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聖女暗殺編
第57話 魔王軍の侵攻(1)
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何者かの掌の上で踊らされている。
そう言われた方が納得できる展開だった。
なぜ、この最悪のタイミングで魔王軍が攻め入ってくるのか。
もしかしたら、自分の思考は漏れているのではないか。
心の中の浮かぶのは、焦りと恐怖。
自分の首を虎視眈々と狙い、精密な計画を立てている何者かへの。
───とにかく、手を打たないと……
「数はどれくらいなのですか?」
努めて冷静に、ベールはメイに問いかける。
あくまで計画は順調だと、自分に言い聞かせるように。
「数にしておよそ3万。ほとんどがDランク冒険者相当の魔獣ですが、中にはBランクに及ぶものもいるようです。現在、魔族の目撃情報はありません」
悪魔や龍の軍勢が押し寄せてないだけマシだと考えよう。
まだ、対処のしようはある。
だが、逆に言えば、魔王からしてみればこれは偵察の一環に過ぎないのではないか、とも考えられた。
なんにせよ、不幸中の幸いだ。
Dランク相当の魔獣の群れ3万であれば、戦士長率いる騎士団、ガーベラ、そして夢咲叶多に依頼すれば問題なく殲滅可能。
3人とも、ベールが願えば動いてくれる駒でもあった。
戦士長とガーベラには<伝言>で良いとして、先ずやるべきことは夢咲叶多への依頼か。
更に幸運なことに、彼は今、この屋敷に滞在している。
少し魔法の研究をしたいとのことだったが──それは彼の固有スキルが絡んでいると見て良さそうだ。
固有スキル<魔術大典>。
名前から想像できる効果こそあるが…今はその話をしている場合では無い。
「メイ。戦士長とアギトに依頼をしてください。私は夢咲叶多様にお願いしてきます。そうですね。騎士団には南壁を、ガーベラには北壁を。お願いできますか?」
「はい、かしこまりました」
メイに指示を出し、ベールは行動を開始した。
行動と言っても、すぐそこにある夢咲叶多の部屋へと行くだけだ。
メイが魔法を発動したのを確認し、ベールもまた部屋から出る。そして、目的の場所へと足を向けた。
・ ・ ・
「夢咲叶多様、失礼します」
「はい、どうぞ」
部屋へと入る。
魔法の研究と言っていた割に部屋はキレイだ。
何やらメモ帳のようなものに色々と書き込んでいるが、そんな事はどうでも良いだろう。
「どうされましたか、女神様?かなり焦っているご様子。何かありましたか?」
「察しが良くて助かります。現在、王都が魔獣の群れに包囲されています」
「ふむ、ふむ」
食い入るように聞く夢咲叶多。
ベールはそれを確認し、話を続けた。
「どれもDランク相当の魔獣です。一部に強い魔獣もいる可能性があるとのことですが、魔族の目撃情報はありません」
「……殲滅すれば良いのですね?数はどれほどで?」
「話が早くてありがたいです。夢咲叶多様に対応していただきたいのは、約1万ほどになります」
「なるほどなるほど。お任せください。ちょうど、魔法を試したかったところだったのです」
そんな都合などどうでも良いのだ。
女神にとっては、一刻も早く魔獣を処理して欲しい。
───あれ…?というか何故そんな近くまで魔獣が来ていて気づかなかった…?連絡が遅れている……?連絡手段を断たれているの?もしかして内部に敵がいる?いや、転移という可能性も捨てきれないか…。
王都内にこそ女神の守りがあるものの、外であれば魔獣を転移させることは可能だろう。
数の規模はともかく、理論上不可能ではない。
───メイ自身が見たもののようだったし……これは転移の説で良さそう…ね。
ベールとしては、目の前の勇者の実力も見ておきたいところだった。
ある意味弱い魔獣の襲撃は都合が良いとも言える。
だが、まさかこれだけで終わるとは思っていない。
───他に目的がある?
考え得る可能性を探るも、やはり分からない。
「女神様?」
少し考えすぎてしまったか、夢咲叶多から声をかけられてしまった。
わざとらしい咳払いをして、無理に話を戻す。
「いえいえ、お気になさらず。では早速お願いしても良いですか?適当な場所まではお送りしましょう」
「いや、それは不要です。自分で転移しましょう」
「ですが…王都内には結界の類があります。転移を阻害するのです」
「知っています。ですが、問題はないです」
───まさか…結界を無視して転移可能?
