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出産・育児編
1.子供が生まれたふたり
それは、夏が終わり実り多き秋の始まりとなる祝日、善き日のよく晴れた朝の始まる頃のことだった。
朝陽が昇り、空が薄い夜の闇色から東雲色から曙を経て白き青さを増していく頃、絹を引き裂くような大きな産声が王子宮中に、高らかに響いた。
「お生まれになりました! 珠の様な王子でございます!!」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
前日の昼から始まった陣痛を固唾を飲んで見守ることしかできなかった面々も、無事出産したとの報に詰めていた息を吐いた。
「おめでとう、オレファン。お前もとうとう父親だな」
王太子である兄に肩を叩かれ、ようやく我に返ったオレファンは、そこでようやく「……ボクが、ちちおや」と呟いて、周囲にほのぼのとした笑いを振りまいていた。
「まだ後産が残っております。今はオレファン様のみご入室下さい」
さぁどうぞと招かれるまま、オレファンはまだ出産の熱気が籠ったままの寝室へと足を踏み入れた。
ふたりの為の寝室には今、ミリアがひとりで寝ていた。いやひとりではない。真っ白いおくるみに包まれたミリアとオレファンにとって待望の初子が母の横に寝せられていた。まだふにゃふにゃで真っ赤で。目も開いているのかわからないその子に注がれるミリアの眼差しは、愛しいと視線で伝えるかのような温かなものだった。
「ミリィ。いっぱい頑張ったね。ありがとう」
精魂尽きたミリアの汗だくの額を撫でつけ、震えて力のない手を取り両手で握り締めた。
「ファレ。うふふ。えぇ、いっぱい頑張ったのでいっぱい褒めて下さい」
ミリィに関してだけ涙もろい夫オレファンが案の定涙をぽろぽろと流している。その感極まった表情に、ミリアの顔も弛んだ。
「ミリィと子供が無事で、よかった」
「ふふ。良かった」
いたずらっぽい表情でくすくすと笑い出したミリィが、そっと布団を顔へ引き寄せた。
幸せな妊娠発覚、辛く悲しかった浮気疑惑、全ては誤解だったとわかった薔薇の形のチョコレート事件、紆余曲折を経てついに今日、ミリアとオレファンは親になったのだ。
すぐに暴走するオレファンとの結婚生活は波乱万丈としかいいようがないが、そこにミリアへの愛があるからこそ結局は笑顔の多い幸せなものになっていると思う。
そうして、今日から始まる新しい家族の形を想像するとミリアの頬は弛んでしまうのだ。
「どうしたの、可愛い人」
今もこうして、出産の苦しみで汗まみれになったミリアに向かってそんな風に問い掛けてくれる。ミリアにとっても唯一の、愛する夫。
「ファレ様の心に、ちゃんと私達の子のことが在ることが、嬉しくて」
口にしたことはなかったが、ミリアには、それがずっと不安だった。
昔から、ファレの心の中心には、ミリアの事だけがある。
ミリアとその他。その区分はあまりにもハッキリとしている。ハッキリとし過ぎていて、ミリアとしては居た堪れないことも多かった。
生まれてきた子供がその他扱いにされてしまったならどうしようと思っていたのだが、どうやら杞憂に終わりそうだ。
ミリアとオレファンの間に流れる空気が落ち着いたところで、王宮付の産婆が恭しい手でまっしろなおくるみに包まれた阿児を抱き上げて、オレファンへと差し出した。
「オレファン殿下、さぁどうぞ」
産んだ母であるミリアはまだ回復していない様子であったし、抱き上げていないのではないかと思うと先に抱き上げていいのかとオレファンはちらりとミリアへと送った。それに、了承の頷きを返されて、喜色を満面に浮かべてオレファンは温かなおくるみを受け取った。
ふにゃふにゃで、真っ赤で、皴皺で。
腕の中でふにゃふにゃと口を動かすばかりなその子を覗き込んだオレファンは、叫んだ。
「この子は……本当に、僕の子なのか? 僕の血を引いているとは思えない!」
それまで和やかに若い夫婦を見守ってきた侍女や産婆、その助手、そしてなによりミリアに衝撃が奔った。
「なにを、急に。酷いわ、あなたの子供に決まっているじゃあないですか!」
あまりの言葉に、悔しくて。悲しくて。ミリアは咽喉も裂けよと叫び返した。
「だって、こんなに可愛いんだよ?! 控えめに言って、天使だよね?!!! 可愛過ぎるよ。ミリアの血しか入ってないんじゃないかな。うわぁ、かわいい♡ やっぱりボクの血なんか入ってないよ。可愛過ぎるもん!!!」
