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第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる
6.教室で眠りたい
しおりを挟むきい、ぱたん。
司祭様が、次の授業のために部屋を出た。休憩の時間だ。
がたがたと、みんなが席を立ったり移動する。
ざわざわと、そこかしこで話し声が木霊する。
ひそひそと、また女が街の噂話で盛り上がる。
前なら、リーナに大事なこと、話そうとして毎回からみに行ってた。でも今はそんな余裕、ない。
体が痛い。とにかく、痛い。
なんだろう。もう本当に、少し掃除をするだけなのに。剣術の訓練の何倍も、体が痛いなんて。
ロザリー、ほんとすげえよ。あそこの重すぎる道具を、あの細っこい腕で、夜まで使ってんだよな?
それをいつからやってるかわかんないリーナが怪物なのも、頷ける。俺、とんでもないものに殴りかかったんだな。
殴り、かかって。
ぴり。右手がまた、痛む。
結局、俺はリーナと会う機会がふえたのに、何も言えていない。掃除だって、途中からロザリーが参戦して片付けるから、そこまで戦力になってない。
ちくしょう。くそ。この。
なんだかわからないもやもやした気持ちが、体の痛みに混ざってすごく気持ち悪い。
とりあえず、今は寝ていたい。ちょっとでいいから。
とにかく、眠い……。
びしっ。
誰かが、俺の頭を叩いた。なんだよ。眠いんだよ俺。
「起きなよ。司祭様、来てるよ」
ゆさゆさゆさ。体を揺すられる。
うー、だりぃ。誰?ああ、アリスもといハンカチ屋か。いや嘘だろさっき寝たばっかり。
かつ、かつ、かつ。石の床を鳴らす、司祭様の高級な靴の音が、深く響く。
ああ、と、アリスの声が小さく聞こえる。
ん?ほんとにいるの?
「カイル君は、歴史に興味がないのかな?」
がばっ。起きた。ほんとにいた!!
どっ、と、クラス中に笑いが起きる。え、なに。
「ぶっ……わんわん君、おでこが真っ赤だぁ!」
リーナの、声。みんなも、笑う。
くっ、ちくしょう。またわんわん君って!!
いつか勝ってやる!そして、言うんだ。ちゃんと、ごめんって。
みんなの笑い声が、響く。わんわん君って。
俺、そんなに、犬みてぇだったかな。
兵士になって、父さんみたいに、みんなを守りたいのに。犬みてぇって。
「あの、司祭様。ひとつ、よろしいですか」
凛とした声が響く。ロザリー。何してんだよ。注目されたくないだろうに。
「許します。話しなさい」
司祭様が重々しく頷く。
「実は、わん…カイル君は、わたくしと同じようにリーナの家で、短時間ですがお手伝いを始めたのです。贖罪によるものなので、今日はどうかお見逃し頂けませんか?
わたくしと同じように、いずれ慣れますから」
わあぁっ!!ざわざわざわ。みんなの声が、方々から聞こえる。
えらいじゃん、わんわん。なんだ、やるわね、わんわん君。かわいいだけじゃねえのな、わんわん。ちゃんとあやまってるのね、わんわん君。
わんわんわんわんうるせぇ!!!
怒りたい。でも、怒れない。
右手がぴりぴりしてるから。
俺は、乱暴者じゃない。街を守る、兵士になるんだ。
悪いことは、ちゃんと償うんだ。
まだ、大事なことは……言えてないけどな。
「わかりました。ならばよいでしょう。しかし、学校の成績も、兵士の試験には影響することを、忘れないように」
くっ、そうだ。
紙は高い。授業の内容は、頭で覚えるしかないんだ。特に、この、一番眠い歴史の授業は。
俺は、自分の腕をつねりながら、司祭様の話を聞いた。
終わる頃には、左手の手の甲が真っ赤になっていた。
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