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降神の儀【蓮視点⑧】
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俺は茜さんが、芦屋の新当主に目を奪われていることに気づき、ちょっとムッとした。
まあ俺ほどじゃないけど、見た目は悪くない。目もパッチリしてるし……。
ああいうベタなコスプレみたいな装束は、サブカル好きの女性からしたらグッとくるものがあるのかも?
茜さん、そういうタイプではなさそうだけどな。
あと、学食でうどん頼むたびに油揚げをサービスされていた俺の方が、平安貴族向きじゃないか?
「あ、ちなみに芦屋家の若君の隣にいる女性は、婚約者ですねー。あそこは違う意味で決まった結婚相手を選びますから……おーい、茜さん?」
彼女の前で手をヒラヒラさせた。彼には婚約者がいるんだぞ、茜さん。
しかもあのお嬢さんは、内閣府の大臣を祖父に持つ箱入り娘だ。
芦屋家に呪殺依頼をした者の正体も、それで知れようというもの。
「可愛らしい方ですねー。どうやらあちらのお嬢さんの一目惚れらしいですよ。ふん、一目惚れなんて引きません? あ、俺もだった。俺たちとは逆の関係なんですね」
返事がない。
「──?」
顔を覗き込んだ俺は、驚いて彼女の細い腰を支える。
言っておくが、どさくさに紛れてのセクハラではない。彼女が今にも崩れ落ちそうだったからだ。
「真っ青ですよ。具合、悪い?」
まだ夏の気温を保つ東京から来て、冷えたのかもしれない。
神事の前に身を清める意味で朝風呂に入れたから、湯冷めしたのだろうか。
違うな。昨夜ちゅぱちゅぱして──そしてそのまま寝かせてしまったせいで、冷えたに違いない。
祝詞の強化とはいえ、あれが良くなかった……。
「あかねさん、室内に戻──」
その時、どよめきが広がった。
降神の儀が始まったのだ。
地の底から、地響きと共に「神気」がのし上がってくる。こうなると、俺は下手に動くわけにはいかない。
大蛇には、血筋以外の者を護る義理がない。裏を返せば血筋の者以外には全く興味を示さず、何も影響を及ぼさないはずなんだ。
たとえ茜さんが、同業者たちに匹敵する霊力を持っていたとしても。
だが俺は違う。大蛇の気を乱してはいけない。
「すぐ終わるから、俺に寄りかかって」
「どうして──」
彼女は上の空で呟いた。
「何よ、あの変な恰好。隣の女性は──」
「え?」
ぽっかりと見開いた、空虚な黒い瞳。意識がどこかに飛んでいるような……。
「圭太、どうして」
突如、依り代──祖父──に向かっていた大蛇の神気が、台風の進路のように向きを変えた。
「は!?」
最初は、大蛇が俺に降りようとしているのかと思った。
大蛇本体は、大祝である宗主にのみ降りてくる。
それは古から続いてきた、柳楽家との契約更新の儀式。
俺はまだ宗主じゃないぞ、間違えるな大蛇。
「茜さんっ、ごめん俺から離れて」
大蛇の注意を引いてしまって神気がこちらに向かえば、感覚の鋭い茜さんは打ちのめされてしまうかもしれない。迂闊だった!
上ってくる霊圧と神気が体を突き抜ける衝撃に備えたその時、大蛇の気が、自分に向かっていないことに気づく。
「──っ!?」
気付いた時には、それはあかねさんの体を通り抜け、天に上り、そして──。
「昇神の儀に移る」
突然のことに呆気に取られ、祝詞の途絶えていた祖父へ、父が注意を促した。
我に返った祖父は、再び朗々とした声で祝詞を唱え始める。
大蛇はそのまま天に上り、身を折り返すように降りてきて、再び地中に姿を消した。
「あかねさんっ!?」
ふらっと倒れかけた彼女を受け止め抱き上げると、俺は大急ぎで室内に運んだ。
大蛇は古代の神だ。
血筋の者にしか加護は授けないが、けして悪い気ではない。
憑かれた者はその体を捧げているようなものだから、祟り神化もしないはずだ。
だから茜さんは大丈夫だと思った自分が、許せない。
俺は失念していたのだ。昨日、彼女は大きな蛇を見たと言っていなかったか?
