飲みながら、すぐ近くにいるメイに一瞬だけ視線を送る。
「どうされました?」
「いえ、そういえばメイの固有スキルは”どちら側”に成長していましたっけ?」
「どちら側?と言いますと?」
「あれ…?ということは普通に成長している?ならばどういう条件で……」
女神は小声でボソボソと何かを呟き始める。
メイに話しかけたことなど忘れているようだが。
「ベール様、どうされました?」
「いえ、ただ…固有スキルというのは奥が深いものでして」
「私にはよく分かりませんが…そういうものなのですか?」
「そういうものなのです。固有スキルなんて作った人は何を考えているのやら」
それを最後に、しばらく沈黙が流れた。
女神の執務室には、女神が資料をパラパラと捲る音だけが響いている。
メイは一切の邪魔をしないよう、直立不動を保っていたが、その沈黙を破ったのはメイだった。
「ところでベール様。勇者パーティーの選定はいつ行う予定ですか?」
それは、女神が見ていた資料の最後の一枚に目を通し終えたからであった。
直立不動を保ちながらも主への配慮は忘れない、さすがはプロのメイドである。
「1週間後には行おうかと思ってました」
「それは…些か急では?」
「うーん」と、女神が考える素振りを見せ、一拍置いた後に答える。
「実はこのあと光輝様をお呼びしているのです。ですので、訓練は明日から始めるつもりですよ」
「既にそこまで手配が進んでいたのですか……ガーベラ様はお帰りになられているのでしょうか?」
「ガーベラには随分前から話を通していますから、既に本部に着いていると思います」
ここで言う”本部”というのは、魔術師ギルドのことだ。魔術師ギルドは世界各国に存在するが、この大陸の本部は王都に存在している。
連絡するのが早かったとしても、ガーベラの帰りは早すぎるほどだった。この世界最速の移動手段である飛行艇は使えず、次いで速い馬車を使ったとしてもそれ以上の時間を要する。
だが、メイがそれを疑問に思うことはない。なぜなら彼女は魔術師ギルドマスターなのだから。
「さてさて、そろそろでしたかね」
女神が席を立った。その隙に、メイは女神のティーカップに新しく紅茶を注ぐ。
女神はそのまま歩いて窓まで行き、窓越しに外を見ていた。
「では私はそろそろ退出させてもらいます」
「お疲れさまです。いつもありがとうございます」
魔法で出したティーポットを異空間に仕舞込み、女神の方を向いて軽く頭を下げる。
「いえ、これは当然のことですので」
そして、本音からの言葉を吐き出す。ベールがこれをメイの本音だと認識してくれているかはメイの存ずるところではないが、どちらにせよ尽くすことに変わりはないと考えている。
メイドというより、狂信者だ。
尤も、その二つの性質を兼ね備えているからこそ、より恐ろしい。
「次のお相手は…光輝様でしたね。極力優しい笑顔を作って…と」
ベールはその美しい顔を小さな手で揉み解し、優しい笑顔を見せた。
「はい、勇者も含めれば余剰とも言える戦力でしょう」
「8人の勇者…それも過去最高クラスの勇者たち。戦士長に魔術師ギルドのマスター。冒険者ギルドもなかなかの粒揃いですねぇ。マスターはもちろん、”黒魔”のアギト、”蒼焔”のアリシアなんかは戦士長に並ぶ逸材でしょう。────ふふ、ようやくです、ようやくですねぇ……」
不気味に笑うベール。
念願の魔王討伐を目前にし、喜びを抑えきれていない様子だとメイは判断した。
自分の敬愛する女神は時折、人間らしい感情を見せる。それがまた彼女をより忠実にしている。
「向こう側の戦力はどうなのでしょうか?」
唯一の疑問が口から溢れた。
自陣営の戦力は把握できたが──相手の戦力はどうなのか。自陣営より強いという心配ではなく、ちゃんと把握できているかという確認であった。
「それは……把握する術があるかどうか、という意味ですよね?最近は攻めて来ないので戦力の把握が難しくはなりましたが……スパイが居るのですよ」
声を潜め、耳打ちするように言う女神。
