公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
54 / 186

54. 突撃伯爵家

しおりを挟む
「困ったわね~」

「あまり困っているようには見えませんが」

「あっ!もしかして脅す材料があり過ぎて困っている感じですか?」

「そうなのよ~。ってこらイリス、フランク」

 失礼しましたと頭を下げる二人。

「まあ当たらずしも遠からずよ」

「「やっぱり」」

 かなり大きな商会を営んでいるだけあって黒い部分がまあまあある。とはいうものの公爵のように個人的理由でやらかしてる部分がほぼない。あったとしてもまあ貴族ならという感じのものばかり。うまく使えば脅しに使えなくもないだろうが……。どうするべきか。

「脅すというより何か商売で責めていった方が良いかしら」

「商売ですか?」

「お姉様たちの薬やアクセサリーを優先的に伯爵家に融通するとか」

「ですが姉上様たちの作り出すものは数が少ないですから、難しいのでは?」

「そうなのよね~」

 なかなかのお値段なのだが、いつも引く手あまたで在庫が殆どない。伯爵家に回す余裕はないと思われる。

「ん~~~~~」

 どうしようかしら……。頭を悩ますアリス。

 カルラは空になった茶器にお茶を入れながらアリスをちらりと見る。今日も美しい。

 ビクッ……カルラは体を震わせた。アリスの纏う雰囲気と目付きが剣呑さを帯びたから。それだけではない。フランクとイリスまで張り詰めた表情をしている。

「あの……」

 自分が淹れたお茶に不備が?と戸惑いながら声を上げるカルラにアリスは手を向けると黙るように促す。3人の何かを探るような様子に息を呑む。

「大きいのが来るわね……」

「すぐに向かいますか?」

「そうした方が良さそうね」

「アリス様」

 イリスが冷めた声音でアリスの名を呼ぶ。

「なあに?」

「何を楽しそうな顔をされているのですか?今は緊急事態ですよ」

 アリスの顔は剣呑さから一転、溢れる笑みを抑えきれないようだった。

「不謹慎なのはわかっているわ……でもこんな運が舞い込んでくるとは」

「アリス様急がれた方が良いかと。かなりでかいようです」

 フランクの顔が強張っている。

「そうね、急がなければ。カルラちょっと出かけてくるわね。たぶん2、3日で戻るわ。王妃様にそうやって伝えておいて頂戴」

 その後、彼女たちの姿は消えた。その場には何が起きているのかよくわからないカルラだけが残された。



~~~~~

 アリスたちが姿を消した数時間後、こちらは側妃ザラの実家である伯爵邸。落ち着きなく執務室を歩き回るのはザラの父親である伯爵だ。

「どうなった?」

「特にまだ知らせはありませんが、恐らく良い事態にはなっていないかと……」

 伯爵の問いに答える執事の顔は青褪めている。

「なぜドラゴンが辺境伯領に現れたのだ」

 数時間前、辺境伯から魔法道具である手紙が送られてきた。相手のもとに瞬時に飛ばすことのできる手紙。目を疑いたくなるほどの高額な手紙が目の前に現れ何事かと思ったら、中を見て更に愕然。

 ドラゴン……魔物の中で最上級と言われている存在だ。飛行でき大きさはもちろんのことその攻撃力、鱗の硬さから退治が難しい。ドラゴンは滅多に現れるものではなく、ダイラス国に現れたのは歴史上初めてだと思われる。

 なぜ伯爵に辺境伯から手紙が送られたのか。それは辺境伯にキャリーの姉が嫁いでいるから。二人の間には産まれたばかりの可愛い女の子がいる。

 一度手紙が届いてからなんの進捗もわからない状態で、彼女たちの安否もわからないまま。伯爵としても魔物討伐を生業とする協会に駆け込んだものの、すぐに行くことはできないとのこと。

 王宮に駆け込むも今そのことの協議中と言われ、自分にできることは待つことと言われた。なので待ってはいるのだが落ち着けるわけもなし。


「待つ……待つ…………待つ。できることはもう何も無い。だが、待つとは……何を待つというのだ。出兵をか?朗報をか?訃報をか……?」

 ブツブツと言う伯爵に執事はかける言葉が見つからない。

「あら~。ずいぶんとお困りのようですね」

 急に執務室に現れる3人ーーーアリス、イリス、フランク。

