公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
124 / 186

109.双子の心配事(※8/6誤ったページを公開しておりましたので訂正いたしました)

しおりを挟む
「なあ」

「どうした?」

「なんかあの辺り暗くないか?」

「バカ、見るんじゃない!目をつけられるぞ!…………でもまあ、お二人の気持ちがこう空気に滲み出ちゃってるんだろうな」

 お気の毒に……と。そんな会話が交わされるのは王宮にある一室。

 そしてそんな会話をする彼らはお偉いさん方に扱き使われるペーペー補佐官。

 彼らが気にしないように努めるもののついついチラ見してしまう先にいるお二人は――――――

 ダイラス国皇太子妃マリーナの父であるブレッツェル公爵と第三王子ルカの妻であるラシアの父にしてアリスにハゲ大臣と呼ばれたハーゲ伯爵。

 二人が放つジメジメオーラで室内は息苦しい。ただでさえ怖い二人、膨大な量の仕事だというのに……勘弁してほしいところである。

 

 トントントントントントントントン
 
「公爵~」

「ハーゲ伯爵~」

 少々忙しないノックの後、どうぞという声とほぼ同時に飛び込んできたのは第四王子であるブランクと妻アリスの愛息子ラルフ5歳と愛娘オリビア5歳だ。

 なんとも言えない淀んだ空気は彼らの登場により霧散した。父親の遺伝子はどこにいったといわんばかりに見事にアリスの美貌を受け継いだ二人。そんじょそこらではお目にかかることのできない美貌を持つ二人は非常に目の保養である。

 淀んだ空気を放出していた公爵とハーゲ伯爵の表情も明るくなる。双子ちゃんはジジイ二人によく話しかけてくる。愛らしい姿でありながら賢い双子との会話はジジイ二人にとっても楽しいものであった。

 ちなみに双子ちゃんにまでハーゲと呼ばれるハーゲ伯爵。彼はアリスがハゲ大臣ハゲ大臣と呼んだ為皆からハーゲ伯爵と呼ばれるようになった


 というわけではなく、もともと家名がハーゲであった。

 アリスがハゲハゲ言って以来、ハーゲ伯爵と呼ばれる際に頭部への視線が増えたこと増えたこと。その視線に含まれる感情で好意的かそうでないかが見えることもあり身辺整理できた。足を氷漬けにされたり切断されたりハゲ大臣と言われたりと恥をかいたが今となっては良い思い出である。

 それはさておき

「ラルフ様、オリビア様この爺たちに何かご用ですか?」

「あのね、公爵」

「はい、なんでございましょう?ラルフ様」

 膝をついてラルフと視線を合わせる公爵。ラルフの煌めく瞳にデレデレとした表情の公爵が映る。

 昔背負われて共に逃げ回ったからか双子はよく公爵に懐いている。
 …………祖父である王以上に。

 たまに悔しそうな、妬ましそうな視線を感じるのは良いのか悪いのか。まあ個人的にはちょっと嬉しい。

 公爵の心の内はさておき、ラルフとオリビアは顔を見合わせ頷き合うと言った。

「「なんだかお母様が変なの」」

「「それは……いつものことでは?」」

「「………………………」」

「「………………………失礼しました」」

 何を言っているんだと首を傾げる子どもと大人が見つめ合うこと数秒、大人が折れた。

「ごほんっ、えーっ……どう変なのですか?」

 伯爵がその場を取り繕うように咳払いをした後に尋ねた。彼の問いに双子は再び互いに顔を見合わせる。

「うーん……どうって言われると…………ねえオリビア」

「何かが変としか言えないわ…………ねえラルフ」

 ここ、とは言えないが何かしら違和感があるよう。

「今王宮が少しごたついておりますので、そのせいではないでしょうか?」

「伯爵!お母様はそんなことは気にされないわ!少し仕事は増えたかもしれないけれど……お母様にとっては微々たるものよ。それにごたごたなんてお母様の大好物よ!ニタニタよ!」

