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7. 公爵家 アリス8歳①
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~庭園にて~
公爵家の庭園には庭師と一家の女帝ことエレナの手により丹精込めて育てられた美しい花が季節を問わずに咲いている。そんな庭園で楽しそうな子供の声が聞こえる。
「エミリア姉様、このケーキ美味しいわ」
口いっぱいにケーキを頬張りながら話すのはリリアだ。リリアの前には白い丸テーブルに映える美しいケーキやその他焼き菓子でいっぱいだった。
リリアが美味しそうに食べるのを温かい眼差しで見るのは優雅な手付きでお茶を飲む長女のエミリアだ。その向かいには魔術師として魔物討伐を終えて戻ってきたところをエミリアに捕獲されたミカエラが座っていた。その隣にはアリスが座る。アリスはリリアの言葉を聞きそろ~っとケーキに向かって手を伸ばす。あと少しで届くという時に……
パシッ
エミリアがアリスの腕を扇ではたく。
「盗み食いだなんてはしたなくてよ。こちらはリリアのもの。あなたの分はそこにあるでしょう」
そう言われアリスは自分の前にあるお皿に視線を移す。そこには不格好な……おどろおどろしい紫色……?いや緑色……?のケーキという名の危険物が置かれていた。アリスはフォークで一口大に切ると無表情で口に運ぶ。
「ねえねえエミリア姉様。このデザート全部殿方に頂いたものなのでしょう?お美しいしお優しいもの……殿方が放っておかないわよね。それに、治癒士としてエミリア姉様に勝てる人もいないわよね。私に姉様の美点が一つでもあればなあ……羨ましい」
エミリアは剣の腕は微妙だったが魔法が得意で特に治癒を得意としていた。王国一と言われるほどに。友人も多く社交の場に行くと彼女はすぐに男性にも女性にも囲まれていた。
異母妹の言葉に困ったような……しかし微笑ましそうにリリアを見る。そっとリリアの頬に手を添える。
「リリア……あなたはそのままで十分よ。こんなにも愛らしいのだから。この愛らしさのままでいてくれたら姉様は嬉しいわ」
ねっミカエラと向かいに座るミカエラに同意を求めると、コクっと頷かれる。戦闘向きの魔法を得意とする彼はこの国で3本指に入る腕前と言われている。ミカエラの目にはリリアの様子が微笑ましげに映し出されている。
その言葉に、視線に嬉しそうに笑うリリア。その様子を遠目から見ていた使用人たちも微笑ましい光景に心が和む。そして、ちらっとアリスに視線を移す。アリスは先程エミリアに言われたケーキを無表情で全て食べ終えたところだった。
誰にも気にかけられず、いないかのように扱われ、叱られるときだけ声をかけられる。今だってどう見ても食べてはいけないものを食べさせられているアリス。彼女を見て彼らは自分より高位の者の無様な姿に下卑た笑みをもらしていた。
~~~~~
「うけるわよね~」
いやいや、全然楽しくないですが……という言葉を飲み込む。
「それにこの前なんかね~」
イリスの様子に気づかず再び話し出す先輩使用人。
~アリスの自室にて~
子供の声が聞こえてくる。子供部屋だから当たり前だが持ち主の声とそれ以外の声も聞こえてくる。しかも相手の声には少々涙が混ざっているよう。
「いやよ、これが欲しいの!」
「リリア……こちらの方が良いものだと言っているでしょう」
「いやよいやよ!絶対に嫌!これがいいの!!」
いやいや言うリリアの手に握られているのは大ぶりの赤いルビーの首飾り。8歳の子供にはまだまだ似合わなそうな、首に非常に負担がかかりそうなものに見える。
こちらの方が良いものだと言うアリスの手にあるのは、小さいルビーがついた首飾り。可愛らしいデザインのもので8歳の子供にも良さそうである。
にも関わらず……
「アリス、リリアがそちらが良いと言っているんだからあげなさいよ」
「そうよ、本人が良いと言っているんだからあなたは黙ってあげれば良いのよ」
リリアの肩を持つような物言いをするのは、次女のアンジェと三女のセイラである。
「でも……それは「アリス!アンジェ姉様もセイラ姉様もこう言ってるじゃない。こちらをもらうわ」」
アリスの返事も聞かずにぱっと身を翻し大きいルビーのついた首飾を持ったまま部屋を飛び出す。
「あっ……」
とっさに伸ばされた手は静かに落ちた。
「「アリス」」
「はい、姉様」
「リリアが欲しいと言っているんだからあげれば良いのよ。わかったわね?」
アンジェが愉快そうな声音で話しかけてくる。
「でもあれは「あなたには他にも私達やエミリア姉さまからもらったものがあるでしょ」」
セイラが開いた扇を口元に当てる。まるでアリスがけちだとでも……器の小さい人間だとでも……口も聞きたくないというかのように……
それを見ていた廊下を清掃中の使用人たちは、アリスに侮蔑的な視線を投げかける。リリスに素直に渡さないからそうなるのだと。
リリア信者の者たちは気づかない。そもそも嫌だというものを持っていくほうが性格が難ありだということに。姉たちがアリスの意見を一切聞かないことへの異常さに……。
いや、一部の者は気づいている。気づいているからこそ下卑た笑みを浮かべているのだ。自分より多くのものを持つ者への優越感から……そして、より強者の味方をすることで自分が強くなったかのような、偉くなったような気になっているのだ。