彼の固有スキルはどれほど強力なものなのか。
その位が革命級であることも把握済みだ。
そう考えればありえない話ではないが、想像以上の化け物である。
王都に貼られている結界はかなり強力なもの。
それを無視できるなど……。
「それでは行きますね。<長距離転移>」
ベールが色々考えているうちに、彼はどこかへと去ってしまった。
◆ ◆ ◆
魔獣の侵攻が確認されてから、およそ30分。
ゆっくりとこちらへ進軍する魔獣たちだが、その動きに早くも気付いた戦士長は、既に騎士団を率いて行動を開始していた。
拠点の位置関係もあり、守る場所は南壁。
後ろには約1000名の騎士たちが付いていた。
ぶっちゃけた話をすれば、魔獣1万の掃討など容易だ。
もしかしたら1人でもいけるかもしれない、そういうレベルである。
これは相手がDランク相当の魔獣だから言えることであるのだが、騎士たちはそれ故に多少油断を見せている。
「お前ら!あまり油断はするんじゃないぞ!!」
「分かってますよ、戦士長。一応報告させてもらいますが、相手の軍勢はほとんどがD、Eランク。主な構成は怨死霊とリッチ、スケルトン・アーチャーにオーク・ゾンビを中心としていますね。その他、確認できたBランクの魔獣が1体。バジリスクです」
バジリスクは巨大な緑色のトカゲだ。
強さはBランクと、まぁまぁな強さ。
この評価も戦士長基準であり、騎士たちでは倒すのが難しいだろう。
厄介な点は、その4メートル超えの巨体から繰り出される引っ掻きや突進ではない。
血に毒性があることであり、しかもそれが劇毒であるということだ。
普通の者であれば、触れるだけで数分で死に至るほど。
剣で討伐しようものならば、その返り血で共死にの未来を歩むこと間違いなしだ。
それにも関わらず、何故Bランク指定なのか。
理由は単純なもので、このランクというのは冒険者基準──つまりパーティーであることが前提だからだ。
魔法使いが1人でも居るのであれば炎の魔法で倒せば問題ないし、毒を貰ったところですぐに解毒すれば問題ない。
魔法使いや神官という、Bランクの冒険者ならばパーティーに居て当たり前の存在が居れば倒せるからこそ、このランク指定を受けているのだ。
戦士長にとっては驚異ではない。
戦士長の固有スキルは防御特化のものであり、その1つに状態異常に対する完全耐性を与えるものがある。
そのおかげで毒や呪い、麻痺などと言った常套手段は戦士長には意味を為さないのだ。
前を見る。
魔獣の群れはおよそ100メートル先まで迫っている。
ここまでくれば、騎士たちにも多少の緊張感は生まれていた。
先陣を切っているのはバジリスクだ。
全力でこちらへと駆けてくるバジリスクの後ろを、必死になって他の魔獣も追従している。
作戦はこうだ。
先頭のバジリスクを戦士長が倒し、それを合図に乱戦を始める。
数が1万ということもあり、多少は手持ち無沙汰の騎士も出るかもしれないが。
それならそれで悪いことでは無い。
全速力のバジリスクは、そこそこ早い。
50メートルくらいであれば、ほんの5秒ほどで移動してしまう。
そんなバジリスクは既に──10メートルの距離まで迫っていた。
戦士長は剣を構え、
「──<亜空斬>ッ」
バジリスクの血液が飛散しても問題ないよう、後ろの騎士たちとは距離をとってスキルを使う。
戦士長の持つ剣が緩やかな弧を描き、バジリスクの巨体を2つに切り裂いた。
断末魔が聞こえることもなく、バジリスクは地に伏した。
何の躊躇もなく、ただ作業のように。
バジリスクを殺害した戦士長は、ついた血を落とすように剣を振るい、鞘へと仕舞う。
バジリスクを失っても、続く魔獣たちが混乱していることはない。
何も考えずにただ、目の前に進み続けているようだった。
一方、騎士たちはいつ見ても美しい戦士長の剣筋に、惚れ惚れとしてしまうが──
「続けッ!!」
そんな、戦士長の怒号と共に、乱戦は開始される。
騎士たちによって、魔獣の群れ1万が処理されるまで、20分とかかることはなかった。
死者数、39人。
負傷者数、120人。
内、重症者、17人。
そう言われた方が納得できる展開だった。