やけに神妙な面持ちの彼女に、メイはごくりと唾を飲んだ。
そして、慎重に言葉を選び、口を開く。
「スパイ…ですか?」
されど、出てきた言葉は至ってシンプルなもの。
それは、メイの内心の動揺を表すには十分だった。
メイが感じている動揺、それは女神の恐ろしさに対するものである。
敵と関わる機会が少ない中、スパイを作るという女神の巧妙さに。
そして、それを可能とさせる、彼女の能力に。
「信頼に足る魔族です。情報も確かなものでしょう」
「かなり……上官なのですか、その魔族は」
「ええ」
語尾に”♪”が付いていそうなほど軽快に話す女神に、メイの信仰とも呼べるその思いはクライマックスを迎えていた。
「本当に……さすがとしか言えません」
「うふふ、大変だったのですよ」
資料を未だにペラペラとしながらも、どこか上機嫌の女神。コップに入れられた紅茶を優雅に飲みながら、すぐ近くにいるメイに一瞬だけ視線を送る。
「どうされました?」
「いえ、そういえばメイの固有スキルは”どちら側”に成長していましたっけ?」
「どちら側?と言いますと?」
「あれ…?ということは普通に成長している?ならばどういう条件で……」
女神は小声でボソボソと何かを呟き始める。
メイに話しかけたことなど忘れているようだが。
「ベール様、どうされました?」
「いえ、ただ…固有スキルというのは奥が深いものでして」
「私にはよく分かりませんが…そういうものなのですか?」
「そういうものなのです。固有スキルなんて作った人は何を考えているのやら」
それを最後に、しばらく沈黙が流れた。
女神の執務室には、女神が資料をパラパラと捲る音だけが響いている。
メイは一切の邪魔をしないよう、直立不動を保っていたが、その沈黙を破ったのはメイだった。
「ところでベール様。勇者パーティーの選定はいつ行う予定ですか?」
それは、女神が見ていた資料の最後の一枚に目を通し終えたからであった。
直立不動を保ちながらも主への配慮は忘れない、さすがはプロのメイドである。
「1週間後には行おうかと思ってました」
「それは…些か急では?」
「うーん」と、女神が考える素振りを見せ、一拍置いた後に答える。
「実はこのあと光輝様をお呼びしているのです。ですので、訓練は明日から始めるつもりですよ」
「既にそこまで手配が進んでいたのですか……ガーベラ様はお帰りになられているのでしょうか?」
「ガーベラには随分前から話を通していますから、既に本部に着いていると思います」
ここで言う”本部”というのは、魔術師ギルドのことだ。魔術師ギルドは世界各国に存在するが、この大陸の本部は王都に存在している。
連絡するのが早かったとしても、ガーベラの帰りは早すぎるほどだった。この世界最速の移動手段である飛行艇は使えず、次いで速い馬車を使ったとしてもそれ以上の時間を要する。
だが、メイがそれを疑問に思うことはない。なぜなら彼女は魔術師ギルドマスターなのだから。
「さてさて、そろそろでしたかね」
女神が席を立った。その隙に、メイは女神のティーカップに新しく紅茶を注ぐ。
女神はそのまま歩いて窓まで行き、窓越しに外を見ていた。
「では私はそろそろ退出させてもらいます」
「お疲れさまです。いつもありがとうございます」
魔法で出したティーポットを異空間に仕舞込み、女神の方を向いて軽く頭を下げる。
「いえ、これは当然のことですので」
そして、本音からの言葉を吐き出す。ベールがこれをメイの本音だと認識してくれているかはメイの存ずるところではないが、どちらにせよ尽くすことに変わりはないと考えている。
メイドというより、狂信者だ。
尤も、その二つの性質を兼ね備えているからこそ、より恐ろしい。
「次のお相手は…光輝様でしたね。極力優しい笑顔を作って…と」
ベールはその美しい顔を小さな手で揉み解し、優しい笑顔を見せた。
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