あれが、俺の未来の嫁に対する興味ではなく、茜さん自身に惹かれて姿を現したのだとしたら……。
茜さんの身に纏う甘さは、大蛇にとってもたまらなく魅力的だったに違いない。
「あかねさん、しっかり!」
まあ俺ほどじゃないけど、見た目は悪くない。目もパッチリしてるし……。
ああいうベタなコスプレみたいな装束は、サブカル好きの女性からしたらグッとくるものがあるのかも?
茜さん、そういうタイプではなさそうだけどな。
あと、学食でうどん頼むたびに油揚げをサービスされていた俺の方が、平安貴族向きじゃないか?
「あ、ちなみに芦屋家の若君の隣にいる女性は、婚約者ですねー。あそこは違う意味で決まった結婚相手を選びますから……おーい、茜さん?」
彼女の前で手をヒラヒラさせた。彼には婚約者がいるんだぞ、茜さん。
しかもあのお嬢さんは、内閣府の大臣を祖父に持つ箱入り娘だ。
芦屋家に呪殺依頼をした者の正体も、それで知れようというもの。
「可愛らしい方ですねー。どうやらあちらのお嬢さんの一目惚れらしいですよ。ふん、一目惚れなんて引きません? あ、俺もだった。俺たちとは逆の関係なんですね」
返事がない。
「──?」
顔を覗き込んだ俺は、驚いて彼女の細い腰を支える。
言っておくが、どさくさに紛れてのセクハラではない。彼女が今にも崩れ落ちそうだったからだ。
「真っ青ですよ。具合、悪い?」
まだ夏の気温を保つ東京から来て、冷えたのかもしれない。
神事の前に身を清める意味で朝風呂に入れたから、湯冷めしたのだろうか。
違うな。昨夜ちゅぱちゅぱして──そしてそのまま寝かせてしまったせいで、冷えたに違いない。
祝詞の強化とはいえ、あれが良くなかった……。
「あかねさん、室内に戻──」
その時、どよめきが広がった。
降神の儀が始まったのだ。
地の底から、地響きと共に「神気」がのし上がってくる。こうなると、俺は下手に動くわけにはいかない。
大蛇には、血筋以外の者を護る義理がない。裏を返せば血筋の者以外には全く興味を示さず、何も影響を及ぼさないはずなんだ。
たとえ茜さんが、同業者たちに匹敵する霊力を持っていたとしても。
だが俺は違う。大蛇の気を乱してはいけない。
「すぐ終わるから、俺に寄りかかって」
「どうして──」
彼女は上の空で呟いた。
「何よ、あの変な恰好。隣の女性は──」
「え?」
ぽっかりと見開いた、空虚な黒い瞳。意識がどこかに飛んでいるような……。
「圭太、どうして」
突如、依り代──祖父──に向かっていた大蛇の神気が、台風の進路のように向きを変えた。
「は!?」
最初は、大蛇が俺に降りようとしているのかと思った。
大蛇本体は、大祝である宗主にのみ降りてくる。
それは古から続いてきた、柳楽家との契約更新の儀式。
俺はまだ宗主じゃないぞ、間違えるな大蛇。
「茜さんっ、ごめん俺から離れて」
大蛇の注意を引いてしまって神気がこちらに向かえば、感覚の鋭い茜さんは打ちのめされてしまうかもしれない。迂闊だった!
上ってくる霊圧と神気が体を突き抜ける衝撃に備えたその時、大蛇の気が、自分に向かっていないことに気づく。
「──っ!?」
気付いた時には、それはあかねさんの体を通り抜け、天に上り、そして──。
「昇神の儀に移る」
突然のことに呆気に取られ、祝詞の途絶えていた祖父へ、父が注意を促した。
我に返った祖父は、再び朗々とした声で祝詞を唱え始める。
大蛇はそのまま天に上り、身を折り返すように降りてきて、再び地中に姿を消した。
「あかねさんっ!?」
ふらっと倒れかけた彼女を受け止め抱き上げると、俺は大急ぎで室内に運んだ。
大蛇は古代の神だ。
血筋の者にしか加護は授けないが、けして悪い気ではない。
憑かれた者はその体を捧げているようなものだから、祟り神化もしないはずだ。
だから茜さんは大丈夫だと思った自分が、許せない。
俺は失念していたのだ。昨日、彼女は大きな蛇を見たと言っていなかったか?
あれが、俺の未来の嫁に対する興味ではなく、茜さん自身に惹かれて姿を現したのだとしたら……。
茜さんの身に纏う甘さは、大蛇にとってもたまらなく魅力的だったに違いない。
「あかねさん、しっかり!」
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