本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた

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第一章 ヒロイン視点 悪役令嬢の断罪

8.さあ、溺れろ

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「なんだと!ふざけるな!!」

かっとなって、わんわん君が拳を振り上げる。


よぉし、待ってましたよ。
敢えて、避けない。


がんっ!


顔を、思いっきり殴られた。みんなの、前で。
ぽた、と、口から血が出てくる。
うん、久しぶりだ。ちょっと痛いな。


わんわん君は、ちょっと慌てている。
いや殴ったら当然でしょ。こちとら女子だぜ?


本当はね。家の裏庭で、小さい頃から受けてきた訓練では、これくらいよくあることだ。全然平気。

むしろこれだけ?弱くね?

まぁでも、放っておくと顔が腫れてくるな。
早く腫れればいいのに。
盛大に、痛々しく、腫れればいいのに。


「え、あ、お、お前が悪いんだからな!
悪口を言ったからなんだから、お前のせいなんだからな!!」

ちょっと怯んでる。ふふ、よしよし。
君は私の犠牲者だ。黒いどろどろが移るといい。

そのうちご主人様に届くように。


ほら、私の顔、痛々しいでしょう?
みんな、見てるんだよ?

さあ、悪いことしたなと思え。
さあ、歪んだ気持ちに溺れろ。
自分に言い訳をして、悪いことに蓋をして、苦しめ。
そしてそれをこの後司祭様にすごく怒られるんだ。


いくら言い訳しても、私の顔の殴られた跡は消せない。殴ったところはみんな見てる。私の顔は、そのうち腫れて痛々しくなる。


私は慣れてるから平気だけど、そんなのみんなは知らない。
魔法ですぐ治せるけどね。治してやんないよ。
さあ、言い訳しろ。歪め。苦しめ。


にやっと嗤った私の顔は、どうなってるんだろう。

悪者はどっちだろう。

でも、私は悪くない。やり返せないから、糸口を見出そうとしているだけ。


わんわんくんには、悪いことしてるのかな。
でもこの子、多分、机捨ててるよね?
確認してないけど、きっとそうだよね?

わかんない。でも、なんだかとても気持ちがいい。



視界の端で、人が動いた。外に出ようとしている。先生を呼びに行ったのか、机を取りに行ったのか。

たんたん、と、ふたつ跳躍して教室の入り口に立ちふさがる。
わざと、ちょっとありえない移動速度で。

ひっ、と、動いた女の子達が怯む。


うん、君たちも主犯じゃないよね。
いつも悪口を言ってたやつらじゃない。傍観してた側だ。

それもわるいことなんだよ。知ってる?


「出さないって、言ったよね。
あなた達がやったと思ってるわけじゃないんだけどさ。やったやつらは大体わかるし。
でも、ごめんね。今はここを出ないで。誰も、一歩も」


ぎらっと、教室内を見渡した。
しんと、静まり返ったみんなを見て、女の子達に声をかける。


「席に、戻って。多分あなた達は関係ないよね?」

こくこくこくと頷いて、彼女達は席に戻った。


うん、あなた達はいいや。本当に仕返ししたいのはロザリーだ。

人を使って、表に出てこない、好き勝手なことを言って黒いどろどろを作り出すあいつだ。

私は、被害者だ。
そうだよね?カラム。私、悪くないよね?


さあ、出てこい。陰険金髪縦ロールめ。
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