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降神ハイ
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目が合った刹那、その人は凍りついた。明らかにこちらを認識したのに、スッと視線を背ける。
どうして……ここに?
圭太、と呼ぼうとした私の声は、彼が何事もなかったかのように、隣の和服美人と笑顔で話すところを見た瞬間、喉元に張り付いてしまった。
心が空っぽになった。すぐ近くで柳楽君が何か叫んだのも聞こえなかった。
スカスカになった私の中に、圧倒的質量を持った神々しいエネルギーが入り込んできたのはその直後だ。
それは、落雷のように私の中を突き抜けていった。それが神だと、なぜ分かったのだろう。
身体の中心から、隅々に──それこそ指先どころか髪の毛一本一本の先にまでに光気が浸透し、あろうことか、エクスタシーすら覚えた。
神の依り代になるとは、これほど心地良いものなのか。私は恍惚として、もうこのままこの体を乗っ取られてもいいとすら思った。
そう思ったのに、それは私の中に留まらなかった。だからなのか、脱力して、そのまま意識を手放してしまったのだ。
次に気づいた時、目の前に蓮君の親族がいた。確か、昨夜は宏昌叔父さんとか呼ばれていた人。
切れ長の目は家系なのだろうか。飄々とした雰囲気は、やっぱり蓮君に似ている。
「貧血の症状に近いけど……神気に充てられたんじゃないかな。元から気配に敏感な女性のようだし」
彼は私の下瞼を軽く下げて粘膜の色を確かめ、それから顔を上げた。
寝かされている私を挟んで向かいの蓮君に、物静かな声で提案する。
「あんまり心配なら、知り合いのクリニックを今から開けてもらう? 小さいけど脳神経外科だから、MRIくらいは撮れるよ」
「大丈夫です!」
私は慌てて跳び起きた。
「ゆっくり」
そう言われたけど、ものすごく元気だ。歌いながら飛んで回りたいくらい。若返りの薬を飲んだようないい気分。
「神様って、いるんですね! ハハハHAHAHAッ」
笑顔でそう言うと、蓮君の険しい顔がようやく緩む。ほっとしたように、良かった、と呟いた。
「……でも、ガンギマリの顔じゃないですか。ハイになっている茜さんも可愛いけど、カルト教団に入信させられて、悟りを開いたみたいに目がキラキラしていますよ?」
蓮君は真面目な顔でそう指摘した。まだ心配そうだ。
いや、それヤバイじゃん……。ていうか、今の状況まんまじゃん。
宏昌さんが、納得したように頷いた。
「ああ、神降ろしをすると、一時的にそうなるらしいね。父もそのエネルギーを筋トレに向けて、あんな体になったんだ。時間が経てば落ち着くと言っていたから、大丈夫でしょう」
「筋トレ! ブフォッ! じゃあ蓮君も将来ああなるんだね!」
私はケタケタ笑いながらそう言った。
なるほど、今の私もバーベル三十キロ十回セット余裕な気がする! あの爺さんにそっくりな気がする。ハハハハ!
……本当に戻るのこれ。
「隙を見せるからです」
蓮君の渋い顔。
隙……? 私はハッとなった。それを聞いて、どうしてそうなったか思い出したからだ。
圭太だ。あり得ない場所で圭太を見たから、抜け殻になってしまったのだ。
あの時私は、完全に、何も考えられなくなってしまった。
胸がドキドキしてきた。あれは、見間違い? 隣の可愛い女性は……。
「あかねさん? やっぱりまだ具合悪いんじゃ……」
急に黙り込んだ私に気づいたのだろう。蓮君がそっと私の手を握った。その手が、わずかに震えている。
すごく心配してくれていたんだな……。
それで、少し落ち着いた。
「そりゃそうですよね……いくら霊力が高くても、大蛇が降りるなんて」
甥の言葉に、宏昌さんが頷いた。
「そうだね。一般人に降りるなんて……前代未聞だよ。でも害はないはずなんだ。大蛇は禍つ神ではないし、祟り神化もしてなかったからね」
彼は、今度は私に向かって言った。
「とにかくしばらく無理せず、具合が悪くなったらすぐ言ってくださいね、お嬢さん」
往診カバンに医療器具をしまっていた彼の手が、何か思い出したように止まった。言いにくそうに付け足す。
「あとね……ちょっと父が拗ねてるから、一言慰めておいてくれると助かるんだけど。あの人面倒くさいんだよね」
ぎくぅっ!
そうだよ、私、神事をぶち壊しちゃったんだ! 主役の見せ場を奪ってしまったんだものね。
「あ、もう会合は終わって、今は宴が始まっている頃だな」
宏昌さんは、目が飛び出でるほど高そうな腕時計に目をやる。
「会合?」
「ええ、市長や大きな神社の神職の方々が……。まあ宴はただの誕生会なので、ご一緒にどうで──」
「いや、もう茜さんは、誰とも会わないでいいですよ。俺から言っておきますから。ていうか、こっちが迷惑かけちゃったんだし」
蓮君が叔父の言葉を遮るように、きっぱり言った。
「何か食べれそう? ここまで持ってきますよ。それですぐ東京に帰します」
なんだかすごく満足そうな顔だ。
「親族に会わせる目的はもう果たしたから」
低い声でそう囁いた蓮君に、私は首をかしげる。
「親族に会わせるのが、目的?」
ああ……あれか。俺にも友人がいるんだぜ、ってやつ?
しかし蓮君は何かたくらんでいるような笑みを見せると、首を振った。
「気にしないで。……俺のわがままで振り回しました。変なところに連れてきてすみません」
どうして……ここに?
