本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた

作者

文字の大きさ
94 / 110
第五章 婚約志望者の秘密

24.そして話し合う

しおりを挟む

リーナの家まで追い立てられて、最後は首根っこを掴まれて連れ込まれた。

猫じゃねえんだから。
ああもう、かっこ悪い。

「あら、おかえりなさい」

裏口からは、すぐに厨房に入れる。
エリサさんとディアスさんが、座って野菜の皮むきをしていた。


……こんな夜中にやることじゃないよな、それ。

「わるいやつ、つかまえてきた」

リーナは、ぐいと俺を二人に突き出す。

なんだか俺は、二人と目を合わせられなかった。
俺の失敗も、知られている気がして。恥ずかしくて。
くす、と笑われ、店内のテーブル席を勧められた。


リーナも座る。エリサさんは、水の入ったコップを
二つ、置いてくれた。


「さあ、話しなさいよ。どこに行ってたの。なにしてたの。あのおじさん誰。なんで内緒にしてるの。危なかったんじゃないの」

ぎりぎりぎり。俺の手がテーブルの上できつく握られる。ちょ、折れる!折れるって!!

しかし、どこまで話していいのか。
そっと、エリサさんを見る。こくりと、頷かれた。

しゃべって、いいんだな。


「なあ、リーナ」

「なによ犯罪者」

がくっと力が抜けた。俺じゃねえよそれ。

「あのさ、この話すると、リーナも完全に巻き込まれるんだけど、聞きたい?けっこう大変な秘密なんだ」

「うちの父さんと母さんは英雄だけど、それよりも?」


ぶちまけてきやがったな。

救国の英雄。荒ぶる街の守り神、王都の基礎となる力、闇の精霊を鎮めたという、英雄譚。
その英雄が、エリサさんとディアスさんなんだ。

本当はそこに、俺の親父と母さんも入っているんだけど、王位継承がややこしくなるから秘密だ。

「ほんとはカラムとお母さんもなんだよね?」


あ、知ってたのか。

「いつから聞いてた?」

「こないだの、アリスの会議の時。私がちょっと行って連れ戻そうかってお母さんに言ったら、止められた」

リーナの様子は、アリスが心配、よりも、めんどくさいから片付けちゃおうよ、という雰囲気だ。
こいつ、聞いてたのに多分アリスちゃんの事情、庶子のこととかはわかってないな。実際の父親のところにいるんだ、連れ出すだけじゃ誘拐だ。


「そしたら、お貴族様の事情があるのと、私が目立ったらニムルスやロザリーのことがばれちゃうからって、お母さんに止められたの。その時初めて聞いたよ、それぞれの事情」


おかしいな、とは、思わなくはなかったんだそうだ。
親父は決まった時間にほぼ毎日ごはんを食べに来る。冒険者なら、遠征ばかりしてあまり街にはいられないはずなのに。
俺が妙に強いのも怪しんでた。
まあ、リーナの家と同じようなものは、うちにはあるからな。調理器具や皿だけじゃなくて剣とかもあるけど。


「なんで、はなしてくれなかったの」

……巻き込みたくなかったからだ。


「はなしてって、いったよね」

リーナを守る自信が、なかったんだよ。

「ニムルスさぁ、私に勝てると思ってんの?」

思ってない。だから、そうじゃなくて。

「じゃあ、信用ないんだ。そんなにニコニコしながら、こ、こんやく、してもいいって、いいながら、信じて、ないんだ」

いや、違う。俺が、悪くて


ぽた、ぽた。雫が、リーナの膝に落ちる。

「信じて、ないんだ」

違う。違う違う!!


俺は、気がつけば席を立って、リーナを抱きしめていた。

「ちがうんだ。自信が、なかったんだよ。今日の初仕事だって、大失敗だ。俺は、リーナを巻き込んでもちゃんと守る自信が、まだないんだ。ちがうよ。信じてないわけじゃない」


一生懸命に話した。でも、手の中のいきものはひっく、ひっくと声を上げて泣き止まない。

「あんたなんかに……ひっく……守られなきゃなんないなんてこと……ひっく……ないのにぃ」

うええと勢いを増すリーナの涙を、俺は肩口で受け止めていた。服がしっとりしてくる。


「うん、ごめん、俺が、弱いとこ、見せたくなかったんだ」


リーナを守れない。自分で対処しないといけない危険に放り込むかもしれない。

なにも知らなければ、そんなことにはならないかもと思っていたけど。

ごめん。そんなに、気にしてたんだ。


「まだ、リーナを守るくらい強くないけど、頑張るから。だから、まってて」

ぎゅっと、力を込める。ほんとうの、きもち。

 


でも、リーナはやっぱり、リーナだった。

がばっと起き上がって、涙でぐちゃぐちゃの、潤んだ瞳が真っ直ぐにこっちを向いた。


「待たない!なんで守られなきゃなんないのよ。むしろ私があんたを守るのよ。わかった!?」


ばん、と、叩かれたとても頑丈なはずのテーブルは、ぱっかりと真っ二つに割れた。

……うわぁ。このテーブル、触った本人の力に合わせて頑丈になるやつだよな。どうやったそれ。


はいはいはい、そこまで、と、エリサさんに止められて、二人で頭を撫でられた。


……はぁ。待ってはくれなそうだ。巻き込むしかないよな。


ぐぬぬぬ、と泣きながら口をへの字にしているリーナの顔には、くっきりとうめぼしができていた。
ロザリーそっくりだ。

ロザリーには、あんなに嫌なことされたのに。
一緒に働いて、ちょっと嫌味を言うだけで。リーナは結局ロザリーを鍛え上げている。今では数人程度の奇襲なら、ロザリーは余裕で乗り切るだろう。


リーナは自覚していないと思う。
俺にはない、まっすぐな、なんだかとてもきれいな力。それに巻き込まれて変わっていくものを、確かに俺は感じている。


ぐしゃぐしゃの最高にかわいらしいその顔を見て、俺はもっと強くならなきゃって、思った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

処理中です...