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第二章 悪役令嬢視点 断罪は終わらない
15.処理能力の限界です
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帰りは、エリサさんに抱き上げられて運ばれた。
私はなんだか、もう、足に力が入らなかったんだ。
「ねえ、ロザリー。せっかくこうして二人きりなのだから、この際話しておきたいことがあるの」
すぐそばにあるエリサさんのきれいな瞳に、こくっと頷いて返す。
何だろう。
白の警備隊の人たち。エリサさん達の強さ。どうして襲撃がわかったのか。話の内容に覚えかありすぎて想像がつかない。
「あのね……。大手チェーンの居酒屋をただ真似ても、成功しないわよ?ここの人たちの生活をよく見て、理解しないと。
もう、わかるわよね?」
え。
今なんて。
「あの居酒屋で、あなたの正体に辿り着く人はたくさんいるでしょう。二つの意味でね」
言葉が、出てこない。
今、エリサさんは、大手チェーンって言った。
それは、この異世界にはない言葉で。
「あの接客はなんとかするように、ロダンさんに進言しておいたから、もう直っているだろうけど……。
あなたは隠れていなければいけない身の上だった。更にそれ以上の自分の秘密さえ、わかる人なら誰でもわかるような形で披露していたの。
それがどれだけ危険なことか、わかるかしら」
くすっと笑って、ゆさゆさと私の体をエリサさんは揺する。
そうか。そうなのか。
リーナは、毎日髪と体の手入れをしていた。それは、平民にはない習慣だ。しかも洗い液を使っているという。
更にバイトを始めて、その仕草の端々に、日本を感じていた。しかも、主人公。
だからてっきり、リーナも転生者だと、思っていた。
転生者は、母親だったのか。
「転生しているものは、あなたの想像以上に、身近にいたりするものなの。更にあなたには立場がある。周りに十分気をつけなさい。
シナリオを知っているのは、あなただけではないわ」
この世界のことについても。私やリーナのことについても。知ってたんだ。最初から。
「これ以上、こちらの情報を開示するつもりはないけれど、あなたの事情を、あなたが思っている以上に私達は把握しているわ。
だから本当に大丈夫。それとね……」
月明かりの中で、ふわりと微笑むエリサさんは、リーナにそっくりのにんまりと悪い笑みを浮かべた。
「リーナには、自由に生きてもらうの。あの子の意思で。
私がついている以上、あの子もあなたも、シナリオ通りになんかしないわ。あなたの知識がそのまま、役に立つと思わないことね」
ふふっと笑うエリサさんは、ぞっとする程きれいだった。
ぎりっと私を握りしめた手に無駄に力がこもるところが、やっぱり親子だな、と。
あまりのことにパンクした頭で、私はぼんやりと考えた。
お店に着いて、下に降ろされて立ち上がり。
まだ事態を受け止めきれずにふらふらする体を支えられながら、店内に入ると。
ニムルスと、鍋とお玉で戦うリーナの姿があった。
「うおおおお!!」
リーナは、女子にあるまじき雄叫びを上げ、お玉を振り上げてニムルスに突進する。
ニムルスはにやりと嗤い、さっとフライパンを掲げた。
がぁん!!
ごっ。
その一撃での風圧が、私の体をよろめかせる。
え、なに、今の。
「あ、そうそう、言い忘れてたわ」
エリサさん?私もうキャパオーバーよ?
「うちの備品ってね、本人が持てるぎりぎりの重さになるように、魔法がかかっているのよ。筋力に加えて、身体強化の魔法も自然と使えるようになるわ。
そこで何年も働く意味、今のあなたならわかるわよね。
あの子に勝てると、思わない方が身のためよ?」
あ、そうか。そうなのか。だからあんなに重かったのね。私の打撃で地面がめり込んだのも、そのせいかしら?
