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第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる
3.手伝いの日々
しおりを挟むリーナんちに手伝いに行きたいって、家族に話してみた。
俺には、朝から水くみや火起こし、掃除や弟や妹の世話なんかの手伝いがある。だから、夕方の少しだけ、日が暮れる前まで。
これまでより少しだけ、帰りがおそくなるけど、って、話した。
夕方は今まで、木の剣で素振りをしたり、近所をいっぱい走ってきたり、父さんみたいに兵士になりたくて自分の時間にしてきた。だから、家になにもめいわくはないはずだ。
母さんは、ちゃんと話したら許してくれた。
父さんは、なんで今まで言わなかった!って、げんこつを一発落としてきた。
いや、ごめん、なんか、本人にも謝れてない。
半年も経っている。それはとても言えなかった。
父さん、悪いやつをやっつける仕事なのに。これじゃ、俺がやっつけられる。
また、右手がじくじくした。
父さんは、次の日すぐにリーナんちに一緒に謝りに行ってくれた。リーナはまだ二階にいて、からかわれなかったから、俺もリーナの父さんと母さんには素直に謝れた。
少し、リーナの父さんと母さんと、座って話をした。
父さんが、兵士をしていること。俺も、兵士を目指していること。
父さんは仕事で何かいいことをしたらしく、白の警備隊っていうのに最近入ったらしい。初めて聞いた。
それを聞いたリーナの母さんの目が、ぎらりと光ったのは、気のせいだ。あんなにやさしそうなひとだもの。うん。気のせいだ。
……誤解でした。気のせいなんかじゃなかった。
じゃあ、開店前のお掃除だけお願い、といって、言いつけられる仕事の量が尋常じゃなかった。
まず、椅子を全部テーブルに上げて床をほうきで掃く。
ぞうきんを固く絞って、へんな棒にぞうきんをつけて、お貴族様が使うモップみたいにして、磨き上げる。
それが終わると、テーブルや椅子を違うきれいな布で全部磨く。終わったら、店の外をほうきで掃く。
ふつうは、軽く床を掃いてテーブルを拭いたら掃除なんて終わりだ。父さんの妹、俺のおばさんが、昼間だけごはんを食べられる店をやってるから、知ってる。この掃除は、ちょっと変だ。
更に、もうひとつ変なのが。
全部、ものっすごく重い。ほうきとか、バケツとか、雑巾まで、全部。持てるのかこれってくらい重い。椅子なんて、持ち上げられるようになるまで1週間くらいかかった。
リーナも大概変だけどさ。ここも変だ。
俺、みんなの中でもたぶん、リーナ以外なら一番力は強いはずなんだ。家の中で力がいる仕事は、俺に回ってくる。父さんが家にいても。俺が、一人前にできるからだ。
なのに。
ここに来て掃除をするのは、いつもの剣の素振りより何倍も辛い。
ロザリーも途中から身支度を整えて来て、一緒に掃除するんだけど。
え、なんでそんな早くほうき使えるの。椅子重くないの。今二つ一気に持たなかった?え、ちょっと待てよ?ロザリーって、なんか金持ちの娘だよな?
俺が椅子を持てなくてぷるぷるしてると、代わりに持ってくれたりした。
……なにが、おきてるんだ。
わからない。でも、とりあえず、ここにいる間だけは、リーナの顔を見ても、右手はじくじくしなかった。
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