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1.あら、これはどういうことかしら

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「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」



 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。

 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前にむけて婚約破棄を告げているところだった。



 えーっと? なんだっけ、これ。

 すっごく見覚えがある絵面っぽいんだけどなぁ。



 視点が……そうそう。テンプレ王子様の後ろで、王子様とは別の系統のイケメンたちに囲まれて震えている令嬢の右斜め辺りからこの場面を見ていると、丁度私の知っている構図になりそう。





 えっと。



 えぇーっと?



 ……



 わかった! 『その聖女は淫靡な夜露に濡れる』の断罪シーンだ。

 お約束ともいえる貴族子息令嬢と優秀な平民を集めた学園で繰り広げられる成り上がり恋愛シミュレーションゲーム。

 ある意味メインディッシュともいえる断罪シーンである卒業パーティーでのイベント中なのか。

 悪役令嬢であるアルテシア・シンクレア公爵令嬢に、メインヒーローである王太子ゲストール殿下が、これまでヒロインとの恋愛バトルの結果を基に婚約破棄を突きつけ、修道院送りにするところだ。



 というか、ついさっきまでやり込んでる最中だった筈の18禁乙女ゲームだ。

 

 ……いいじゃないのよ。仕事で疲れてリアルで恋愛する気力なんかないんだから。

 サクッとそういう現実で満たされないアレでソレな部分を満たしてくれる素晴らしいツールだと思うの。うん。

 ぶっちゃけ、心惹かれる何かのない相手と妥協してオツキアイするくらいなら、私はゲームの世界に生きるね。よっぽどマシ。

 でも、段々と乙女ゲーム歴が長くなってくると共に、「手が触れた」だの「視線が……」だの程度で満たされることがなくなってきちゃったのだ。



「おら、そこでぶちゅっとやらんかい」ってな風にね? えへ。



 まぁいい。つまりはあれだ。

 寝落ちして、さっきまでやってたゲームの夢を見てるんだな、私。

 しかもヒロイン視点ではなく、これから始まる、悪役令嬢が修道院という名の高級娼館で、あんなことやこんなことをされちゃうのを楽しもうっていうのか。

 なるほど、私。さすが、変態淑女、私。



 不細工な金持ちたちにいたぶられる元光の聖女アルテシア。

 足を囚人のような鉄の鎖で繋がれ、足や腰はほっそりしてるのにボリューミーな胸と尻のダイナマイトボディは黒革ベルトに拘束されて、豪奢な金色の髪まで白濁液まみれ。

 そりゃもう、あんなことやこんなことを、夜と言わず昼と言わず……ぐへへ。


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