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第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる
5.帰り道で
しおりを挟むうちは、リーナの家よりももうちょっと大通りから遠い。
王都で一直線にのびている大通りは2種類ある。
北にそびえる城までの南北の一本道。東から西へも大通りが伸びている。その真ん中に、教会。
リーナの家は、南の方の大通りの、だいたい真ん中ぐらいのろじうら、にある。
俺の家はそこからもっと南の外れ、ひんみんがい、に近い。
街の北側が城に近くて安全。北側に貴族街を囲む壁もあって、貴族向けの警備も厳重だ。
商売をする家は、そこに近い方が有利だから、より北側に住もうとする。人気があるから、お金がないと住めない。
リーナんちは、この法則から少し外れた、俺たち向けの酒場だな。リーナんちの周辺より南に行くと、店はあまりない。ちあんが悪いからだ。
ちあんが悪いところ。
うちはそこにある。
父さんが最近ちょっと出世したらしいけど、まだまだ引っ越す程のお金はないんだって。
だから俺も、兵士になって、父さんみたいに出世するんだ。
古くて細い、間貸の建物がひしめく、ふくざつに入り組んだ道。南側はどうしてかほとんどの道がこんな風にぐねぐね曲がっている。
日が落ちる前の薄い明かりの中で、慣れた道をカラムさんと歩いた。
でも、カラムさんはここからリーナんちに帰れるのかな?
ちょっと聞いてみようか。
「ねえ、カラムさん。帰り道、わかる?大丈夫?」
ふっと笑って、カラムさんが紫のタレ目を更に細める。
がしがしと頭を撫でられた。
「大丈夫だ。ここ周辺で仕事してるからな、王都内で俺が迷うことなんざねえさ。ありがとな」
あ、そうか。カラムさんが、冒険者なのに毎日のようにご飯を食べに来るのは、遠征しないで街の中の依頼を中心にこなしてるからなのか。
……いやでも、王都内の仕事って、荷物運びとか警備だとか、若い初級冒険者がやるものだ。
家族を養う分のお金、もらえないんじゃ……。
「あー……。俺の心配してんのか?
えーとな、その、大丈夫だ。長く冒険者やってると、色々とさ、つてがあるのさ。
ちゃんと毎日家に帰って、家族を安心させてやりてぇからな。
ほら、お前んちも、とうちゃんが兵士ならわかんだろ?帰ってきたらほっとするだろ?な?」
こくり。頷く。
なんだか歯切れが悪い話しかただけど、照れ屋さんなんだろう。へんなこと聞いてごめんなさい。
でも、すごいな。全然知らない道もすいすい歩いて行く。まだ、俺の家教えてないのに。
「ここだよ。うちはここの5階。カラムさん、何か食べてく?」
「いや、リーナが待ってるからな。俺は戻るさ。じゃあ、また明日な。ちゃんと寝ろよ!」
また、俺の頭をわしっと掴んでにっと笑い、カラムは去っていった。
よどみのない足取りで、迷路みたいなこの街を歩き出すカラム。
その大人な背中を見て、冒険者もかっけえな、と、俺は思った。
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