なぜ、この最悪のタイミングで魔王軍が攻め入ってくるのか。
もしかしたら、自分の思考は漏れているのではないか。
心の中の浮かぶのは、焦りと恐怖。
自分の首を虎視眈々と狙い、精密な計画を立てている何者かへの。
───とにかく、手を打たないと……
「数はどれくらいなのですか?」
努めて冷静に、ベールはメイに問いかける。
あくまで計画は順調だと、自分に言い聞かせるように。
「数にしておよそ3万。ほとんどがDランク冒険者相当の魔獣ですが、中にはBランクに及ぶものもいるようです。現在、魔族の目撃情報はありません」
悪魔や龍の軍勢が押し寄せてないだけマシだと考えよう。
まだ、対処のしようはある。
だが、逆に言えば、魔王からしてみればこれは偵察の一環に過ぎないのではないか、とも考えられた。
なんにせよ、不幸中の幸いだ。
Dランク相当の魔獣の群れ3万であれば、戦士長率いる騎士団、ガーベラ、そして夢咲叶多に依頼すれば問題なく殲滅可能。
3人とも、ベールが願えば動いてくれる駒でもあった。
戦士長とガーベラには<伝言>で良いとして、先ずやるべきことは夢咲叶多への依頼か。
更に幸運なことに、彼は今、この屋敷に滞在している。
少し魔法の研究をしたいとのことだったが──それは彼の固有スキルが絡んでいると見て良さそうだ。
固有スキル<魔術大典>。
名前から想像できる効果こそあるが…今はその話をしている場合では無い。
「メイ。戦士長とアギトに依頼をしてください。私は夢咲叶多様にお願いしてきます。そうですね。騎士団には南壁を、ガーベラには北壁を。お願いできますか?」
「はい、かしこまりました」
メイに指示を出し、ベールは行動を開始した。
行動と言っても、すぐそこにある夢咲叶多の部屋へと行くだけだ。
メイが魔法を発動したのを確認し、ベールもまた部屋から出る。そして、目的の場所へと足を向けた。
・ ・ ・
「夢咲叶多様、失礼します」
「はい、どうぞ」
部屋へと入る。
魔法の研究と言っていた割に部屋はキレイだ。
何やらメモ帳のようなものに色々と書き込んでいるが、そんな事はどうでも良いだろう。
「どうされましたか、女神様?かなり焦っているご様子。何かありましたか?」
「察しが良くて助かります。現在、王都が魔獣の群れに包囲されています」
「ふむ、ふむ」
食い入るように聞く夢咲叶多。
ベールはそれを確認し、話を続けた。
「どれもDランク相当の魔獣です。一部に強い魔獣もいる可能性があるとのことですが、魔族の目撃情報はありません」
「……殲滅すれば良いのですね?数はどれほどで?」
「話が早くてありがたいです。夢咲叶多様に対応していただきたいのは、約1万ほどになります」
「なるほどなるほど。お任せください。ちょうど、魔法を試したかったところだったのです」
そんな都合などどうでも良いのだ。
女神にとっては、一刻も早く魔獣を処理して欲しい。
───あれ…?というか何故そんな近くまで魔獣が来ていて気づかなかった…?連絡が遅れている……?連絡手段を断たれているの?もしかして内部に敵がいる?いや、転移という可能性も捨てきれないか…。
王都内にこそ女神の守りがあるものの、外であれば魔獣を転移させることは可能だろう。
数の規模はともかく、理論上不可能ではない。
───メイ自身が見たもののようだったし……これは転移の説で良さそう…ね。
ベールとしては、目の前の勇者の実力も見ておきたいところだった。
ある意味弱い魔獣の襲撃は都合が良いとも言える。
だが、まさかこれだけで終わるとは思っていない。
───他に目的がある?
考え得る可能性を探るも、やはり分からない。
「女神様?」
少し考えすぎてしまったか、夢咲叶多から声をかけられてしまった。
わざとらしい咳払いをして、無理に話を戻す。
「いえいえ、お気になさらず。では早速お願いしても良いですか?適当な場所まではお送りしましょう」
「いや、それは不要です。自分で転移しましょう」
「ですが…王都内には結界の類があります。転移を阻害するのです」
「知っています。ですが、問題はないです」
───まさか…結界を無視して転移可能?
