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柳楽蓮のライバル【蓮視点⑦】
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祖父が聖域の中央に胡坐をかき、いかつい声で祝詞を唱え始めた。その響きが、静まり返った空気を震わせる。
俺は、烏帽子姿の芦屋家の若様をちらりと見やった。
あの人が、この場にいるとは思わなかった。父親が亡くなって間もないし、しかも普通の死因ではないからだ。
芦屋家当主が禁忌とされる呪法に手を出し、あげく呪詛返しに遭って死んだと聞いたのは、ほんの二ヶ月ほど前のこと……。
遺体は異常な速度で腐敗し、火葬式で済まされたらしい。隠蔽するためじゃない。呪いの痕が、あまりに露骨だったからだ。
依頼主は与党の政治家だったという。表向きは政敵の不穏な動きを抑えるためとされていたが、実際のところ何が起きていたのかは公表されていない。
ただ、相手が最大野党「はにかみ党」と関係の深い某宗教団体で、いわくつきの呪禁師を抱えていた……というあたりで、雲行きの怪しさは察せられた。
詳細は伏せられたままだが、いずれにせよ芦屋家は危険を承知で依頼を引き受けたのだろう。祓い屋の家系として政府に重用されることは、芦屋家の長年の悲願だったから。
だが、実際に厭魅を使って人を害そうとすれば、現代の法で裁けなくても、県警や警察庁の公安が動く。
柳楽家は過去に内偵を頼まれたことがあるが、術者だけじゃなく依頼人も検挙対象になる。
どんな権力者でも、司法を敵に回す覚悟が要る。
今回、特捜は芦屋家当主を「被疑者死亡」のまま立件扱いにし、依頼者である政治家の関与まで突き止めた。
本来なら政界を揺るがす大事件だが、肝心の証拠が「霊的技法に基づくもの」で扱いが極めて難しく、騒ぎが広がることを双方が避けたらしい。
──そのため、検察との司法取引が成立した。
条件は、柳楽家が手を引いたある案件を、芦屋家が引き受けること。
芦屋家はその提案を受け入れ、組織責任の追及を免れる形で、政府お抱えの祓い屋として再出発する道を選んだ。
だからこそ新当主は、この地に来ている。
儀式の後も、彼はこの地に留まり、件の案件を調査する予定なのだろう。
「よくうちの祭祀にまで顔を出す気になったな。見た目チャラそうな割に、律儀なんだ……」
俺は祝詞の合間に彼の様子を観察し、そう呟いた。
芦屋家とは商売敵だが、旧家同士、それなりに交流はある。あちらの本家は京都にあるというのに、毎年柳楽家の神事には当主が信州まで足を運んでくれていた。
子供の頃、酒宴の間に手持ち無沙汰だった俺は、同世代の彼とよく遊んだものだ。
父親を亡くしたばかりなら、人前に出るのは辛いはず……。それでも恒例行事に姿を見せるあたり、見た目に反して、根は真面目なのかもしれない。
儀式が終われば、会合になる。
白訪市の市長、市議、大きな神社の宮司らが集まり、市内の異変について話し合う予定だ。
ちなみに、俺は参加しない。
芦屋家の若様には同情もしているし、気にならないわけじゃないが、今の俺にはもっと重要なことがある。
──茜さんを、嫁にすることだ。
「茜さん? どうしたんです?」
俺は、烏帽子姿の芦屋家の若様をちらりと見やった。
あの人が、この場にいるとは思わなかった。父親が亡くなって間もないし、しかも普通の死因ではないからだ。
芦屋家当主が禁忌とされる呪法に手を出し、あげく呪詛返しに遭って死んだと聞いたのは、ほんの二ヶ月ほど前のこと……。
遺体は異常な速度で腐敗し、火葬式で済まされたらしい。隠蔽するためじゃない。呪いの痕が、あまりに露骨だったからだ。
依頼主は与党の政治家だったという。表向きは政敵の不穏な動きを抑えるためとされていたが、実際のところ何が起きていたのかは公表されていない。
ただ、相手が最大野党「はにかみ党」と関係の深い某宗教団体で、いわくつきの呪禁師を抱えていた……というあたりで、雲行きの怪しさは察せられた。
詳細は伏せられたままだが、いずれにせよ芦屋家は危険を承知で依頼を引き受けたのだろう。祓い屋の家系として政府に重用されることは、芦屋家の長年の悲願だったから。
だが、実際に厭魅を使って人を害そうとすれば、現代の法で裁けなくても、県警や警察庁の公安が動く。
柳楽家は過去に内偵を頼まれたことがあるが、術者だけじゃなく依頼人も検挙対象になる。
どんな権力者でも、司法を敵に回す覚悟が要る。
今回、特捜は芦屋家当主を「被疑者死亡」のまま立件扱いにし、依頼者である政治家の関与まで突き止めた。
本来なら政界を揺るがす大事件だが、肝心の証拠が「霊的技法に基づくもの」で扱いが極めて難しく、騒ぎが広がることを双方が避けたらしい。
──そのため、検察との司法取引が成立した。
条件は、柳楽家が手を引いたある案件を、芦屋家が引き受けること。
芦屋家はその提案を受け入れ、組織責任の追及を免れる形で、政府お抱えの祓い屋として再出発する道を選んだ。
だからこそ新当主は、この地に来ている。
儀式の後も、彼はこの地に留まり、件の案件を調査する予定なのだろう。
「よくうちの祭祀にまで顔を出す気になったな。見た目チャラそうな割に、律儀なんだ……」
俺は祝詞の合間に彼の様子を観察し、そう呟いた。
芦屋家とは商売敵だが、旧家同士、それなりに交流はある。あちらの本家は京都にあるというのに、毎年柳楽家の神事には当主が信州まで足を運んでくれていた。
子供の頃、酒宴の間に手持ち無沙汰だった俺は、同世代の彼とよく遊んだものだ。
父親を亡くしたばかりなら、人前に出るのは辛いはず……。それでも恒例行事に姿を見せるあたり、見た目に反して、根は真面目なのかもしれない。
儀式が終われば、会合になる。
白訪市の市長、市議、大きな神社の宮司らが集まり、市内の異変について話し合う予定だ。
ちなみに、俺は参加しない。
芦屋家の若様には同情もしているし、気にならないわけじゃないが、今の俺にはもっと重要なことがある。
──茜さんを、嫁にすることだ。
「茜さん? どうしたんです?」
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