うふふ。うふふふふ。
私の視界は暗転した。
もはや、処理能力の限界だった。
最後に見たのは、リーナの、にんまりと嗤う笑顔だった。
私はなんだか、もう、足に力が入らなかったんだ。
「ねえ、ロザリー。せっかくこうして二人きりなのだから、この際話しておきたいことがあるの」
すぐそばにあるエリサさんのきれいな瞳に、こくっと頷いて返す。
何だろう。
白の警備隊の人たち。エリサさん達の強さ。どうして襲撃がわかったのか。話の内容に覚えかありすぎて想像がつかない。
「あのね……。大手チェーンの居酒屋をただ真似ても、成功しないわよ?ここの人たちの生活をよく見て、理解しないと。
もう、わかるわよね?」
え。
今なんて。
「あの居酒屋で、あなたの正体に辿り着く人はたくさんいるでしょう。二つの意味でね」
言葉が、出てこない。
今、エリサさんは、大手チェーンって言った。
それは、この異世界にはない言葉で。
「あの接客はなんとかするように、ロダンさんに進言しておいたから、もう直っているだろうけど……。
あなたは隠れていなければいけない身の上だった。更にそれ以上の自分の秘密さえ、わかる人なら誰でもわかるような形で披露していたの。
それがどれだけ危険なことか、わかるかしら」
くすっと笑って、ゆさゆさと私の体をエリサさんは揺する。
そうか。そうなのか。
リーナは、毎日髪と体の手入れをしていた。それは、平民にはない習慣だ。しかも洗い液を使っているという。
更にバイトを始めて、その仕草の端々に、日本を感じていた。しかも、主人公。
だからてっきり、リーナも転生者だと、思っていた。
転生者は、母親だったのか。
「転生しているものは、あなたの想像以上に、身近にいたりするものなの。更にあなたには立場がある。周りに十分気をつけなさい。
シナリオを知っているのは、あなただけではないわ」
この世界のことについても。私やリーナのことについても。知ってたんだ。最初から。
「これ以上、こちらの情報を開示するつもりはないけれど、あなたの事情を、あなたが思っている以上に私達は把握しているわ。
だから本当に大丈夫。それとね……」
月明かりの中で、ふわりと微笑むエリサさんは、リーナにそっくりのにんまりと悪い笑みを浮かべた。
「リーナには、自由に生きてもらうの。あの子の意思で。
私がついている以上、あの子もあなたも、シナリオ通りになんかしないわ。あなたの知識がそのまま、役に立つと思わないことね」
ふふっと笑うエリサさんは、ぞっとする程きれいだった。
ぎりっと私を握りしめた手に無駄に力がこもるところが、やっぱり親子だな、と。
あまりのことにパンクした頭で、私はぼんやりと考えた。
お店に着いて、下に降ろされて立ち上がり。
まだ事態を受け止めきれずにふらふらする体を支えられながら、店内に入ると。
ニムルスと、鍋とお玉で戦うリーナの姿があった。
「うおおおお!!」
リーナは、女子にあるまじき雄叫びを上げ、お玉を振り上げてニムルスに突進する。
ニムルスはにやりと嗤い、さっとフライパンを掲げた。
がぁん!!
ごっ。
その一撃での風圧が、私の体をよろめかせる。
え、なに、今の。
「あ、そうそう、言い忘れてたわ」
エリサさん?私もうキャパオーバーよ?
「うちの備品ってね、本人が持てるぎりぎりの重さになるように、魔法がかかっているのよ。筋力に加えて、身体強化の魔法も自然と使えるようになるわ。
そこで何年も働く意味、今のあなたならわかるわよね。
あの子に勝てると、思わない方が身のためよ?」
あ、そうか。そうなのか。だからあんなに重かったのね。私の打撃で地面がめり込んだのも、そのせいかしら?
うふふ。うふふふふ。
私の視界は暗転した。
もはや、処理能力の限界だった。
最後に見たのは、リーナの、にんまりと嗤う笑顔だった。
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