彼の固有スキルはどれほど強力なものなのか。
その位が革命級であることも把握済みだ。
そう考えればありえない話ではないが、想像以上の化け物である。
王都に貼られている結界はかなり強力なもの。
それを無視できるなど……。
「それでは行きますね。<長距離転移>」
ベールが色々考えているうちに、彼はどこかへと去ってしまった。
◆ ◆ ◆
魔獣の侵攻が確認されてから、およそ30分。
ゆっくりとこちらへ進軍する魔獣たちだが、その動きに早くも気付いた戦士長は、既に騎士団を率いて行動を開始していた。
拠点の位置関係もあり、守る場所は南壁。
後ろには約1000名の騎士たちが付いていた。
ぶっちゃけた話をすれば、魔獣1万の掃討など容易だ。
もしかしたら1人でもいけるかもしれない、そういうレベルである。
これは相手がDランク相当の魔獣だから言えることであるのだが、騎士たちはそれ故に多少油断を見せている。
「お前ら!あまり油断はするんじゃないぞ!!」
「分かってますよ、戦士長。一応報告させてもらいますが、相手の軍勢はほとんどがD、Eランク。主な構成は怨死霊とリッチ、スケルトン・アーチャーにオーク・ゾンビを中心としていますね。その他、確認できたBランクの魔獣が1体。バジリスクです」
バジリスクは巨大な緑色のトカゲだ。
強さはBランクと、まぁまぁな強さ。
この評価も戦士長基準であり、騎士たちでは倒すのが難しいだろう。
厄介な点は、その4メートル超えの巨体から繰り出される引っ掻きや突進ではない。
血に毒性があることであり、しかもそれが劇毒であるということだ。
普通の者であれば、触れるだけで数分で死に至るほど。
剣で討伐しようものならば、その返り血で共死にの未来を歩むこと間違いなしだ。
それにも関わらず、何故Bランク指定なのか。
理由は単純なもので、このランクというのは冒険者基準──つまりパーティーであることが前提だからだ。
魔法使いが1人でも居るのであれば炎の魔法で倒せば問題ないし、毒を貰ったところですぐに解毒すれば問題ない。
魔法使いや神官という、Bランクの冒険者ならばパーティーに居て当たり前の存在が居れば倒せるからこそ、このランク指定を受けているのだ。
戦士長にとっては驚異ではない。
戦士長の固有スキルは防御特化のものであり、その1つに状態異常に対する完全耐性を与えるものがある。
そのおかげで毒や呪い、麻痺などと言った常套手段は戦士長には意味を為さないのだ。
前を見る。
魔獣の群れはおよそ100メートル先まで迫っている。
ここまでくれば、騎士たちにも多少の緊張感は生まれていた。
先陣を切っているのはバジリスクだ。
全力でこちらへと駆けてくるバジリスクの後ろを、必死になって他の魔獣も追従している。
作戦はこうだ。
先頭のバジリスクを戦士長が倒し、それを合図に乱戦を始める。
数が1万ということもあり、多少は手持ち無沙汰の騎士も出るかもしれないが。
それならそれで悪いことでは無い。
全速力のバジリスクは、そこそこ早い。
50メートルくらいであれば、ほんの5秒ほどで移動してしまう。
そんなバジリスクは既に──10メートルの距離まで迫っていた。
戦士長は剣を構え、
「──<亜空斬>ッ」
バジリスクの血液が飛散しても問題ないよう、後ろの騎士たちとは距離をとってスキルを使う。
戦士長の持つ剣が緩やかな弧を描き、バジリスクの巨体を2つに切り裂いた。
断末魔が聞こえることもなく、バジリスクは地に伏した。
何の躊躇もなく、ただ作業のように。
バジリスクを殺害した戦士長は、ついた血を落とすように剣を振るい、鞘へと仕舞う。
バジリスクを失っても、続く魔獣たちが混乱していることはない。
何も考えずにただ、目の前に進み続けているようだった。
一方、騎士たちはいつ見ても美しい戦士長の剣筋に、惚れ惚れとしてしまうが──
「続けッ!!」
そんな、戦士長の怒号と共に、乱戦は開始される。
騎士たちによって、魔獣の群れ1万が処理されるまで、20分とかかることはなかった。
死者数、39人。
負傷者数、120人。
内、重症者、17人。
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