蕩けそうな顔をして阿児を掲げるオレファンには、周囲が全滅する勢いで崩れ落ちていることに気が付かなかった。
朝陽が昇り、空が薄い夜の闇色から東雲色から曙を経て白き青さを増していく頃、絹を引き裂くような大きな産声が王子宮中に、高らかに響いた。
「お生まれになりました! 珠の様な王子でございます!!」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
前日の昼から始まった陣痛を固唾を飲んで見守ることしかできなかった面々も、無事出産したとの報に詰めていた息を吐いた。
「おめでとう、オレファン。お前もとうとう父親だな」
王太子である兄に肩を叩かれ、ようやく我に返ったオレファンは、そこでようやく「……ボクが、ちちおや」と呟いて、周囲にほのぼのとした笑いを振りまいていた。
「まだ後産が残っております。今はオレファン様のみご入室下さい」
さぁどうぞと招かれるまま、オレファンはまだ出産の熱気が籠ったままの寝室へと足を踏み入れた。
ふたりの為の寝室には今、ミリアがひとりで寝ていた。いやひとりではない。真っ白いおくるみに包まれたミリアとオレファンにとって待望の初子が母の横に寝せられていた。まだふにゃふにゃで真っ赤で。目も開いているのかわからないその子に注がれるミリアの眼差しは、愛しいと視線で伝えるかのような温かなものだった。
「ミリィ。いっぱい頑張ったね。ありがとう」
精魂尽きたミリアの汗だくの額を撫でつけ、震えて力のない手を取り両手で握り締めた。
「ファレ。うふふ。えぇ、いっぱい頑張ったのでいっぱい褒めて下さい」
ミリィに関してだけ涙もろい夫オレファンが案の定涙をぽろぽろと流している。その感極まった表情に、ミリアの顔も弛んだ。
「ミリィと子供が無事で、よかった」
「ふふ。良かった」
いたずらっぽい表情でくすくすと笑い出したミリィが、そっと布団を顔へ引き寄せた。
幸せな妊娠発覚、辛く悲しかった浮気疑惑、全ては誤解だったとわかった薔薇の形のチョコレート事件、紆余曲折を経てついに今日、ミリアとオレファンは親になったのだ。
すぐに暴走するオレファンとの結婚生活は波乱万丈としかいいようがないが、そこにミリアへの愛があるからこそ結局は笑顔の多い幸せなものになっていると思う。
そうして、今日から始まる新しい家族の形を想像するとミリアの頬は弛んでしまうのだ。
「どうしたの、可愛い人」
今もこうして、出産の苦しみで汗まみれになったミリアに向かってそんな風に問い掛けてくれる。ミリアにとっても唯一の、愛する夫。
「ファレ様の心に、ちゃんと私達の子のことが在ることが、嬉しくて」
口にしたことはなかったが、ミリアには、それがずっと不安だった。
昔から、ファレの心の中心には、ミリアの事だけがある。
ミリアとその他。その区分はあまりにもハッキリとしている。ハッキリとし過ぎていて、ミリアとしては居た堪れないことも多かった。
生まれてきた子供がその他扱いにされてしまったならどうしようと思っていたのだが、どうやら杞憂に終わりそうだ。
ミリアとオレファンの間に流れる空気が落ち着いたところで、王宮付の産婆が恭しい手でまっしろなおくるみに包まれた阿児を抱き上げて、オレファンへと差し出した。
「オレファン殿下、さぁどうぞ」
産んだ母であるミリアはまだ回復していない様子であったし、抱き上げていないのではないかと思うと先に抱き上げていいのかとオレファンはちらりとミリアへと送った。それに、了承の頷きを返されて、喜色を満面に浮かべてオレファンは温かなおくるみを受け取った。
ふにゃふにゃで、真っ赤で、皴皺で。
腕の中でふにゃふにゃと口を動かすばかりなその子を覗き込んだオレファンは、叫んだ。
「この子は……本当に、僕の子なのか? 僕の血を引いているとは思えない!」
それまで和やかに若い夫婦を見守ってきた侍女や産婆、その助手、そしてなによりミリアに衝撃が奔った。
「なにを、急に。酷いわ、あなたの子供に決まっているじゃあないですか!」
あまりの言葉に、悔しくて。悲しくて。ミリアは咽喉も裂けよと叫び返した。
「だって、こんなに可愛いんだよ?! 控えめに言って、天使だよね?!!! 可愛過ぎるよ。ミリアの血しか入ってないんじゃないかな。うわぁ、かわいい♡ やっぱりボクの血なんか入ってないよ。可愛過ぎるもん!!!」
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