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人のいいエイベル君
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人たらしめっ。赤くなる私に気づかず、エイベル君ははーっと深く長いため息をついて頭を抱える。
「やっぱ、僕がおかしいのかな」
悩んでいるエイベル君を見つめながら、私は考え込んだ。
ふむ、人に興味が無いわけじゃないのか。いい面ばかり見ようとするのだわ。性善説を推しているのね。
私の性格が悪いのかしら。皆いい人なんて、そんなわけあるか! この人、素直すぎるわ。
「そんなで士官になれるの? あと、カルト宗教とか自己啓発ナンチャラに騙されるんじゃないの?」
私が言うと、エイベル君は苦笑した。
「それは大丈夫だよ。害をなす者たちから皆を守るためなら、僕はちゃんと戦えるよ。……でも……僕は……」
ふと遠くを見るような目をした。
「ただ一人を守りたいと思えるのも、羨ましいなって──」
そこで口ごもる。私が黙って先を促すと、やがて伏し目がちに、言いにくそうにポツリと呟いた。
「けっきょくは、真実の愛があるって信じたいんだよね。僕にも運命の人がいるのかなって……思いたいんだ」
口にしてから、ハッとして私を見る。照れ隠しなのか、慌てて言い訳をした。
「いや、両親がすごく仲が良くてね。だからああいう結婚ならしたいなーって思ったんだ」
真紅の瞳を泳がせながら狼狽えるエイベル君。不覚にも、可愛いなと思ってしまった。
私がどうしてエイベル君に好意を持ったかっていうと、単純にいい人だから。
彼が建前だけの優しさで接してきたなら、さすがに私は──いや、誰だって心を動かされないだろう。
胡散臭いくらい優しいから、偽善者だって思われちゃうわ。
でも彼、本当に優しいの。
委員長を押し付けられた私のこと、さりげなくサポートしてくれたエイベル君。
「エイベル君が委員長になったら、私たちとデートできなくなっちゃうから、あなたがやりなさいよルシールさん。どうせあなたは、デートなんて興味無いんでしょ?」
と言ってきた例のパリピたちの目論見が外れ、意外にも彼との接点が増えてしまったのだ。
重い教材を運んだり、課題のノートを集めてくれたり、黒板を消すのはいつもエイベル君なの。
私の仕事だからいいよと言ったのに、俺の方が力があるし背が高いからさ、と毎回手伝ってくれる。もしかして、根暗鉄仮面にも優しくすることで、周りからの評価を上げようとしているのかしら?
だけど、皆さっさと移動教室で行ってしまったのに。誰も見てないのよ? 私みたいなガリ眼鏡に優しくしたって得なことないじゃない。
やがて彼が、人の目など気にしてやっているわけじゃないと、すぐ知ることになった。だって、私はいつも彼を盗み見ていたから。
世話焼きなのは皆気づいていると思う。なんて言ったらいいのか、助け舟を出すのが上手いっていうの?
クラスで誰かが恥をかいたり、嫌われたり、孤立しないよう、上手い具合に水面下で画策するのよ。
一人でいる子は絶対放っておかないし。揉めそうになったら絶妙な緩衝材になり、人と人との衝突を防ぐのだ。とにかくフォローやサポートが上手いのよね。
見えないところでも人の役に立とうとしているのが、肌で感じられる。
たぶんエイベル君の方が、私より委員長に向いているんだわ。
皆が彼を好きになるのは、分かる気がした。私だって、そんなところが大好きなんだもん。
「やっぱ、僕がおかしいのかな」
悩んでいるエイベル君を見つめながら、私は考え込んだ。
ふむ、人に興味が無いわけじゃないのか。いい面ばかり見ようとするのだわ。性善説を推しているのね。
私の性格が悪いのかしら。皆いい人なんて、そんなわけあるか! この人、素直すぎるわ。
「そんなで士官になれるの? あと、カルト宗教とか自己啓発ナンチャラに騙されるんじゃないの?」
私が言うと、エイベル君は苦笑した。
「それは大丈夫だよ。害をなす者たちから皆を守るためなら、僕はちゃんと戦えるよ。……でも……僕は……」
ふと遠くを見るような目をした。
「ただ一人を守りたいと思えるのも、羨ましいなって──」
そこで口ごもる。私が黙って先を促すと、やがて伏し目がちに、言いにくそうにポツリと呟いた。
「けっきょくは、真実の愛があるって信じたいんだよね。僕にも運命の人がいるのかなって……思いたいんだ」
口にしてから、ハッとして私を見る。照れ隠しなのか、慌てて言い訳をした。
「いや、両親がすごく仲が良くてね。だからああいう結婚ならしたいなーって思ったんだ」
真紅の瞳を泳がせながら狼狽えるエイベル君。不覚にも、可愛いなと思ってしまった。
私がどうしてエイベル君に好意を持ったかっていうと、単純にいい人だから。
彼が建前だけの優しさで接してきたなら、さすがに私は──いや、誰だって心を動かされないだろう。
胡散臭いくらい優しいから、偽善者だって思われちゃうわ。
でも彼、本当に優しいの。
委員長を押し付けられた私のこと、さりげなくサポートしてくれたエイベル君。
「エイベル君が委員長になったら、私たちとデートできなくなっちゃうから、あなたがやりなさいよルシールさん。どうせあなたは、デートなんて興味無いんでしょ?」
と言ってきた例のパリピたちの目論見が外れ、意外にも彼との接点が増えてしまったのだ。
重い教材を運んだり、課題のノートを集めてくれたり、黒板を消すのはいつもエイベル君なの。
私の仕事だからいいよと言ったのに、俺の方が力があるし背が高いからさ、と毎回手伝ってくれる。もしかして、根暗鉄仮面にも優しくすることで、周りからの評価を上げようとしているのかしら?
だけど、皆さっさと移動教室で行ってしまったのに。誰も見てないのよ? 私みたいなガリ眼鏡に優しくしたって得なことないじゃない。
やがて彼が、人の目など気にしてやっているわけじゃないと、すぐ知ることになった。だって、私はいつも彼を盗み見ていたから。
世話焼きなのは皆気づいていると思う。なんて言ったらいいのか、助け舟を出すのが上手いっていうの?
クラスで誰かが恥をかいたり、嫌われたり、孤立しないよう、上手い具合に水面下で画策するのよ。
一人でいる子は絶対放っておかないし。揉めそうになったら絶妙な緩衝材になり、人と人との衝突を防ぐのだ。とにかくフォローやサポートが上手いのよね。
見えないところでも人の役に立とうとしているのが、肌で感じられる。
たぶんエイベル君の方が、私より委員長に向いているんだわ。
皆が彼を好きになるのは、分かる気がした。私だって、そんなところが大好きなんだもん。
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