「なっ、だ、誰ですか?誰か!誰か!不法侵入者です!!」

 アリスの顔を知らない執事が叫んだのでバタバタと人が集まってくる。3人に向けられる剣先。3人は抗議するでもなく、抵抗するでもなく、されるがままだ。その余裕のある表情も変わらない。

「王子妃様だぞ、不敬だ下がれ。申し訳ございません。アリス様」 

 アリスは下げられる剣先を目で追う。

「誠に不敬なのは誰でしょうね?私何か伯爵を怒らせるようなことをしたかしら?」

 彼らの行動を本気で不敬だと思えば剣先を突きつける前に命じればよかったのに止めなかった。伯爵がアリスに何かしら思うところがあったから止めなかったのだ。

「あなたの力があれば倒せるはずです。こんなところに来ている暇があるならば民を守りに行ったらどうですか!?」

 激昂する伯爵に対し涼しい顔をしているアリス。視線は伯爵の震える手に注がれている。

「そのように激昂されると倒れてしまいますよ。それに民……ですか。名ばかりの王子妃たる私に民などと。伯爵のお孫さんは私が気に食わないようでまだ3回ほどしか会っていませんのよ」

「名ばかりでもあなたは王子妃です。いえ王子妃だろうとなんだろうと構いません。騎士として魔法使いとして力があるあなたが皆を助けるのは人として当たり前では?」

「そうでしょうか?人は力があればそれを振るわねばならないのですか?しかも無償で?」

「事態が事態です。こんな事態を利用し人の娘を差し出せと要求しようとするとは……あなたは人としてそれで良いのですか?」

「あら、まだ言ってないのによくおわかりで」

「公爵にやらかした様子を見てれば妃候補の問題を解決しようとしているのはわかります」

「さすがは伯爵様。ですが一言だけ。やらかしたのは公爵ですよ」

 伯爵の怒りに満ちた目と静かなアリスの目がバチッと合う。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「商売する女は不要」らしいです

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリアナ・ヴァルトハイムは、第二王子の婚約者だった。しかし「女が商売に口を出すな」と婚約破棄され、新しい婚約者には何も言わない従順な令嬢が選ばれる。父にも見捨てられたエリアナは、自由商業都市アルトゥーラへ。 前世の経営コンサルタントの知識を武器に、商人として成り上がる。複式簿記、マーケティング、物流革命——次々と革新を起こし、わずか一年で大陸屈指の豪商に。 やがて王国は傾き、元婚約者たちが助けを求めて土下座してくるが、エリアナは冷たく突き放す。「もう関係ありません」と。 そして彼女が手に入れたのは、ビジネスでの成功だけではなかった。無愛想だが誠実な傭兵団長ディアンと出会ってーー。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ
恋愛
王国随一の名門、アルファルド公爵家の令嬢シャウラは、 ある日、第一王子アセルスから一方的に婚約を破棄される。 理由はただ一つ―― 「平民出身の聖女と婚約するため」。 だが、その“婚約破棄したその場”で、ざまぁはすでに始まっていた。 シャウラは泣かず、怒らず、抗議もしない。 ただ静かに席を立っただけ。 それだけで―― 王国最大派閥アルファルド派は王子への支持を撤回し、 王国最大の商会は資金提供を打ち切り、 王太子候補だったアセルスは、政治と経済の両方を失っていく。 一方シャウラは、何もしていない。 復讐もしない。断罪もしない。 平穏な日常を送りながら、無自覚のまま派閥の結束を保ち続ける。 そして王国は、 “王太子を立てない”という前代未聞の選択をし、 聡明な第一王女マリーが女王として即位する――。 誰かを裁くことなく、 誰かを蹴落とすことなく、 ただ「席を立った」者だけが、最後まで穏やかでいられた。 これは、 婚約破棄から始まる―― 静かで、上品で、取り返しのつかないざまぁの物語。 「私は何もしていませんわ」 それが、最強の勝利だった。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

処理中です...