R18「貴様のことは愛せん!婚約破棄だ、このメス豚め!」って言ったけど、あれ忘れてくれる?

世界のボボブラ汁(エロル)

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1 婚約破棄

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「セニエ伯爵令嬢アニエス・バラデュール、我が婚約者よ」

 カルナック侯爵家の嫡男ディオン・ル・ベルは、大広間のど真ん中で、男爵令嬢ヴァネッサの肩を引き寄せた。

 そして、婚約者に向けて人差し指を突きつける。

「貴様のことは愛せぬ! 婚約破棄だ、このメス豚め!」

 王宮で行われていた春の舞踏会の最中だった。

 ちょうど楽団の音が止んだ瞬間と重なり、その声は場内に大きく響き渡る。

 多くの招待客が談笑を忘れ、凍りついた。

「よくぞおっしゃってくださいましたわ、ディオン様」

 ヴァネッサが、煉瓦色の瞳を潤ませながら、うっとりとディオンを見上げる。

「俺は真実の愛に目覚めた。ヴァネッサこそ、最愛の人だ」

 アニエスは小さく首をかしげた。

 姿勢は正しく、身のこなしには一切の無駄がない。銀色の髪は乱れひとつなく後ろでまとめられ、光を弾くように艶めいている。

 透き通る薄紫の瞳は揺らぎを見せず、ただ静かに婚約者を見据えていた。

 隙のなさと知性がそのまま形になったような彼女は、思わず話しかけるのをためらわせるほど近寄りがたい。

 それでも──否、だからこそか──目を奪われるほどに美しい。

 ディオンは一瞬、この選択は誤りだったのではないかと後悔しかけた。

 しかし、彼女が赤く整った唇を開いたとき、その後悔は霧散する。

「愚かなことを。場を騒がせて、陛下に申し訳が立たないと思いませんの?」

 冷ややかな声は、取り乱した様子もなく落ち着いていた。

(ほらな。いくら美しくても、氷の女神像には可愛げがまったく無いんだ)

 いらだつディオンをよそに、彼女は淡々と続ける。

「なぜ両家の話し合いの場を設けないのです? 衆目の中でわたくしを辱める理由を、おっしゃってくださいませ」

 燕尾服やイブニングドレスに身を包んだ貴族たちは、ディオンの父──カルナック侯爵のほうへおそるおそる視線を向けた。

 侯爵は渋い顔で息子を見ているだけで、特に何も言わない。

 アニエスの父セニエ伯爵もまた、娘と同じく感情の読めない目で、三者を見つめるだけだった。

 今日は春祝の宴である。

 昼には王宮の庭園が解放され、青紫のアイリスやアネモネ、早咲きのラベンダーがほのかに香る植栽を、皆が楽しんだばかりだ。

 夜の舞踏会は、共に高位の貴族であるディオンとアニエスの婚約を祝うため、国王が用意した趣向だった。

 本来なら幸せになるはずの二人が、なぜこんなことになってしまったのか。

 戸惑う貴族たちの間に、ヒソヒソと憶測の声が飛び交った。

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