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第六章 ハンカチ屋奪還作戦
お父様へ会いにいきます
しおりを挟む手紙を書いて、二日後。
開店前の店内で、カイルにお辞儀の練習をさせていたところにロダンさんが駆け込んできた。
「あら!早かったですわね。もうお返事を下さったの?」
ぜえぜえ言っているロダンさんに椅子を勧める。もう、馬車で来ているのでしょうになぜ息切れなんかしているの。あなた走っていないでしょう。
わたくしも、カイルの背に入れた掃除用のモップもどきをそのままにして、45度の角度で動かないよう指示を出して席に着く。
カイルはちょっとぷるぷるし出していた。体幹が鍛えられていなければその姿勢はものすごくつらい。
でも、貴族内で騎士の真似事をするなら必須の礼の姿勢なのよ。
優雅に動くには、意外と体力がいるのです。これまで鍛えてきたところと違う筋肉を使うわ。
ふふ、カイル、頑張ってね。あなたの将来にも役に立つはずなのだから。
「ロザリー、許可が出た。今日にも会いたいそうだ。お父様は、多忙な方だからね。王城に詰めてしまい帰宅しないことも珍しくない。急だが、今日しかないようだ」
あら。お仕事はどうしましょう。
ちらっとカウンターを見る。忙しそうに肉を切り分けているディアスさんと、お皿を運ぶエリサさん。
エリサさんと目が合った。
「行ってきていいわよ。お父様にお会いできる大切な機会ですものね。ディアスさん、私もちょっと出てくるわ」
「ああ、行って来い。ついでにあいつも連れてけよ」
え、でも。エリサさんを煩わせるわけには。
お店どうするのリーナごめん……ってあれ?エリサさんとは言ってないわね?
「クロ、リーナを呼んできて」
エリサさんが、最近店に居ついている黒猫に指示を出す。
いや飲食店として動物を店内に入れるのはどうなんだという日本人的感覚では突っ込まないでおこう。
うん。これがスタンダード。慣れなければ。
地球でも、海外では猫がいる飲食店、バー、果ては美容院まであるらしいし。アメリカの弁護士事務所で飼われている猫が看板になっているところもあるくらいだ。
うん、異常に聞き分けがよくてなんでもそつなくこなす、この猫のことは気にしないことにした。
この間なんて、ラディッツが足りなくなってお使いに出されてしかもちゃんと買って戻って来たのだ。猫だからなのかおまけまでついていた。
そのうちどらえもんに進化するかもしれない。
リーナが、とんとんと階段を降りてくる。
「なに?行くの?おうちに」
こくり。頷く。
「ごめんお店の仕事、今日休んでいい?」
「いいけど。新しい教科書、持ってきて」
つかつかと私のところに歩いてきたリーナは、私の首になにかをぶら下げる。
ネックレスだ。緑の石がついた、簡素なお守り。
でも、強力だ。
「……これ、どうしたの」
「作った」
「……魔法学園の卒業単位試験のひとつよね、これ」
「作った」
……ええと。確かにこの間のは上級の魔法の本だったけれど。訓練もなしにできることじゃあ。
「連れて行って。ニムルスと、カイルと、王宮」
まっすぐに見つめるその瞳は、強い輝きに満ちていた。
私は頷いた。言われなくても、絶対に連れて行くわ。
アリスが最優先。でもね。
あそこには、あなたを幸せにするキャラが、ゴロゴロしているのだもの。
「わかったわ。必ず許可をもぎ取ってくるから、待ってて」
「ううん、いく。私と、ニムルス」
……え?
ちらとカウンターを見ると、エリサさんとディアスさんがにこにこしながら頷いていた。
はじめての給仕をさせられそうなカイルは、きゅーんという鳴き声が聞こえてきそうな程にこちらを上目遣いに見ていた。
あ、うん、カイルは開店までそのままね。
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