自分は強者の味方をしたのだから、強者も自分の味方をしてくれる。いざとなっても自分は守ってもらえると……。そんな愚かな勘違いをしているのだ。
公爵家の庭園には庭師と一家の女帝ことエレナの手により丹精込めて育てられた美しい花が季節を問わずに咲いている。そんな庭園で楽しそうな子供の声が聞こえる。
「エミリア姉様、このケーキ美味しいわ」
口いっぱいにケーキを頬張りながら話すのはリリアだ。リリアの前には白い丸テーブルに映える美しいケーキやその他焼き菓子でいっぱいだった。
リリアが美味しそうに食べるのを温かい眼差しで見るのは優雅な手付きでお茶を飲む長女のエミリアだ。その向かいには魔術師として魔物討伐を終えて戻ってきたところをエミリアに捕獲されたミカエラが座っていた。その隣にはアリスが座る。アリスはリリアの言葉を聞きそろ~っとケーキに向かって手を伸ばす。あと少しで届くという時に……
パシッ
エミリアがアリスの腕を扇ではたく。
「盗み食いだなんてはしたなくてよ。こちらはリリアのもの。あなたの分はそこにあるでしょう」
そう言われアリスは自分の前にあるお皿に視線を移す。そこには不格好な……おどろおどろしい紫色……?いや緑色……?のケーキという名の危険物が置かれていた。アリスはフォークで一口大に切ると無表情で口に運ぶ。
「ねえねえエミリア姉様。このデザート全部殿方に頂いたものなのでしょう?お美しいしお優しいもの……殿方が放っておかないわよね。それに、治癒士としてエミリア姉様に勝てる人もいないわよね。私に姉様の美点が一つでもあればなあ……羨ましい」
エミリアは剣の腕は微妙だったが魔法が得意で特に治癒を得意としていた。王国一と言われるほどに。友人も多く社交の場に行くと彼女はすぐに男性にも女性にも囲まれていた。
異母妹の言葉に困ったような……しかし微笑ましそうにリリアを見る。そっとリリアの頬に手を添える。
「リリア……あなたはそのままで十分よ。こんなにも愛らしいのだから。この愛らしさのままでいてくれたら姉様は嬉しいわ」
ねっミカエラと向かいに座るミカエラに同意を求めると、コクっと頷かれる。戦闘向きの魔法を得意とする彼はこの国で3本指に入る腕前と言われている。ミカエラの目にはリリアの様子が微笑ましげに映し出されている。
その言葉に、視線に嬉しそうに笑うリリア。その様子を遠目から見ていた使用人たちも微笑ましい光景に心が和む。そして、ちらっとアリスに視線を移す。アリスは先程エミリアに言われたケーキを無表情で全て食べ終えたところだった。
誰にも気にかけられず、いないかのように扱われ、叱られるときだけ声をかけられる。今だってどう見ても食べてはいけないものを食べさせられているアリス。彼女を見て彼らは自分より高位の者の無様な姿に下卑た笑みをもらしていた。
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「うけるわよね~」
いやいや、全然楽しくないですが……という言葉を飲み込む。
「それにこの前なんかね~」
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「いやよ、これが欲しいの!」
「リリア……こちらの方が良いものだと言っているでしょう」
「いやよいやよ!絶対に嫌!これがいいの!!」
いやいや言うリリアの手に握られているのは大ぶりの赤いルビーの首飾り。8歳の子供にはまだまだ似合わなそうな、首に非常に負担がかかりそうなものに見える。
こちらの方が良いものだと言うアリスの手にあるのは、小さいルビーがついた首飾り。可愛らしいデザインのもので8歳の子供にも良さそうである。
にも関わらず……
「アリス、リリアがそちらが良いと言っているんだからあげなさいよ」
「そうよ、本人が良いと言っているんだからあなたは黙ってあげれば良いのよ」
リリアの肩を持つような物言いをするのは、次女のアンジェと三女のセイラである。
「でも……それは「アリス!アンジェ姉様もセイラ姉様もこう言ってるじゃない。こちらをもらうわ」」
アリスの返事も聞かずにぱっと身を翻し大きいルビーのついた首飾を持ったまま部屋を飛び出す。
「あっ……」
とっさに伸ばされた手は静かに落ちた。
「「アリス」」
「はい、姉様」
「リリアが欲しいと言っているんだからあげれば良いのよ。わかったわね?」
アンジェが愉快そうな声音で話しかけてくる。
「でもあれは「あなたには他にも私達やエミリア姉さまからもらったものがあるでしょ」」
セイラが開いた扇を口元に当てる。まるでアリスがけちだとでも……器の小さい人間だとでも……口も聞きたくないというかのように……
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いや、一部の者は気づいている。気づいているからこそ下卑た笑みを浮かべているのだ。自分より多くのものを持つ者への優越感から……そして、より強者の味方をすることで自分が強くなったかのような、偉くなったような気になっているのだ。
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