「オリビアの言うとおりだよ。人の不幸は蜜の味だよ!」

 お、おお。本当に目の前にいるのは5歳児なのか。

「もしかしてご夫婦の問題とか」

「円満よ。お父様はお母様の奴隷君よ」

 伯爵の閃きは即座に切り捨てられた。

「お父上には相談されたのですか?他人ではわからずとも夫君であるブランク様であれば何か気づく点があるかもしれませんよ」

「お父様はあんまり頼りにならないから……」

 公爵の穏やかな微笑みつきの提案をオリビアは哀しげな微笑みつきで静かに切り捨てた。

 憐れブランク王子。

「……ですが夫婦というものはお二人が思っているよりも勘づくことがあると思いますよ」

 めげずに再び挑む公爵。

「「でも……」」

 双子はもじもじとした後に言い放った。

「「お父様は素直だから……。公爵と伯爵は腹黒いから、お母様の考えていることがわかるかと思って……」」

 おう…………。

 双子が抱く我らの印象とは。

 こんなに愛らしい子供たちにこんなことを言われるとは涙が出そうだ。


 なぜこんなに可愛らしい二人に腹黒いなどと言われないといけないのか。アリスのせいだ。そもそもあのアリスの思考などわかるはずもなし。というかわかりたくもない。

 もう開き直ろう。

「きっと大丈夫ですよ。アリス様は強い御方ですから」

「そうですよ。身も心も鋼鉄ですから大丈夫ですよ。人の足を凍らせて折っちゃうくらいには」

「「そっか……そうだね!お母様だものね!」」

 フワリと花が咲いたような笑みが二人の顔に浮かぶ。

 室内にいる者たちの脳内にも花が咲いた。



「ありがとう!公爵と伯爵の方が色々と大変なのにごめんなさい!」

「早く解決するといいね!」

 と叫んで去っていく二人。



 室内に静寂が満ちる。

 ――――解決……するのだろうか。




 再び室内に負のオーラが漂う。

 補佐官たちの心は一つだった。



 ラルフ様、オリビア様、カムバック!






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「商売する女は不要」らしいです

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリアナ・ヴァルトハイムは、第二王子の婚約者だった。しかし「女が商売に口を出すな」と婚約破棄され、新しい婚約者には何も言わない従順な令嬢が選ばれる。父にも見捨てられたエリアナは、自由商業都市アルトゥーラへ。 前世の経営コンサルタントの知識を武器に、商人として成り上がる。複式簿記、マーケティング、物流革命——次々と革新を起こし、わずか一年で大陸屈指の豪商に。 やがて王国は傾き、元婚約者たちが助けを求めて土下座してくるが、エリアナは冷たく突き放す。「もう関係ありません」と。 そして彼女が手に入れたのは、ビジネスでの成功だけではなかった。無愛想だが誠実な傭兵団長ディアンと出会ってーー。

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ
恋愛
王国随一の名門、アルファルド公爵家の令嬢シャウラは、 ある日、第一王子アセルスから一方的に婚約を破棄される。 理由はただ一つ―― 「平民出身の聖女と婚約するため」。 だが、その“婚約破棄したその場”で、ざまぁはすでに始まっていた。 シャウラは泣かず、怒らず、抗議もしない。 ただ静かに席を立っただけ。 それだけで―― 王国最大派閥アルファルド派は王子への支持を撤回し、 王国最大の商会は資金提供を打ち切り、 王太子候補だったアセルスは、政治と経済の両方を失っていく。 一方シャウラは、何もしていない。 復讐もしない。断罪もしない。 平穏な日常を送りながら、無自覚のまま派閥の結束を保ち続ける。 そして王国は、 “王太子を立てない”という前代未聞の選択をし、 聡明な第一王女マリーが女王として即位する――。 誰かを裁くことなく、 誰かを蹴落とすことなく、 ただ「席を立った」者だけが、最後まで穏やかでいられた。 これは、 婚約破棄から始まる―― 静かで、上品で、取り返しのつかないざまぁの物語。 「私は何もしていませんわ」 それが、最強の勝利だった。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

処理中です...