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第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる
4.ある日からの変化
しおりを挟むある日、いつも通りに手伝いに行ってみると。
もう、ロザリーが家の中で手伝いをしていた。
あれ、一回家に帰って身支度してくるんじゃねえの?どうしたのさロザリー。
話しかけようとしたけど、エリサさんに止められた。
「ちょっと、ロザリーちゃんのおうちが忙しいみたいなのよ。しばらくの間、うちでロザリーちゃんをお預かりすることになったの」
エリサさんは、ぽんぽんと、俺の両肩を叩いてくる。なんだろう。まっすぐ目を見られて、落ち着かない。
「実は、この通りで、昨日ちょっとした乱闘騒ぎがあったのよ。
お父さんから聞いて……は、いないわよね。職務のことを無闇に話しそうな方ではなかったわ」
こくり。頷く。それは、兵士の誇りだ。みんなを不安にさせない為に、必要ない情報はたとえ家族だろうと公開しない。
「つまり、この界隈はいつもより危ないのよ。
いつもうちに来る冒険者に、あなたの送り迎えを依頼したのだけど、いいかしら?」
「え、でも、俺、お金が」
「お給金も出していないのに来てくれているのだもの、必要経費よ。私たちが依頼しているから、そこは安心して。
わん……カイル君のお掃除はとても丁寧で、助かってるのよ。ね、お願い」
……いま、わんわん君っていいかけなかったかエリサさん。
いや、それはいいんだけど。
ロザリー、住み込みってどういうこと。
お前の家は、金持ちだから護衛とかいて安全じゃねえのかよ。なんで。
聞きたくて、ちらっとロザリーを見た。けど、その怖いくらい無表情な顔を見て、なんか、やめた。
聞いて、どうにかなるわけじゃないしな。
……なんか、ひとつひとつ、触る備品を見ては、重さを確かめてため息をついている。
どうしたんだ。みんな重いのくらいもう知ってるだろうに。
「よう!ちょっと早めに来たぜ」
「カラム!お仕事終わったの?」
リーナが駆け寄ってくる。リーナはカラムのことが、すごく好きだ。お父さんとお母さんの次に好きだって言ってる。
……あれ?確か冒険者やってるにいちゃんいなかった?兄ちゃんは?兄ちゃんは何番目?
……気にしないことにした。
「いや、まだ終わってねぇな。そこにいるわん…カイル君を家まで送り届けるのが、今日の最後の仕事だ。終わったらまた来るから、注文頼むな」
がしがしがし。リーナの頭を荒めになでる。
髪型がぐしゃってなったけど、リーナはまんざらでもなさそうだ。
頰をぷくっと膨らませながら、ぺしっとカラムを叩いてカウンターの奥に逃げ込む。髪型を直すんだろう。
カラムさんの年なら熟練冒険者のはずだ。そのカラムさんが、ただの平手でちょっと小突かれただけでよろめいたのは、気のせいだろう。
うん、気のせいだ。気にしたら負けだ。
「君が、わ……カイル君だね。今日から俺が送って行くから、よろしくな」
わしっと頭をつかまれた。
なんだろう。その目には、父さんも時々見せる、探るようななにかがあった。
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