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第三章 わんわん君の断罪は遅れてやってくる
18.わんわん君、卒業の試練番外編 友達だから
しおりを挟むわぁぁぁぁ!ぱちぱちぱち。
みんなは拍手喝采で祝ってくれる。カーイール!カーイール!と、俺の名前を呼ぶ声も、聞こえる。
その中に、ハンカチ屋の声が混じる。
はっと、我に返った。
ザム。お前、ほんとにやばいぞ。
「ちくしょう!どんなズルしたんだ!俺とお前はおんなじくらいだったじゃんか!」
がたんと椅子を倒しながら立ちあがり、ザムは俺の前に来て胸ぐらをつかんだ。
その手を、ぐっとつかんで、ひねりあげる。
ザムの、悲鳴が聞こえた。あれ、これ、どんくらい加減すればいいんだ?
ちょっと弱めておいた。それで充分、だった。
「……なぁ。お前、言わなきゃなんねぇこと、あるだろ」
たのむ。ザム。俺になるな。ならないでくれ。
「なんだよ!犬じゃなきゃ、たぬきだ!今まで俺を見下してたのか!?本気でやってなかったのか!」
はぁ。ため息をつく。
「ちゃんと本気だったよ。力がついたのはほんとに最近になってからだ」
ぐっ、と、ザムの口がへの字に曲がって、ぷるぷる、ふるえ出してきた。
いやダメだろ。男が泣くなよこんなとこで。
「それよりさ。お前、俺みたいになんの?言わなきゃなんねぇことも言わねぇでさ。お前は何の動物になるんだろうな?」
どん、と、突き飛ばす。その先には、ハンカチ屋こと、アリス。
「……あ」
よろめいたザムは、アリスにぶつかりそうになった。
アリスは、ちゃんと、ザムを支えた。
「……なに?」
ザムは、無言でじっと、下を見ていた。
俺は、後ろに立って、ザムに言った。
「友達だと思ってたから、言うんだぞ。俺は、まだリーナに言えてないことがある。だいじなことだ。わんわん言われる原因になったことだ。お前に落書きされた内容だ」
ザムの肩を抱いた。ザムは、俯いていた。
「なぁ、お前はほんとに、あんなことして、そのままにするやつなのか?俺が言えることじゃないけどさ」
下を見ていて、ザムの顔は見えない。
ぐっ、と、拳を握ったのがわかる。
ダメか。ダメなのか。俺もできてないもんな。こんな風に、えらそうに、ほんとは言えないもんな。
「ふふ、そういえば、初対面で髪も引っ張られたわ。あれは痛かったなー。あれも、言われてないこと、あるなー。未来の兵士のライバルは、何にも言わないのかなー」
ハンカチ屋が、ザムをのぞき込む。その顔は、晴れ晴れとした、笑顔だった。
いいやつなんだな。根に持ってない。ただ、促してるだけだ。ひどく強く殴られたのに。
誰かさんが傷をきれいに治してくれているおかげも、あるかもしれない。けど、それでも。
それが、こいつにまっすぐに届くのか。
教室は、しんと静まり返った。
「…………ごめん」
ザムの、一言が。聞こえた。
ぱち。ぱち。ぱちぱち。
司祭様が最初に。みんなが続く形で。
少し、拍手が聞こえた。
ぽた、ぽたと、室内なのにザムの足元に、水が落ちる。
ハンカチ屋は、やっぱり、ハンカチを取り出した。
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