本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた

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第一章 ヒロイン視点 悪役令嬢の断罪

9.もう、やめろよ

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「ねえ、誰?私の机、隠そうって、決めたの」

扉の前に立って、私は問う。

まあ返事が返ってくることはない。

そうだろうなとは思うけど、一応聞いておかないと。聞いてみて、返事がなかったってことは先生に伝えないと。


ふふふ。さあ、怯えなさい。

今まで何も言い返して来なかったんだもの、びっくりしてるでしょう。

私より自分が強いと思ってる、あなた。少しは出てきたらどうなの。


金髪縦ロールことロザリーは、一番後ろの席で何人かの女子に囲まれて、無表情でこっちを見ている。

何、考えてるんだろう?
あいつ、どうやったら動くかな?


私に向かう目が、みんな、変わってる。
ばかにしている視線から、危険物を見る目に。

そうだ。
私は危険物だ。いちばん、つよいんだ。
それでいい。ばかなこと、二度と言わせない。


どうせ、ひとりだったんだ。
みんな、いらない。あの縦ロールにやり返せたら、それでいい。

みんなに怖がられてもいい。
本音を言いなさいよ。
直接かかってこないと、もう私は傷つかないよ。

さあ、早く。



「……なあ、もう、やめろよ」


その時、教室の窓側の席から声がした。

青い髪。紫の瞳。ああ、教室の中でほとんど誰とも話さない私も、あの子は覚えてる。


「俺のおやじが、こいつんとこによく行ってるんだけどさ。みんなが言ってるような店じゃねえぞ。
こいつに手なんか出したら店のおやじにぼこぼこにされるし、こいつ自身も強いんだ。
そう簡単に言いなりになんてならねえよ」


そう、あの子は。
カラムの、息子だ。

確か、五番目の子、ニムルス。
同じ年だって、聞いてた。
カラムは店で一度もこの子のことを話さなかったけど、同じ年ならこの教室にいるはずなんだ。


知ってたの?知ってて、黙ってたの?


「けっ、強えなんて嘘だ!俺に殴られっぱなしだったじゃん!!」


さっき私を殴った奴が声を上げた。

うん、わざと殴られたからね。
こっちが手を出したら、そこをすかさず揚げ足取ってくるでしょ。

カラムに免じて、許してあげてたんだよ。
私が誰かを殴ったら、カラムが悲しむから。
やり返さなくたって、私はいちばん、つよいんだからね。


「いや、確かだ。俺、一回店に行ってるんだけどさ、こいつが大人の冒険者をボコボコにしてるとこ、見たぞ」


ん?ボコボコ?

私でも、無理矢理手を引っ張ってお酌させようとした人に、張り手をくらわせた事くらいはあるよ。

でも、私が手出しするまでもなく、お父さんや店の常連の人たちがやっつけてくれるから……。


ほんとにカラムからうちのこと聞いてるの?
こいつ、ほんとは何も知らないんじゃない?
そもそもうち、そんなことに殆どならないんだけど。



カラムによく似た青いタレ目が、私をまっすぐ見つめてくる。


……そういうことか。乗っかっておくか。

黒いどろどろは、好機だと、私に囁いた。
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