圭太、と呼ぼうとした私の声は、彼が何事もなかったかのように、隣の和服美人と笑顔で話すところを見た瞬間、喉元に張り付いてしまった。
心が空っぽになった。すぐ近くで柳楽君が何か叫んだのも聞こえなかった。
スカスカになった私の中に、圧倒的質量を持った神々しいエネルギーが入り込んできたのはその直後だ。
それは、落雷のように私の中を突き抜けていった。それが神だと、なぜ分かったのだろう。
身体の中心から、隅々に──それこそ指先どころか髪の毛一本一本の先にまでに光気が浸透し、あろうことか、エクスタシーすら覚えた。
神の依り代になるとは、これほど心地良いものなのか。私は恍惚として、もうこのままこの体を乗っ取られてもいいとすら思った。
そう思ったのに、それは私の中に留まらなかった。だからなのか、脱力して、そのまま意識を手放してしまったのだ。
次に気づいた時、目の前に蓮君の親族がいた。確か、昨夜は宏昌叔父さんとか呼ばれていた人。
切れ長の目は家系なのだろうか。飄々とした雰囲気は、やっぱり蓮君に似ている。
「貧血の症状に近いけど……神気に充てられたんじゃないかな。元から気配に敏感な女性のようだし」
彼は私の下瞼を軽く下げて粘膜の色を確かめ、それから顔を上げた。
寝かされている私を挟んで向かいの蓮君に、物静かな声で提案する。
「あんまり心配なら、知り合いのクリニックを今から開けてもらう? 小さいけど脳神経外科だから、MRIくらいは撮れるよ」
「大丈夫です!」
私は慌てて跳び起きた。
「ゆっくり」
そう言われたけど、ものすごく元気だ。歌いながら飛んで回りたいくらい。若返りの薬を飲んだようないい気分。
「神様って、いるんですね! ハハハHAHAHAッ」
笑顔でそう言うと、蓮君の険しい顔がようやく緩む。ほっとしたように、良かった、と呟いた。
「……でも、ガンギマリの顔じゃないですか。ハイになっている茜さんも可愛いけど、カルト教団に入信させられて、悟りを開いたみたいに目がキラキラしていますよ?」
蓮君は真面目な顔でそう指摘した。まだ心配そうだ。
いや、それヤバイじゃん……。ていうか、今の状況まんまじゃん。
宏昌さんが、納得したように頷いた。
「ああ、神降ろしをすると、一時的にそうなるらしいね。父もそのエネルギーを筋トレに向けて、あんな体になったんだ。時間が経てば落ち着くと言っていたから、大丈夫でしょう」
「筋トレ! ブフォッ! じゃあ蓮君も将来ああなるんだね!」
私はケタケタ笑いながらそう言った。
なるほど、今の私もバーベル三十キロ十回セット余裕な気がする! あの爺さんにそっくりな気がする。ハハハハ!
……本当に戻るのこれ。
「隙を見せるからです」
蓮君の渋い顔。
隙……? 私はハッとなった。それを聞いて、どうしてそうなったか思い出したからだ。
圭太だ。あり得ない場所で圭太を見たから、抜け殻になってしまったのだ。
あの時私は、完全に、何も考えられなくなってしまった。
胸がドキドキしてきた。あれは、見間違い? 隣の可愛い女性は……。
「あかねさん? やっぱりまだ具合悪いんじゃ……」
急に黙り込んだ私に気づいたのだろう。蓮君がそっと私の手を握った。その手が、わずかに震えている。
すごく心配してくれていたんだな……。
それで、少し落ち着いた。
「そりゃそうですよね……いくら霊力が高くても、大蛇が降りるなんて」
甥の言葉に、宏昌さんが頷いた。
「そうだね。一般人に降りるなんて……前代未聞だよ。でも害はないはずなんだ。大蛇は禍つ神ではないし、祟り神化もしてなかったからね」
彼は、今度は私に向かって言った。
「とにかくしばらく無理せず、具合が悪くなったらすぐ言ってくださいね、お嬢さん」
往診カバンに医療器具をしまっていた彼の手が、何か思い出したように止まった。言いにくそうに付け足す。
「あとね……ちょっと父が拗ねてるから、一言慰めておいてくれると助かるんだけど。あの人面倒くさいんだよね」
ぎくぅっ!
そうだよ、私、神事をぶち壊しちゃったんだ! 主役の見せ場を奪ってしまったんだものね。
「あ、もう会合は終わって、今は宴が始まっている頃だな」
宏昌さんは、目が飛び出でるほど高そうな腕時計に目をやる。
「会合?」
「ええ、市長や大きな神社の神職の方々が……。まあ宴はただの誕生会なので、ご一緒にどうで──」
「いや、もう茜さんは、誰とも会わないでいいですよ。俺から言っておきますから。ていうか、こっちが迷惑かけちゃったんだし」
蓮君が叔父の言葉を遮るように、きっぱり言った。
「何か食べれそう? ここまで持ってきますよ。それですぐ東京に帰します」
なんだかすごく満足そうな顔だ。
「親族に会わせる目的はもう果たしたから」
低い声でそう囁いた蓮君に、私は首をかしげる。
「親族に会わせるのが、目的?」
ああ……あれか。俺にも友人がいるんだぜ、ってやつ?
しかし蓮君は何かたくらんでいるような笑みを見せると、首を振った。
「気にしないで。……俺のわがままで振り回しました。変なところに連れてきてすみません」
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